【編集長インタビュー】今後のトランプ政権、日本が留意すべき点とは

一晩で立場を変えることがあるのを忘れてはならない

ホワイトハウスで握手を交わす安倍首相(左)とトランプ米大統領(2月10日)
ホワイトハウスで握手を交わす安倍首相(左)とトランプ米大統領(2月10日) Photo: Agence France-Presse/Getty Image

 今回の編集長インタビューでは、長年ウォール・ストリート・ジャーナルのワシントン支局長として歴代の大統領を取材してきたジェラルド・F・サイブにトランプ政権の今後と日本としての付き合い方などについて聞きました。

 サイブ氏は現在もWSJチーフコメンテーターとして人気コラム「Capital Journal」をはじめ、米政治について執筆を続けています。来週には東京で開催される「CEO Council」アジア会議にてブレグジットやトランプ大統領誕生など、 グローバル化に対抗する世界的な潮流について有識者と議論します。

―日本国内では1月の日米首脳会談を通じて安倍晋三首相がドナルド・トランプ大統領と緊密な関係を築いたこともあり、当初懸念されていた貿易や為替政策、または防衛費などに関する厳しい対日要求を米側が控えているとの見方がある。日本としては今後もこの状態が続くと考えてよいのか? トランプ政権が方針を転換する場合、そのきっかけとなるものは何か? 米経済またはアジアの地域情勢だろうか?

マール・ア・ ラーゴで会見するトランプ米大統領(右)と安倍首相(2月11日)
マール・ア・ ラーゴで会見するトランプ米大統領(右)と安倍首相(2月11日) Photo: Agence France-Presse/Getty Image

 ワシントンでは安倍首相が非常に巧みにトランプ大統領と早い段階で良い関係を築き、その結果、日本が恩恵を受けているとの見方がある。実際、米国の安全保障政策に長年関わってきた高官に最近会った際にも、彼は他国の指導者たちも安倍首相を見本にすべきだと語っていた。マール・ア・ ラーゴで安倍首相が見守る中「米国は100パーセント日本を支える」と発言したのは、大統領選中に唱えていた同盟の重要性を疑問視する考えを棚上げするとの最初のシグナルだった。

 しかし、日本の指導者たちは留意すべき点がいくつかある。まず、これはドナルド・トランプだということだ。彼は非常に予測不可能で、一晩で立場を変えることもある。よって、長期的に保証されることは少ない。もう一つはトランプ政権の安全保障政策の大部分は、その行く末がまだわからない二つの事象によって決まるという点だ。すなわち、対中関係がどうなっていくのか。それと北朝鮮に対して取る姿勢は対決なのか対話なのか。

―対シリア空爆や北朝鮮問題を受けての空母派遣など、当初の予想に反してトランプ政権はこれまで国際問題に関与してきた。これは大統領が中道寄りになった証しなのか? またこれは外交に限られ、貿易問題では異なる姿勢を取るのだろうか?

米海軍駆逐艦ロスからシリア空軍基地に向けて発射された巡航ミサイル「トマホーク」(米海軍提供)
米海軍駆逐艦ロスからシリア空軍基地に向けて発射された巡航ミサイル「トマホーク」(米海軍提供) Photo: robert s. price/Agence France-Presse/Getty Images

 外交に関しては、トランプ大統領は米国の主流派の政策に近寄ってきている。シリアでの巡航ミサイルによる攻撃はまさにその象徴だ。シリア内戦には関わらないとの選挙期間中の発言にもかかわらず空爆に踏み切り、その政策は与野党から幅広く評価された。しかもそれは衝動的に行われたのではなく、計算された判断だった。

 トランプ大統領は選挙期間中に約束したいくつかの強硬な政策も実施していない。例えばイランの核問題をめぐる合意を反故にするとか、NAFTAからの離脱といった公約だ。世界の現実が彼の姿勢を和らげた格好だ。また中国に対してちらつかせていた過激な政策も取っていない。これら姿勢の変化は大統領の外交チームによるところが大きい。彼らの多くは主流派だ。

 しかし、ここにも留意すべき点がある。我々が数週間前にインタビューした際、大統領は貿易問題では今までの慣例にとらわれないと明言した。よって外交で主流派に近づいたから貿易政策でも同様になるとは現時点では言えない。まだ政権の貿易政策の全体像が見えてこない。

―トランプ政権の今後を占う上で注目すべき点は何か?

 鍵となるのは、ロシアが昨年の大統領選でトランプ氏有利となるよう関与していたとの疑惑をめぐる調査だ。ジェームズ・コミーFBI長官の解任劇で明らかになったように、この問題はトランプ政権が目指すその他の政策遂行を阻害する可能性があり、危機に陥っているとの印象を与えかねない。

 今のところ、この問題によって大統領と議会共和党との間に深刻な溝は出来ていない。しかし今後数週間または数ヶ月の間にそのようなことになれば、場合によってはトランプ政権の政策遂行に大きな支障となるだろう。トランプ大統領としてはロシア問題がなくなることを望んでいるが、それはなくならない。

―これまで取材してきた大統領と比べてトランプ大統領が決定的に違う点は何か?

 彼は過去の大統領とほぼ全ての面において違う。はるかに率直に物事を語り、ワシントンにおけるいずれの党のエスタブリッシュメントとの繋がりも非常に少ない。まるで無党派の大統領のようだ。また政敵に対し、今までの大統領と比べてはるかに目に見える形で、そしてより頻繁に攻撃する。彼にとって非常に危険なのは、あまりにも率直で何を言い出だすか分からないので、本当に重要なことを言っても誰にも信じてもらえないリスクがあることだ。

 ツイッターに関しても大統領は自分の考えを人々に伝えるのに役立っていると思っているようだが、節操がないコミュニケーションの方法で、多くの騒動や混乱を引き起こしてきた。

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ジェラルド・F・サイブ

【編集長インタビュー】今後のトランプ政権、日本が留意すべき点とは

1978年にウォール・ストリート・ジャーナル入社。80年にワシントン支局で国防総省と国務省を担当。カイロ支局を経て、87年からホワイトハウス担当を含め米政治報道に携わる。人気コラム「Capital Journal」は93年に始まり現在も続いている。2001年の米国同時多発テロ事件の報道でピュリツァー賞を受賞したWSJの取材チームの一員。カンザス大卒。​​

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西山誠慈

【編集長インタビュー】今後のトランプ政権、日本が留意すべき点とは

2011年よりWSJ東京支局にて経済政策報道の編集責任者を務め、アベノミクスのもとでの金融緩和政策などについて報道を行ってきた。2014年には、プロを目指す高校球児を1年にわたって取材した長編記事を執筆。2014年12月より現職。WSJ入社以前は18年間ロイター通信社にて勤務。早稲田大学政治経済学部卒業。ニューヨーク出身。

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