「深圳ならではの、北京にもシリコンバレーにも東京にもいないようなメイカーを紹介してほしい」と言われたら、僕はまず前々回で紹介したエリック・パンを挙げるだろう。もう一人と言われたら、今回紹介する「山寨王」ことロビン・ウーだ。彼のストーリーには、深圳で行われている「社会実装イノベーション」がすべて詰まっている。
「メイカーは山寨に生まれ、アフリカに走る」。広東省・広州で行われたTEDx。ロビンはこんなテーマでトークを行い、会場の大喝采を浴びた。
ロビン・ウーは1983年生まれ。先ほど挙げたエリック・パンと同い年で、やっと30代半ばに入ったところだ。深圳大学を卒業後インテルに入社。在学中から電気街の電気店でバイトを始め、めきめきと頭角を表した。もともと商売に対する才覚を磨いていたようだ。2009年に自らの会社を立ち上げた彼を一躍有名にしたのは2010年の出来事だ。
サンフランシスコでアップルのスティーブ・ジョブズはiPadを発表した。ロビンはそれからわずか60日で、インテル製のCPUを搭載したiPadコピーを発売した。まだ中国でiPadが買えない時代、それは大ヒット商品となり、ロビンは「山寨王」と呼ばれるようになった。
もちろんその「iPad」は外見はそっくりだが、OSはAndroidだしApp StoreにもiTunesにもつながらない。どうしてもiPadがほしい人がロビンの製品で満足したかは疑問だ。だが、中国で正規品のiPadが買えず、出たばかりでさほどiPad専用のアプリもない時代、彼のインテル版iPadはよく売れた。
「インテル版のiPad(ロビンは自分のiPadをこう呼ぶ)は『タッチパネルの性能が上がって価格も安くなってきているので、全面タッチパネルでキーボードのないラップトップ、つまりはタブレット端末が来る』という感覚が僕の中にあり、関係する部品について調べたり、部品メーカーとやりとりしたりしていた。つまりiPadを作った人たちも自分も、同じような情報をやりとりしていたわけだ」
「僕が作ったのはアップルが作っていない、インテル版のiPadだ。iPadのニセモノではない。アップルの発表を見て60日で販売できたのは、そういう準備があるからだ。ヒット商品には後追い品が出てくる。アレンジされてだんだん安くなり、普及していくことはどの世界でもある。ウォークマンとかポータブルのCDプレイヤーとか、日本の大メーカー同士でもあるだろう?」
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