漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】   作:疑似ほにょぺにょこ
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3章 ナザリック 襲撃編ー6

「ふははは!見るが良い!愚かな襲撃者共が──まるでゴミの様ではないかっ!!」

 

 あぁ楽しい。凄い楽しい。中空に映し出されるナザリックの2Dマップと遠隔視の鏡<ミラー・オブ・リモート・ビューイング>によるリアルタイム映像を見ながらテンションが抑えられながらもなお、上がり続けている。

 

「おっとそこは行き止まりだぞ。道があるように見えるのはただの幻覚だぞ。行き過ぎればスライムに絡め取られてしまうぞ。フフフ」

 

 遠隔視の鏡<ミラー・オブ・リモート・ビューイング>を操作しながら独り言を呟いていると、傍から見れば奇妙なダンスを踊りながらブツブツ言っている様に見えるだろう。だがそんなのは関係ない。楽しくて仕方がないのだ。どうせ何かを言ってくる者などここには──あっ!

 

「どうぞ──存分にお続けください、アインズ様」

「いや──あ──ゴホン」

 

 良くよく考えたら、最初から傍にアルベドが居たのだった。まるでスキルでも使っているかのように背景と同化する程の存在間の薄さにまるで居ないかのような感覚に陥っていたが──まさかそれ程の技能を持っていたとは。テンションが上がり過ぎていて単純に忘れていたわけではない。決して。

 

「各所の様子はどうだ、アルベド」

「はい──想定以上の弱さに多少の不満は出ているようですが、概ね計画通りかと」

 

 取り繕う様にアルベドに聞けば、先ほどの俺の奇行はまるで無かったかのような態度を取ってくれる。だが今だけはその優しがとても辛い。知っているが故の敢えて外すという優しさが。続けて『そういえば!』と手を鳴らして話題の転換まで始める始末。あぁ、アルベドよ。いっそ思い切り笑ってくれた方が救われる時もあるのだぞ。

 

「アインズ様、ニニャとアルシェが参加させてほしいと言っていましたが、どうされますか」

「あの二人か──」

 

 言われて二人を思いだす。そういえば今ナザリックには人間が居たな、と。ツアレの妹であり、通常よりも早く魔法を習得出来るらしいタレントを持つニニャ。己が妹の為に全てを捧げた、相手の魔法力を探知したり魔力系魔法詠唱者に限るが第何位階魔法まで扱えるかを判別できるタレントを持つアルシェ。ニニャには、かつて俺が助けたンフィーレアに使われた叡者の額冠からヒントを得て作った叡者の額冠・改を身に付けてもらっている。マーレの話では現在第九位階魔法まで扱えるらしいが、大丈夫だろうか。アルシェはまだ来たばかりで魔法の習熟に重点を置いているためにあまりいい装備を渡していなかったはずだ。

 

「アルベド、アルシェには何を持たせていた」

「アインズ様の命によりパンドラズアクターより渡されましたグレート・スタッフ・スペシャルとウサギの速さの外套<クローク・オブ・ラビットスピード>・改です」

「あれか──」

 

 杖は宝物殿の隅に落ちていた大した物でもない普通の物だし、マントはラキュースが装備しているのをコピーして作った物だ。俊敏性や回避速度を底上げするよくある装備なのだが、どうもいまいち良い効果にならなかったためにお蔵入りしていたもの。ラキュースの話では見た目以上の効果があると言っていたから恐らくは相当なものなのだろう。脳裏に浮かぶのはあの思わず殴りたくなるような彼女のドヤ顔。あれならば常時50%アップは固いだろう。常時30%しか上がらない半端品だったなぁ。

 

「二人──だけでは危険だな。ふむ──ハムスケを同行させろ。あいつの所にはデスナイトも一体居たはずだから大丈夫だろう」

「はい、ではそのように」

 

 

 

 

 

「鬼ボス、その外套はどこで手に入れたの?効果を発揮するとき少し早くなってる気がするけど」

 

 エ・ランテルへ戻ってきて早数日。ナザリックでの緊張はどこへやら。どうやってナザリックへ戻ってモモンさんの手伝いをしようかとやきもきしているというのに、こいつらは呑気に茶なぞ飲みよって。

 そんな私の苛立ちなど我関せずとばかりにティナがラキュースの装備に付いての話が上がっている。

 

「え?あぁ、ネズミの速さの外套<クローク・オブ・ラットスピード>のことね。魔剣程じゃないけれど、こんな大物がごろごろとその辺りに眠ってるわけないでしょ。うちに代々伝わる由緒正しい装備よ。効果を発揮すると一時的にだけど俊敏性や回避速度、移動速度まで上がるのよ。体感では10%ってところかしら。オークションで買うなら、庭付きの屋敷が執事メイド付きで買えるわよ」

 

 すごいなアレンドラ家。魔剣も厄はあれど凄まじいものだが、そのような装備まであるとは。一瞬とはいえ、自身のあらゆる速度が1割もあがるとは──かの六大神が齎した装備だったりするのだろうか。

 

「あぁ、そういや会った頃から付けてたっけな。貴族様ってのはそういうモンも溜め込んでんのか」

「さぁ──他の所は知らないけれど──」

「なんだい、随分シケたツラしてんじゃないか」

 

 全員が弾かれる様に立ち上がる。まるで心を一つにしたかのような流れるような動きだった。視線の先に居たのは──

 

「どうしてここに──」

「いいから座んな。わしは長旅で疲れているんだ」

 

 驚く私達を気にも留めず、隣のテーブルから椅子を持って来て『よいしょ』という小さな声と共に座る。その姿は年相応の老婆。だが、彼女は──かつて私を笑いながらボコボコにした常識外の存在。

 

「リグリット──」

 

 

 

 

 

「リグリット・ベルスー・カウラウ──ですか?」

『あぁ、かつて十三英雄の一人。人間族のクセに死者使い<ネクロマンサー>を名乗っているという愚者ですよ』

 

 ナザリックが襲撃されるという大事。だというのに戻らぬデミウルゴスに苛立ちを覚えた私は至高の御方であらせられる私の愛しきアインズ様の元を離れて《メッセージ/伝言》をデミウルゴスに飛ばしていた。だがデミウルゴスは帰ってくる様子もなく、自分で立てた計画を遂行し続けると言う。それは不敬ではないかと思ったものの、口には出せない。デミウルゴスの忠義はナザリックの中でも相当に高い。彼の行動指針は常にアインズ様が中心にあるのだ。そのデミウルゴスが、アインズ様を楽しませるための、と口上を宣うのだから相当なものなのだろう。であれば邪魔するわけにはいかない。どうやら直接ではないものの、アインズ様にそれとなく指示を貰ったとも言っていたのだし。

 そんなデミウルゴスから齎された情報が、前の世界でプレイヤーと呼ばれる強者の中でも王たる資質を持つ者のみが所持することを許されると言われる『ギルド武器』を探しているというのだ。当然至高の御方であるアインズ様の元にもギルド武器はある。

 『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』アインズ様の至高且つ最強の武器。その力は凄まじく、もし破壊されでもしたらその余波はこのナザリックにまで及ぶとされている。そのためアインズ様はまず絶対に外に持ち出されることは無い。直接使用されることすら滅多にない。それほど凄まじい武器を探し求める者が居るとは。

 

「早急に殺すべきかしら」

『いやいや、それは早計というもですよ、アルベド。どうやらバックに竜王<ドラゴンロード>を名乗る者が居るらしい。確か白金の竜王<プラチナム・ドラゴンロード>だったかな。随分と柔らかそうな名前だね』

「竜王<ドラゴンロード>──それなりの強さはありそうかしら。ならば、泳がせた方が良いかもしれないわね」

『えぇ、居場所も既に特定も終わっていますよ。大きな身体には似合わぬ小さな小屋で縮こまっているようですね』

 

 ギルド武器を探している人間に竜王<ドラゴンロード>。どのように料理すればアインズ様はお喜びになるのか。脅威などとは欠片ほども思っていない。竜王を冠する者など前の世界で幾らでも斃しているのだから。

 

「シャルティアを洗脳した輩との関連性はありそう?」

『いえ、私独自のルートから入手した情報によれば、どうやらスレイン法国が怪しいですね。竜王<ドラゴンロード>やギルド武器を探している人間とは全く関係ないようです』

 

 スレイン法国。何かとキナ臭い情報ばかりが集まってくる。早速情報を集計した方が良さそうだ。流石は元貴族と言うべきか、アルシェはこういった他国の情報を多く持っているから非常に助かっている。そういう部分だけは認めて上げても良いのかもしれない、と時折思うのは精神が少し丸くなったからなのだろうか。

 

「お前は笑っていた方が良い──かぁ──くふふっ」

 

 気付けば《メッセージ/伝言》の効果が切れている。まぁ既に必要な情報交換は終わっているのだから繋げ直す必要もない。緊急性のある話があるならば今度はデミウルゴスから繋げてくるだろう。

 本当にこの襲撃には感謝しかない。気分が高揚されたアインズ様は無意識なりにも私を抱き寄せてくださったのだ。この世界に来て一番の出来事と胸を張って言えるだろう。

 

「あぁ、その先を──御寵愛を頂けるのは何時なのかしら」

 

 走る疼きに震える身体を抱きしめて、愛しきあの方を想う。なんと素敵な一時か。だがこんなことをしている場合ではない。扉の向こうには愛しき方が──アインズ様が私を待っていらっしゃるのだから。

 

 

 

 

 

「むおっ!?」

 

 ゾクリと身体を走る怖気に思わず身体が震えてしまう。何事かと周囲を見回すも──護衛のシャドウデーモン以外は──誰も居ない。アルベドもデミウルゴスと話すために一旦ここを出て行っているので居ないのだが、一体何だったのだろうか。

 再び遠隔視の鏡<ミラー・オブ・リモート・ビューイング>に視線を戻すと、丁度アルシェが嬉々とした表情で襲撃者を撲殺している所が映っている。どうしてこう、うちの杖を持つ人は撲殺したがるのだろうか。マーレも顔に似合わず恐ろしい速度で杖を振り回すし。

 ニニャの方も──叡者の額冠・改も使用には問題なさそうだ。本人はまだ第五位階魔法を習得した程度だったはずだが、叡者の額冠・改のお蔭か第九位階魔法であり、俺の得意魔法でもある《グラスプ・ハート/心臓掌握》を難なく使いこなしているようだ。新しい魔法が使えるようになったからだろう、ニニャの方も掌の上に現れた相手の心臓を嬉しそうに握り潰している。

 

(やっぱり新しい魔法が使えるようになるとテンション上がるよなぁ)

 

 まだまだ《マキシマイズマジック/魔法最強化》や《ツインマジック/魔法二重化》を重ねることは出来ない様だが、いずれは出来るようになるだろう。意外とあの叡者の額冠・改は魔法習得の一助になっているのかもしれない。暇を見てもう一つ作って、アルシェに渡すのも良いだろう。

 

(今回の襲撃でそれなりに倒しているようだし、報奨ということで渡してもいいかもしれないな。信賞必罰として)

 

 そういう意味ではニニャにも何かあげたいところだが──

 

(お、デミウルゴスとの話は終わったようだな)

 

 何やら笑みを隠すような、嬉しそうな表情をしているアルベドに笑みを浮かべてしまう。デミウルゴスから何か良い話でもあったのだろうか。最近デミウルゴスを見ないが身体は大丈夫だろうか。病気はしてないだろうか。便りがないのが良い便りとはいうものの、心配になってしまうこともままある。だが彼女の笑みからすればデミウルゴスは元気にやっているようだ。何をやっているのか知らないが。もう一度言うが、俺は知らない。だというのに──

 

(なんでデミウルゴスは俺に行動の殆どが筒抜けだなんて思っているんだろう。そんなわけないのになぁ)

 

 俺のために楽しい──まぁ、あくまでデミウルゴスの基準でだが──イベントを必死に考えてくれているのだろうからあまり邪魔はしたくないというのが本音だ。

 さぁ、無駄な考えは止めてアルベドの話を聞こう。きっとデミウルゴスが何をやっているか、全貌は掴めずとも片鱗くらいは微かに見えるかもしれないから。

 








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