漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】   作:疑似ほにょぺにょこ
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5章 ナザリック 善意の会談編-2

「では、ルプスレギナ。リ・エスティーゼ王国との会談の日程と内容を教えてくれるか」

「了解です、アインズ様」

 

 俺たち──俺と蒼の薔薇メンバー、そして今回のメインであるラナー姫様の一行は無事カルネ村に到着した。しかしそこにあったのは前に見た牧歌的で平凡なものではなく、城塞と化した特殊街だった。

 簡単に破れそうに見える様に偽装された、特殊素材で作られた城壁。恐らく前に助けたときにエンリという少女に渡したマジックアイテムを使ったのだろうゴブリンの傭兵団。そして、アルベドには許可をとったのだろう。ルプスレギナの連れてきたデスナイトが2体。と、下手をすればエ・ランテルよりも戦闘能力と防衛能力を有している凄まじい街に変貌を遂げていたのだ。

 どうやらデミウルゴスが、俺の支配する町──というのは現状語弊があるものの、統括していた領主が先の襲撃で逃亡したのちに殺されていて統括するものが居ないのでナザリックで代理統括しているのである──のベースプランの一つとして実験を行っているらしい。

 流石に蒼の薔薇位になるとあっさりと落とされそうだが、ギガントバジリスク程度であれば──実際に訓練として襲わせているらしい──防衛することもできるだろう。これならばわざわざ引っ越してもらっているバレアレ一家──祖母のリィジー、孫のンフィーレアとフェイの孫兄妹の3人である──を守るにも一役買っているといえる。そういえばナザリック製でもこの世界のものでもない第三の魔法薬が出来上がりそうだという話が上がっていた。やはり制限なく伸び伸びと作れるという環境は、魔法薬作成にとてもいいのだろう。

 

 そして昼間から夜にかけてカルネ村の歓待を受けた俺たち一行──とはいえ、俺は受けてはいないが──はお酒が入ったこともあり、早々に眠ってもらっている。マーレにダメ押しとばかりに睡眠導入の魔法を掛けさせたので狸寝入りもできないだろう。睡眠魔法であればあっさりと看破されるだろうが、マーレのドルイドの魔法であれば酒の勢いもあって気付かれないはずだ。

 こうして皆が寝静まってからルプスレギナと二人きりになって話合っているのである。

 

「現在ナザリックでは対王国用歓待の準備が急ピッチで進められています。人間たちの口に合うようにと、ペストーニャを始めとした一般メイドが躍起になっているようですね」

「ふむ、それは良いな。旨い食事と酒、そして適度な満腹感は信用を築くのにとても良い結果を齎してくれる」

 

 うまい食事とうまい酒。それはいつの時代でも、どの世界でも接待に欠かせないものだ。軽く酔ってくれれば舌も回りやすくなる。契約を締結するにはいい環境といえるだろう。

 

「はい。ニニャ、ツアレ姉妹とアルシェ姉妹からリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の一般的な料理、味付け等の傾向の情報をもらってそれぞれの良い部分を生かしつつナザリック料理に昇華させるとのことでした」

「そうか──それは旨そうだな」

 

 思わず出ないはずの涎が出そうになるほどの旨そうな話である。アンデッドとなって食事をとる必要は無くなったものの、食事自体をしたくないわけではない。むしろ出来なくなった分、食事に対する憧れのような気持ちも少なからず湧いてきている。いずれは受肉するのも良いかもしれないが、恐らくそれはずっと後の話となるだろう。ならばせめて感覚共有の魔法を作って、せめて味だけでも──

 

「──アインズ様、どうされましたか?」

「ん、あぁすまん。アウラとマーレのことをちょっとな」

 

 舌の上を踊る豪華な食事達に夢想していることをごまかすようにアウラたちの事をとっさに挙げた。だが別にこれは間違いではない。

 アウラとマーレには現在、帝国にちょっかいを出してもらっている。上手く煽って貰ってナザリックに──アインズ・ウール・ゴウンに敵意を持ってもらって攻めてもらうためである。帝国軍が動くとなれば当然王国軍も動かざるを得ない。そしてナザリックに向けて派兵されたとなればうちに協力要請が来るのは必定。そして今回で友好度をうまく上げられれば、その要請に来るのはラナー姫、もしくはその息のかかった者のはずだ。ならば俺がしっかりと帝国軍を撃退すれば、それはそのままラナー姫の功績となる。そうすれば現状動きづらいらしいラナー姫の発言力も上がり、権力を持つことができるようになるだろう。

 それをもってこのアインズ・ウール・ゴウンの恩返しとするつもりなのだ。

 

「なるほど──そういえば今お二人はバハルス帝国で活動されているのでしたね」

「うむ。ああいう仕事となると、二人に並ぶ者はいないだろうからな」

 

 特にアウラの煽り技能は素晴らしいの一言である。流石はぶくぶく茶釜さんの作り出した子であると言っていいだろう。普段は澄まし顔のシャルティアを一瞬で激高させ、笑顔を崩すことが中々難しいアルベドすら一瞬であの鉄壁の表情を崩させるのだ。彼女以上の適任は居ないと言っていい。そして弟であるマーレがいることでアウラの暴走も無いだろうし、盤石言う事無しである。

 

「そこまで信頼なされているのですね。アウラ様、マーレ様も一層身に力の入ることでしょう」

「まぁ一つ懸念があるとするなら、やりすぎてはいないかと思うが──マーレもいるのだ。大丈夫だろう。もしそうなったとしても対策はいくらでもあるからな」

「流石はアインズ様です。敬服致します」

 

 そう、兵を率いた軍事行動を起こさせるのが目的であって、全面戦争をしたいわけではない。勿論そうなったとしても問題なくやれるだろう。問題があるとするなら、帝国がこっそりとプレイヤーを擁していないかなのだが、同じくバハルス帝国に居るナーベラルの話ではその陰すら見つからないらしい。とすれば、居るとするなら帝国のかなり奥深く──そう、王の側近になっているだろうと予想される位である。全面戦争になった場合はそのあたりだけは注意せねばならない。

 

「よい。では予定通り明日、私たちは早朝よりナザリックへと向かうとしよう」

「はい、アインズ様」

 

 対帝国はそれでいいとして、まずは会談を成功させなければならない。さて、どうするか、だ。

 

「そういえば、アインズ様。パンドラズ・アクター様との交代はいつ致しましょう。予定がおありでしたら私の方から先にお伝えいたしますが」

「ふむ、そうだな。今回はラナー姫然り、蒼の薔薇然り。俺の正体を看破しやすい者が多い。交代は万全を期したほうがいいだろう。そういう意味では、ラナー姫との会談は二人きりで行いたいと思っている」

「アインズ様とパンドラズ・アクター様の入れ替わりに気付ける人間ですか──俄かに信じ難いですね」

 

 確かにパンドラズ・アクターの能力は通常のドッペルゲンガー達とは比べ物にならない程に精巧だ。通常は気づくこともないだろう。だが今回は蒼の薔薇も居る。忍者にヴァンパイアだ。リーダーも信仰系の能力を有し、神官として行動できるらしい。アンデッドである俺とドッペルゲンガーであるパンドラズ・アクターの微妙な差異に気付かないとも限らない。そして何よりも分からないのがラナー姫だ。通常怖がるだろうアンデッドの首なし馬に対して一切恐怖を感じない──こちらとしては願ったりかなったりの状況ではあったが──という非常に特殊な精神の持ち主だ。また噂レベルだが非常に頭が回るとも聞いている。用心して損はないだろう。

 

「なので、まず私はモモンとして皆と一緒にパンドラズ・アクターのアインズ・ウール・ゴウンと会う。そしてラナー姫と二人きりで会うときだけ俺がアインズ・ウール・ゴウンとして交代するとしよう」

「畏まりました。ではそのようにアルベド様、パンドラズ・アクター様に伝えておきます」

「あぁ。宜しく頼む」

 

 退室するルプスレギナを完全に見送ってから、ゆっくりとベッドに身体を投げ出した。口から出るため息は俺の気疲れを表しているかのように細く、長い。しかし疲れはない。それはアンデッドだからではないだろう。充実しているのだ。これから俺はナザリックの今後を左右する大きな会談に出席することになる。仕事でも、ゲームでもここまで大事になる会談は初めてといっていいだろう。だが、それが今はたまらなく楽しかった。

 敵対する相手との会談ではなく、友好を築こうとする相手との会談だ。互いにいい条件を模索して行きたいと思っている。相手もそうだと信じたいと思うのは無粋なのだろうか。

 

(今回の事が上手くいけばナザリックの今後は明るくなる。解決する事案も増えてくるんだ。そして、少しづつ。一歩づつ進めていこう。うん。頑張れ、俺)

 

 ベッドに寝ころび見上げる天井には、ゆらゆらとランプの炎の影が揺らめいていた。まだ、朝になるには時間がある。もう少しゆっくりと煮詰めていこう。王国と、ナザリックのより良き未来のために。

 

 

 

 

「おかえり、マーレ。早かったね」

「うん、お姉ちゃん。今日もここにいたんだね」

 

 月の綺麗な夜空を見上げていると、見知った気配が後ろに現れる。見る必要すらない。私の弟だ。柔らかい風が私の頬を撫でていく。本当にこの国の風は気持ちいい。ここは私のお気に入りだ。この国の一番高い場所。バハルス帝国城の最も高い部分の屋根の上。私にとってここは、この国で一番のお気に入りの場所である。城から見下ろす街の灯りはとても綺麗だ。まるで小さな蝋燭がいくつも燈っているように、輝いて見えていた。

 

「ルプスレギナさんからの言伝。聞く?」

「んー?良い話なら聞きたいかな」

 

 そう言いながら見る弟の顔は笑顔だ。余程いい話だったらしい。ゆっくりと伸びをして屋根の上に寝転がる。この世界のものにしては中々に良い素材を使っているようで、寝心地がとてもいい。

 寝ころべば見える、見渡す限りの夜空と弟の笑顔。私にとってこれ以上のない宝物だ。

 

「アインズ様がね、こういう仕事に関してはボク達の右に出る者はいないって。やりすぎるくらいでいい、既に対策はしてくれてるらしいよ」

「うわー──うわぁー──」

 

 ごろごろ。ごろごろ。恥ずかしくて堪らない。でもそれを表現する方法も受け止める方法も分からない私にはただただ熱くなる顔を両手で覆いながら転がるしかない。

 そうか。アインズ様はそこまで私たちを信頼されているのか。確かに私の能力は対動物に対して圧倒的と言える能力といえる。弟も植物に対して絶対的な能力を有し、私のサポートとしては正しく無二といえる存在である。ぶくぶく茶釜様からも二人で組めばやれないことはちょっとしかないと言われるほどだった。でもアインズ様にまで──

 

「マーレ!マーレぇ!」

「はいはい、って──わ──ちょ、お姉ちゃん──」

 

 近づくマーレをぎゅうと抱きしめる。つらい。つらい。心と身体がばらばらになってしまいそうに。心臓が爆発しそうなほどにつらいのだ。

 熱い。とても熱い。ぎゅうと抱きしめるマーレの身体もとても熱い。同じ。同じなのだ。それはそうだ。私たちは姉妹だ。私たちはぶくぶく茶釜様に生み出されたたった二人だけの存在だ。二人で一人なのだ。

 

「い、いたいっ──いたいよおねえちゃ──」

「うぅ──」

 

 まるであの女のようにマーレの首筋に噛み付く。そういえばうちの子たちも興奮するとやたらと噛み付いてきたなと、真っ白になる頭の中に浮かんでくるもどうしようもない。

 

「どう──どうし──わた──おねえちゃん、壊──」

「だいじょうぶ。だいじょうぶだから、ね?お姉ちゃん」

 

 ガタガタと震える。熱いのに寒い。灼ける様に冷たい。だというのに、一緒のはずの弟が──マーレが私を抱きしめてくる。抱える弟の鼓動は驚くほどに早い。でも、違う。一緒のはずなのに。同じはずなのに、違う。

 きっとこのとき、私は初めて弟を男らしいと思ったのかもしれない。

 

 

 

 

 

「無茶苦茶興奮してやってしまった。でもまた時々やってしまうかもしれない」

「つ、次は手加減してくれると、うれしいかなぁ」

 

 全身が痛い。姉に噛まれたせいだ。しかも手加減がない。一瞬でも気を抜けば噛み千切られるのではないかと思うほどに強く噛まれた。こんな姉を見たのは初めてだ。でも考えてみればそうだ。ボクも姉も、ぶくぶく茶釜様から愛情は与えられたけれど、触れられたことはない。触れるのはいつも互いだけだった。そこにアインズ様がいらっしゃった。初めての他者の温もりを与えてくれたのがアインズ様だったのだ。そういう意味ではアインズ様は第二の主人であり、親と言える存在だった。

 そんなヒトがボク達を信じてくれている。頼ってくれている。それがあまりに嬉しかった。だから、感情が爆発してしまったのだ。

 ただその爆発してしまった感情をどう表せばいいのか、どう受け入れればいいのか分からなかった。だから、それが噛むという行為になってしまったわけである。

 ボクはまだマシだった。まるで発情期を迎えたかのように呼吸が浅くなり、体温があがり、匂いが変わっていく姉を見て逆に冷静になることができた。これで姉と同調していたら、今頃帝国<ここ>は更地になっていただろう。それではアインズ様に申し訳ない。せっかく信じてくれているのを仇で返してしまう。それだけはしたくなかった。

 

「次からはちゃんと表現方法をどうにかしてね、お姉ちゃん」

「うぅ──急に弟が──マーレが大人になった気がしてお姉ちゃんくやしい」

 

 身体を活性化させればすぅっと痛みが引いて行ってくれる。何とか日の出までには姉につけられた歯型も見えなくなるだろう。

 それとなく、もうしないでねと伝えることはできたが──きっとまたされるだろう。後悔とか、反省とか。そういったものとは無縁な姉だから。だから、むくれる可愛い姉に笑顔を向けた。

 

「──よし!これからは自重なしでいくよ!私のスキルが人間相手にどこまで通用するか試していこうじゃない!」

「うん、その意気だよ、お姉ちゃん。大丈夫。いざとなったらボクも──そしてアインズ様もフォローしてくれるから、ね?」

 

 今はもういないぶくぶく茶釜様と、ボク達に優しくしてくれるアインズ様と──

 

「よーっし!いけるっ!私たちでこの国乗っ獲るよー!!」

「おー!!」

 

 そして、無二の姉のために頑張っていこう。




次話投稿後に次の短編のお題を、活動報告にて募集します。

募集ルールは以下の通りです
友人の助言により、投稿位置を特定するとそこしか狙わない人が出てくる、また重複投稿する懸念があるとのことなのでこうしました

1.『場所』『人』『ネタ』の3つを書くこと
例:『リ・エスティーゼ王国』『エントマ』『脱いだら凄いんです!』など

2.当選者の選定は特定の方法で行います。
選定例:2番目に投稿された方の時間の最後の桁の数字番目(21:54なら4番目)の人 など
方法の発表は次の日です。発表までにそれを特定する方法はありませんが、既に決めてあります
これにより、1発目の感想の方に当たる可能性が出てきました

3.重複投稿した場合は『無効』とします
当たった場合は下の方にずれます

4.過度なエロは無効
とりあえずまだ18禁にするには早いかなって
書いた場合は無効として下の方にずれます

これらを踏まえて、5章3話投稿後に投稿される活動報告にて募集します
間違ってもこっちに書かないでくださいね?
無効ですから、ね?






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