業界と議連共同による新聞・書籍・雑誌への「軽減税率適用」活動
6月15日、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2018」、いわゆる「骨太の方針」で今年の経済財政方針を閣議決定し、来年10月に予定されている「消費税率10%への引き上げ」について、「実現する必要がある」と初めて明記した。
また、軽減税率制度の実施については、「2019年10月1日の消費税率10%への引き上げに当たっては、低所得者に配慮する観点から、酒類及び外食を除く飲食料品と定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞について軽減税率制度を実施することとしており、引き続き、制度の円滑な実施に向けた準備を進める」と従来からの方針を確認している。
この決定に先立つ11日に、活字文化議員連盟(会長細田博之衆議院議員)と子どもの未来を考える議員連盟(会長河村建夫衆議院議員)は、合同総会を開催し、新聞とともに書籍・雑誌への軽減税率の適用を実現することを活動方針とした。
日本新聞協会の白石興二郎会長(読売新聞グループ本社代表取締役会長)、日本書籍出版協会の相賀昌宏理事長(小学館代表取締役社長)も挨拶に立ち、新聞の適用範囲拡大と書籍・雑誌への軽減税率適用を訴えている。
新聞・出版業界は、「子どもの読書活動推進法」と「文字・活字文化振興法」を具体的活動につなげるために公益社団法人文字・活字文化推進機構を設立し、関連して組織化された、それぞれの議員連盟を通じてロビー活動を行っている。軽減税率適用に向けた活動も両議員連盟と連携をとって行っており、まさに最終コーナーにさしかかったといえよう。このようなロビー活動自体は否定しないが、軽減税率適用に関する一連の動きについては、看過できない点がある。
新聞(厳密には週2回以上発行される宅配紙)を、実質的に消費税の据え置きとなる軽減税率8%の対象品目と決定したのは、2016年度与党税制改正大綱である。その際、書籍・雑誌については、「その日常生活における意義、有害図書排除の仕組みの構築状況等を総合的に勘案しつつ、引き続き検討する」となった。
出版界は、明確に「有害図書」を排除しなければ、対象としないと突きつけられたのだ。政治家の純粋な熟慮の結果、「文化的意義」の名の下に新聞・出版物のすべてに対して軽減税率を導入するのであれば、すばらしい決定だったといえよう。しかし、政府は、この段階で言論機関である新聞と出版物を分断し、さらに出版界には、自主的に「有害図書」を切り分けろと迫ったのである。
政府の要望に対する出版業界の対応
これに対し、出版界はどのような対応をしてきたのか。出版業界紙『文化通信』(6月18日号)は、次のような記事を載せている。
従来、出版物の流通管理のためのコードとして、日本出版インフラセンターが、書籍について「書籍JAN」、雑誌については「定期刊行物コード」を管理付与している。この空白桁を利用して、新たな出版物識別コードを検討しているという。単なるコードによって、軽減税率の対象が判断されることで、「有害図書」の判断議論を脇に置くことができる。それでも「出版倫理」とすれば、「有害図書」の扱いという印象が残る。最終的には、「出版倫理コード」という仮称から、“倫理”を外し、何を目的としたか曖昧にした名前に落ち着くような気がしている。
そして、先の議員連盟合同総会では、「この方針を是とし、消費税の10%引き上げ時には、文化振興の観点から新聞・書籍・雑誌に対して確実に軽減税率を適用するように求めていく」ことを確認したのである。
政府の求めに応じ、軽減税率適用と引き替えに、出版界は「有害図書」を排除するというのである。
もちろん、適用は決まったわけではないし、一度排除を受け入れた以上、「有害図書」の判断を巡って、さらなる要求が来ないとも限らない。軽減税率による優遇策の資源は国家予算、つまり国民の税金である。国会の質疑で、あるいは市民団体の声明として、「こんな本が軽減税率の対象になってよいのか」という声が、すぐにでも上がるだろう。
出版規制がある国の一つにシンガポールがある。漫画や雑誌のグラビアページでは、バスト露出ですら禁止である。日本の雑誌・漫画も該当頁を書店が自主的に切り取って販売している(撮影筆者)。「有害記事を切り取るか塗りつぶせば、軽減税率を適用する」なんてブラックジョークにとどめておきたい。
「有害図書」を分ける外形的要素はなく、恣意的な判断によって拡大しかねないのだ。それが、出版界のさらなる萎縮につながると思うのは、杞憂だろうか。
次回、これまで新聞・出版界が行ってきた活動と、軽減税率適用に関する政府与党の意向について、振り返ってみたい。