能力がありながら進学をためらう生徒を後押しする施策だが、支援対象は極めて限定的だ。

 政府が閣議決定した「骨太方針」に、大学や専門学校など高等教育の無償化が盛り込まれた。

 安倍政権の看板政策「人づくり革命」の柱で、年収380万円未満の世帯を支える仕組みを2020年度から導入するという。

 例えば国立大学に通う場合、年収270万円未満の住民税非課税世帯は、授業料(約54万円)と入学金(約28万円)が全額免除となる。私立大学の場合、授業料は最大約70万円、入学金は平均額(約25万円)が免除される。

 支援は収入に応じて段階的に引き下げられ、300万円未満はその3分の2、380万円未満は3分の1となる。

 教科書代などの修学費や下宿生の家賃などの生活費は、返済不要の給付型奨学金を充てる方針だ。 

 親の年収によって大学進学率に差があることは各種調査で明らかになっている。経済的理由で進学を断念することがないよう、より厳しい状況にある低所得層への支援を厚くすることに異論はない。教育への支出は将来への投資で、切望された施策でもあるからだ。

 とはいえ380万円で線引きをする制度設計は妥当なのか。

 大学進学にかかる費用は中所得層にとっても重く、年収380万円を境に支援の「崖」ができることへの懸念が残る。

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 文科省によると、今回対象とならない年収450万~600万円の世帯の大学進学率は約42%で、全世帯平均を10ポイントも下回っている。

 沖縄振興開発金融公庫の教育資金利用者の調査では、年収400万~600万円の世帯で教育費が年収の3割を超えていたことが分かっている。

 大学生の2人に1人が奨学金を受給する時代で、そのほとんどは貸与型だ。卒業しても正社員になれないなど雇用や収入の問題から、返済に苦しむ人も増えている。

 支援の「崖」の不利益を見過ごすことはできない。

 政府・与党も中所得層対策の必要性は認めており、授業料を在学中は国が立て替え、卒業後に所得に応じて徴収する「出世払い」制度の検討を進めている。

 支援を低所得層に限らず、家計負担を広く和らげていく工夫が必要だ。

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 京都や東京では大学進学率が6割を超える一方、鹿児島や鳥取、沖縄では4割に満たないなど、生まれた場所によって「進学格差」が生じているのも事実である。

 大学が都市部に集中しているため、下宿生活による費用負担の重さが要因の一つといわれる。

 政府は来年の通常国会に関連法案を提出する予定だ。

 日本の教育費の家計負担の高さは、公的援助が少ないことの裏返しである。

 教育の問題を個人の問題と突き放さず、極端な進学格差の問題にも向き合ってもらいたい。