「バーン」と届けて「ドーン」とさせる
かつて松木安太郎はラジオ番組を持っていたが、その番組名は『松木安太郎の「バーンってやってドーン!」』である。バーンとやって、ドーンとしたいようなのだが、何を意味するのかはちっともわからない。松木が本格的にサッカーにのめり込むのは小学校高学年からで、それまでは家の前にある公園で野球に興じる少年だった。憧れていたのは長嶋茂雄。長嶋といえば、その指導法が時に「ボールがキューッとくるだろ? そして、ググッとなったら、ウンッっと溜めてパッ!」などとオノマトペの羅列で済まされていたことで知られるが、松木による自由なサッカー解説のスタイルは、サッカー界の誰それではなく、長嶋茂雄を踏襲しているのではないか。
そのラジオの内容紹介には、「『先が見えない世の中に不安を抱くだけじゃなく、夢だって抱いていいんだぜ!』というメッセージをほぼ具体的なアドバイスではなく、感覚と勢いで『バーン!』とお届けし、最終的にリスナーが前向きになれるような気分に『ドーン!』とさせるレディオプログラム」とある。先が見えない世の中に夢を抱こう、という極めて強いメッセージを、わざわざ抽象的な形容に差し戻し、「バーン」と届けて「ドーン」とさせるのだという。昨今、夢や絆というフレーズを投じればどうにかなるという取り組みが無尽蔵に重なり、それが個々人のプレッシャーにもなっているわけだが、バーンとドーンするのは、その手の圧からの回避にも使える。私が、感情的にひた走る松木安太郎の解説を好むのは、「ほぼ具体的なアドバイスではなく、感覚と勢いで『バーン!』とお届け」してくれるからなのか。
松木安太郎のゴールキーパー時代
松木が野球からサッカーに切り替えた理由は、「野球は打順が回ってくるまで待たないといけないでしょう。私はあれが苦手で」(明光義塾コミュニティサイト「メイコミュ」)という、実に直情的な理由。そのくせ、最初に選んだポジションがゴールキーパーで、これほど受け身の役割に甘んじるポジションもない。サッカーを始めた理由について、「サッカーがやりたくてサッカー部に入ったわけじゃないんです。ただ、まわりのみんながサッカー部に入っていたので、僕も友達が欲しかったから入っただけ」(THE PAGE)と消極的に説明しているインタビューもあり、本当の動機がなかなか見えてこない。
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