RIZAPグループが注目を浴びています。
直近では、札幌証券取引所のアンビシャス市場(新興企業向け株式市場)の取引95%程度がRIZAP一社で占められているという記事が報道されていました。
確かにRlZAPグループは規模も大きくなり、凄まじい勢いで成長しています。
しかし、筆者からすると、この成長は非常にグレーです。
今回は、会計上の利益とキャッシュフロー(現金の流れ)について考察するものとしましょう。
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RlZAPグループの決算等
まずは、RlZAPグループの決算・キャッシュフローの推移を確認しましょう。
<2013年3月期(日本基準)>
当期純利益 402百万円
営業CF 478百万円
投資CF ▲919百万円
フリーCF ▲441百万円
<2014年3月期(日本基準) >
当期純利益 2,698百万円
営業CF 789百万円
投資CF 363百万円
フリーCF 1,152百万円
<2015年3月期(日本基準)>
当期純利益 1,636百万円
営業CF 2,024百万円
投資CF 680百万円
フリーCF 2,704百万円
<2016年3月期(IFRS) >
当期純利益 588百万円
営業CF 868百万円
投資CF ▲3,973百万円
フリーCF ▲3,105百万円
<2017年3月期(IFRS)>
当期純利益 7,678百万円
営業CF 176百万円
投資CF 2,915百万円
フリーCF 3,091百万円
<2018年3月期(IFRS) >
当期純利益 9,250百万円
営業CF 87百万円
投資CF ▲3,495百万円
フリーCF ▲3,408百万円
※当期利益は「親会社の所有者に帰属する当期利益」を使用。2018年3月期は決算短信ベース、以前の期は有価証券報告書ベース
以上の決算数値のポイントは以下となります。
- 当期純利益の合計=23,252百万円
- 営業CFの合計=4,422百万円
- 投資CFの合計=▲4,429百万円
- フリーCFの合計=▲7百万円
すなわち、当期純利益という会計上の利益は233億円残っているものの(但し、配当金支払前)、営業CFは合計で44億円しか稼いでおらず、RIZAPグループは営業で稼いだほぼ全額を投資に回しているということになります。
なお、当期純利益と営業CFを単純に比較することは乱暴だとお考えになる方はいらっしゃるでしょう。詳細は後述しますが、営業CFは、(間接法の場合)当期純利益に減価償却費等を加えて算出します。
よって、営業CFの方が当期純利益よりも数値が高くなる傾向にあります。
今回は会計上の利益とキャッシュの流れの差を理解出来れば良いと考えるため、この観点を認識していれば問題ないものと思いますし、そもそも、RlZAPグルーブの場合は、当期純利益よりも営業CFの方が数値が小さいのが現状です。
その上で、当期純利益と営業CFに差が出ることは、成長企業であればある程度理解できます。
例を挙げれば、商品の売上が急激に伸びている企業であれば、売掛金(いわゆる未収金であり、契約済で未入金の売上)が増加したり、タイムリーに商品供給を行うために多くの商品在庫を持つことになります。そうすると、キャッシュの入ってこない売掛金や、まだキャッシュ化が出来ない商品在庫が増加するため、会計上の利益よりも本業で稼ぐキャッシュが少なくなるということがあり得るのです。
では、RlZAPグループのキャッシュの動きはどのようになっているのでしょうか。
以下数値を確認しましょう。
- 2013年3月末時点の現金および現金同等物=2,013百万円
- 2018年3月末時点の現金および現金同等物=43,630百万円(2013年3月末比+41,617百万円)
- 2013年3月期から2018年3月期までの財務CF合計=+41,527百万円
このようにRlZAPグループは業容拡大を背景に、借入および増資等で資金を獲得しキャッシュを増やしてきたことが分かります。
そして上述のように、会計上の利益と営業CFとして稼いだキャッシュには大きな差が存在しているのです。
ここまでであれば、成長企業としてある程度は理解できるキャッシュの流れと言えるかもしれません。
ソフトバンクGの事例と営業CF
ここで、規模は異なりますが、M&Aを繰り返しているソフトバンクGの決算およびキャッシュの流れについても参考までに確認しておきましょう。
<ソフトバンクG>
以下は直近5年間のソフトバンクGの利益と営業CFの合計値です。
- 2014年3月期から2018年3月期の「親会社の所有者に帰属する純利益」=41,283億円
- 2014年3月期から2018年3月期の営業CFの合計=55,450億円
ここで認識しておきたいのは、ある程度中長期となると、会計上の利益とキャッシュの流れは一致してくることが多いということです。
営業CF (間接法)による表示方法は、税金等調整前当期純利益に減価償却に非資金損益項目、有価証券売却益などの投資活動や財務活動の区分に分類される損益項目を加減して表示する方法です。税金支払額も最終的には控除されますので、結局は当期純利益から、費用計上されているもののキャッシュの動きがない減価償却費や、売掛金・在庫・買掛金等の変動を加減算します。
イメージとしては以下のようになります。
<営業CF>
税引前当期純利益 +
滅価償却費+
売上債権の増加▲
棚卸資産の増加▲
仕入債務の増加+
法人税等の支払額▲
合計=営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)
通常であれば、売上債権は遅くとも1年以内には入金されますし、棚卸資産もいつかは販売されます。もちろん、仕入債務も1年以内には(通常)支払わなければなりません。
よって、当期純利益と営業CFは長い目でみれば(減価償却費の差を除けば)、大きな乖離は生じません。
ソフトバンクGの事例もそれを示していると言えます。
RI ZAPグループの問題点
一方で、RlZAPグループは異なります。
会計上の当期純利益と営業CFに大きな乖離が生じています。
この主な要因がRIZAPグループを会計上「良く」見せている割安購入権(負ののれん)です。
RIZAPグループの決算では、2017年3月期の営業利益102億円のうち割安購入権は59億円、2018年3月期の営業利益136億円のうち割安購入権74億円となっています。
(割安購入権等RIZAPの決算分析の記事はこちらをご参照ください)
割安購入権とは読んで字のごとく、企業を割安で購入(M&A) した際の会計上の利益です。
あくまで会計上の利益であり、キャッシュの獲得は発生しません。
したがって、RlZAPグループは会計上の利益は立派に成長しているのですが、キャッシュ面で見た場合には、割安購入権という表面上の利益が剥落し、キャッシュを生んでいないのです。
上記割安購入権の合計は133億円です。
前述の通りRIZAPグループの6期分の当期純利益合計は232億円、営業CFは44億円です。232億円から133億円を控除すれば101億円です。
営業CFと近い数値になることが分かるでしょう(各事業の売上増に伴い、売掛金、在庫等の増加があり、上述の通り利益とキャッシュの差が発生すること自体は問題なし)。
すなわち、RIZAPグループは、会計上は利益が出ているように見えますが、キャッシュ面が追いついてこない、もしくは会計上のテクニックを駆使して、キャッシュを稼がない「利益を作っている」ということになります。
これは、本質的ではありません。
企業はキャッシュを稼いで初めて成り立つのです。
投資をするのも、従業員に給料を払うのも、株主に配当を出すのも、全てキャッシュがなければ出来ません。
誤解を恐れずにいえば、会計上の利益は究極的には重要ではありません。
キャッシュを稼がなければ、長期的にみれば企業は成り立ちません。
会計というのは、投資家等に企業の活動を分かりやすく示すために作られた単なるテクニックなのです。キャッシュの出入りだけでは企業活動が分かりづらいために作られたのが「会計」なのです。
従って、キャッシュこそが重要です。
RlZAPグループは、この点に問題があるのです。
筆者はRIZAPグループを攻撃したい訳ではなく、純粋に会計上の利益だけを見ているとRIZAPグループの本質、信用力が見えないと指摘したいだけです。
これが、RlZAPグループを見るためのポイントです。