漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】   作:疑似ほにょぺにょこ
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4章 王都 罪人の武器編ー終

 木窓を大きく開ける。燦然と輝く太陽と雲一つない青空が目に飛び込んできた。少しづつ気温が上がってきているようで、肌に感じる熱は決して寒いものではない。

 

「好い天気だ──」

 

 俺はこの空が大好きだ。かつて居た世界ではこうやって安易に窓を開けることすらできなかった。だがこの世界は違う。皆朝にはこうやって窓を開けて太陽を拝む。そんな当たり前の事が途轍もなく嬉しく感じる。

 

(イビルアイ達はもう迎えに行っているのか)

 

 今日はとうとう姫様を連れて出立する日だ。あの事件が──姫様が襲われる事件があってからまだ二日程度しか経っていないというのに、まさか予定通り出立することになるとは思いも依らなかった。

 それはこの国がそれだけナザリックを──アインズ・ウール・ゴウンを重要視してくれているという証左である。それはとても嬉しく感じる。だからこそ、今回の謁見は絶対に成功しなければならない。

 

(あの姫様であればあまり無茶なことは言って来ないとは思うけど──)

 

 アインズとして、あの姫様には多少なりとも恩義を感じて居る。だから俺は少しばかりならば相手の言い分を聞くつもりで居た。例えば神器級<ゴッズ>は無理にしても、伝説級<レジェンド>や聖遺物級<レリック>の武具程度ならば一個師団分を無償で譲り渡すくらいのことは考えている。もし神器級<ゴッズ>を求めるならば、譲ることは出来ずとも、彼女が死ぬまで貸し与える位なら──そう考える程である。

 それ程までに俺はリ・エスティーゼ王国を重要視している。

 国とは力だ。数とは力だ。それは一人になったからこそ身に染みて痛感している事だ。そして、王国──とまでは言わないがガゼフや姫様を含む数人は信じても良いと思える人が居る。この縁を──信用を活用しないわけにはいかない。

 

(しっかりと友好を結んでおかないと、いつ裏切られるか分からないからな)

 

 この世界にはプレイヤーが居る。そしてそのプレイヤーも、どこかの国に組しているはずだ。そこを隠れ蓑にしているのは間違いない。そういった国から俺への──ナザリックへの悪評をばら撒かれでもすれば、決して良い方向へは向いてはくれない。

 

(ウルベルトさんも言ってたっけ。力だけで勝てる戦は限られている。情報と信頼こそが、最も得難く重要なのだって)

 

 ナザリックは決して弱いとは思っていない。全力を出せば世界を制することも不可能ではないだろう。だがそこまでだ。そこで終わりなのだ。そこから先がない。それでは駄目なのだ。

 これからずっとこの世界で生きて行かなければならない。ならば例え弱者であったとしても信用し、友好を結ぶ相手を増やしていく。そうやって仲間を増やさなければ決してこの先生き残ることはできない。

 

(ブループラネットさんも言っていた。この世界に不必要な者などいない。全ての生き物に意味があるんだって)

 

 俺の行動は皆の思いに、考えに──思想に支えられている。何も出来なかった俺がこうやって立っていられるのは、かつての仲間がたくさん教えてくれたお蔭だ。

 

(決して短絡的な事はやっちゃいけない。少しづつでいいから、味方を増やすんだ)

 

 それがきっと最善に繋がるはずだ。そう思っていた時だった。外から小さく俺を呼ぶ声が聞こえてきた。考え事をしている間にもう宿屋の近くまで馬車が来てしまっていたのだろう。

 

「いけない、急がないと」

 

 急いでマントを羽織り、階段を降りて行く。すると俺を呼びに来たのだろうイビルアイが嬉しそうに駆け寄って来た。

 『おはようございます』と元気に挨拶してくれる彼女に笑顔と共に返し、軽く頭を撫でる。最初の頃は『子供扱いを──』と怒っていた彼女も、今では少し肩をすくめてくすぐったそうにそれを受け入れていた。

 大分彼女の信頼を勝ち得ていると言って良いだろう。だが彼女の雇い主は恐らくそれ以上の信頼を持っている筈だ。雇い主が誰なのかは分からないが、決して油断してはいけない。凶刃が俺に向くだけならば良いだろう。だが先のエントマの時の事が頭に過ってしまう。蒼の薔薇の者たちは弱い。決して強くはない。だが、それでも俺の配下を、大事な仲間を、子を倒せるかもしれない力を持っていないという事にはならない。

 決して油断はできないのだ。

 

 

 

「おはようございます、ラナー姫」

「おはようございます、モモン様」

 

 王国の門の前に停められた──恐らく王族専用であろう豪奢な馬車に向けて挨拶をすれば、馬車に添えつけられたカーテンを少しずらして姫様が笑顔を向けてくれた。

 あんなことがあったというのに──己が命が危険に晒されたというのに──決して暗い顔をしないその胆力。流石は王家の血筋という事か。

 そう思った時だった。一瞬だけ身体が震える。そこに居たのは

 

「ブルル──」

 

 馬である。

 まごう事なき馬である。

 なんと、馬車に乗っている姫様以外全員馬に乗っていたのだ。

 蒼の薔薇は当然。クライム君の姿は見えないが恐らく姫様と一緒に乗っているのだろう。ガゼフ・ストロノーフは御者なのだろう。そして俺の馬なのだろう、一頭だけ乗っていない馬が居た。

 

(これに乗れってことなのか──)

 

 無理だ。乗馬などしたことがない。視線が合った瞬間、馬がたたらを踏んだ。明らかに俺に怯えている。馬は敏感な生き物だとブループラネットさんが言っていた。恐らく俺の正体に気付いているのだ。

 だが乗らねば先へは進まぬ。俺だけ走っても良いのだが、周囲は許してくれないだろう。意を決して近づいたその時だった。

 

「モ、モモン様ぁ!?」

 

 『ドン!!』という音がした。馬が蹴ったのだ。後ろ足で。恐怖のあまり攻撃してきたのだ。とはいえ馬程度の攻撃でどうにかできるような身体はしていない。衝撃すらきていないが、馬が後ろ足で蹴ったというのは理解できていた。だが周囲が理解できるわけもないだろう。イビルアイの悲壮な叫びが、壮大な馬の蹴り音と共に穏やかな朝の街に響く。

 

「だ、大丈夫ですか、モモンさん」

 

 蒼の薔薇の面々も顔を青くして、俺のことを心配してくれているようだ。その程度は皆の信頼が稼げているようで安心した。が、そんなことを言っている場合ではないだろう。

 

「大丈夫ですよ、皆さん。私は馬に嫌われる体質でして──馬が怖がって乗れないのですよ──ん?」

 

 木を隠すなら森の中。真実を混ぜながら嘘を話す。後方から感じる視線は恐らく姫様だろうか。凄い見られているのは何故なのだろう。

 するとその時だった。何かが遠くからこちらに近づいてくる。急速に。だが厭な感じはしないということは恐らく仲間。だが感じたことのない波動なのに何故か知っている感じがする。そんな不思議な波動を持つ者が近づいてくる。

 俺の異変に気づいたのだろう皆が、俺が見た方を見た瞬間だった。

 

『うわぁぁ!!アンデッドだぁぁぁ!!!』

 

 穏やかな朝の風景が一転して阿鼻叫喚に変わったのだ。気付いた町人が我先にと叫び声を上げながら逃げ始めている。遠目に見えたのは──

 

「あれは──首無し騎士<デュラハン>!?」

 

 そう、首無し騎士<デュラハン>だった。物凄い勢いでこちらに向かってきている。だが、それは敵ではない。急いで城門を閉めようとする兵たちを止めねばならない。

 

「待って下さい!あれは敵ではありません!!」

 

 突然のアンデッドの登場に驚いたのだろう。兵は俺の言う事には耳を貸さずに閉め続ける。だがこのままでは閉めてしまうよりも、首無し騎士<デュラハン>が到着する方が早い。分かりやすく言うならば、首無し騎士<デュラハン>にこの罪もない兵たちが轢かれてしまうのだ。

 大急ぎで彼らの元に走り、大急ぎで門を開く。少しばかり兵が吹き飛ばされてしまったが仕方ないだろう。俺とは違い、アレは恐らく人間に対して容赦がないだろうから。邪魔するやつは皆牽き殺してしまう。それではだめなのだ。全てが御破算になってしまう。

 

「も、モモンさん。あれは──」

「恐らくアインズ・ウール・ゴウンの使者ですよ」

 

 その言葉が正しいとばかりに、門を通り過ぎ兵を俺ごと飛び越えた首無し騎士<デュラハン>が勢いを殺しながら数歩進むと、ゆっくりとこちらに転換して降り──

 

(ちょっとなんで俺の前で膝付いてんのぉぉ!?)

 

 そう、俺の前で傅いたのだ。近くまで来てくれたお蔭でコイツのマスターは理解できた。パンドラズ・アクターだ。アレが恐らく俺の姿になって召喚したのだろう。それはいい。だが、なんでこんな体勢しているんだ。バレるだろう。これで『アインズ様』とか言ったら

 

「偉大ナルあいんず様──」

(言っちゃったよおいィィィ!!!!)

「──ヨリ、英雄ももん様ヘ。足ヲ用意致シマシタ。オ使イクダサイ」

 

 良かった。終わってなかった。首の皮一枚で繋がった。骨しかないけど。首無し騎士<デュラハン>はそれだけ言うと、すぅっと空気に解けて行った。残ったのはあれが乗っていた首無し馬だけだ。そう、パンドラズ・アクターが気を効かせて馬を持ってきてくれたのだ。俺が乗れる馬を。

 脳裏にドヤ顔でサムズアップしているパンドラズ・アクターが浮かんだ。今回だけはお前が輝いて見えるよ。

 

「街の皆!朝から驚かせてすまなかった!こいつは私が世話になっているアインズ・ウール・ゴウンの配下だ。何も問題は無い!」

 

 大きい声で言ったお蔭か。腰を抜かせて倒れていた兵たちも立ち上がり、警戒はしているもののもう叫び声を上げているものはいない。だがアンデッドだからだろう。だれも近づこうとは──

 

「まぁ、立派な馬ですね!」

「ひ、姫様!?」

 

 居たよ。

 姫様は臆する事なく突然馬車から下りて首無し馬を触り始めたのだ。

 クライム君も転がり落ちるように馬車から下りてくる。

 

「ほらクライム、貴方も触って見なさい。とても大人しい子よ。それに、触ったことのない不思議な感触だわ」

「ひ、姫様──」

 

 本当にフリーダムな子である。怖い物などないのだろうか。楽しそうに首無し馬を触ったり頬ずりしたりしている。首無し馬の方は大して気にしていないのか。されるがままだ。アンデッドであるが故に命令されない限り攻撃しない。例えそのまま倒されたとしても動くことすらしない。それがアンデッドだ。

 

「うわぁ、普通の馬より大きいのね。視線がとても高いわ。でもどうやったら動いてくれるのかしら?」

 

 とうとう周囲の手を借りて姫様は首無し馬に乗ってしまっていた。手綱を持って歩かせようとしているのか、揺らしたり引っ張ったりしている。クライム君は相当心配しているのだろう『危ないですよ』と頻りに馬の回りをうろうろしている。

 

「モモン様、この子どうやったら走るのかしら!」

「あぁ、はい。『軽く一周してあげなさい』」

 

 あまりにも突拍子の無い姫様の行動に気の抜けた俺は軽く言ってしまっていた。すると言葉に反応し、『ヒヒン!』と嘶<いなな>いて軽く走り始める。一周するために。だが俺は一周を『どこ』とは言っていなかった。そう──

 

「あはははー!とっても早いわークライムぅぅーーー───」

「ひ、姫様ぁぁぁ!!!」

 

 恐らくこの王都を一周するために走り出したのだ。皆があまりのことに唖然とした瞬間、もう豆粒ほどの大きさになるほどの速度である。振り落とされたらどうしようとかそんなレベルの話では無い。あんなの掴まっているだけでも難しいだろう。

 

「あぁ、姫様ぁ!!」

 

 もう泣き声の様になってしまっているクライム君の頭に『ぽん』と手を置いた。大丈夫だと。だがそれが分からないクライム君は俺を睨んでくる。

 

「モモン様!姫様に何かあったらどうされるのですか!!」

「いや、大丈夫だろう。ラナー姫は普通に乗っておられたからな」

 

 そう、遠目でも見えたのだ。普通に乗っていたラナー姫が。それにガゼフも気付いていたのだろう。馬車から下りてクライム君の肩に手を置いている。

 

「しかし王都一周でなくても良かったのではないですか、モモン殿」

「俺としてはこの辺りを軽く回ってもらうつもりだったのですが、恐らくあの馬にとってこの辺りという括りが王都程度だったのでしょう──戻ってきましたよ」

 

 そういうが早いか、今度は反対側から姫様を乗せた首無し馬が見えてきた。本当に早いな。当然だが、姫様は何も問題なく乗っているようだ。

 

「姫様、大丈夫ですか?」

「えぇ、何も問題ないわ、クライム。凄く早くて楽しかったわ!まるで風になった気分よ。それにとても賢いのね。私が落ちない様に上手く走ってくれるんですもの」

 

 まさかここまで大好評になるとは思いも依らなかった。これなら帰りに首無し馬を数頭上げても良いかもしれないな。そう思える収穫である。

 

「さ、さぁ行きましょう。ナザリックへ!」

 

 何とか騒動から落ち着いたのか、ラキュースが音頭を取って王都を出ることになった。

 姫様はどうやら首無し馬が相当気に入ったようで『このまま行きたい』と我儘を言っていたが、何とかクライム君の説得に渋々応じて馬車に乗ってくれている。

 俺は当然首無し馬である。怖がってくれない。逃げてもくれない。何も言わず俺の言う事を聞いてくれる素晴らしい馬に。本当にいい子である。アンデッドであることだけがデメリットである。そのデメリットに目を瞑れれば──

 

(食事も世話も要らない。疲れることすらない最高の足なんだよな)

 

 主人以外の言葉は基本聞かないから盗まれることもない。これ程良い乗り物があるだろうか。

 これは、ラナー姫を通してリ・エスティーゼ王国に売りだしても良いかもしれないな。そういう事を楽しく考えながら。一路、俺たちはエ・ランテルに向かうのだった。

 蒼の薔薇の、何とも言えぬ視線に気付くことのできないままに。








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