「バカの壁」はネット時代にますます高くなる

養老孟司×新井紀子「バカの壁」対談<上>

ネット時代の「バカの壁」について縦横無尽に語り合う(撮影:尾形文繁)
養老孟司氏と新井紀子氏は、どちらもベストセラーを世に送り出しています。
養老氏は400万部を超える歴史的大ベストセラー『バカの壁』のほか、著作は70作を超えています。
近著『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』が20万部を超えるベストセラーとなった新井氏は、AI技術を結集してロボットを東大合格にチャレンジさせた「東ロボくん」の研究プロジェクトで有名な数学者です。
その『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の読者の方からは、『バカの壁』との共通点を指摘する感想が寄せられています。
2人の対談は今回が初めて。バーチャル化する実社会やデジタルネットワーク社会に潜む「バカの壁」を通奏低音にして、話題はAI、民主主義、虫取り、医療、教育など多岐に及びました。
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

養老:今日は、若い方にお話を伺いたいと思ってやってきました。

新井:私のほうこそ、いろいろ教えていただきたいと楽しみにしてまいりました。私は以前から勝手に先生とのご縁を感じておりました。先生が理論社の「よりみちパン!セ」シリーズで『バカなおとなにならない脳』(2005年)を出版されたのと同じ時期に、私も同じシリーズで『ハッピーになれる算数』(2005年)を出版したんです。そのとき、先生の本も読ませていただいて、もちろん『バカの壁』(2003年)も拝読しました。

養老:『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を読んで面白いと思ってね。ぼくはだいぶ前から、読むだけで子どもを教育してみたらどうなのかなって思っていたんですよ。それで、子どもの読解力を調べている人のお話を聞きたいなと。

ネットワーク世界にはびこる嘘

養老:書評を頼まれて『デジタル・ポピュリズム』(福田直子著、2018年集英社新書)を読んだんですけど、ちょっと驚きました。たとえば、ぼくなんかトランプ現象とかイギリスのEU離脱は政治の文脈で理解してたんです。でも、福田さんの本を読むと、あれは実はネット(の強い影響)だったんだということを丁寧に説明しています。それで、やっぱりそうか、違う力学があるんだな、と。つまり、読解力のことです。

新井:私もそう思います。

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  • NO NAMEa918c49540fd
    結局、新聞時代もウェブ時代も「見出しだけ読んで判断する層」は一定数います。そうしたリテラシーの無い方々がポピュリズムに駆られるのは当然のことですが、ウェブ時代の場合は尚悪いことに、基本的に「時間が有り余っている人間」が情報を数多くポストし大量に拡散することが可能である上に、金で人を雇うことで情報を更に拡散させることが容易になりました。これはリアルではまず起こりえない現象です。

    つまりウェブ時代は「暇が有り余っている人」と「金のある人」が世論を操作しやすい時代であると言えます。当然この二者は、より良い社会やより良い政治を求めて活動するタイプの人種ではありません。前者は自分の属するコミュニティが勝ち組になることだけを考え、後者は自分の欲しい物を手に入れることだけを考えて活動します。それこそが現代のポピュリズムに暗い影を落とす最大最悪の問題点だと私は思っていますが、どんなもんでしょうか。
    up61
    down6
    2018/6/29 09:22
  • NO NAME0f7413bb0763
    >プラトンの政治世界なんですよ。わかる人がやればいいっていう。

    結局、わかる人の「わかる」の基準やその事をどう担保するかという問題が残るんですよね。
    その基準や担保は結局、その政治体の集合知に依存するしか無い。
    やっぱりそう考えると、多数が参加出来る民主主義が最良な社会なんだろうと考えます。
    その点においてポピュリズムの問題点は基準や担保である集合知が精錬される前のものが利用されている点にある気がします。
    up34
    down2
    2018/6/29 08:26
  • あじ668b634bdfc1
    私は20代のネット世代で、色々なことを耐え抜いて観察してきましたが、流石にインターネットというものに拒絶反応が強すぎるのではないか?と感じました
    例えば現実の世界でのコミュニケーションだけが重要であり文字では一割ほども伝わらないとありますが、建て前だの演技だのでどうとでも装飾できるわけで、現実のやり取りもまたバーチャルといえばそうなりませんか?

    それこそ建て前なしの生の価値観で溢れているSNSを利用していて私はそのことに気づけた訳ですし、その影響で向上した人間に対する普遍的な理解なども獲得して、現実とネット両方で発揮出来るであろうリテラシーを多少なりとも身につけられたのではないかと思っています

    そして多様な媒介を通して、現実とネット両方で発揮出来るリテラシーを次世代に身につけたさせてあげることは今後の世の中の必修ではないかと考えています
    up33
    down7
    2018/6/29 12:18
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