漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】 作:疑似ほにょぺにょこ
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『早朝に失礼致します、アインズ様』
皆が寝静まる深夜。後2時間程度で夜が明けるだろうかという時に《メッセージ/伝言》が入る。どうやらアルベドの様だ。その声に切羽詰まった様子はなく、いつもの様に嫋やかな雰囲気が伝わってくる。
『どうした、アルベド』
『リ・エスティーゼ王国使者への歓待の準備が整いました。現時点以降、いつでも可能です』
『そうか、間に合ったようだな。こちらは予定通りあと3時間後に出発する予定になっている。予定通りに進めば、昼前にはそちらに到着するだろう』
『了解致しました。ではそのように』
短い──無駄話の無い連絡のみで切られようとするのを思わず止めてしまう。これでは駄目だ。ダメな上司なのだ。労いの一つでも掛けねば良い上司とは言えないだろう。
そう思い、頭を振った。アンデッドであるが故、眠いわけではない。常に己を律せねばならないからだ。俺を信頼している者たちのために。
『どうされましたか、アインズ様。何か──』
『──アルベド』
さて、どう言おうか。時間はない。飾った言葉の一つでも言えれば良いのだが、何分そういった事とは無縁な生活をしてきたためにとっさに出てきてはくれない。
『──アインズ様?』
『あー──』
ほらみろ。口籠る俺を不信に思っている。こういうとき社長は何を言うのか。国王は何を言うのか。いや、もっと身近に上司は何を言っていた。
『コホン──アルベド。お前にはいつも苦労を掛ける』
『──いえ、この程度。苦労など思っておりませんわ』
にべもない。あっさりと切り返されてしまった。だがここで止めてしまえばそれで終わりだ。気の利かない嫌な上司ランキングで上位に入ってしまう。
ふと脳裏に過ぎる、給湯室で屯しながら悪口を言い続ける女子社員の姿を。その女子社員の姿が一瞬プレアデスに、アルベドに変わった。気の利かない骨って犬も嫌がるよねーって俺の悪口を、ぐぅ。それだけはいけない。骨にだって心があるのだ。そんな悲しい職場になどしたくはない。
『お前の苦労は私が一番よく知っている。お前の働き、嬉しく思うぞ』
『──勿体なき、お言葉です。アインズ様』
少し──ほんの少しだけアルベドの声に喜色が混じったのを感じた。どうやら正解を導けたらしい。肺がないのでする必要のない──深呼吸をした。冷汗が垂れてきそうなほどに緊張している。しかしこれこそが、俺がアンデッドに成り切れていない──かつての人としての俺の名残なのだろう。
『これからも頼りにしているぞ、アルベド』
『はい、アインズ様』
その、アルベドの言葉を最後に──まるで狙ったかのように《メッセージ/伝言》が切れた。
上手くいったのだろうか。良い上司で居られているだろうか。正直な話、アルベドに見限られたら、ナザリックをうまく回していける自信などない。それだけ大量の仕事を押し付けているのだ。これからも頑張ってほしいが──どう言えばいいのやら、である。
「もっと頭を使っていかないといけない、か──」
ただの殴り合いならどうということはない。けれどこういった事には全く慣れていないためにどうしてもボロが出てしまう。良き主に、良き上司になるために。俺ができる精いっぱいの事をするしかないのだ。
「モモンガさんは起きていらっしゃるのかな──」
モモンガさんの事を考えるだけで胸の奥が気持ちいい。その思いを逃さないかのように無意識に胸元で握る我が手を見やり、ふいに笑みがこぼれる。
モモンガさんは私と同じくアンデッドなのだから『眠る』という行為そのものは必要ない。だがモンスターではないが故に、『休む』という行為が必要なのだ。だから何日も眠らず動けるにしても、こうやって夜は何をするでもなくゆっくりと『休む』。
モモンガさんと会ってから、こうやって夜に考える事が既に彼一色になってしまっている。それはどんな恋物語であっても負けぬほどに熱いが、それ以上に静かだ。平穏で、平和で、和やかで、もう──彼のいない生活など考えられないほどに私の一部となってしまっている。
「早いな。もう準備を始めているのか」
手持無沙汰に窓から外を見ると、まだ朝日も昇らぬというのにバタバタと忙しそうに人が走り回っている。
予定では出発は後一刻と少しばかりだったはずだ。一応のためにと食料やテントも準備してはいるものの、予定通りに進めば太陽が真上に差し掛かるまでにはナザリックへと到着するとモモンガさんは言っていた。だからそこまで仰々しい準備は必要ないはずだ。とはいえ、今回の主役は私たちではない。一国の王女なのだ。万が一などあってはならないと、こうやって準備を進めているのだろう。
「あれは──」
ふと視界の端に映ったのは金銀財宝──とまではいかないものの、様々な磁器や陶器。アクセサリーを含んだマジックアイテムの数々。相手がどういったものを好むか分からない相手だからと、広く浅く種類を集めたらしく酷く雑多に見える品々である。
脳裏に浮かんだのはモモンガさんの武具。それは正しく一級品であることは傍目で見ても明らかなものだった。本気ではないとはいえあのヤルダバオトの一撃を防ぐ鎧に、ヤルダバオトに一撃を与えながらも刃毀れしない剣。あれだけのものを揃えるのに一体幾らかかるのやら。あれがナザリックの一般的なランクであるとは流石に思わないが──
「いや、私が考えることでもない、か」
はっきり言って、リ・エスティーゼ王国には金がない。先のヤルダバオトの件で一気に国庫が軽くなってきているとリーダーも愚痴をこぼしていたくらいだ。あれが国として──いや、ラナー姫が出せる精いっぱいの誠意という事なのだろう。
「そうだ──フフン──」
分からないから雑多なのだ。だったら聞けばいい。誰に?当然、モモンガさんに。そう思ってドアを開けた時だった。
「──どう、も?」
「おばんっす」
きっと今の私は相当変な顔をしていたと思う。誰だって思わないだろう。ドアを開けた先にメイドが居るなど。しかもそのドアは私の寝室のドアである。普通に考えてあり得ないだろう。
「あの──退いて欲しいのだが」
「だが、断るっす」
ニコニコと破顔したままににべもなく断られる。彼女には私がどこへ行こうとしているのかお見通しなのだろうか。ひくつく顔を何とか平静に戻そうとするが、それ以上に私の頭は混乱していたのだろう。何しろ気付かなかったのだ。
「小賢しい事してないでさっさと時間まで寝ろ──そう、言ってるっすよ」
「あ、わか──た」
私は彼女が扉の前に居ることに気づけなかった。いや、それ以上に──いつから彼女はそこにいたのだ。
音もなくドアが閉まる。
彼女が閉めたのではない。私が閉めたわけでもない。勝手に閉まっていた。
まるで夢遊病のように足がベッドへと向けられる。着くと、まるで糸が切れたように私はベッドに倒れこんだ。
「なんなんだ、あのメイドは──」
白濁した思考は一向に纏まろうとしない。あのメイドに恐怖したわけではない。何かをされたわけでもない。だというのに身体が──いや、意識が抵抗できなかったのだ。
目を瞑るとまるで魔法がかかったかのように、瞬く間もなく優しい黒のカーテンが私の意識を覆っていく。
そうか、魔法か──そう思う暇すら与えられずに。
「アインズ様の案じた通りになったっすねー」
アインズ様はおっしゃっていた。動くとすれば今夜。恐らく動くだろうと。この会談を失敗させようとする──アインズ様の正体を看破した貴族の息がかかっているであろう蒼の薔薇の誰かが。
まさか蒼の薔薇で一番強いコレが動くとは思いも拠らなかったが、考えてみれば簡単なことだ。ヴァンパイアにとって夜は昼よりも動きやすい。夜に動かすならば人間よりも適任なのだ。
「いやー、げに恐ろしきは──いやいや、素晴らしきはアインズ様の深謀なりっすね」
デミウルゴス様直伝の人心掌握魔法とマーレ様直伝の睡眠『導入』魔法。ぶっつけ本番だったが上手くいったようだ。
「しっかし、アインズ様が凄いのは当然っすけど──あのお二人も凄いっすねー」
アインズ様が、先日オリジナル魔法をお創りになられたからと、デミウルゴス様とマーレ様はそれに倣って新しい魔法を作られたのだ。
デミウルゴス様は自身のスキルの延長である、他者を意のままに操る魔法を。
マーレ様はお得意の自然系の魔法を魔力系や信仰系でも問題なく使えるように手を加えた『抵抗できない』睡眠魔法を。
お二人の魔法の本質は同じ。対象の本質、原点に訴えかけるために魔法そのものをキャンセルさせない限り防ぐことは不可能。
これに抵抗できるとしたら精神構造そのものが違う、例えばアインズ様のような超越者位なものだろう。
「取り敢えずはこれでよしっす。アインズ様は今回の会談をかなり重要視されてたっすからね。絶対に──失敗は赦されないっす。そうですよね──」
振り向き、後ろに現れた方に深く一礼する。ナザリックにてアインズ様に次ぐ智謀を持つお方に。
「──パンドラズ・アクター様」
原作では完全ネタキャラ化しまくっているパンドラズ・アクターが──!?
と、引きをしておきます。
今から活動報告を書きます。そちらにて、この5章の後に公開する外伝のお題目を募集します。
お題目は『場所』『人』『ネタ』をしっかり書いてくださいね。
えっちいのは駄目です。当たっても下に飛ばしますのでご注意ください。
選定方法は私の書きやすいもの──であれば楽なのですが、特定の選定方法を使います。
例えば16:42投稿したから2番目の人、みたいな感じで
発表は早ければ明日になると思いますので、よろしくお願いしますね。
間違えてもこっちの感想に書いちゃ駄目ですよ?無効ですからね?