1年ぶりの新サービスと聞いてこの男と久々に会ったが、相変わらず狂ってた。
「TRAVEL Now(トラベルナウ)」はツアー予約のアプリだ。トップには旅行商品が並んでいるので行きたい先を選んで出発地と日付、人数を確定する。数千円の体験バスツアーや海外旅行など、10万円までのツアーが選択肢として選べる。
後は、確定画面に出てくる「トラベルする」をタップするだけでその旅行は確定し、チケットが発券される。ホテルも予約される。旅に出れるようになる。
もう一度言う。旅に出れるようになる。お金払ってないのに。
いや、単なるあと払いじゃん、と思った方は半分正しい。でももう一同フローを確認して欲しい。相変わらずローン等の審査をしていないのだ。当たり前だけど旅のやり逃げもできる。
CASH同様、SMSによる電話番号認証だけで彼は人を信用し、旅をバラ撒く。ーーワケがわかるようにもう少し詳しく説明しよう。
CASHなどの小額資金事業を手がけるバンクは6月28日、あと払いの旅行代理店 「TRAVEL Now(トラベルナウ)」の提供を開始した。
TRAVEL Nowは上限10万円までの旅行商品を数タップで提供してくれるアプリ。航空券や高速バスなどとセットになったツアー企画が約4000種類用意されており、ユーザーは電話番号で認証するだけで、先に旅行サービスの提供を受けることができる。支払いは2カ月後で、これにかかるローン審査などの手続きは不要。旅行商品はエボラブルアジアなどの旅行代理店を通じて提供される。
バンク代表取締役の光本勇介氏の説明によると、ユーザーが選択できるのは行きたい地域とホテル、日程、参加人数(2名まで)で商品によっては時間帯などの変更も可能になっている。初期登録時には電話番号のみしか情報がないため、旅行によって個人情報が必要な場合はアプリ内に追加の情報を登録することになる。
キャンセルについては旅行商品によってポリシーが異なるため、それぞれについて確認が必要。また、旅行中に何らかのトラブルが発生した場合もそれぞれの商品に記載されている旅行企画会社が責任を負うことになる。なおバンクではこの事業に合わせ、旅行業に必要な事業免許も取得しているという話だった。
タイミングという利益を生み出す銀行「バンク」
さて、聞きたいことは山ほどあるが、確かにCASH以前よりは混乱は少ない。インパクトが薄いというよりも、CASHが即時買取という文化を広げた結果、世界観が変わってしまったことの方が大きいだろう。
実は基本的な構造、ビジネスモデルはCASHと一緒だ。
商品を買い取るCASHと旅行を先に提供するTRAVEL Now、方向は逆に見えるが、両方とも「仕入れて売る」ことに変わりはない。アイデアなのはタイミングを実にうまくコントロールしているところと、データに基づいた「性善説」による回収を可能にしたところにあるだろう。
実は今回もCASH同様、旅行代金を踏み倒すという行為はできる。もちろんこれは契約を無視した行為なので詐欺などの犯罪になる可能性が高い。しかし、もうすでにこの辺りのデフォルト(債権不履行)についてはCASHでデータが蓄積されている。
「CASHを運営して1年、デフォルト率って実は10分の1になったんです。これは1年間の努力で、そもそも人を疑うという行為はやりたくないし、性善説に基づいたサービスを作りまくりたいんです。その人を信じることができる、悪い人はどういう人か、いい人は誰か、というのがデータによって統計的に分かるようになった」(光本氏)。
今回も電話番号による認証があり、例えばCASHで悪いことをしてしまった人はTRAVEL Nowを使えない、というような紐付けは可能になってくる。つまりバンク光本氏は、どの電話番号にお金や商品を提供したら返してくれるか、という情報を握っていることになる。年収や資産ではなく、性善説と行動に基づいた与信だ。
こうなれば後はアイデア勝負だ。旅の次はフィットネスかもしれないし、レストランかもしれない。全てバンクが先払いしてくれる。
モノで支払うというアイデア
ただひとつ、批判も覚悟しなければならないことがある。それがローン地獄に代表される無自覚な債務超過だ。持っていない人が必要以上にあと払いサービスを受けるとその後が怖い。
しかしここにもひとつバンクならではのアイデアが隠れているように思う。それがCASHだ。仮に旅行代金を不要なバックで支払えたらどうだろう。ここに現金はほとんど介在しないし、そもそもある程度の与信が取れる人なのであれば10万円以下のタンス資産は眠ってる可能性が高い。
光本氏はこのアイデアについて何もコメントをくれなかったが、これが可能なのであれば、バンクを通じて物々交換に近い方法が可能になってくる。じわじわくるが強烈に新しい世界観だ。
「そもそも旅行って人生における冒険だと思うんですよね。人は冒険を通して成長したり新しい発見したり気づきを得る。でもその冒険にもお金が必要で、我慢してる人がいるんじゃないかなと。潜在してるけど我慢してるから出てこない。ここには新しいマーケットがあるし、その小額のニーズに応えるのがバンクの仕事なんです」(光本氏)。
CASHの衝撃的なデビューから1年。ようやくバンクというビジネスの輪郭が見えてきた。
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