ドイツで、大連立政権を構成するキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)の間で、難民政策をめぐる対立がエスカレートし、首相と内務大臣が「衝突」する異例の事態に発展している。メルケル政権が空中分解して、同首相が事実上の「辞任」に追い込まれる危険が刻一刻と高まっている。
アンゲラ・メルケル独首相に反旗を翻したのは、H・ゼーホーファー内務大臣。2008年から10年間にわたってCSU党首としてとして保守王国バイエルン州の⾸相を務めた。2人の意見が全面的に衝突しているのは、難民受け入れ問題である。
登録済み難民の受け入れ拒否を要求するCSU
ゼーホーファー氏は「EU(欧州連合)が外縁部の警戒を固めることができず、イタリアやギリシャからEUに入った難民が、社会保障が充実したドイツに移住することは受け入れがたい。彼らは最初に入った国に留まるべきだ。したがってEUの他の国で難民として登録された外国人がドイツに入国しようとした場合には、国境で追い返す」と宣言した。
EUのダブリン協定によると、難民は最初に到着したEU加盟国で亡命を申請しなくてはならない。だが実際には、イタリアやギリシャに到着した難民がドイツに移住するケースが非常に多い。ゼーホーファー氏は「ドイツだけが難民受け入れの重荷を担うのは不当だ」と考えているのだ。
一方メルケル氏は「ドイツが独り歩きをするのは受け入れがたい。難民政策はEUやドイツの周辺国と協議して決めるべきだ」として、ゼーホーファー氏の主張に真っ向から反対している。ゼーホーファー氏の主張通り、他国で登録された難民をドイツが国境で追い返した場合、何が起こるだろうか。オーストリアとの国境地帯は、ドイツが入国を拒否した難民でごった返すことになる。またオーストリアもイタリアから入ってきた難民を国境で追い返し、イタリアに多数の難民が送り返されることになるだろう。つまりメルケル氏は、「他の国と十分なすり合わせをしなければ、大混乱が起こる」と考えているのだ。
メルケル氏とゼーホーファー氏は6月18日の会談でも解決策を見出すことができなかった。ゼーホーファー氏はメルケル氏に2週間の猶予を与えた。彼は、メルケル氏が7月上旬までにEUや周辺国と難民受け入れについての新しいルールを打ち立てることができなければ、独自の判断で他国に登録済みの難民を国境で追い返す方針を明らかにした。
これに対しメルケル氏は「もしも内務大臣がそのような政策を実行した場合、私の首相権限に抵触することになる」と発言。つまりメルケル氏は、ゼーホーファー氏が同首相の意向を無視して他国で登録済みの難民を国境で追い返した場合、ゼーホーファー氏を解任する。連邦議会のW・ショイブレ議長(CDU)も「内務大臣が首相の指示に反した場合、罷免されるのはやむを得ない」と述べ、メルケル⽒のために援護射撃を⾏った。
ゼーホーファー氏は、「メルケル首相が連立政権のパートナーに対して、罷免をちらつかせて脅迫するのは言語道断」と怒りをあらわにした。
CSUは、メルケル氏がゼーホーファー氏を解任した場合、大連立政権から離脱する可能性を示唆している。この場合、3月に誕生したばかりのメルケル政権はわずか4カ月で崩壊し、ドイツは再選挙を実施せざるを得なくなる。
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