「結婚したい」気持ちが先走り、30歳で結婚したものの一人で抱え込みすぎてパンクしてしまい33歳で離婚をしたマンガ家の水谷さるころさん。
そんな水谷さんが仕事仲間のバツイチの男性(通称・ノダD)と36歳で再婚し、出産し、2人で子育てをするエピソードをつづったエッセイマンガ『目指せ! 夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)が4月に発売されました。
仕事のPDCAは回せても結婚のPDCAはなかなか回せないもの。初婚の反省を踏まえて今回は法律婚ではなく事実婚を選んだという水谷さんに、3回にわたって話を聞きました。第2回は事実婚について伺いました。
事実婚を選んだ理由
——事実婚はいかがですか?
水谷:今のところはビックリするほど、何の問題もないです。
——私は夫婦別姓がいいなあと思って事実婚に興味があるんですが、水谷さんはなぜ事実婚を選んだのでしょうか?
水谷:私も1回目の結婚のときに改姓のデメリットをひしひしと感じたので、事実婚を選びました。
姓を変わったほう、合わせたほうが、要は夫の姓に変えたら夫の従属物として扱われるというのが、結構あってすごく嫌だったんです。
——『結婚さえできればいいと思っていたけど』にも描かれていましたね。やっぱり結婚して姓が変わっただけでそんなにまわりの反応って変わるものなのでしょうか?
水谷:もちろん全員ではないんですけれどね。結婚しても働いている女性は態度は変わらない。
態度が変わるのは、結婚していて男が頑張らなきゃと思い過ぎてる男性や、結婚していなくて、男が頑張らないと結婚できないと思っている男性、結婚してさっさと仕事を辞めたいと思っている女性、の3パターンの人たちですね。
結婚に過剰な“ドリーム”を持っていて、「これからは男性に依存して楽して生きていくんでしょ」という態度になる。
——「結婚したらギャラを下げられた」と描かれてましたね。
水谷:初婚は2006年で結婚生活は3年半だったんですが、リーマンショックもあって世の中が不況だったんですね。今思えば、予算が厳しいから、値下げ交渉の理由の一つとして「結婚して悠々自適だからいいでしょ」と言ってきたのかな、とは思うんですが。
でも、結婚するまでは気軽にお仕事くれてた編集者さんが、私が結婚した途端に疎遠になってしまったんです。離婚したらまたお誘いがあって、話してみたら「悠々自適な生活をしていると思ってました」と言っていて、「やっぱりそうだったか……」と思ったことがありました。その方はたぶん結婚して仕事を辞めたい系の人だったように思います。
——自分の結婚フィルターで他人のことを見てしまっているんですね。私も結婚したからと言って姓を変えたくないな、と思っているんですがそれは「実は実家が貴族で…」ということではなく、単純にクレジットカードや銀行の名義などを変えるのが面倒という理由なんです。
水谷:フリーランスの場合、旧姓でありとあらゆる出版社に口座の登録をしているんですよね。それをいちいち変更するのは手間なので、結婚をしたときも、名義を変えない口座と変えた口座があったんです。新規で旧姓の口座は作れないんですが、そのままにしておくことはできたのでなんとかやりくりしていたんですが、クレジットカードなどどんどん外堀を埋められていくように旧姓が使えなくなるんです。
そうすると、クレジットカードの新規更新になったときに、「戸籍名でないとダメです」と言われて、戸籍名に名義を変えたら、今度は「銀行口座が同じ名義でないとダメです」と言われて……。銀行口座を新姓の口座に変えたんですが、支出ばかりの新姓口座とお金が入ってくる旧姓の口座が混在していて、自分で振り替えをしてすごく面倒でしたね。
——うわー、面倒臭そう。信用情報なので仕方ないとは思うのですが……。
水谷:そんなに面倒くさいことをしてまで頑張って仕事をやっているのに、「悠々自適な奥さま」のように思われて、割に合わないと思いました。
——そうですね。
水谷:だから、再婚したときは「式もしないし、浮かれてません」「姓も変えません、仕事を一生します」というオーラを出してすごく気を遣いました。子どもが生まれたときも「仕事します!」という立ち振る舞いをしていました。
——ブランディングしたんですね。
水谷:そういう意味では、事実婚は強力でしたね。事実婚というだけで、まわりは「悠々自適」とは思わないんです。
——逆に事実婚のイメージを利用したんですね。
水谷:そうですね。だからフタを開けてみると、うちはかなり普通の結婚に近いと思います。なかには親戚付き合いをしたくないから事実婚という人もいると思うんですが、うちにはお互いの親戚と付き合ってるので。保育園のママ友に「野田さん」と呼ばれてもわざわざ訂正しないですね。
子どもを産むときだけ法律婚、そして「離婚」
——事実婚の夫婦が子どもを産むタイミングで姓を統一するために法律婚をするという話をよく聞きます。水谷さんは、子どもが生まれたときに一回法律婚をして、また離婚をしたんですね。産むときだけ法律婚をして妻だけ戸籍を抜ける(離婚届を出す)のであれば、区役所だけで1日で手続きできるとあって「そんなことができるのか!」と驚きました。このやり方はご自分で調べたんですか?
水谷:はい。あとは行政書士さんに確認しました。
——「認知」を選ばなかったのはなぜですか?
水谷:一番簡単なのが、一瞬法律婚をして離婚届を出すという方法だったんです。認知するのはやったことがないので実際はわからないんですが、産前産後に家庭裁判所とか行くの面倒かなって(笑)。区役所で済むならそっちのほうがいいやと。
一度、法律婚と離婚をしているというのもあります。「戸籍ってただのシステムじゃん!」って思って。「戸籍が汚れる」とか呪いワードですよね。区役所ですごく簡単に変えられちゃうのに。世の中には「家族の名前が同一」であることにアイデンティティがある人もいるらしいですが、私は初婚で離婚してから「どうでもいいな」ってなりましたね。
また、法律婚をした夫婦に不妊治療の助成があってそれを申請したかったので、お得なほうがいいだろうという選択です。*
*助成金の規定は自治体によって違います。
苗字がちがうのは子どもが可哀想?
——「母親、もしくは父親の苗字と子どもの苗字が一致しないのは(子どもが)可哀想」という意見もありますが、それに対してはどう思いますか?
水谷:今、保育園に子どもをあずけてますが「親の名前と子どもの名前が違う」なんて、他の利用者にわかるタイミングすらありませんよ。親なんて「○○ちゃんのママ」とか「パパ」とかなんで、言わなきゃわかんないです。うちは別に隠してないから知ってる人は知ってるけど、知らない人は全然知らない。
それをいうなら「家族」として振る舞っていたら、血がつながってるかどうかなんて確認なんか誰もしないじゃないですか。「苗字が一致しないとかわいそう」って、ほとんど妄想じゃないかなと思います。
もしも「あのお宅は苗字も違うし……」とか言われるようなことがあれば、それはそのおうちが家庭不和とかの問題があるだけで苗字が違うこと自体が問題じゃないと思います。家族仲がよくて、地域にも溶け込んでる人たちは名前がどうとか、誰も気にしないですよ。
——なるほど。それにしても日本の行政サービスや制度っていろいろあるんですね。知らないだけで。
水谷:そうですね。なので、逆に言えば1回目の結婚のときになぜ何も知らないまま結婚しちゃったんだろう? と。
私の場合は、あまりにも結婚したかったあまり結婚に積極的ではなかった相手に対して「結婚してもらった」と引け目を感じて、家事や負担をすべて自分で背負ってしまったんです。婚活女子にありがちな“罠”だと思うのですが……。
なので、合理的な共同生活のメリットや相手がきちんとしたビジョンを持ってる人じゃないと、結婚しても自分の重荷が増えるだけだなと思いました。離婚してからは「どんな生活をしたいのか?」ということを真剣に考えるようになりました。
——だからノダDとの結婚生活にはたくさんの「ルール」があるんですね。次回は「再婚にあたって決めたルール」についてお聞かせください。
※次回は7月2日(月)掲載です。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)