ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん……。
水滴が次々と落ちてくる音がする。水道の蛇口がきちんと締まっていないか、あるいは天井の隙間から水が漏れているのかもしれない。この音がしていると、一晩中眠れないという人もいるだろう。
英ケンブリッジ大学の工学者、アヌラグ・アガルワル氏もその1人だ。そんなアガルワル氏らの研究チームが、この独特な音が発生する仕組みをついに解明し、6月22日付けの学術誌「Scientific Reports」に発表した。(参考記事:「オーロラから聞こえる謎の音の正体を解明」)
アガルワル氏は、2016年にブラジルの友人宅を訪れた際、雨漏りのする天井から、下に置いてあるバケツの中にひっきりなしに落ちる水滴の音が気になって仕方がなかった。「当時は雨期で、激しい雨が降っていました」(参考記事:「ロシア上空に謎の発光体、正体は弾道ミサイル」)
水滴の音にいらつくと同時に、アガルワル氏は、水滴が落ちるとなぜああいった独特の音がするのだろうかと考え始めた。この音が発生する仕組みは、まだ科学的に解明されていなかった。これが単なる衝撃音だとは考えられない。たとえば拳を机に叩きつければ音がするが、「あの音楽的な響きはありません」とアガルワル氏は言う。
衝突したときの音ではなかった
2017年、アガルワル氏はケンブリッジ大学の実験室で、ハイスピードカメラ、マイク、水中マイクなどを使い、水滴がいつ、どのようにぽちゃんという音を発生させるのかを正確に捉える実験を行った。
高さ約9センチから直径4ミリの水滴を水に落としたところ、衝突の瞬間、水滴は音を立てなかった。しかし衝突からわずか数ミリ秒後、水滴によって水面にくぼみができ、くぼみが反動で元に戻ろうとするとき、水面下に小さな気泡ができる。この気泡こそがぽちゃんという音を発生させる元凶だった。気泡は毎秒5000回振動しており、この振動がさらに水面を震わせ、例の耳障りな音を生み出すという。(参考記事:「【動画】謎の氷の巨大円盤が川に出現、なぜ回る?」)
ぽちゃんという音は、水滴が水面に落ちたときにしか発生しない。乾いた木材の上に水滴が落ちた場合には、ぽとりというにぶい音がするだけだ。アガルワル氏はまた、洗剤を加えた水には気泡の発生を抑える働きがあるため、ぽちゃんという音を防げることも発見した。
水滴が音を立てる仕組みを理解することは、将来的にゲームや映画の音響エンジニアが、バケツに水滴が落ちる音をよりリアルに再現することに役立つかもしれないとアガルワル氏はしつつも、この研究は主に好奇心から行ったものだと述べている。(参考記事:「「原子」が見えた! なんと一眼レフで撮影に成功」)
そして、もうひとつの動機は、「あの音を止める方法」をなんとしても突き止めたかったのだろう。(参考記事:「ブツブツ恐怖症の原因に新説、トライポフォビア」)
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