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正しいポジションを取れば、凡人でも一流になれる。(金子雄太郎[フルスタック・ジェネラリスト])〜Forkwellエンジニア成分研究所

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スペシャリストであれ。その考え方に間違いはないでしょう。一方で、それは「ジェネラリストではいけない」ことは必ずしも意味しないのではないでしょうか。

 

エンジニアの多様な生き様をお伝えする「Forkwellエンジニア成分研究所」の第3回では、「フルスタック・ジェネラリスト」として生計を立てている金子雄太郎さんに、働き方のこだわりについて伺いました。

「このままヘタレたら自分の人生終わる」

――金子さんは「フルスタック・ジェネラリスト」という肩書ですが、どんなことをなさっているんですか? 

 

金子 ITに関わらず、なんでもやる人です。

 

――プロフィールには「問題解決、ロジカルシンキング、クラウドの思考系スキル、プレゼン、コミュニケーションなどの対人系スキルに関して研修、執筆、取材、公演が可能です」とありますね。

 

金子 そうです。講師でロジカルシンキングのできるIT屋さんはいても、ヒューマンスキルやコミュニケーション系まで教えられる人はなかなかいないので。現在の仕事は研修、講師が8割ぐらいですね。元々はエンジニアで、学校を卒業して1年ほどフリーランスをやり、そこからサラリーマンになってSEを6年経験しました。

 

――技術的にはどういうことをやられてたんですか?

 

金子 お客さんの要件を聞き、設計書に落とすいわゆるSEですね。1社目では、課金システムのリプレースのプロジェクトに参画していました。仕事はコミュニケーション中心で、やってるうちに、「コミュニケーション能力を生かした方が性に合ってるな」と思ったんです。いま、うまくいっている理由はそこかなと思います。

 

――いつ頃から「エンジニアはしんどいな」と思ったんですか?

 

金子 2社目できついプロジェクトに飛ばされて、うつになったんです。単純に労働時間が長くてきつかったのと、職場環境が悪かったことと。オフィスが物理的に暗かったり、パワハラがきつかったり、PCのスペックが低くて液晶が10年落ちで画面がちらついたり、マウスも全然効かない、だけど持ち込みはNGみたいな環境でした。

 

証券会社だったので、サーバーが壊れたりインフラで障害発生すると他社の人が来るんですが、その人たちの入館書類の作成をやらなきゃいけなかったのもストレスでした。100歩譲ってそれは仕方ないとしても、1日100枚ぐらい書類出さないといけない、ハンコもたくさんもらわなきゃいけない、という。

 

――それは想像を絶しますね……。

 

金子 そんな感じで、2社目で一度挫折しました。その頃に、人生を振り返りまして。「このまま(うつのまま)ヘタレたら自分の人生終わる」と思って、うつを頑張って治しました。で、改めて仕事を決めなきゃいけなくなったときに、条件を2つ持って転職活動をしたんです。1つは、技術力が伸びる機会がある会社。もう1つは病歴を開示しても取ってくれる会社です。

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――病歴を公開することで、選択肢が狭まった感じはありましたか?

 

金子 いや、正直なかったですね。3社目もすんなり決まりました。ただ、入社した直後の当時はリーマンショックのあおりを受けて「現場がない」と慌てていて。「自分で探してきます」って言って夜の営業(笑)をかけていました。

 

――どこに営業をかけるんですか?

 

金子 飲み屋です(笑)。実際、いくつかの案件を取りましたよ。僕は、独立した今もそうですが、基本的に酒の場で仕事を取ってくるタイプです。接待らしい接待はしてないです。役員さんとか、自分で仕事をやってらっしゃる方々が集まる場を知っていたんです。

 

当時、1社目の担当営業さんが独立して飲食店をやっていたのであいさつしに行き、「仕事なくて困ってるんです」と話したら、たまたま座っていた方がIT会社の役員さんだったということがあり。

 

――すごい幸運ですね。

 

金子 ありがたいことに。そこで、インフラ系のお仕事をいただきました。ただ、残念なことに、その現場のプロマネさんがちょっと並外れてアレな方で。

 

――またパワハラ案件ですか……。

 

金子 録音データを開示したら余裕で勝訴できるレベルのことを、日常的に言われていました。それで、「あなたおかしいですよ、間違ってますよ」と戦ったら出禁になったという(苦笑)。人は自分の矜持を守るためなら、戦った方がいいと今でも思っています。当時はそれに並行して失恋もあり、ストレスでワインを1日1本空けるみたいな生活だったので、結局うつを再発してしまいました。

 

さらに、2011年3月にあった震災がダメ押しでした。当日は横浜で揺れを経験し、山下公園に避難したんです。その際、いろんな人がキャッキャ言いながら揺れているビルの動画を撮ったりしているのを見て、心が折れたというか。

 

僕は阪神・淡路大震災を地元で被災しているんですね。関東地区もあれだけ揺れた大地震で、自分が死ぬと思っていない、生命の危機を感じてない人たちを見てなんだか落ち込んでしまって。結局、それが引き金になって退職となりました。

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競って結果を出すことには、興味がないんです

――フルスタック・ジェネラリストでいけるなと思ったのはいつ頃なんですか?

 

金子 講師をやり始めた2011年からです。5月末に会社を辞めて地元・神戸に帰ったあと、いろいろ仕事を探していて。そうしたら大学の同級生から、クーポンビジネスで事業展開している会社があって「教育業界にピボットするから、役員を紹介するよ」という話をいただいたんです。しかも、一番手で講師に入らせていただくことに。普通はウェイティングリストに並んで待ちからスタートするところを、一番手でした。相当に幸運でしたね。

 

――そこから、徐々にコミュニケーションやロジカルシンキングを教える方向に行ったんですね。

 

金子 独立して2年目ぐらいで、その方向で固まりました。コミュニケーション系の研修もIT系の研修も両方やってみて、改めて「コミュニケーションをやりたい」と思って。技術は仕事と自習で伸びますけど、コミュニケーションは(意識しないと)自分では伸ばせない。そこで僕は、高い金額を払ってコーチングを勉強したり、関連書籍を読み漁ったりしていました。

 

――今は、講師業を年間どれぐらい稼働しているんですか?

 

金子 年間150日以上ですね。相当に多い日数です、だいたい年間120日の登壇を超えると多いと言われる業界なので。いわゆる「1万時間の法則」ってありますよね。厳密にそれだけの時間を費やすことはできないにしても、数をこなすことで一流になれるはずと自分で仮説を立てました。

 

「じゃあ1,000日間登壇しよう」と思って、来た仕事は全部お受けしました。テクニカル系とヒューマン系も全部やるようになったら、年間150日は超えました。正確に集計していませんが、2017年は180日近く登壇しているはずです。計6年で800日登壇したので、今年と来年で1,000日登壇は達成できる見込みです。

 

――ジェネラリストといいつつ、講師業に関してはスペシャリストの領域ですね。

 

金子 はい。フリーランスで研修スタッフをしていた経験があるのですが、超一流の講師が集まる会社でしていろいろなパターンや、講師の皆さんのレベル感を把握できたのも大きいですね。今は同世代の講師には負けない自信があります。

 

これまでのお話を読んでいただいてわかると思いますが、自分は凡人です。ただ、凡人でも適切なポジショニングを見つけ、超一流をベンチマークし、自己研鑽することで一流にはなれると思っています。

 

――良いポジショニングを取れて、本来自分が得意なコミュニケーションも活かせたと。

 

金子 人と競って結果出すことには興味がないんです。自分の強みを判定した上で、適切なポジショニングがたまたま取れたから結果が出たと思ってます。人生は運と縁と僕の尊敬する方もおっしゃっていますが、そのとおりだなと。フリーランスとして結果が出ているのは、これまで申し上げたように相当運が良いからだと思っています。

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お金をもらうために、上位1パーセントにいろ。

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――金子さんの働き方に関するこだわりを6項目に分け、計20点満点として振り分けていただきました。上記は、それをレーダーチャートにまとめたものです。一つずつ、数字の理由を伺います。

 

・専門性向上 5

 

プロとしてお金をもらうには、一流のゾーンにいないとダメだと思います。ただ、何を持って一流なのか。少なくともその世界で1/100は取れなきゃダメ、上位1パーセントにはいなきゃいけない。

 

オリンピック選手で金メダルを取る選手は、単体の能力で100万分の1ぐらいの位置にいると言われています。藤原和博さん(元リクルート、東京都初の民間人による校長)の言葉ですが、単体で100万分の1は無理なら、我々凡人は1/100を3つかけて目指せるところです。ただ、僕は残念ながらエンジニアの中で1パーセントにはなれませんでした。ですが、「ITをわかる、設計書が書ける」となると世の中全体では1/100に入れるんです。

 

もちろんメインとなる、講師としては1パーセント内に入らないとまずいですね。キーファクターは1/100を絶対取ったうえで、他の要素は相対的優位でいいと考えています。

 

・社畜度 0

 

不要ですね。ただ、イヤなことをやらないためには最低限以上のスキルは必要。フルスタックジェネラリストと言っても高い講習スキルはあります。最近意識しているのは、ピンチヒッターを極めることですね。

 

・働き方自由度 5

 

やりたくないことはやらない、嫌な人とは仕事しない、それでいてちゃんと稼げる仕事をしています。そうでないとフリーランスである意味もない。必須ですね。

 

・事業内容 1

 

起業家じゃない限り、全く新しい事業を作るってなかなかないし、実際必要じゃないと思うんです。起業家の皆さんは、ゼロから1を作る特殊な能力を持つ人たち。自分はそういう発想を思いつかないので、真似をします。世の中に大体のものはあるので、自分のポジショニングとスキルを寄せていく。

 

そうなったら事業内容を考える必要もないし「この事業内容じゃないとキャリアを作れない」とも思わないですね。世の中に貢献しているもので稼ぎたいです。

 

・お金 4

 

「稼ぐことが悪」みたいな風潮、嫌ですね。稼ぐことはイコール信頼されているということだし、世の中に貢献してるということ。稼がなかったらプロとしてダメだと思います。僕の友人にトップのプロマジシャンがいるのですが、彼のプロの定義は「バイトや副業など他の仕事はナシで、その技術単体でメシがちゃんと食えること」です。僕の場合なら講師業でメシが食える=プロですね。

 

仲間  5

 

最近特に思うようになりました。1人で食っていくこと自体は、上位1パーセントに入れば難しくない。実際、独立1年目でサラリーマン時の年収を売り上げベースで超え、2年目には倍になりました。

 

でもお金があったらからといって幸せではない。稼ぐことは重要だけど、1人で稼いでいるだけでは世の中にインパクトを与えていないと思います。僕はたまたま教育という仕事をしてるので、少なからず人には影響を与えていると思います。ただ、もっとインパクトを与えたいと思ったら1人では限界がありますね。そのうち会社を作るか、チームを組んでやっていこうと思ってます。

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ポジショニングにはメタ認知が重要

――仕事を選ぶ上でアドバイスを一言で言うとしたらなんでしょう?

 

金子 的確なポジショニングですね。そして、ポジショニングを選ぶにはメタ認知が重要。

 

エンジニアの方って、メタ認知が弱い人が多い印象を持っています。論理的思考力が高くてもメタ認知が低いため、コミュニケーション力が低くなり、結果としてキャリア選択においてエラーが生じるケースをよく見ます。

 

メタ認知が弱いという自覚がある方は、ぜひ他の人からアドバイスもらう環境を作ってください。強い人は自己分析してポジショニングをとって、自分の強みはどこで活きるかを考えています。相対的に勝てる、ハッピーになれる方法を選べばいいと思います。

 

金子さんには、得意分野である「コミュニケーション」についてForkwell Pressで連載をしていただきます。どうぞお楽しみに!

 

<了>

 

ライター:澤山 大輔