この問題については、あまりにもいろいろな人が熱心に議論しているので、本筋はそちらをご覧ください。HPVワクチンにもその有害事象を受けた方にも関わったことはありません。二流の医学研究者としての雑感です。ナラティブな感じでまとめます。
突然に病気となられたこと、そしてその病気の原因がわからず苦労されたことについては心から痛みいります。病気や怪我というのは理不尽で暴力的に個人の生活を壊してしまいます。家族や周囲の方に多大な影響も及ぼしてしまいます。原因が何かと求めてしまうのは当然のことでありますし、それが理不尽であればあるほど怒りや不満、そして将来への不安などで胸が張り裂けそうな毎日だと思います。
そして、それがよかれと思って打ったHPVワクチンのせいかもしれないというと、すべてが信じられなくなるのもよくわかります。親御さんであれば、なぜあの時に止めてあげられなかったのかとかそういう思いもあり、なおさらつらいことと思います。
しかし、それは誰のせいでもなく病気は理不尽に誰にでも起こります。池田としえ市議が「あなたが悪いのではない」と患者さんとご家族にお話されたのはまさに正しいことで、その一言で救われたような気持ちになられた方も多いと思います。医学や医療は近年かなり進歩してきておりますが、いまだに限界があり、病気がどういうメカニズムで起きて、原因が何かを突き止めることはそう簡単なことではなく、時間もかかります。ましてや、多彩な症状があるとされるHPVワクチン後の症状を一元的に説明するためには、データの集積および基礎的研究、臨床疫学的データの収集も必要となります。医療者としても早く元気になるように手助けしたいのですが、現状お役に立てないことを心苦しく思います。
一つだけわかってほしいのは、あなたがたを攻撃したり批判する意図は実際のところ誰にもなく、皆がなんとかしてあげようと思っていいます。その思いがSNSなどではなかなか伝わりにくかったり、表面だけで捉えられてしまっております。こちらとしても悪意はありません。ともすれば、HPVワクチンのせいではないかもしれないと指摘しただけで、本人にとっては侮辱されたような気持ちになられるかもしれませんが、その意図はありません。複雑な病態はいろんな観点からみて、いろいろな見解を総合して、自分の考え自体にも違うかもしれないと常に疑いを抱いてその疑問点を潰していくことで真の姿に近づいていきます。色々と大変なのはわかりますし、憤りをぶつけたくなるのもわかりますがあまりに攻撃的な態度を周りに振りまいていると、こちらとしても助けの手を伸ばしづらくなります。HANSと呼ばれる疾患群はまだわからないところも多く、鑑別が難しい他の病気である可能性もあります。他の患者さんで良い治療があなたに良い治療ではないこともあります。色んな情報が溢れていて、混乱することもあるかもしれませんが、あなたを一番知っているのは主治医であり、主治医にまさる情報源はありません。HANSに対して否定的な意見であるからといって、あなたに起きていることを否定しているわけではありません。他の病気の可能性も検討してなんとか糸口を探そうとしている人もいます。心因性の疾患であるからといって、いわゆる「気の所為」ということで病気ではないと否定しているのではありません。心因性の病気であっても、重篤な場合は身体にも影響がでますし、恥じるようなことではありません。
先にものべましたように患者さんを直接見たこともなく、HPVワクチンにも関わっていません。あくまで、医療者、医学研究者としての個人的な見解について申し述べます。
HPVワクチン後に痙攣や神経障害などの副作用があるというニュースや、積極的勧奨中止となったことは一般的なニュースとして知りました。その後で、池田班によりNFκB P50欠損マウスによる実験結果が発表されたことで日本人には副作用でやすいのかなと思いました。マウスの結果なので、それがヒトにそのまま当てはまるかどうかはわかりませんが、NFκBについては以前にも研究していたので自己免疫性疾患への関与があるというのは説得力のある研究成果だと思いました。
しかしながら、村中璃子氏らによって、その実験結果には大いに疑問とすべきところがあるということを知ってから、HANSそのものについて懐疑的となりました。さらに、HPVワクチンによるモデルマウス作成実験について、Scientific reportsに掲載された論文がretractになりました。retraction自体は珍しいことでもありません。研究が正しいか間違っているかについてはいろいろな見解もりますが、いま雑誌に掲載されている論文のうち80%は20年後にはどうせ間違っていることになるのが科学です。しかしながらretractされた後に記者会見が開かれるというのはめったにあることではありません。会見の様子が動画で公開されていたので拝見しました。以下の2点ほど疑問が残りました。
病理組織でどこが病変として指摘されるべきか、図の解釈についての質問に対して誰もきちんと回答できていませんでした。論文が撤回されたことをうけて、論文の内容を説明し、その正当性を主張するための会見ですから実験結果について聞かれたら、普通であれば待ってましたとばかりに答えられるはずです。学会や研究会、学位審査の公聴会であのように答えられなければ、研究成果は認められません。たとえ、病理の判定を第三者に委託したとしても、論文発表する時点ではどこが病変であるのかは少なくとも共著者も含めて全員が知っていなければいけません。そうでなければ、研究不正と言われてもおかしくありません。(参考:http://www.wiley.co.jp/blog/pse/?p=27806)
学位審査の公聴会で図について、主査、副査として質問したことのあるような方々が、このような致命的と言われるようなエラーを起こされたことについては誠に不思議というか残念としかいいようがありません。
この分野の実験にはあまり習熟していないのですが、マウスとヒトでは免疫系も神経系も違いが多く、ましてやHANSとよばれる疾患については、複雑な症候がからみあっております。一方で、この論文で作成されたモデルマウスではtail drop(尻尾が垂れる)と若干の筋力低下がおこるとされております。このtail dropと現在起きているとされる多彩なHANSの症候がどうも結びつきません。実験結果として、視床下部に異常のあるモデルマウスができたのかもしれませんが、これをもってHANSの証明とするのはいささか言い過ぎのような気がいたします。まぁ、だいたいの研究論文は自分たちが主張したいことについて、主張しすぎる傾向はありますが。
自己免疫疾患を起こしやすいBALB/c使ってさらに高濃度のHPVワクチンと百日咳毒素を使って、視床下部に病変のあるモデルマウスを作成したことまでは現象として認めるとして、それでは他のワクチンでは起きないのか、HPVワクチンそのものなのか、アジュバントによるものなのかについても検討が必要だとも思われます。学会の座長風に言えば、「今後のご検討をお願いします」といったところでしょうか。
HANSの定義がHPVワクチン接種を前提としているので、HPVワクチンを摂取した人が減ればHANSもまたトートロジー的に減ってしまいます。HPVワクチン接種していないかたでも、同様の症状を呈する人が名古屋レポートで報告されてはおります。SMONの例が出されておりましたが、SMONの定義はキノホルムの投与を前提としておりまん。HANSがHPVワクチン接種後1000人に一人あるいはそれ以上に発症するという根拠もあれば示してほしかったです。
HPVワクチン後に病気になられた方のためになんとかしようとして、HANSという概念を提唱し、動物実験を進めてこられた熱意は尊敬には値しますが、主張しすぎたばかりに結果としてはおそらく、HANSという概念が医学的に広く受け入れるには遠くなってしまったと思います。
医師として患者さんの診断、治療を進めていくに当たってこちらが予期しないこと、悪い方向に向かうことはしばしば経験することです。色々と論文を集めて読んだり、色んな人の意見を聞いてまわって、患者さんやご家族と話してお互いに納得していても、結果が悪ければ悔やんでもくやみきれません。99%にとってよいことでも、1%に当たった人にとってはたいへんなことです。せめて、自分以外にも納得してくれる人が多ければ、やむを得ない選択であったと評価してもらえることもあります。一部の人からは、医学者のお遊びともうつるかもしれませんが、有力な雑誌に掲載されている論文やコクランが出している内容は広く医師としては受け入れられているものです。この中には間違いがないとは言えませんが、その時点での有力な見解を示しています。もちろん、そんなのはデタラメだ!自分はこう思う!ということで先に進まざるを得ないこともありますが、それが良い方向に向かわなければ、その責任は一人で追う必要があります。法廷でその是非を争うことになった場合に、「個人の思い込み」を応援してくれる人はあまりいません。
したがって、一般的な医師は科学的エビデンスがあるかどうか、それが一般的なコンセンサスとなりうるものであるかどうかを重視します。
HPVワクチンについての医学的な検討については、NATROM氏の「2018-05-21 HPVワクチンの「重篤な有害事象」7%は高すぎるか?」 (d:id:NATROM:20180521)で、私が言いたいことはほぼ全てのべられていますし、多くの医師は妥当と考えるでしょう。有害事象は、医学介入(薬やワクチン、手術など)が起きたあとに発生し、患者さんの不利益になったすべてのイベントを指します。因果関係があるかどうかは、その時点では不明確なことが多いので起こったことはすべて「有害事象」として記録されます。「重篤な」の定義は一般的には、「少なくとも入院治療が必要な状態」です。2年間の追跡調査で、入院治療をされたかたが7%程度いらっしゃったということです。学校でいうと、40人のクラスで怪我や病気で年間1−2名が入院するというのは決して多くも少なくもないと思います。HPVワクチンの対象として生理食塩水ではなく、A型肝炎ワクチンが使われるのは、痛みや腫脹などのワクチン特有の症状が出るかでないかで、偽薬群であることが本人にわからないようにするためということについて、「痛みとか精神的なもので症状に影響するのか」と疑問を持たれた方もいますが、プラセボ効果、ノセボ効果というのは厳然としてあり、時に厄介にもなります。A型肝炎ウイルスにはアジュバントが含まれておりませんが、それについても「アジュバントなしと言っておきながら、実際にはT細胞を活性化させるKRM003が入っているではないか」と疑問におもわれたかたもいらっしゃいましたが、KRM003は「不活化したA型肝炎ウイルス」で、ワクチンそのものです。アジュバントではありません。
困っている人の役に立ちたいという思いで政治家になられて、HPVワクチン後の有害事象で困っている方などに対して、なんとかして救いの手を差し伸べようという姿勢は素晴らしいと思います。この問題がなぜ、ここまで大きな問題になったかというと、ワクチンを始め薬剤に対する有害事象が起きた際にサポートする体制が不備であったことによります。神経難病に対しては研究も臨床体制も十分ではなく、国の医療費抑制策の中で現場が縮小しつつあり、対策を建てるには政治の力が重要です。PMDAも本来であれば薬害オンブズパーソン的な役割を果たすべきですが、機能しきれていません。サポート体制を整えるには、行政だけではなく、広く医師、薬剤師、研究者などを巻き込んで協力体制をつくってかなければなりません。そのためには、一人でも多くの医師を見方につける必要があり、あなたから見て問題があると思っても、現場の医師を恫喝するのは逆効果です。そういう発言を見ると一般的な医師が見たら、協力するよりも引いた態度を取ると思います。医学論文などの評価についても、ブログを読むだけではなくて、信頼できる専門家の意見を直接聞くなどされたほうがいいかと思います。diploid(2倍体)をデブリと翻訳されているのをそのまま引用されたりしていると、頭を抱えざるを得ません。
あまり一般の医師が受け入れられない考え方の意見を尊重することもまた、現場の医師が離れる原因となります。彼らはプロパガンダ的に、あるいは彼らの商売上の理由であなたがたを利用しようとすらしますのでご注意ください。そういうところに偏ると一般的な医師はどんどん離れてしまう危険性があることもご承知ください。
政治家として、反対意見の人も見方につけるくらいの政治力を発揮していただきたいと陰ながら応援しております。
いろいろと発言が難しい状況で、Wedgeに書かれた文章はこれまでもやもやしていたのがすっとしたような感じがしました。ジョン・マドックス賞の受賞もおめでとうございます。ただ、小B方さんなみに脇が甘く、言葉使いが雑なところが気になります。ウェット系の実験の読み方もあまりなれていらっしゃらないですよね。裁判についてはあなたが主張されることはごもっともではあるのですが、負ける可能性は十分にあると思います。文部科学省は研究不正をこのように定義しております。http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu12/houkoku/attach/1334660.htm
(1)捏造
(2)改ざん
研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。
(3)盗用
他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を、当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すること。
問題となっている論文では、データや研究結果は存在するので「捏造」とはいえません。むしろ、研究結果を真性でないものと主張したという「改ざん」ですが、これも論文によくある「言い過ぎ」といえば言えてしまいます。
その他、「売名オヤジ」発言などtwitterで軽率に出してしまうと、「売名オヤジ」扱いされたくない男性医師、研究者は協力したくなくなります。これは、流石に問題あると思って消したようですね。いろいろと積年の思いが会ったにしても、記者会見でしどろもどろになっているのを揶揄するような発言をtwitetrでして、あなたの気持ちははれるかもしれませんが、得することは少ないでしょう。研究して論文出して、結果が間違っていてretractされることは研究ではよくあることで、それ自体が悪いことではありません。今回のretractionをもって、研究費にまで言及してしまうと、研究者まで敵に回すことにもなりかねません。
バズフィードの岩永さんとか、同性できちんと指導しくてくれる人に文章を見てもらったりしたほうがいいんじゃないでしょうか。どうしても、「オヤジ」は女性に甘くなりますので、あまり参考にはならないでしょうね。
続く
「痛み入る」の意味を致命的に間違っている
ざっと読んでみたけど、予防接種として一般的に病気にかかってない人に7%の有害事象ってめちゃくちゃ多くね? 子宮頸がんにかかる人数でもそれだけかかるか、、、、。 まあ、想定し...
NATROMはゴミクズなのであいつを評価する奴も死ねとしか言いようがない