「資産運用をバリアフリーに。」
こんなミッションを掲げる企業が日本の金融業界を変えようとしています。
2015年12月に、国内株を取り扱う独立系証券会社としては、10年ぶりとなる新規参入企業として起業した株式会社FOLIOは、テーマ投資型の資産運用サービス『FOLIO』を提供する新進気鋭のベンチャーです。日本では「一部の人にしか関係ない、遠い存在」だった資産運用を、金融工学、デザイン、テクノロジーの力で身近にする。“FinTech" を体現するFOLIOには、そのコンセプトに賛同した優秀な人材が集まってきています。なかでもFOLIOのサービスを支えるエンジニアはそうそうたる顔ぶれ。
Forkwell Press 人気企画のエンジニアリレーインタビュー。今回はいまアツいFOLIOさんに出張し、お話を伺っていきたいと思います。
記念すべき第1回目は、バックエンドエンジニアとして活躍する海津研さんに、読者にもなじみが薄いであろう金融系のエンジニアリングについてお聞きしました。
広告? 勧誘行為? 証券会社の“ファーストインパクト”
「自分で作ったサービスなのに…自分のTwitterアカウントで自社についてつぶやくときに注意が必要なんです。それが最初の驚きでした」
2018年1月からFOLIOに加わった海津研さんは「中の人」としての“ファーストインパクト”をこう振り返ります。
「これまで一貫して『toC』のサービスにかかわってきたので、自分が作ったサービスはすぐにみなさんにお届けして、できるだけ多くの人に使ってもらえるように拡散するのが当たり前でした。でも、FOLIOはそういうわけにはいかなかったんです」
ん? 自分がかかわったサービスを自由に宣伝できない? これには多少の説明が必要です。金融商品取引業者であるFOLIOには、金融商品取引法などに基づく様々なルールが適用されます。例えば、投資勧誘をおこなう者は外務員登録を受けなければならないというものや、サービスの広告に関する規制などです。入社当時まだ外務員登録をしていなかった海津さんは、自社のサービスであるFOLIOの金融商品について、投資勧誘といえる行為をおこなうことはできませんでした。
「金融系の知識はほぼゼロだったので、これには驚きましたね。自分が作ったサービスであっても、自由になんでもツイートしていいというわけではなかった。証券会社として遵守するべき規制やルールを知るためにすぐに勉強を始めて、二種の外務員資格を取得しました」
こう言って笑う海津さんは大学院在学中に株式会社はてなでインターン、卒業後はLINE株式会社に入社し、BtoCのサービス開発にかかわってきました。
「入社前は金融の知識はもちろんなかったです。『何だそれは』という感じでしたね」
金融、証券とは無関係だったエンジニアが、なぜ証券会社を新天地に選んだのか? ここからは、海津さんの言葉を中心にFOLIOでの仕事、その魅力や技術的なこだわりについて掘り下げていくことにしましょう。
ベンチャーと資産運用への興味が偶然重なった
――そもそもなぜFOLIOで働くことになったんですか?
「若いうちにベンチャー企業での実務を経験してみたいなというのが最初の動機ですね。私は、インターネットサービスを作るのが大好きなんですよ。特にコンシューマーに向けたサービスを開発することにこだわっています。新たな仕事選びの基準にあったのは『自分が使いたいサービスかどうか?』。大学院時代から一貫してこの基準でやってきていますが、FOLIOは使ってみたいサービスの一つでした。自分が二十代後半に向かっていく中で、資産運用について何も知らないなという漠然とした思いはずっとあったんです。自分で働いて稼いだお金をどうするのか? お金のことが気になりだしたタイミングと新しいことを始めたいというタイミングがちょうど重なったんですよね」
――日本では特に若者の「資産運用」に関する意識が低いと言われています。ハードルが高いところもありますよね。
「周囲ともお金の話はほとんどしませんね。でも、FOLIOのサービスを使えば興味のある分野やテーマに投資できたり、専門的な知識がなくても楽しみながら運用ができると思ったんです。これなら自分でも使ってみたいと。将来的にはもっと面白いことができるんじゃないかなと思ったのが一つです。」
――他にも「この会社にしよう」と思った理由があれば教えてください。
「創業メンバー8人のうち、エンジニアの1人が、大学の研究室の同期なんですよ。卒業後も定期的に飲んだりする仲だったので会社やサービスについてはなんとなく聞いていました。でも一番大きかったのは、代表の話を聞いたときですね。お金の価値観を変えるサービスを作っていくという話で、自分たちもワクワクできるとすぐに思いました」
――2018年1月から入社されて現在はどんなお仕事をされているんですか?
「バックエンドエンジニアではありますが、最近組織の改編があって、インフラエンジニアも含めたSRE(Site Reliability Engineering)チームで仕事をするようになりました。いまはSREチームでバックエンドとインフラに総合的に関わっています」
――証券会社のシステムということで、金融プラットフォームならではの苦労もあると思います。
「本当にバグは出せませんよね。お金を取り扱っているサービスですから、そこは徹底して厳しくやっています。SRE チームとして誰が何をやったのか?処理の内容やプロセスを逐一記録する“監査証跡”は本当に細かく残しています。そこは証券会社っぽいなと思いますね。本来は業種にかかわらずエンジニアならばやらなければいけないことだと思いますが(笑)」
――システム構築に当たっても金融の知識を必要とされる場面があったり?
「SREチームとしては、堅牢性の担保など、意識しなければいけないことはあると思いますが、事前に知識が必要かというとそんなことはないと思います。実際に弊社のエンジニアも金融未経験でWEB系サービスばかり作ってきたという人も多いですしね。WEBサービスで言えば、AWSもFinTechの導入に積極的で、AWSの上でFinTechサービスを構築するための『AWS FinTech リファレンス・ガイド』というガイドラインを用意しているくらいなんです。その他にもリファレンスが充実してきていて、まったくゼロからというわけではありません。そういう意味でも金融業界の経験はマストではないですね」
――とはいえ業種が変わって入社してから学ぶことも多かったのでは?
「それはそうですね。未経験でも問題ないですが、学ぶことは多いと思います。先ほどの意識の面もそうですが、証券サービスならではの新しい知識を学んでいく必要は当然ありますし、同僚がそれぞれのスペシャリストばかりというのも刺激を受けます。バックエンドエンジニアで証券会社のシステムを作ってきた人がいるんですけど、その人の作るコードはテストコードでもすごく綺麗なんです。運用に対する意識もこれまで見てきたどのエンジニアよりも高いですね。FOLIOでは、マイクロサービスでシステムを構築しているのですが、自分のサービスを自分で完璧に守った上で、そこに関わる他のサービスのこともしっかり見ているんです。もう尊敬しかないですね」
マイクロサービスで金融業界のシステム変えていく
――お話に出たマイクロサービスには海津さんも並々ならぬ思い入れがあるとか?
「マイクロサービスへの思い入れは・・・・・・、めちゃくちゃありますね(笑)。マイクロサービスは、個々のサービスにそれぞれ責務があるんですよ。FOLIOの場合なら、口座管理のサービスとお金のやり取りをするサービスがそれぞれ独立して、その情報だけを持っているんです。責務がきちんと分離されているのがマイクロサービスの特徴です。将来的に新機能を追加するときや、大規模改修のときもそれぞれが分離しているので非常にわかりやすく、最小の変更で改修できるんです。各々のチームが自分の担当する小さなサービスを守っていくことで結果的に大きなサービスを作れるというのがメリットだと思っています」
――証券サービスであるFOLIOがマイクロサービスで構築されているメリットもあるんですか?
「機能追加、改修、変更もそうですが、一つのサービスが落ちたとしても他のサービスは停止せずに済むというところは、大きなメリットだと思います。旧来のサービスのように、モノリシックに大きなサービスを構築してしまうと、一つのサービスが停止すると全体が使用不可になってしまいます。マイクロサービスで作っておけば、一つのサービスが止まっていても、証券の売買は止めずにそのまま運用できるということもあり得るんです。これは、証券会社という特性を考えると将来的にも生きてくると思っています」
――責任、責務みたいな話が度々登場しますが、海津さん自身も自分の責任はかなり意識されるタイプですか?
「自分で開発したものは絶対落としたくないタイプですね。同じように、マイクロサービスでは起こり得るんですけど、自分のサービスで他のサービスを落としたくないし、他のサービスに不具合があっても、影響が出る前に検知したいと思っています。昔から『自分が見える範囲は守り切りたい』という思いはありますね。実はモニタリングが大好きで、仕事中はモニタにあらゆる通知を流すようにしています。これは他のエンジニアにはあまり共感されないんですけど、通知が流れているのが当たり前になると、これは今すぐやらないととか、緊急性の取捨選択ができるようになってくるんですね。SREチームでも、どういうメトリクスを集めたらいいかどういうダッシュボードが必要かとか常に考えています。もう性格ですね。ダメなものはダメで、エラーは必ず見つけたいし、見つけられる状況を作っておきたいんです。究極的には、夜中に障害対応しなくて済む、みんなが夜に眠れる安定したシステムを作りたいと思っているんだけなんですけどね」
――だいぶ海津さんのこだわりが見えてきましたね。もう一つのこだわり「toC」向けサービスというのはどの辺に理由があるのでしょう?
「大学院時代にはてなさんでインターンをしていて、はてなブックマークに関わらせていただいたんです。リリースした瞬間にエゴサーチするとものすごい勢いで拡散されていくのを見て、『自分の作ったものがダイレクトにユーザーに届く感動』を味わったんです。これが快感で、その後に関わった『Mackerel』でも、自分が欲しいと思った機能をどんどん追加してユーザーに届けていました。元々、プログラミングをはじめるきっかけになったのがオンラインゲームだったので、スタートはユーザーなんです。なので、たくさんの人に使ってもらえるサービスを一から開発したいという思いは強いですね。『いいものを最速で届けたい』という思いは、インターン時代からずっと変わっていません」
――運用に堅牢性、安定性を求められる証券サービスでは「最速」の定義も難しいですよね。
「ユーザーに届けられる品質を最速でという意味ですね。安定と早さだったら、個人的には6:4で安定をとるタイプですし、業務的にも守りが主になるので、いまの仕事は合っていると思います。でも、コンシューマー向けということを考えると、ユーザーにとっていいものはどんどん届けていきたいですよね」
証券業界に新風を吹き込むFOLIO 社員が成長できる理由
独自のアルゴリズムを活用し、投資を簡単に、しかも楽しんで行えるFOLIOは、日本人の資産運用を大きく変える可能性を秘めた新たな証券のプラットフォームです。海津さんもそんなFOLIOにサービスとしての可能性を感じながらシステムの開発に当たっていると言います。
「同僚エンジニアのレベルの高さや、証券、金融業界出身の人が与えてくれる自分がこれまで触れてきた人とは“質の違う”刺激は本当に学びになっています。でも一番大きいのは、いろいろなバックグラウンドを持ったスペシャリストが、『資産運用をバリアフリーに。』というミッションを目指して進んでいることです。面白いのは、うちの代表はよく社員の席にフラフラやってくるんですよ。私のデスクにも1日に4回くらいやってくる。気がつくと横でカレーとか食べているんですよ(笑)。そこで何気なく話したことだったり、ときには何か質問したりすることで、会社としてどうしていこうかみたいな方向性が共有できている気がします」
「toC」向けサービス、しかも「自分が使いたいサービス」にこだわって仕事をしてきた海津さんが選んだのは、日本の証券界に新風を吹き込んだFOLIOでした。海津さんがFOLIOで成し遂げたいことは明確です。
「弊社だけではなく、金融界を巻き込んで日本人のお金の価値観を変えていきたいですよね。そのためには、いまいる人材だけでなく、新しい仲間も必要です。業務面で言えば、特定の開発言語に特化したスペシャリストよりもジェネラリストが来てくれるとうれしいなと思います。FOLIOはScalaを採用していますが、Scalaを書いたことなかったという人も結構います。インフラは新しいシステムがどんどん出てきているので、特殊技能より汎用性、柔軟性が必要です。証券、金融系というと、何をやっているのかわかりづらいこともあると思いますが、絶対仕事は面白いし、未経験でも専門分野は一流から学んで成長できるというメリットがあります」
「あともう一つ」
海津さんに「どんな人と働きたいか」「キャリアで大切にしていること」を聞いていると、最後に「これが一番大切なことです」と教えてくれたことがあります。
「インターネットが好きな人と一緒に働きたいです。インターネット最高なんで」
証券会社と聞くとお堅いイメージ、難しそうな雰囲気がムンムン漂いますが、FOLIOでは、エンジニアリングも含め、求められる堅牢性、安定性を担保した上で、新しいことにチャレンジする柔軟性を兼ね備えています。海津さんが常に意識している「toC向けのサービス」であること。FOLIOでは、サービスを支えるインフラ、バックエンドにおいても「ユーザーが見えるエンジニアリング」が行われています。
さて気になる次回は、インフラを担当している澤田泰治さんが登場します。
澤田さんは、創業メンバーの一人で2015年12月にジョイン。現在はSREチームリーダーとして活躍しています。
FOLIOではこれまで様々なメディアでクリエイターにフォーカスしたインタビュー記事を公開していますが、意外にも未出の澤田さん。
非常に貴重な機会なので、創業当初のオモシロ話や、「堅牢性、安定性を担保した上で、新しいことにチャレンジする柔軟性」の実現のための取り組みなど、盛りだくさんで語っていただきます。
ライター:大塚 一樹