アジア競技大会に向けて、11人の日本代表選手のうち3人が本戦出場を決めた(写真は5月に都内で開かれた国内予選) アジアの五輪といわれるアジア競技大会に、ゲーム対戦競技「eスポーツ」の日本代表選手が初めて出場することになった。国内予選を勝ち抜いた11人の選手のうち3人が東アジア地域予選を突破。これを受けて日本オリンピック委員会(JOC)はエントリー手続きをするが、「JOCが派遣する正式な日本代表ではない」という位置づけだ。日本代表であって日本代表でない――とはどういうことなのか。
■「代わりに判を押してあげただけ」
日本では「テレビゲームがスポーツなのか」という意見が根強い(5月に開かれたeスポーツの国内予選) 焦点となっているのは8~9月にインドネシアのジャカルタで開かれるアジア競技大会だ。同大会はアジア・オリンピック評議会(OCA)が4年ごとに開催する国際総合競技大会で、JOCが日本代表選手を派遣する。ジャカルタでは初めてeスポーツが公開競技に採用されることになり、日本を含む27の国・地域の選手が6つのエリアに分かれて予選を戦った。
本戦の出場権を得た日本人選手はサッカーゲーム「ウイニングイレブン」で2人、カードゲーム「ハースストーン」で1人。韓国、中国、台湾などの強豪がひしめく東アジア地域予選を勝ち抜いただけあって、競技団体の日本eスポーツ連合(JeSU、東京・中央)は「上位入賞できるかもしれない」と期待する。
だが代表選手を派遣するはずのJOCは、我関せずというスタンスだ。「(エントリーの書類に)JOCの判がなければ出場できないので、代わりに押してあげるだけ。eスポーツの選手を派遣するのはJeSUであって、JOCではない」。日本代表としての統一ユニホームや現地での滞在費支給は無し。JOCの公式記録にも残らない。
大会が始まっても、JOCが派遣する正式な日本代表でないeスポーツの選手たちは開会式や閉会式に出席できない。現地ではホテルなどの宿泊場所が不足する可能性が高いが、「選手村に入れるかどうかはインドネシアの組織委が判断すること」とJOCは突き放す。
■JOCへの加盟、道筋見えず
背景には、eスポーツに対する態度を決めかねているJOCの事情がある。もともとJOCの内部には「テレビゲームがスポーツなのか」という慎重な意見が根強い。「eスポーツが公開競技になると現地から連絡を受けたのはつい先日で、きちんと議論している時間がなかった」とJOCは説明するが、内々には以前から分かっていたことで、結論を先送りしてきたのは間違いない。
JOCには国内の様々な競技団体が加盟している。正加盟には水泳、体操、柔道、野球、サッカーからボディービル、ダンス、ボウリングまで55団体(4月25日時点、以下同)、準加盟にはカバディ、チアリーディング、ブリッジなど6団体、承認にはオリエンテーリング、ペタンクなど5団体が名を連ねるが、そのいずれにもeスポーツの名前はない。
JOCの規程によれば、国内唯一の統括団体であるか、コンプライアンスの体制が整備されているかなどを審査したうえで、理事会を開いて加盟の可否を決議することになっている。eスポーツの競技団体であるJeSUはすでにJOC加盟の意向を表明しているが、JOCでは今のところ議論の俎上(そじょう)にも上っていないという。
■水面下の接触から「雪解け」も
もっとも今回のエントリーをきっかけに、JOCとeスポーツの接触が水面下で始まったともいえる。出場に際して義務付けられているドーピング検査などを通じて互いに理解を深めれば、JOCのeスポーツに対する見方が変わる可能性がある。
アジア競技大会に囲碁の日本代表が出場したこともある(2010年の中国・広州大会)=日本棋院提供 そもそもJeSUはeスポーツの3つの団体が2018年2月に合併してできた。一部の団体が、17年にトルクメニスタンのアジア室内競技大会にeスポーツ選手を派遣しようとして、JOCから「国内唯一の統括団体でない」という理由で門前払いされたことがきっかけだ。JeSUにとっては、JOCがエントリー手続きを引き受けてくれるだけでも大きな前進という。
JOCとしても、eスポーツについて、いつまでも見て見ぬふりを続けるわけにはいかない。22年に中国・杭州で開かれる次のアジア競技大会では、eスポーツが公開競技からメダルを伴う公式競技に格上げになる見通しで、それまでにはeスポーツを認めるかどうかの結論を出さなければならない。24年のパリ五輪ではeスポーツが採用されるとの観測もある。
JOCの内部で根強い「テレビゲームがスポーツなのか」という意見は、説得力を欠く。JOCは10年、中国・広州のアジア競技大会で囲碁が正式競技になった際、日本代表を派遣したことがある。このときは日本棋院、関西棋院、日本ペア碁協会という囲碁の3団体が急きょ、統一団体の全日本囲碁連合を設立(11年に解散)。JOCはこれを承認団体として認めた。囲碁はよくてeスポーツは駄目という理屈は通りにくい。
JOCを動かすうえで最後の頼みは、eスポーツを応援したいという人々の声だ。そうした機運を生み出すには、ジャカルタのアジア競技大会で、正規の日本代表がかすむほどの活躍を見せるしかないのかもしれない。eスポーツの日本代表選手が背負う期待は重い。
(オリパラ編集長 高橋圭介)
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