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 中国ネット大手のアリババ集団はAI(人工知能)で農業や畜産といった第1次産業の効率化を支援する事業を2018年6月に開始した。農産物や豚の成育状況をデータで把握し、AIを使って分析。給餌や飼育環境の調整に役立て、収穫量や生産量の向上を狙う。

 傘下のアリババクラウドが「ET Agricultural Brain(ET農業ブレーン)」を発表した。アリババクラウドは元々クラウド上でスマートシティや交通整備、空港運用システムなどのサービスを提供している。新たに農業や畜産に必要な機能を追加し、第1次産業に特化したサービスとして展開する。

アリババクラウドの胡曉明(サイモン・フー)総裁(中央)
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 ET農業ブレーンは画像認識や音声認識、環境モニタリングなどの技術を採用。畜産なら豚の品種や年齢、体重、食物摂取量、運動状況を把握する。例えば音声認識機能で豚の鳴き声を検知して風邪を引いているかを判別できるとしている。AIを駆使して養豚を支援する「ポークテック」とも言える技術については提携する養豚場が先行利用しており、効果を得ているという。

AIで疾病率や死亡率を減らす

 飼料の生産や養殖などを手がける四川特駆集団(テクグループ)もET農業ブレーンを先行導入。豚の疾病率を下げ、出荷前の死亡率を3%程度に減らせるめどをつけた。結果、1頭の雌豚が1年間に産む子豚の数を32頭へとこれまでの約3倍増やせると予測する。この頭数は先進国の養豚場と同等だという。テクグループの王徳根会長は「ET農業ブレーンによって生産量を上げられる」と期待する。

飼料の生産や養殖を手掛ける四川特駆集団の王徳根会長
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 アリババクラウドの胡曉明総裁はET農業ブレーンが手付かずの市場を攻略する第一歩だと強調する。「農業は巨大市場であるにも関わらず、ビッグデータやITの専門家がいない。ITのインフラも貧困だ。我々が入ることで、彼らの効率アップに貢献する」。

 農業のほか教育やスマートシティ整備といったサービスなどを一気通貫で提供できる強みをばねに、2030年にはグローバルのクラウドサービスに追いつくと意気込む。「2030年時点で、メジャーなクラウドとして残るのは3社のサービス。米アマゾン・ドット・コム、米マイクロソフト、そして我々だ」とぶち上げた。

 中国の農林水産生産高は2014年時点で既に10兆元(約170兆円)を超えている。年率5%前後増え続けている成長市場だ。中国ではアリババ以外にも、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と通信事業者の中国電信(チャイナテレコム)が畜牛専用のAIシステムを開発する。

 巨大市場はデータの宝庫だ。データが多いほどAIに磨きをかけやすい。世界最多の人口を武器に決済やEC(電子商取引)などのサービスを進化させてきた中国企業が、「数」を生かせる新領域として農業や畜産業に目を付ける。