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脳科学に行きつくのか(その2 心理経済学)

「日本人はいじわるがお好き?」というタイトルで講演している先生がいる。大阪大学の教授で西條辰義という経済学者です。実験経済学というらしいのだが、実験により人間の経済行動を究明していく試みを実践している。この話は、昨年10月に日経新聞に連載されたのでご存知の方もいると思いますが、これが無茶おもしろいので紹介する。

有名な“囚人のジレンマ”というのをご存知だと思いますが、それに似たような実験を行なっている。まず10ドルを持っている2人の個人がお金を出し合って公共財(たとえば道路)をつくる場面を想定する。

そして、10ドル出すか出さないかの二つの選択肢があり、二人が出したお金の合計額に1.5を掛けた分の利益が、一人だけではなく双方に戻ってくるとする。ここで二人とも10ドル出せば、拠出金の総額は20ドルになり、これに1.5を掛けた30ドルがそれぞれに戻ってくる。

一方、自分は出さずに相手に出させた場合、拠出金は10ドルで、戻りはそれに1.5を掛けた15ドルがそれぞれに入る。従って、自分は手元の10ドルと戻りの15ドルで25ドルとなる。相手は15ドルである。逆の場合では、自分が15ドルで相手が25ドルとなる。もちろん二人とも出さないと利得は手元の10ドルのままである。

これからみると、自分の利得を増やすことだけ考えるなら、相手がどうであれ、自分は全額出すのがベストだと分かる。ところが、実験ではあまり出さないひとがいるのだそうだ。

上述の例のように相手が出して自分は出さないと、こちらの利得が相手より上回ることができる。このように、自己の利得を多少なりとも犠牲にして相手を痛めつける(出し抜く)行動を「意地悪(スパイト)行動」というらしい。

こうした実験を日米で行なうと、このスパイト行動をとる人が日本人に多いという結果が出たという。要するに日本人は意地悪が好きということになる。

さらに、それを証明するような実験をおこなう。公共財供給への参加の問題を明示的に扱う実験で、最初のステージで参加か不参加を選択する。参加を選択した被験者のみが次のステージで相手の参加・不参加の意思決定を知ったうえ、公共財供給のためのお金を出すというものである。

相手が参加するなら、自分は参加せず相手が供給する公共財にただ乗り(フリーライド)すればよい。もし相手が参加しなかったら、自分の利得が最大になるようなやり方で公共財にお金を出せばよいということになる。

この実験でも日米で差が出て、日本人は自分は参加するものの相手が参加しない場合、自分の利得を最大にするようにはお金を出さないそうだ。自己の利得を最大にするように公共財を供給すると、参加しなかった人がその便益を得てしまう。それが我慢できず、自己の利得が減ってでも過小にしかお金をださない。これは、まさに「意地悪」行動そのものである。

公共財をみんなで作ろうとすると、日本人はただ乗りをめざすが成功しない。というのは参加者が不参加者の足を引っ張るからだそうだ。日本社会は「強調型」といわれるが、内実は皆で仲良くことにあたっているのではなく「協力しないと後が怖い」ということかもしれない。

ね、面白い話でしょ。例えば、京都議定書のような問題だとか、それこそオープンソース開発みたいな局面でも米国人の考え方と日本人の考え方の違いがあるのかなと思ってします。

おっと、この話と脳科学とどう絡むのかだけど、実は、こうした経済的な意思決定が、ひとの脳のなかでどのように行なわれているか調べてみようという「ニューロエコノミスト(神経経済学者)」という研究者たちも現れているそうだ。

fMRIという機械で脳をスキャンするらしいが、意地悪されている脳は反応しないが、善意を受けている脳は反応するなんてことが分かるらしい。要するに、意地悪に鈍感になろうとする脳の働きが観察されるのだそうだ。うへー、そのうちおまえの脳は、けちだとか太っ腹だとか分かっちゃうのかなあ。ああ怖しや。


コメント (2)

yabu:

はじめまして。少し以前から拝読させていただいております。いろいろ勉強させていただくことが多く、ありがたく思っております。

今回お取り上げと同様の日本人論日米比較に、北大大学院教授山岸俊男の一連の著作があります。おそらく山岸の研究のほうが先行しているのではないでしょうか。すでにご存知かもしれませんが、もしお読みでなければ、『安心社会から信頼社会へ』(中公新書)などお薦め申し上げます。

梅田望夫『ウェブ進化論』を読んだとき真っ先に思い起こしたのが山岸氏の著作でした。エントリにある「意地悪」行動が、日本社会の改革に大きな障害になっていることが実に明晰に示されていて驚きました。機会がありましたら、ぜひ。

mark-wada:

コメントありがとうございます。普段は単純に日米比較して日本人は米国に比べてどうだとか言いたくはないのですが、この「意地悪行動」については、これまでの経験からうなずくところが多いような気がしました。いま、IT関連の仕事をしている関係上、インターネットで起こっているパラダイムシフトを肌で感じるので、余計に日本人の反応の仕方に興味があります。お薦めの本すぐに読んでみます。

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2007年3月31日 10:33に投稿されたエントリーのページです。

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