一橋大院生 ゲイ暴露されて悩み死亡…遺族らは和解(2018/06/26 21:05)
原告側代理人の文書:「ご家族の悲しみや苦しみが尽きることはありませんが、裁判として一定の納得をし、和解しました」
「一橋大学アウティング裁判」。アウティングとは、LGBT=同性愛やトランスジェンダーなど性的少数者の公にしていない性的指向などを本人の了解を得ずに第三者が暴露することです。ことの発端は2015年4月、一橋大学法科大学院の男子学生Aさんが、同級生の男性Bさんに送ったLINE。
Aさん:「はっきり言うと、俺、好きだ、付き合いたいです。ひどい裏切りだと思う、ごめん。むちゃくちゃ言われてもいいから、返事もらえるとうれしいです。本当にごめん」
Bさんは返事をする前に、Aさんと共通の友人である女性のCさんに相談をしました。すると。
Cさん:「告白が事実なら、友人としては好きだというような返事をするしかない」
そして、Bさんは。
Bさん:「おうマジか。正直言うと、びっくりしたわ。Aのことは良い奴だと思うけど、そういう対象としては見れない。付き合うことはできないけど、これからもよき友だちでいてほしい。これが俺の返事だわ」
Aさん:「ずっと言おうと思っていて、勇気が出なくてずっと言えなかったんだ。キモいとか思うんだけど、悲しいけどすげーうれしかった」
Bさん:「いや、全然キモいとかそういうのはないよ。世の中には一定数、同性のこと好きになる人はいるわけだから」
Aさん:「うん、ありがとう」
しかし6月、Bさんは9人の仲間が参加するLINEグループにこう書き込みました。
Bさん:「もうお前がゲイであることを隠しておくの無理だ。ごめん」
この書き込みにAさんは心身ともに大きな衝撃を受け、自分が差別されるという不安から講義や試験が受けられなくなるほど体調を崩し、心療内科を受診しました。さらに、Aさんは「アウティングは人権問題だ」と大学のハラスメント相談室に合計4回相談。しかし大学側は、同性愛と性同一性障害を混同、これはAさんの個人的問題だとして扱うなど不十分な対応を取ったといいます。そして8月24日、Aさんは授業を抜け出しました。そしてクラス全体のLINEに、こう書き込みました。
Aさん:「Bが弁護士になるような法曹界なら、もう自分の理想はこの世界にはない。今までよくしてくれて、ありがとうございました」
そして、校舎のベランダから転落し、亡くなりました。2016年3月、Aさんの両親は損害賠償を求め、Bさんと大学を提訴。裁判の争点は、アウティングが不法行為か否か。Bさん側は「交際を断ったにもかかわらず、ことあるごとに食事や遊びに誘われ、精神的に追い詰められた。その苦しい状況を他の友人たちに理解してもらうためにはアウティングするしかなかった」と述べていました。一方、一橋大学側は「Aさんの死は突発的な自殺行為によってもたらされたものであって、配慮にかかわらず防止できなかったのは人知の及ぶところではない」としています。今回、Bさんとの和解は成立しましたが、一橋大学とは和解協議の前提となる信頼関係すら築くことができなかったとして、裁判は継続となります。そして、この「アウティング裁判」を受け、1つの変化が。一橋大学がある東京・国立市で、今年4月からアウティングを禁止する条例が施行されたのです。LGBTのアウティングの問題。街の声は。
大学生(20代):「(Q.同性に告白されたら?)変なことを聞いたということは思わないので、別に受け止められないとかそういう発想はないです」「(Q.アウティングに関してどう思う?)本人があまり他人に言わないでという感じなら、絶対にそういうことはすべきでないと思いますけどね」
学生(10代):「(Q.同性に告白されたら?)1、2人には話はすると思います。ただ言いふらしたりはしないです」「仲が良い友人にはしゃべってしまいます。まず同性に告白されるということが人生を生きてきたなかで一度もないから、テンパちゃって『どうしたら良い?』みたいな感じで仲の良い友達に言っちゃうということはあると思います」
会社員(40代):「(Q.同性に告白されたら?)それはそれで受け止めて、僕のなかでは(周りに)広めないですね」「(Q.アウティングに関してどう思う?)勝手に広めてしまったら不幸なことが起きますので、個人にきたLINEに対しては個人でとどめておく、グループできたものに関してはグループでとどめておく、そういうことが大事だと思います」
大学生(バイセクシャル):「僕、正確に言ったらバイセクシャルなんです。実際に僕も(男性の友人に)告白したことがあるんですけど(彼は)知らなかった、『伝えてくれてありがとうな』って言って学校でも席隣ですし、普通に何事もないようにしゃべってくれています」「(Q.もしアウティングされたら?)バラした方というより、自分にガッカリする感じがします。何で(その人を)好きになってしまったんだろうって。(LGBTに関して)理解も追い付いてないですし、僕もそうですし、周りに正直に伝えるってことがしづらい環境であるので、そこらへんはどうしようもないのかなと思ってしまうんですけどね」
こちらの男性は、同性愛者であることを隠しながら仕事をしているといいます。
アウティングに悩む30代男性:「学校のころもありましたし、職場に入ってからも色々なところでアウティングされて。ある管理職の人に1人だけカミングアウトしていて、自分が当事者(LGBT)ですと話したんですけどもその関連でOBで人権とか興味ある人がいたので、その人にも話をしたところ、4月のある日、管理職が血相を変えてやってきて『どうしたのですか?』と言ったら、うちの人事の部門のトップが知ってたと。人事だから当然、知っていると言われたと。『何でそれが分かったのですか?』と聞いたら、OBか人事のトップに『あいつは当事者だから守ってやれ』と言われたと。OBは善意だったと思うんだけど、そのことで人事情報に書き込まれてしまったみたいで、今は誰が知っているか分からない状況」
このLGBTの男性は一橋大学の事件についてこう語ります。
アウティングに悩む30代男性:「自分の足元が崩れるというか、背筋とか腕のあたりが寒くなるような事件だったと思います。自分のことがばれた時も本当に誰に見られているのか、どこから見られているのだろう、自分がすごく不安な気持ちになったので、そういう意味ではきっと一橋で転落死された方も不安のなかで戦って、何とか大学に行こうとしたけどなかなか耐えられなかったのだろうと思って。自分がその立場だったら、もしかしたら同じふうになったかなと今でも思います」