漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】   作:疑似ほにょぺにょこ
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3章 ナザリック 襲撃編ー3

 モモン等がアルシェと話している頃。蒼の薔薇のメンバーはナザリック襲撃の冒険者達への説得に走り回っていた。

 既に陽は高く、昼食にと一度集まったはいいもののあまり良い表情をしているものは居ない。

 

「一応、どうだった。と聞くべきかしら」

「難しい所だね。王国の顔見知り共はさっさと帰らせたけど」

「同じく。アダマンタイト級という名前だけでは中々上手くいかない」

「法国の方は顔見知りが居たから私の方で何とかしたが、まず間違いなく不審に思われただろうな」

 

 ガガーランは王国の、私とティナとティアは帝国の、イビルアイには法国の冒険者達への説得に向かったものの、あまり良い状況とは言えなかった。王国の冒険者は確認できただけでも粗方帰って貰う事は出来たものの、帝国はほぼ全員残り。法国はどうにか帰って貰えることになったものの、元聖典の関係者が居たらしく『報告させてもらう』と言われたようだ。

 これで何とか帝国だけに出来たと言うべきか、『殆ど減らす事が出来なかった』と言うべきか。主体であるバハルス帝国の冒険者やワーカー達が全く減っていないというのは、やはりラナーの言う通り帝国の上が絡んでいる──恐らくは王であるジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが指令を出したというのはまず間違いないのだろう。

 

「まさかパルパトラのジジイや天武のエルヤーまで来ているとは思わなかった」

「ティナ、やはり彼らは──」

 

 私の言葉にティナがはっきりと頷く。パルパトラ老公の居るチームと天武のチーム。強さもさることながら、一番大きいのは上位貴族と繋がって居ることだ。だとするならば。

 

「フェメール伯爵が間違いなく動いている。でもフェメール伯爵の独断とは考えられない」

「──確定、ね」

 

 よく王都から一歩も出ずにここまで情報を集めて先を見通せるものだと、思わず身体に寒気が走る。どれ程の深謀を持っているのか、ラナー姫殿下は。これで今回の襲撃は帝国の王主導の元に行われていた事が確定になったわけだ。だとするならば、最高位冒険者とはいえ、ただの冒険者『風情』に止められるはずもない。

 

「私達が出来るのはここまでという事だな──っ!!」

 

 さて、これからどうするべきか。そう思ったときだった。いち早く気付いたのはイビルアイ。まるで弾かれる様に酒場の入口に視線を送る。次に気付いたのはティアとティナの二人だ。素人目からは3人はほぼ同時に入口に視線を向けたように見えただろう。まぁ誤差の範囲という事にもなる。

 件の入り口から現れたのはモモンさんとナーベさんだった。結果を彼らに話すのは少々辛い所ではあるのだが、現状唯一アインズ・ウール・ゴウンと繋がっている彼らに報告しないわけにはいかない。

 

「どうでしたか」

 

 あまり状況は芳しくないということは雰囲気で感じて居るはずなのに。努めて軽く、まるでいつも通りのように私たちに話しかけてくれる。ティナとティアが隣から椅子を持ってきてくれたので、席を詰めて二人に座って貰う事が出来た。イビルアイがいち早く席を動かし始めたので、自然と彼女と私の間に二人が入り座る事になる。本当に乙女である。

 

「状況はあまり良いとは言えません。ラナーの──ラナー姫殿下からの手紙の読み通りとなってしまいました」

 

 

 

 

 

 

「ラナー姫の、ですか」

 

 気落ちするラキュースさん達とは裏腹に、俺は喝采していた。どうやって喜びを抑えようかと思う程だ。感情を常に平坦にしてしまうアンデッドの能力に感謝だ。

 彼女の話によれば、どうやら今回の騒動は帝国そのものが関与しているとのことだ。つまり、あくまで冒険者である彼女達にはどう足掻いても止められないという事。運良くなのかは分からないが、王国と法国の冒険者は上手く帰らせる事が出来たらしい。それは惜しいことをしてくれたものだ。

 

(聖典と呼ばれる法国の機関の元従事者が居たとはなぁ──良い情報源になりそうだったんだけど、まさか呼び止めるわけにもいかないし。帰り道を襲う理由も作れそうにない。話の感じではそれなりに強いみたいだから、帰り道すがらモンスターに襲われて全滅したとするわけにもいかなそうだし)

 

 『ふぅ』と軽くため息をつてしまうが、話の流れ上問題なかったのだろう。彼女たちに不審がる表情が浮かび上がる事は無い。法国は今回諦める他ないだろう。

 

(帝国の話が終えたら一度法国に向かうのも良いかもしれないな。次の予定に入れておくのもいいかもしれない)

 

 しかし、帝国の冒険者とワーカーはほぼ襲撃に参加、か。上手くすれば帝国を丸裸にすることも容易いかもしれない。そうすればもう帝国に価値は無い。いつ滅ぼしても問題ないのだ。そもそもそういう行動をとるような国と仲よくしようなどとは欠片も思わない。むしろ、ナザリックを甘く見たツケを取って貰おう。

 ラナー姫の立場を良くすること、蒼の薔薇の信頼をさらに強くすること、ナザリック及びカルネ村を含む周辺地域への自治権──いや上手くすればアインズ・ウール・ゴウンが王国の中枢へと食い込むことが出来そうなこと。今回の事で色々な利点が出てきそうだ。後は帝国を上手く煽って王国に攻め入らせて、徹底的に叩き潰すとしよう。

 上手く事が運べばラナー姫の立場は盤石になるだろう。もしかすればラナー姫が王になるという未来も描けるかもしれない。そうすればナザリックの、アインズ・ウール・ゴウンの完全な味方となってくれる国が出来上がるわけだ。これほど旨い話は無い。

 

(きっとラナー姫ならアンデッドの有用性も理解してくれるはずだ。下位アインデッドを利用した田畑や鉱山の開発、死の騎士<デス・ナイト>の警備、移動には首無し馬、そして死者の大魔法使い<エルダーリッチ>の行政!ブラックな仕事は休む必要のないアンデッド達に任せることで、人間は毎日定時で帰れるホワイトな国が作れる!!)

 

 なんと素敵な言葉だろう。毎日定時。8時に出社し、17時に帰る。ホワイト企業。それこそ俺自身が求める最高の状態だ。朝4時起き?帰りが終電に間に合わない?そんなもの、前の世界だけで十分だ。この世界にはそんなもの必要ない。最高の労働環境だけを取り揃えて、皆笑顔で働けるようにしたい。それをナザリックだけではない。世界の標準にしたい。まずは王国から。

 

(こ、これは堪らない世界が出来そうだ…)

 

 アンデッドを作っても作っても間に合わない!と喜びの絶叫を上げる自分の姿を幻視してしまうほどの嬉しさだ。懐には大量の金貨。そして世界は喜びに満ち溢れる。是非とも実行したい案件である。

 

「──となりました、私達はどうしましょうか」

「っ!──あぁ、そうですね」

 

 いけない考え事が多くなりすぎた。いつの間にか話は終わっていたのだろう。気付けば蒼の薔薇の皆がこちらの表情を伺っていた。

 考え事をしていたとはいえ、こちらはアンデッド。考えながら相手の話を聞くなど無意識下でも問題なく可能だ。えっと確か──そうだ。もう冒険者としてはどうにもならないという話だった。

 

「蒼の薔薇の皆さんにはもう十分してもらいました。これから先は政治的な問題も含みますから、彼に任せるとしましょう」

 

 政治的な問題。素敵な言葉である。これを出すだけで部外者は立ち入れなくなる。そう、王国と帝国。そしてナザリックの三者の話となる。これ以上は冒険者が立ち入って良い話では無い。そうしておいた方が動き易いのだ。

 

「では、私は先にナザリックへ向かい、アインズ・ウール・ゴウンと話しておきます。無論、あなた方──蒼の薔薇のメンバーが精勤してくれたことも含めて」

「あ──はい、ありがとうございます」

「名のあるやつが居るわけだし、名前が無いわけねえとは思ってたが、そういう名前なのか」

 

 立ち上がる瞬間に聞こえたガガーランさんの言葉に『あっ』と思いだした。そういえばナザリックの名前すら言ってなかった。

 

「すみません、紹介が遅れました。かのアインズ・ウール・ゴウンが居るダンジョン名は『ナザリック地下大墳墓』といいます」

「ナザリック──」

「──地下、大墳墓」

「やっぱり、聞いたことが無い」

 

 噛みしめるように皆がナザリックの名を反芻している。が、聞いたこと無いのは当然だろう。最近突然現れたのだから。だけれど設定上1000年以上昔にあったという事にしなくてはならない。

 

「やはりそこは、かつて存在したというナザリック魔導王国の──」

「──そうだ」

 

 上手く深読みしてくれたのだろう。イビルアイがうまくカバーストーリーを考えてくれているようだ。だったら彼女に任せればいいだろう。

 

「では、私はこれで。──イビルアイ」

「は、はい!」

 

 俺は立ち上がり、後ろを向く。良い男は背中で語る。俺自身はそうでなくても漆黒の英雄モモンはそうでなくてはならない。実は単に丸投げしているだけという後ろめたい気持ちを隠すためでは決してない。

 

「お前に話したこと。お前が話していいと思う部分まで全て話していい」

「え──あ──はい。わかりました!」

 

 勢いよく立ち上がったのだろう。イビルアイが居た付近から大きな音を立てながら椅子が倒れた音がする。これでよし。後は上手くカバーストーリーを作って彼女たちに喋ってくれるだろう。ならばここに居る必要もない。

 

「行くぞ、ナーベ」

「はっ!」

 

 お膳立ても出来た。後は、ナザリックで愚かな襲撃者たちを待ち受けるだけだ。

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

 投げたワイングラスが軽い音を立てながら転がっていく。そんな事をしても内に湧き上がる怒りは一向に収まる気配はない。

 

「随分と荒れておられるようですな、陛下」

「ラナー姫だ。あれがやってくれたのだよ!他国の冒険者を上手く隠れ蓑にして事を運ぼうとしたというのに」

 

 本当に、王都どころか王城からほぼ出ない彼女が一体どうやって情報を知り得たというのか。『ギリギリ』と胃と歯が鳴る。あぁ忌々しい。相変わらずの憎たらしさだ。俺の嫌いな女ランキングでも不動の一位で居続けるだけはある。

 

「先ほどワーカーに紛れ込ませている奴からの情報が来たのだ。ラナー姫の息のかかったアダマンタイト冒険者が襲撃をやめるように打診してきたとな。にべもなく断ればあっさりと引き下がったらしいが、間違いなく俺が裏で糸を引いていると確信されただろう」

「ほう、ではどうしますか」

 

 どうするかなど決まっている。知らぬ存ぜぬを貫き、そのままアインズ・ウール・ゴウンをこちらに引き込む。奴が望むなら侯爵の地位をくれてやることも、国を作る事を手伝ってやっても良い。王国からそこまで重用されているのだ。王国などに渡すわけには絶対にいかない。

 

「じい、くどいようだが重ねて聞くぞ。奴は──アインズ・ウール・ゴウンはお前と比べ、どの程度のものだ」

「現状から察しますに、私と同等──と言いたいところですが、少々面白い話を聞きましてな」

 

 面白い話だと。じいの言う面白いというのは笑える話とかそんなものではない。『ごくり』と喉が鳴る。

 

「答えろ、じい!奴は──アインズ・ウール・ゴウンはお前と比べてどの程度の差がある!」

「ほほ。落ち着きなされ、陛下。面白い話と言うのはですな。奴め、伝説の魔法──時を操る魔法すらも扱ったらしいのです。恐らくは《タイム・アクセラレーション/自己時間加速》もしくは──それよりもさらに上位の魔法でしょうな。だとするならば、ふふふ──ほほほほほっ」

「何だ!勿体ぶるな!」

 

 じいの笑みがここまで恐ろしいと思ったのは久しぶりだ。俺のまるで悲鳴のような叫びにじいは目を細めて笑うだけだった。








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