(2016年6月16日変更)
「おっと、茶が切れたか」
アインズが業務の最中にふと気づく、この前アストリアが淹れた紅茶が印象に残り日常生活でも紅茶を飲むようになった。
「ソリュシャン、茶をもう一杯頼む」
「かしこまりました同じヌワラエリアでよろしいでしょうか」
「うむ、あぁ、今回は少なめで構わんぞ。良かったらソリュシャンも一緒に飲まんか?」
「そんな!滅相もございません、私などが至高の御方であるアインズ様となど恐れ多く!」
「そう畏まるな、休憩がてらいつも世話になっているソリュシャンを労いたいだけだ」
「あ、ありがとうございます……で、ではご一緒させて頂きます」
恐縮しながらも、ソリュシャンの様子は嬉しくてたまらないといった様子だ。
「普段紅茶は飲むのか?」
「はい、プレアデスの定例報告会でもよく頂いています」
「ほぅ……じゃあ紅茶にも詳しいのか?」
「……申し訳ございません、非才な私にはアインズ様へご説明を出来るほどの知識がございません」
落ち込んだ様子でソリュシャンが謝ってくる。
「いや気にするな。……元々無理な注文だ」
(プレアデスは紅茶の淹れ方までは知っていてもそれ以上の設定はされていないからな)
至高の41人の1人である死獣天朱雀により完璧なマナーを叩き込まれたメイド達は紅茶の淹れ方も当然知っている。だがユグドラシルにおいては、家事スキルなど以外においてはレベルと密接なかかわりがある。すなわち、深い知識技術を身につけるにはプレアデスのレベルでは限界があるのだ。
もっとも例外もいるのだが
「最近はプレアデスの茶会が行われていないようだな?」
「はい、現在ナザリックの外へ任務へ赴いているルプスレギナ、ナーベラルの都合を優先させ簡略したもので伝達を行っています」
「ふむ、励んでくれるのは嬉しいが少しばかり心苦しいな」
「そのような!、みなアインズ様のご命令を心待ちにしております」
「なに気にするな、プレアデス間での情報共有という面でも有益なのだからな」
ソリュシャンへの気遣いとは別に定期的な情報共有の場が開催されていない というのも気にかかった。プレアデスはその役割上、立場を入れ替える事がままある。そのためアインズとしてもプレアデス間の現状把握の必要性を一段階高く見積もっている。
(実利もあるのならより優先するべきだろうな)
「しかし、茶会か……ふぅむ」
「いかがされましたか?」
「いや、皆で酒を飲むというのも良いが軽い休憩がてら歓談し茶を飲むというのも良いかもしれないと思ってな」
「それは大変良い考えと思います、シャルティア様をはじめ紅茶やコーヒーを好まれる方は非常に多くアインズ様とお話できるとあれば至福の一時かと」
「(少し表現が大げさだが)うむ、また長めの休憩が取れる時にでも提案してみよう」
「はい、アインズ様への給仕はぜひ私がさせて頂きます」
(ソリュシャンは何ていうか一言で言うとほんとソツがないなぁ……、失敗らしい失敗もしないしこういう時にはしれっと仕事を確保していくし)
職場で一人はいると回り具合が全く変わる人材とでも言うのだろうか、とはいえナザリックにはそういった人材が非常に多い。
(あ、だからナザリックが恐れらているのかもしれないな……)
人知れずアインズがまた一つナザリックの強みを見つけた瞬間だった。
「さて、数日ぶり程度だが楽しみにしていた時間だ」
あれからアストリアの喫茶店には足を運んでいなかった、数日程度だが。あの時飲ませてもらったヌワラエリヤという紅茶が気に入っていたせいかじっくりと楽しんでしまっていた。
(結構一つのことにはまったらどっぷり同じ事し続けたりするもんなぁ、音楽だったりゲームだったり)
チリンチリン
「邪魔するぞ」
「アインズ様! いらっしゃいませ!」
入店後まもなく、ナザリックの喫茶店管理担当であるアストリアがすぐさま挨拶をしてきた。
「ははは、元気が良くて何よりだ」
「し、失礼しました……ど、どうぞ奥の席が空いています」
かわいい(真顔)
今回も案内された席は奥の席だった。
「ふむ?風景……いや季節が少し変化しているか?」
「はい、お察しの通り現在は夏の風景になっております」
以前着た時は桜が舞っていた風景が、今では葉桜になっており木々も深い緑色になっている。
「魔法で季節を変えたのか?」
「はい、アインズ様がおいでになられた後すぐにアウラ様とマーレ様がいらしまして……同じように春の季節を楽しんで頂いた所とても好評で。夏や冬の味覚も今後予定している旨をお伝えしたところ、待ちきれないとの事だったため試験的にマーレ様の魔法により10日程度で四季を一巡する試みをさせて頂いています。外見だけですが」
「ほぅ、それはなかなかおもしろいな」
「喫茶店内部の事だったため、進めてしまいましたが……よろしかったでしょうか?」
「あぁ、構わないとも その程度の事ならば自由にやって構わん」
元々ナザリックでは 四季 という感覚は薄かった。6層の大森林であれ、季節に影響されず一定の温度を保っている。何よりシモベの多くが状態異常無効化を有しているため、気温の影響などを受け付けない。つまり視覚以外で四季を感じにくいという事だ。視覚の方も地下にあるナザリックは当然関係があまり無い。
「ナザリックのものは四季という感覚はあまり持っていないからな、こういった施設でそれを楽しむのも一興だろう。良い試みだ」
「ありがとうございます!アインズ様にお褒め頂けるとは……光栄です!」
(何か尻尾振ってるように見えてきた)
「さぁ、では今日のおすすめを聞こうかな?」
「本日は夏向けのものを中心にご案内させて頂いております」
「夏というと……やはりアイスティーかな?」
「はい、ですが一味違うアイスティーです」
何だか少しドヤ顔だ、可愛い
そう言いながらアストリアは冷蔵庫からポットを取り出してきた。アインズの目の前へ置いたガラスのポットにはティーバッグが入っていた
「これは……水出し?……か?」
「えっ、ア、アインズ様ご存知でしたか?」
「い、いや知らんぞ?見たままに言っただけだ」
(何ていうか、アストリアの設定はアレだな、従者というより懐いてる妹とか従姉妹を連想させるな。まぁアストリアを作った****さん結構妹キャラ好きだったせいかなぁ……)
アインズは何も悪いことをしていないはずだが、どうにも楽しみを奪ってしまっているようで気が引けた。親戚相手の子供のゲームに付き合っていたら勢いあまって勝ってしまったような居心地の悪さだった。いやそんな経験した事無いが。
「そ、そうでしたか、安心しました。ご存知でしたらちょっと恥ずかしい事になっていました」
(既になぁ……何だろう、ロリ系妹キャラなのに胸が…ばるんばるんしてる。ばるんばるんしてますよペロロンチーノさん)
人知れずタブラさんが好んでいたギャップ萌えに片足を突っ込んでいるアインズだった。
「では…気を取り直して、こちらは先ほど仰った通り水出しのアイスティーになります、使用している茶葉はディンブラ。先日と同じくスリランカの茶葉です」
「ほぅ?ディンブラというと聞いたことがあるな。」
「はい、また飲んで頂く機会があると思いますがスリランカの茶葉の種類はヌワラエリヤ、ディンブラ、キャンディ、ルフナ、ウバ この5種類が有名ですがその中でもディンブラはとりわけ特定の人種に人気があるそうです」
「特定の人種とは?」
「日本人という人種らしいです」
「えっ」
「え?アインズ様ご存知ですか、日本人という人種について」
「あ、あぁいや聞いた事がある程度だがな」
(日本人が好む……という設定も残っていたのか、まぁ確かに驚いたが最も好みにあうかもしれないし、楽しみだな)前回のヌワラエリヤもかなり美味かったが、それ以上のと情報があれば期待が高まるものである。
「とはいえ水出しという淹れ方のため先日のヌワラエリヤと一概に比べることは出来ませんが好まれた理由の一端を感じ取って頂けられると思います」
「よし!たまらんな、今日はそれにしよう。茶菓子もアストリアに任せよう」
「ありがとうございます、ではもう少々お待ちくださいませ」
そう言って、アストリアは準備に取り掛かった。まずガラスのポットからティーバッグを取り出した、冷やしておいたグラスに大き目の氷を2つ入れディンブラのアイスティーを注ぐ。そしてショーケースからケーキを取り出し、皿に移し変えこちらに運んできた。
「お待たせ致しました、ディンブラの水出しアイスティーとスフレチーズケーキでございます」
夕焼けのような輝きを放つ紅茶と上品にたたずむケーキに思わず感嘆する。
「美しいな……これは実に美しい」
「ありがとうございます、紅茶とケーキ 王道中の王道の組み合わせになります。その中でもさっぱりとしたスフレチーズケーキを選ばせて頂きました。ディンブラはアイス、ホットで飲んでも軽めですっきり飲みやすく、最も紅茶らしい紅茶と私は感じます」
「ほぅ、紅茶らしい紅茶か。実に期待させてくれる、ではまずは一口頂こう」
アインズはグラスを手に取り、一口飲む。口の中に後味の良い苦味と爽快感が広がる、アインズは驚いた、苦味とはこんな上品に、いやみの無いものなのかと。今まで知っていた苦味とは雑味ではなかったのかと思わず考えるような旨み、いや苦味であった。
「これは……後味の良さが素晴らしい、紅茶らしい渋みと苦味が口の中で一瞬広がり喉を通った瞬間に面影が消え、後には爽快感しか残らない。いやこのような美味いアイスティーは初めてだ」
「さすがでございます!仰るとおりそれが風味としての苦味です。紅茶の渋み、苦味は決して口の中で主張しすぎません。素晴らしい紅茶とは、喉に引っかからずすっと飲み込める紅茶と確信しております」
「ディンブラは先日召し上がって頂いたヌワラエリヤよりも少し標高が低く、和菓子のような繊細さのあるお菓子よりもクッキーやケーキのようなバターを使った菓子との相性はまさに紅茶とケーキのマリアージュ」
アストリアが機嫌良く説明してくれる。紅茶を飲む習慣が最近ついてきたせいかアインズも興味深そうに話を聞いている。仕事中にたまにコーヒーを飲むくらいだったが今では紅茶がかかせない。頻繁に飲むと興味も出てくるのは当然なのだろう、趣味であれ嗜好品であれ。
「おっと、思わず一息に飲んでしまったな。もう一杯良いか?」
「はい、もちろんです」
ティーサーバーから紅茶を補充している間、アインズはスフレチーズケーキへ手を伸ばす。フォークでケーキを切った時小さく「シュッ」と音が聞こえる、スフレのきめ細やかな泡が食欲をそそる。まずは一口、アインズの口へケーキが運ばれる。
「あぁ……これは実にさっぱりとしている、しかし優しいチーズの口どけが心地よい余韻を残してくれる、和菓子とは全く違う趣だ。よしではもう一口紅茶だ」
そうアインズはいつのまにかセットされたアイスティーへ手を伸ばす。アストリアが自然に用意してくれたのか、アインズがケーキに舌鼓を打っていたのか。答えは両方だろう。
「僅かに残った後味がアイスティーで洗い流され爽快感だけが残る、蒸し暑い時期には嬉しい組み合わせだ。」
「王道の組み合わせは誰もが好む理由がございます、やはり夏には爽快ある味わいが人気ですね」
「しかし……水出しアイスティーか……なにが違うんだ?普通のアイスティーと」
「はい、最も異なる点は甘みを上手く抽出できる点です」
「甘み?他の方法だと出てこないのか?」
「いいえ、可能です。まずアイスティーを作る方法は大きく分けて2つあります。茶葉を水につけ数時間程度かけて作る水出し、もう一つはホットで淹れた紅茶を氷で冷やす急冷です。急冷は10分程度で作成できます。急冷のメリットはホットで紅茶を淹れる事で香りや紅茶らしい苦味や旨みがしっかりと抽出されます。しかし安定して上手に抽出させる事は慣れが必要でクリームダウン(濁り)も懸念材料です。
対して水出しは、水を使う事で、ゆっくりと茶葉から成分が溶け出しえぐみや雑味を最小限にしたまま甘みを抽出できます。また茶葉の量、水の量、時間を守ればおおよそ安定した味を誰でも作ることができ、普段紅茶を飲まれない方やスキルレベルが低い方でも作れるため簡単でおすすめしたい方法です」
「なるほど、手軽さは大事だな。紅茶といえばアフタヌーンティとイメージがあるように少し固いイメージもある、しかし茶会のようにオーセンティックなものあれば友人とジュース感覚で飲めるような手軽なものもあってよいだろうな」
「はい、恐れながら使い分けて頂くのが一番よろしいかと。無理な飲み方を続けられても楽しくないので、その方が一番満喫できる方法は違うからこそ嗜好品でございます」
「ふむ、水出しか。この手軽さならば食堂などにおいてもよいかもしれんな」
「大変よい考えに思います。紅茶を愛する者として、紅茶に触れる機会が増えて頂けるのはこれ以上無い喜びです。水出しであればベースの茶葉にフレーバーのティーバッグを2つほど一緒に入れて頂ければ様々な味も楽しめます。ストロベリーやマンゴーは女性が好む甘い香り、ライチやレモン、アールグレイなどはさっぱりと爽快感のある仕上がりになります」
「よし、そうと決まれば早速料理長、副料理長に話をつけてくるか。アストリア、共をせよ」
「はい、かしこまりました♪アインズ様」
そう言って立ち上がるアインズ、いつのまにかアイスティーとケーキは綺麗に無くなっていた。アストリアは食器を下げ、出口に向かって歩き出す。扉の前で止まり……
「ご来店ありがとうございました、アインズ様。またのご来店心よりお待ち申し上げます。では僭越ながら、料理長様、副料理長様の下へご案内させて頂きます。」
忠誠心溢れつつも、美しい角度でお辞儀をしながらアインズを待つアストリアに先ほど慌てていたような空気は微塵も感じられない。アインズは新しい紅茶へ上機嫌になりながら次の来店にはどのようなものを出してくれるのか、今から心待ちにしている様子だった。
紅茶補足
水出しアイスティーレシピ
水 700ml
ティーバッグ 15g分(ティーバッグは1個2gで換算、7個位必要)
だいたい6時間位で軽めの仕上がり、10時間位入れるとかなり香りや味わいが重くなるのでミルクを入れても良くなってきます。
最近は水出し専用のパックを取り扱っているところも多くそちらを使用するのが経済的です。夏限定販売が多いですが
アレンジとして、それにフレーバー(アールグレイとかアップル、ストロベリーなど)のティーバッグも2~3個入れればあっという間に雰囲気が変わり色々な楽しみ方ができます。
まだまだ寒いため飲む機会は少ないでしょうが、覚えていて損の無い飲み方です。
閲覧頂きありがとうございました
ご意見などあればよろしくお願いします