国内製紙大手が大手紙に新聞用紙値上げを打診、原料高騰

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  • 値上げが実現すれば10年ぶり、部数減に苦しむ新聞社の経営に打撃
  • 石炭など高騰で採算悪化、需要減で業界には生産能力削減の動きも

Photographer: Tomohiro Ohsumi / Bloomberg

国内製紙大手の日本製紙王子ホールディングス(HD)が、原材料価格の高騰などを理由に、顧客である一部の新聞社に新聞用紙の値上げを打診していることがわかった。値上げが実現すれば10年ぶりで、電子化の進展で部数減少が止まらない新聞社の経営にとっては打撃となる。

  複数の関係者が非公開の情報として匿名を条件に明らかにしたところによると、両社は営業担当者などを通じて顧客である全国紙や地方紙に値上げの意向を伝えているという。値上げの背景にはボイラー燃料に用いる石炭価格や、原料の古紙価格の上昇で採算が悪化したことなどがあるという。打診先には大手全国紙や有力地方紙が含まれ、実現すればリーマンショック前の2008年以来、約10年ぶりの値上げになるという。

  日本新聞協会によると、数字が公表されている国の中ではインドに次いで世界2位の新聞大国である日本でもスマートフォンの普及などで新聞離れは加速している。07年に5200万部を超えていた発行部数が昨年は約4213万部と10年間で20%近く縮小している。そんな状況でも新聞向けは両社とも依然として主力事業の一つと位置づけられている。  

  日本製紙では新聞関連は前期(2018年3月期)で連結売上高の約83%を占める「紙パルプ事業」に含まれる。王子HDでは「印刷情報メディア」に区分されて前期の売上高は全体の20%の2910億円だった。両社とも連結売上高に占める新聞用紙のみの販売比率については公表していない。

  関係者によると、過去の事例を踏まえると、最終的な値上げ幅は10%を超える可能性もあるという。

  午前の段階では一時前日比1.3%安の水準まで下落した日本製紙の株価は報道を受けて上昇。午後に取引が再開されると一時1.4%高の1783円まで買われ、1768円で取引を終えた。王子HD株も報道後に一時下落幅を縮小したが、その後は売りが進んで終値は1.7%安の687円だった。

  国内2位の製紙メーカーで、新聞用紙では30%以上のトップシェアを持つ日本製紙は今年に入って包装用などに使うクラフト紙と壁紙原紙の価格をそれぞれ15%以上引き上げた。業界首位で新聞用紙では2位の王子HDも傘下の事業会社を通じて包装用紙の15%以上の値上げを発表した。ともに原材料や燃料価格の上昇を理由にあげている。

容易ではない価格転嫁

  製紙メーカー側としては数量減を値上げによる単価上昇で補いたい考えだが、コスト増分の新聞購読料への転嫁で部数減がさらに進めば自らの首を絞めることにもなりかねず、新聞社側の意向も聞きながら慎重に話し合いを進める考えだ。

  日本製紙は5月28日、洋紙事業の再編策を発表。北海道と静岡県の2工場で新聞用紙の抄紙機を2台停止するなど洋紙の国内生産能力を向こう3年間で18%削減する方針を示し、関連費用の特損計上など今期純損益は180億円の赤字転落を見込んでいる。

  同社の野沢徹常務は5月の会見で、「新聞などの電子化の進展に伴う需要減退が想定以上に進んでいる」と指摘。王子HDの矢嶋進社長は日本製紙連合会会長としての今月20日の定例会見で日本製紙の能力削減について、「計画は完璧とは言わないまでも業界全体の需給がかなり締まる」との見方を示していた。

  日本製紙の藤田美穂広報室長は電話取材に「古紙の市況次第では値上げも検討せざるを得ない経営環境」と話した。王子HD広報IR室の深瀬修一氏は新聞用紙に関しては新聞社との間で個々に契約を結んでいるため、詳細についてはコメントできないとした。

  昨年11月に報道強化のための設備投資や配達費の増加などを理由として月ぎめ新聞購読料の23年ぶりの値上げ(約9%)を実施した日本経済新聞社の広報担当者は電子メールで、コメントを控えたいとした。国内で最大部数を持つ読売新聞にも取材を試みたが、コメントは得られなかった。

(日経新聞広報からの回答を追加しました.)
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