「録画動画によるデジタル面接」「選考にAIを導入し候補者を判別する」。これらの言葉には人事採用に長く関わる人ほど、反射的に眉をひそめる人がいるかもしれない。しかし、そんなイメージを一変させそうなのが、世界ナンバーワンの実績を持つクラウド型デジタル面接プラットフォーム、米国ユタ州で生まれた「HireVue(ハイアービュー)」。

米国IBM、Apple、Amazon.comなどのグローバル企業700社以上で導入されている。日本国内でも急速に普及し、19年卒の新卒採用市場における利用者数は9万人を超える見込み。民間企業に就職を希望する約43万人の約2割、実に5人に1人が利用している計算だ。

米国で先行するAIによる選考機能を搭載した「HireVue Assessments(ハイアービュー・アセスメンツ、以下AIマッチング)」も、18年6月にいよいよ日本展開がスタート。HRテック(人事領域×テクノロジー)の本領発揮ともいえる、その詳細と可能性を聞いた。

取材・文/玉寄麻衣

「離れているから使う」から「便利だから使う」へ

「中村さん、面接はひざとひざを突き合わせて話さないと」

タレンタ株式会社で専務取締役兼CFOを務める中村究氏が、録画面接の機能を持つ「HireVue」の説明をすると、40代以上の人事担当者からは、よくそんな批判的なコメントが返ってくる。

「最終面接を担当するような役員クラスの人は、これまで通りの対面面接を重視してもらってまったく構いません。私たちがお手伝いしたいのは、最終面接に行きつくまでに、企業・応募者、双方にかかる膨大な労力とコストがかかる過程です」
(以下、特別なことわりがない場合「 」内の発言は中村氏のもの)

「HireVue」は、いくつかの事前に用意した設問に答えてもらう録画面接のほか、オンラインによるライブ面接、オプションでプログラミングテストや、面接スケジュール調整機能を追加することもできる。現在は31カ国語に対応し、ユーザーごとに対応言語の切り替えが可能だ。

「HireVue」の管理画面(イメージ)

録画面接とオンラインによるライブ面接とでは、ユーザー企業・応募者ともに圧倒的に支持されているのは意外にも録画面接だ。過去の利用者による顧客ロイヤリティを数値化したネットプロモータスコア(NPS)でも、システム全体に対する評価はプラス60~65と非常に高い数値で推移している。
※参考:NPSは、世界的にファンが多いAmazon.comで61、自動車業界で第一位のベンツで51.6。

「御社では録画面接のシステムは導入されていないのですか?」と質問された人事担当者が、慌ててタレンタに問い合わせをするケースも増えているという。

録画面接が、なぜそこまでユーザーに支持されるのか。その理由は、「HireVue」のルーツをたどると分かりやすいかもしれない。発祥の地は米国ユタ州。ユタ大学卒業の学生が作ったシステムだ。ユタ大学があるソルトレイクシティからシリコンバレーまでは、飛行機で約2時間かかる。気軽に往復できる距離ではない。

広大な土地を持つアメリカでは、インターネット登場前から電話インタビューも一般的だった。インターネットの登場とともに、スカイプなどを利用したオンライン面接も瞬く間に広がった。しかし、ネット接続が不安定で回線も細い時代には、画像や音声がぷつぷつ途切れやすく、双方にストレスとなっていた。

「電話よりも顔が見えたほうが、お互いに印象は深まります。リアルタイムで会話が難しいのなら、質問に対して一度録画した動画を送るシステムを開発すればいい。『HireVue』の創業者がそう考えたのも、ごく自然な流れでした」

録画面接が主流になると、双方が自分の都合に合わせて、録画・視聴できる便利さに気づく。日時調整などのストレスもない。「場所が離れているから仕方がなく」という理由ではなく、効率と使い勝手の良さで、録画面接が瞬く間に広がったのだ。

開始5分で「違う」と思う面接の不幸

改めて日本企業でイメージしてみる。1次面接の時間を30分としたとき。開始5分で「この企業・候補者は違う」と思う面接を経験した人もきっといるはず。そこで面接を切り上げられる人は、はたしてどれだけいるだろうか。

企業側からすると、開始5分で「合わない」と判断する候補者ならば、録画面接の導入があれば、対面面接に呼ぶ可能性は限りなく低い。「日時調整する手間」「『合わない』と判断した後の残り時間」「ほかの候補者に会えなかった機会損失」など、さまざまなコスト・機会損失を防ぐことができる。

応募者にとっては、録画面接だけで落とされては、納得がいかない面も残るかもしれない。しかし、それは対面面接で落とされたときの不満足感も似たようなもの。それであれば、入社の可能性が限りなく低い企業に面接に行く時間や交通費を丸ごと節約ができるのは、やはり大きなメリットだ。

「私自身、前職で面接担当だったとき、東北や九州から新幹線や深夜バスで面接に来てくれた学生たちに対して、非常に申し訳なく思う機会が多かったのです。はじめて『HireVue』を知ったときには、もっと早く出会いたかったと心から思いました。そして、これは日本でも絶対に必要とされる、とも」

世界的にも独特な日本の新卒採用システム。経団連が発表する「採用選考に関する指針」に従う企業では、3月1日広報解禁、6月1日選考開始、内定出しは10月1日以降。短期集中の選考になるため、学生も企業も会社説明会や面接の日時調整には非常に苦心する。

学生からのエントリーが数万人を超える人気企業でも、1次面接で直接会う人数は2000~3000人の企業が多いという。物理的・時間的制約がある中で、「マッチングの可能性が低い相手」と録画面接で判明できることは、双方に計り知れないメリットがあるのかもしれない。