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「上がっている?上がっていない? モノやサービスの価格」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

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先週、5月の消費者物価指数が、公表されました。今井解説委員。

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【ガソリン価格は上がっていますし、買い物に行っても、お菓子などの中身が少なくなったと感じることがよくあります。実際のところ、物価は、どうなっているのですか?】
5月の消費者物価は、一年前と比べてプラスの0.7%。上がっています。ただ、これを、2%の物価上昇をめざしている立場から見ると、思うように物価が上がっていない、という見方になります。きょうは、両方の側から、物価について見てみたいと思います。

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まず、こちらは、消費者物価の推移です。ゼロより上だと、一年前より物価が上がっているということです。

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【去年から、物価は上がっていますね】
そうですね。詳しくみてみると・・
原油価格が大幅に上がっていることから、エネルギー関連。そして、洗剤や包装用の袋に多くの石油製品を使っているクリーニング。こうしたモノやサービスの価格が上がっています。また、人手不足で働く人の賃金を上げた、宅配などの運送費、そして外食も上がっています。生鮮食品を除いた食料品も上がっています。

【家計には痛いですね】
そうですね。特に、物価上昇分の影響を除いた、実質の賃金を見てみると、今年の1~3月期はマイナス0.2%。物価が上がっているほど賃金は増えていません。5・四半期連続で賃金が目減りしている形です。それだけに、これ以上、物価は上がってほしくないというのが正直な気持ちですよね。

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ただ、このグラフ。2%の物価目標を目ざしている政府・日銀、それから経済の専門家の側からみると、違ったように見えます。

【そもそも、なぜ、2%の物価上昇を目指さないといけないのですか?】
日銀は、「長い間デフレが続いていた日本で、本当にデフレから脱却して、経済の好循環につなげるには、せめて2%は物価があがらないといけない。それより低いと、すぐにデフレに戻ってしまう」と説明してきました。

【経済のためなのですね】
そうです。そういう立場からグラフを見ると、物価は期待していたほど上がっていない。むしろ、短期的には2%の達成が難しいことがはっきりしてきた、という声すら上がっています。

【なぜ、このグラフで、そういう声があがっているのですか?】
なぜなら、このところの、深刻な人手不足を背景に、人の採り合いで賃金が本格的に上がり、それがいよいよ幅広くモノやサービスの値上げにつながるのではないかという期待があったからです。実際、去年の秋以降、宅配などが値上がりしましたし、3月の春闘でも、賃金を去年以上に上げる動きが見られました。そこで、物価改定の節目の、今年4月以降、物価が一段と上がって、今度こそ力強い経済の好循環につながるのではないかと、注目されていたのですが・・実際は、むしろ、物価上昇の勢いが弱まる結果となりました。

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【確かにそうですが、なぜ、勢いが弱まったのですか?】
エネルギー以外の物価が弱いからです。中には、家電製品、こども用の洋服など、大きく値下がりしているものもあります。
大手スーパーの西友も、先月、食品や日用品、およそ600の品目について、平均7%の値下げに踏み切りました。
原油価格が上がっていますので、この先、物価は再び1%程度まで上がるかもしれませんが、原油が落ち着いたら、0%台で推移する可能性が高い。このため、日銀は、今年度「1.3%」。来年度は、「1.8%」としている物価の見通しについて、早ければ、来月の金融政策決定会合で、引き下げるのではないか、という見方もでています。

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【なぜ、専門家の期待ほどは物価が上がらないのでしょうか?】
ひとつは、「人手不足なのに、賃金が上がらない」。そして、2つ目は、「賃金が多少上がっても、物価の上昇につながらない」ということがはっきりしてきた、という見方があります。早期に2%の物価上昇をめざす立場からみると、拠りどころとしてきたシナリオが崩れたと言ってもいいと思います。

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【人手不足なのに賃金が上がらないのは、なぜですか?】
背景のひとつと見られているのは、外国人の労働者が増えている点です。

【きのうのこの時間でも、外国人労働者が増えているという話がありましたね】
そうですね。こちらのグラフを見ると、特に、ここ1、2年、外国人労働者の数が急激に増えています。多くは留学生のアルバイト。そして、日本で技術を学ぶためという名目の技能実習生です。コンビニとか、建設、農業といった、特に人手不足が深刻な現場で、しかも、低い賃金で働いていると見られています。政府は、今後さらに規制緩和で外国人労働者を増やす方針です。

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加えて、人手が足りないのなら、営業時間を短くする。あるいは、ロボットなど自動化を進める動きもあります。こうした動きが、働く側から見ると、企業の利益は増えているのに賃金がなかなか上がらない要因になっています。

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【それでも、今年の春闘では、ある程度、賃金が上がったということでしたよね。それが、なぜ、物価の上昇につながらないのですか?】
これについては、最近、日銀が、「ネット通販の拡大」が、背景にあるという分析を公表して話題になっています。
こちらは、物価の推移の内訳ですが、ネット通販での買い物がそれほど増えていない「食料品」(生鮮食品を除いたもの)については、物価が上がる傾向が続いているのに対して、ネット通販での買い物が一年前より10%以上増えている「日用品」や「衣料品」では、物価の伸びが弱まっています。ネットで安いものを探して買ったり、フリーマーケットのアプリを使って、より安い中古品を買ったりする人が増えているため、実際のお店でも、買ってもらうためには値下げせざるをえない。その結果、物価全体を0.1から0.2ポイント、押し下げる要因となっていると日銀は分析しています。

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【デフレはよくないのかもしれませんが、消費者の立場から言うと、無理して2%に物価を上げなくてもいいのではと思ってしまいますが】
私もそう思います。一番、問題なのは、短期決戦で2%の物価目標を達成することをめざしてはじめた劇薬のような政策を、物価が上がらないからと言って5年も続けてきた結果、例えば、
▼    預金の金利がほぼゼロで、預金に頼る人の生活が厳しくなる。
▼    また、銀行の利益が減って、店舗を減らしたり、手数料を引き上げたりする動きが広がる。こうした、副作用がどんどん膨らんでいる点です。

【どうしたらいいのでしょうか?】
物価が大きくは上がらない。社会がそういう構造に変わったということであれば、もはやデフレでもありませんので、2%にこだわらず、政策を修正していくことが必要ではないかと思います。実際、日銀も、4月に、それまで「2019年度ごろ」としてきた、2%の達成見通しの時期を消して、事実上「長期的な目標」に変えています。国債を買う額も減らしています。

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今後、さらに政策を修正していくとなると、若干金利が上がったり、株価が下がったりと暮らしに影響があるかもしれません。でも、副作用が膨らんでいることを考えると、景気拡大が続いている間に、長期的な視点で修正を考えなければいけない。そのような時期にきているように思います。

(今井 純子 解説委員)

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