漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】   作:疑似ほにょぺにょこ
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3章 ナザリック 襲撃編ー5

「襲撃者──このナザリックに侵攻を開始しました。数──192名。少し後方に離れて蒼の薔薇のチームが居るようです」

 

 しんと静まり返った謁見の間にアルベドの凛とした声が響き渡る。いつもと同じ優しい笑みを湛えるアルベドだが、その瞳は強い怒りが見え隠れしている。俺にとっても業腹な所業ではある。だがそれよりも喜びの方が強い。

 

「ク──ククク──アルベドよ。襲撃者どもを静かに待ち受けよ。全員受け入れ、ただの一人も返さぬようにな」

「はい、アインズ様」

 

 遠隔視の鏡<ミラー・オブ・リモート・ビューイング>を利用し、ナザリックの入り口付近へと視点を移動させると、ゾロゾロと襲撃者たちがナザリックへと入って行くのがはっきりと映し出された。

 

「クハハハハ!愚かなる侵入者よ!愚鈍なる襲撃者よ!ナザリックは貴様たちを受け入れよう。対価は貴様らの命だ!絶望を抱きながら悔い、苦しみ抜いて死ぬが良い!」

(こういう魔王然とした悪役ロールも楽しいよなぁ…)

 

 さぁどうやって甚振ろうか。どうやって嬲ろうか。どうやって苦しませようか。簡単に死なせるなど勿体ない。まずは気付かれぬ様にそっと入り口付近に一方通行の罠<ワンウェイ・トラップ>を設置する。これで入れるが出れなくなる。ユグドラシルでは単純に出れなくなる罠というのはシステム上作ることが出来ないようになっていた。こちらでもその可能性があるので時限式にしてある。半日もすれば罠が解除され、再び自由に行き来出来るようになる。が、半日持つ者達が一体どれだけいるのやら。

 

 

 

 

「すげえ──宝の山じゃないか!!」

 

 我先にと先行した冒険者の一人が喜びの雄叫びを上げているようだ。モンスターに気付かれることも分からないのだろうか。

 光るものを足元に見付け、拾い上げてみれば見たことのない金貨が落ちていた。美しい紋様が刻まれており、何よりも通常の金貨よりずっと重い。試しにと噛んでみるが歯形が付く様子もない。恐らく魔法で綺麗に形成されているのだろう。重さから換算するに、恐らくはほぼ純金。鋳潰したとしても通常の金貨の2枚程度の価値がある。何よりもこの意匠だ。美術的価値も出ればそれ以上の価値が出るだろう。

 

「見ろよこの旗!ただの糸じゃないぜ!」

 

 また別の冒険者だろう、興奮した面持ちで横に立て掛けられた旗を指さしている。どうやら魔法のかかった糸と、金を含む様々な貴金属を織り込んで作ってあるようだ。こちらにも魔法がかかっているようで、遺跡のようなダンジョンだというのに──年月を感じるというのに綻びた様子もない。この旗一つで一体どれだけの価値があるのか。普通の冒険者家業をやっているものなら、家族を含めて一生遊んで暮らせる程度の価値はありそうだ。

 

「ンな嵩張るもん帰りで良いだろ」

 

 俺と同じく目聡く足元の金貨を見付けたのだろう、興奮する男の知り合いらしき男が数枚の金貨を弄びながら奥へと促している。確かにそうだ。まだ入って5分すら経っていない。この先にどれ程の財宝が眠っているのか想像するだけでわくわくするが、同時に恐怖も感じる。

 

(これだけの財宝が手付かずで残っているのはどういうわけだ?)

 

 これだけの価値のあるものが転がっているというのに、『これは俺のだ』『いや俺のだ』そんな奪い合いすら起きていない。皆が奥へと意識を向け続けているからだ。

 『焦る冒険者は貰いが少ない』という諺がある。焦ってそこそこのものを必死にかき集めるような冒険者は安い報酬で満足するしかないが、先を見据えて奥の財宝を見付ける冒険者は一攫千金を手に入れることが出来るというもの。

 

(じゃあ俺は焦る方か?──いや、違うな)

 

 もう俺の袋の中がそこかしこに落ちている金貨や指輪らしき小さなもので一杯になってきているが、それを焦っているからだとは思っていない。

 そもそもだ。既に先には50人以上のメンバーが先に進んでいる筈なのに、混まないのはどういうことだ。通常のダンジョンならばこれほどの規模で攻略すればあっという間に渋滞が起きる。先へ先へと進むやつばかりじゃないのだ。執拗に周囲を探索するもの。モンスターが隠れていないか調べるもの。人数の多さに気が太くなってバカ話を始めるものなどが渋滞を引き起こす。だがどうだ。それなりの道幅こそあるものの、一切の渋滞が起きないというのは明らかにおかしい。

 

「おいお前、先に行かないのか」

「ん、おう。俺はまだこの辺りに居るわ」

 

 近くに居たワーカーチームがご親切に話かけて来た。どうやら俺のような危機感を感じて居るものはまだ居ないようだ。『そうか』と短く返事をすると、さっさと先へと──

 

(まて、落ち着け。ここが薄暗いからそう感じるだけだ。今の奴らはほんのちょっと先に居るだけだ!)

 

 そう、今し方話かけて来たワーカー達が見えない。気配がない。どこへ行った。いや、彼らだけじゃない。先に行った奴らは皆どこへ行ったんだ。

 声が聞こえない。足音も聞こえない。罠にかかった感じでもなさそうだ。じゃあどこに消えたと言うんだ。

 

「お先にー」

 

 若い女のワーカーを含むチームが俺を抜いて先へと進んでいく。

 一歩。二歩。三歩。四歩。五歩。六歩──消えた。

 

(ある。この先になにかがある!)

 

 足元から『ザリッ』と石を噛む音がする。無意識に後ずさってしまったのだ。だがもう遅いと理解した。理解してしまった。

 

「クソッ!!」

 

 後ろを振り向けば、そこにあるのは薄暗く長い通路。長い長い先の見えぬ通路。ここまで奥に来たつもりはない。そう、この先に罠があるのではない。既に罠にかかっていたのだ。

 時折冒険者やワーカーに会っていた事を鑑みるに、ランダムに瞬間移動させられているのだろう。それも、一方通行で。

 

(柱に付けた印がずっと並んでやがる)

 

 昔の癖で5本に1本づつつけた小さな印が、全ての柱についているのが見えた。つまり、後ろへは絶対に戻れないということ。

 先を見据えながら柱に印を付けてみるが、先の柱には印が付いた様子はない。

 

(先に進むしかないのかよチクショウ)

 

 ふと金貨の入った袋に視線が落ちる。まさかこれか、と。柱の元に袋をひっくり返すと『ジャラッ』という音と共に、決して少なくない量の金貨や貴金属製品が出てくる。二・三度袋を振って顔を上げると──

 

(ビンゴ!さながら強欲の迷宮って事かよ)

 

 ずらりと並んでいた印の付いた柱達は消え、奥にうっすらと曲がり角が見えた。幻術か幻覚か。このダンジョンにあるものを持っていると効果のある罠なのだろう。だから入口から金貨が落ちていたわけだ。

 『ほっ』とする胸の内を抑えながら辺りを見回す。今緊張を抜くわけにはいかないと。何しろ『後方に居るはずのワーカーが見えない』のだから。つまり、俺はずっと幻覚なり幻術なりがかかったまま進み続けたのだ。今俺はどこに居る。少なくとも今入口から数分の所に居るなどという楽観視は出来ない。

 

「こんな所に一人居ましたか」

「っ!?──メイド?」

 

 突然後ろから声をかけられ、弾かれる様に振り向けばそこに居るのはメイドだった。眼鏡をかけて、緑色の手甲をつけた不思議なメイド。こんな目立つ格好をした奴はいなかったはずだ。だとすれば、ここの住人である事は間違いない。

 

「す、すみません。迷い込んでしまいまして──出口はどちらなのでしょうか」

「出口──ですか。あちらですよ」

 

 下手に出て話掛ければ、あっさりと教えてくれた。まさか奥だと思っていた方が出口だったとは。

 俺は大急ぎで走り始める。だがここで走らなければ──

 

「最も、あなたにとっての出口かはわかりませんが」

 

 あのメイドの最後の言葉を聞く事が出来ていれば俺は生きてここを出られたかもしれない。いや、ここに入ったら最後、もう出られないようになっていたのかもしれない。

 

「な、何だよこれ!?」

 

 一分ほど走って通路を『出た』先にあったのは一面の銀世界。いや、そんな生易しいものではない。全てが凍り付いた極寒の死の世界だった。

 俺はいきなり北の僻地へと飛ばされたのか。そんな長距離を一瞬で?こいつはヤバいと思い、後ろを振り返り通路へと戻ろうとした瞬間だった。いつの間にか目の前数メートルの所に巨大な蟲のような何かが立っていたのだ。

 

「我ガ領域ヘトヨクゾ参ッタ、襲撃者ヨ」

「畜生!逃──なんで通路がねえんだよ!?」

 

 底知れぬ恐ろしさを感じ、通路へと逃げ込もうとする。だがまるで最初からなかったかのように後ろには通路などなく、前方と同じ白銀の世界が広がっているだけだった。

 

「サァ襲撃者ヨ。オ前ノ輝キヲ見セテクレ」

「チクショウ──チクショウーーーーー!!!!!」

 

 モンスターの中には領域を支配し、内部に侵入した者を逃がさない能力を持つ者が居るという。そこから出るには、その領域を支配した者を倒すしかない。俺一人で。ここは極寒の地。居るだけでみるみる体力が奪われて行く。半日どころか一刻すら持たないだろう。一秒でも早くコイツを倒さないと。どの道を辿ろうとも俺に待つのは死のみ。

 

「ソノ意気ヤ良シ。デハ参ロウカ」

 

 緩慢な動きで蟲は右手?に持つ巨大な槍を振り上げる。するとどうだろうか。世界が回り始めたのだ。くるくる。くるくると──

 

「コノ程度カ」

 

 

 

 

 

「やはり予想通りだったな」

「退却支援メンバーの数は16名。逃げた奴は居ない」

 

 冒険者やワーカーがナザリックへと進行したのを見計らって準備を始めた私は、ティナとティアを連れて後方で残った者達を殺して回っていた。事前に調べた通り戦闘に向いた者は殆ど居らず、最初に倒した二人だけ。後は飯炊き用、テント等の回収用のワーカーのみだった。さっさと殺し、数を数え、森に捨てる。もう襲撃犯は皆中に入ったからここは見えない。テントを焼き払って、こちらもナザリックへと足を向けた。

 

「《メッセージ/伝言》──モモンさん、後方待機組の処理は終わりました。後はナザリック内部に入った者達だけです」

≪そうか。蒼の薔薇のメンバーにも感謝していると伝えておいてくれ≫

「はい、それで──私達もナザリックへと向かいます。内部には入らず、入り口で待機して出てきた者を──」

≪既に入り口の封鎖は完了しているから大丈夫だ。むしろ近づかれると敵と認識される恐れがあるから危ないぞ。お前たちは気を付けてエ・ランテルに戻ってくれ≫

「────はい。モモンさんもお気を付けて」

 

 意気込んで行こうとするも、出端をくじかれてしまった。まさかもう封鎖が終わっているなんて。もう、本当に出来ることは無いのか──

 

 

 

 

 

「いやー中々の手際っすねー。エンちゃんがやられたのも納得って感じっすね──って、もう食べ始めてるっすか」

「人間のお肉は新鮮な内が一番美味しいからねー」

 

 アインズ様に帰る様に言われたのだろう。トボトボと帰る蒼の薔薇のチームを、アルベド様の命で森の中から監視していた私とエンちゃんは杞憂に終わった事に胸を撫で下ろしていた。

 演技なのかどうなのかは知らないけれど、アインズ様が冒険者モモンとして親しくしている人たちだ。アルベド様の命とは言え出来るならば殺さない方が良いだろう。怒って恨みを抱いていたはずのエンちゃんもまるで掌を返すように態度が一変したのだし。

 

「そういえば、アルシェちゃんの声は調子いい見たいっすね」

「うんー、ただユリ姉さんが『同時に喋ると聞き辛い』って言ってたー」

「あはは!全く同じ声っすからねー」

 

 新しくナザリックに入ったアルシェちゃん。私やエンちゃんは妹ちゃんたちとも仲良くさせてもらって居るのだが、まさかエンちゃんのために自分の喉を食わせるとは思ってもみなかった。

 『自分に出来ることはまだないから』と、怖いだろうに口唇蟲を喉元に付けた時の顔は覚悟極まっていた。それだけの覚悟でいるならば、仲良くしてあげたい。そう思って時間を見つけてはエンちゃんと共にアルシェちゃんの元に足繁く通っている。

 

「エンちゃん、二人の妹ちゃんに凄い懐かれているっすよねー」

「うんー。声が全く同じだからかもねー」

 

 10人以上の死体がみるみる無くなっていく。一体、この小さな体の何処に入っているのだろうか。

 

「食べきれない時は言って良いっすよ。一緒に持って帰って上げるっすから」

「大丈夫だよー。あ、でもちょっと太っちゃうかも」

「うはは!大丈夫っすよ。アインズ様はそんなエンちゃんでも好きで居てくれるっす」

「えー。えへへーそうかなー」

 

 『ぱりぱりぱきぱき』子気味良い音を立てながら咀嚼する音が少しだけ早くなる。おや、と視線を向ける。もしかしてもしかするのか、と。この小さな妹も、恋を知る歳になったのかと。

 

「一杯食べて、大きくなるっすよ、エンちゃん」

「うんー」

 

 遠く小さくなっていく蒼の薔薇のメンバーに視線を送りながら、私は可愛い妹の頭を優しく、優しく撫でるのだった。

 

「けぷっ──お腹いっぱい」

(まだまだ花より団子みたいっすけどねー)




エントマちゃん書いてる時が一番楽しいですねっ







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