人麿影供900年 歌仙と古筆
開催期間 2018年6月16日(土)~7月22日(日)
月曜休館(ただし、7月16日は開館)
展示概要
宮廷文化の雅を象徴する和歌の世界。31文字に託された表現美とその情趣は、万葉の御代に起こり、平安期に洗練されて貴族たちの高貴な遊芸へと発展しました。歌人が各々に詠じた秀歌は、お手本となって伝わる中で選別され、特に秀でた名手たちを「歌仙(かせん)」と呼んで崇めるようになりました。
鎌倉時代に至る頃、歌仙の秀歌と図像とを一つの画面におさめた作品形式「歌仙絵」が誕生しています。中でも「歌仙」の筆頭にあたる歌聖・柿本人麿(かきのもとのひとまろ)の像は特別で、夢に現じた伝説の形相として描かれました。そして元永元年(1118)、歌人・藤原顕季(あきすえ)が人麿像を床に懸けて以降、「人麿影供(えいぐ)」と称する儀礼となって、歌会の繁栄を念じる形式として受け継がれたのです。今年は「人麿影供」が創始されてより900年。これを記念し、本展では重要文化財の佐竹本三十六歌仙絵「柿本人麿」をはじめとする多彩な人麿像とこれに関連する作品を特集展示するほか、歌仙絵の優品や、歌仙の名歌を記した名筆を交えてご覧いただきます。
本展のみどころ
01人麿影供 900年!
西行生誕 900年!
今年は「人麿影供」創始より900年。また歌人・西行(1118 - 1190)が生誕して900年。これを記念し、重要文化財の佐竹本三十六歌仙絵「柿本人麿」や俵屋宗達筆「西行物語絵巻」(第一巻・全場面)を公開します。
02人麿であるための「お約束」
人麿の図像は、平安時代後期に活躍した歌人・藤原兼房(かねふさ)が夢の中で出会ったという容姿の特徴がお手本となっています。瓜二つ、でもどこかが違う……、人麿像を見比べていただくコーナーも!
03時代を超越 ─歌仙たち大混乱! 江戸絵画の機知
歌仙といえば、三十六歌仙が画題の主流。巻物、画帖、掛軸や屏風といった多種多様な作品形式とともに、それぞれの画家たちが挑んだ表現美の探求をお楽しみいただきます。
04必見! 国宝・古筆手鑑「見努世友」ほか、優品ズラリ
本展では「高野切第一種」や「中務集」(ともに重要文化財)はもちろん、国宝の古筆手鑑「見努世友(みぬよのとも)」も公開。平安古筆を中心に多彩な書表現をご紹介します。
展覧会の構成
- 第1章
- 歌神となった人麿 ─人麿はどのように描かれたか
- 第2章
- 描かれた歌人たち ─図像の展開
- 第3章
- 国宝・古筆手鑑「見努世友」と古筆の世界
- 第4章
- 近世歌仙絵の変奏
各章の解説
第1章 歌神となった人麿 ─人麿はどのように描かれたか
柿本人麿は、のちに歌聖と称された特別な存在です。人麿への追慕は、元永元年(1118)、平安期の歌人・藤原顕季という人物が、歌会の場に人麿の像を懸けたことよりはじまる「人麿影供」の儀礼に象徴されています。今年は創始されてより900年。当館所蔵の佐竹本三十六歌仙絵「柿本人麿」(重要文化財)とともに、多種多様に描かれた人麿像の優品や関連作品をご紹介します。
第2章 描かれた歌人たち ─図像の展開
宮廷歌人たちの絵姿には、列影(れつえい)図のような、いわば記録画的な白描作品とも近しい関係にあったと考えられます。「時代不同歌合絵」「中殿御会(ちゅうでんぎょかい)図」はその一例で、各々異なる表情の面貌で描き分けられているのに対し、装束の描き方は至って簡潔に、型となって表現されています。こうした図像は次世代の手本となって、次第に別の画題へと転用されてゆきました。ここでは鎌倉時代から江戸時代へと伝わった図像の展開を探ります。
第3章 国宝・古筆手鑑「見努世友」と古筆の世界
歌仙が詠じた和歌の味わいは、麗しき仮名古筆の情趣とともに享受されました。古今和歌集をはじめとする歌集の写本には、歌仙の名とともに彼らの代表的な秀歌が収められています。この章では、国宝の古筆手鑑「見努世友(みぬよのとも)」(部分展示)を中心に平安時代から室町時代の多彩な書表現に加え、桃山時代から江戸時代へと展開した、個性的な仮名表現の世界観をご紹介します。
第4章 近世歌仙絵の変奏
近世に至り、歌仙の図像は画帖や絵馬、屏風や掛軸と多様な作品形式へ発展しています。画家たちは各々の立場で伝統的な図像を継承していますが、顔の表情、装束の色調や文様の描かれ方には、それぞれの個性による特徴が現れています。とくに琳派作品には、抽象性を加味した人物の表情が独特の飄逸さとともに描き出されている上、歌仙の衣装のきらびやかな彩りが華やいで見えます。この章では、近世歌仙絵の展開とその特質を概観します。