穴見さんの文章に対しては、多くの方が様々な悲しさと怒りの感想を持ったようですが、特に、私が医師として一番引っかかったのは、この一文でした。
「喫煙者を必要以上に差別すべきではないという想いで呟いたものです」
「差別」とは、“特定の個人や集団に対して正当な理由もなく生活全般にかかわる不利益を強制する行為をさす”(ブリタニカ国際大百科事典)ことであり、根拠のないことがらに対してなされた言動に使うことに対して使うことが多いと思います。しかし、喫煙および受動喫煙は身体の害になることが実証されているのです。
もちろんタバコが嗜好品であり、経済を活性化する面もあるという意味で、成人が喫煙する権利を否定できるものではありません。ですが、自らがリスクを冒して喫煙を選んでいる方のみならず、喫煙を望まない方でも受動喫煙によって健康被害を被ることが医学的に実証されている。その事実や危険性を訴えることが、「差別」になるのでしょうか。
しかも、これは反射的に出た言葉ではなく、穴見議員が批判を受けたのちによく考えて作ったはずの「お詫び」の文章の中に書かれているのです。
穴見議員は、「大分がん研究振興財団」の理事も務めた方です。こちらの理事は6月22日つけで辞任されたようですが、そのようにがんの研究をしているはずの国会議員ですら、喫煙に対する理解がずれている。そのことに非常に危機感を持ちました。
受動喫煙はinvoluntary smokeとかsecondhand smokeと英語では言われています。自分の意思ではない喫煙、二次喫煙、という意味です。
WHOの指導に伴い、海外では49ヵ国が公共の建物の内外で禁煙を義務付けています。飲食店では顧客のみならず、従業員の受動喫煙による健康被害を避けるためにも、禁煙にするのが当たり前の時代なのです。日本ほど、子どもの入れるお店でもタバコの吸える飲食店が多い国はあまりありません。
喫煙はもちろん、受動喫煙による健康被害についての研究は、とくに2000年代になると世界中で飛躍的に進みました。厚生労働省の報告書でも「受動喫煙と肺がんとの関連について,『科学的証拠は,因果関係を推定するのに十分である(レベル 1)』と判定された」と報告されています。
もちろん肺がん以外にも、肺がん以外のがん、糖尿病、高血圧、呼吸器疾患、様々な動脈硬化性疾患など、タバコの影響によりかかりやすい疾患は多く挙げられます。