6月12日にシンガポールで実施された米朝首脳会談が、ここまでのトランプ政権下でインド太平洋地域における安全保障政策の最大の「ショー」であったことは疑う余地がない。
また、合意された共同声明の内容が、北朝鮮の非核化の実現に向けて、極めて不十分なものであったことも言うまでもない。
トランプ大統領は、会談後の記者会見で、共同声明の調印が北朝鮮のCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)を可能にすると強調したが、同時にその具体的なプロセスが決まっていないことも示唆しており、この調印の評価を下すのは時期尚早だろう。
共同声明の内容は、2017年の板門店宣言や2005年の六カ国協議の共同声明を含め、1990年代以降繰り返されてきた朝鮮半島非核化に関する「誓約」の焼き直しである。その内容に斬新さはなく、既視感しかない。
これまで、北朝鮮は非核化を約束した後、査察検証に至る段階等で約束を反故にしてきた歴史があり、非核化実現にとって重要なのは共同声明や会談そのものではなく、その後のプロセスにある。
首脳会談と共同声明で注目すべき点は、トランプ大統領個人を含め、米国の政権担当者たちも、これまでの経緯や、今後必要なプロセスの困難さ、また裏切られる可能性を理解した上で、会談の実施と共同声明を進めた、という点である。
つまり、会談の実施や共同声明への合意は、大きな戦略を実現する手段であり、目的ではなかったということである。
トランプと金正恩が国際メディアの前で共同声明に調印するという「画像」は鮮烈で、両国の最高レベルが関与したことに意義があるのである。
つまり、会談での合意は、朝鮮半島をめぐる諸問題の「区切り」ではなく、プロセスの過程の戦術の一つの意味合いが強いのだろう。
もちろん、会談や共同声明が、国内政治向けのアピールを目的としたものであり、中間選挙を目前にしたトランプ大統領の個人的なスタンドプレイである可能性は否定できないが、とりあえずその議論を封じて、今回の「ショー」の外交安全保障上の意義を考察してみる。