漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】   作:疑似ほにょぺにょこ
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3章 襲撃編
3章 ナザリック 襲撃編ー1


 ラナー姫の依頼──ナザリック地下大墳墓を襲撃する冒険者から守れという依頼を受けた俺と蒼の薔薇のメンバーは、ナザリックにほど近い街──エ・ランテルに到着していた。

 既に各国の冒険者が集まっているようで、活気のあるエ・ランテルがさらに活気づいているように見えた。屋台や露店の数も増えており、新規の客を呼び込もうと宿屋の案内人達もそこかしこで冒険者たちに声を掛けている。

 俺達はあまりの人混みに辟易し、早々に世話になっている宿屋──黄金の輝き亭へと足を向けていた。

 流石は一線を画す老舗の高級旅館だけあって、流石に中は然程混んでいない。いくら宿が取り辛いとはいえ、他と桁一つ違うこの宿を気軽に利用できる冒険者などそうそう居ないのだろう。

 あまりの人混みに疲れたのか、隣に居るイビルアイが宿屋に足を踏み入れた瞬間『ほぅ』とため息を付いていた。有名な蒼の薔薇のメンバーであるが故に周囲からの視線は多いものの、近づくものは居ないのが幸いか。まぁ一人を除いてだが。

 

「久しぶりだな、ナーベ」

「お久しぶりです、モモンさ──ん」

 

 久しぶりに見たナーベは相変わらずのようで、もはや癖どころか一種の個性のようになりつつある彼女の呼び方に少しだけ安堵してしまうのは、常時綱渡りを続けている現状の所為なのか。そんな小さな変化すら見逃さないとばかりに、すっとイビルアイの手が淹れの指に絡みついてきた。嫉妬等の類なのだろうか。前の世界を含めて女性と付き合ったことがない俺には彼女の心境がよく分からないために、こういう小さな行動が何を意味しているのか理解できないのが辛い。

 ナーベの方もで、繋いだ手へとちらりと視線を向けてくる。少しだけ眉を潜めたところを見ると、あまり歓迎すべき行為ではないと感じてはいそうだ。

 

「早い御着きでしたね。あと十日はかかると思っていましたが」

「早いに越したことはないだろう。出来ればここを出発する前に終わらせられるならその方が良いだろうからな」

 

 思っても居ないことをナーベと話し続ける。建前上は、冒険者達にナザリックへ行くこと自体を諦めさせるというものだが、あくまで建前だ。折角帝国を含む各国の冒険者が態々ナザリックへ来てくれるのだ。丁重に扱って最大限まで情報を引き出し、血の一滴に至るまでナザリックの為になってもらわねばならないのだから。

 蒼の薔薇のメンバーはお腹が空いていたのだろうか、宿の食堂へとさっさと足を向けている。イビルアイも周りに促され、少しだけ名残惜しそうに俺から手を離していった。

 

「──ん? この人たちは?」

「初めまして。バハルス帝国のワーカーチーム『フォーサイト』のリーダー、ヘッケラン・ターマイトです」

 

 蒼の薔薇のメンバーと入れ替わるように四人組が近づいてくる。ナーベの後ろから近づいてくる割にナーベがそれに珍しく反応しないのは、帝国で知り合ったからなのだろうか。

 一歩前に出た男はリーダーらしく、自身のある顔つきをしている。紹介されたフォーサイトというチームは4人組なのだろうか。男二人に女性一人、あと森妖精<エルフ>──いや、耳の長さからして半森妖精<ハーフエルフ>か──の女性が一人。それなりに慣れた動きではあるものの、蒼の薔薇のような洗練さがない。恐らくはミスリル級程度だろう。

 

「ナーベが世話になったようですね。初めまして。リ・エスティーゼ王国アダマンタイト級チーム『漆黒』のリーダー、モモンと言います」

「いえ、世話だなんてとんでもない!彼女の卓越した技術は帝国でも相当なものでした。偶々うちが最初に声を掛けさせていただいただけで──」

 

 随分と腰の低い男だ。だがその顔に卑屈さは無い。ナーベの能力を見て『相手が上だ』と確信したが故の行動と言うわけか。その動きにいやらしさを感じることもなく、どちらかといえば良い印象を与えてくる。俺が知る限りこの世界では珍しいタイプだ。ガゼフと似ているという感じがするのは。

 

「右も左も分からぬ帝国で、仲良くしてもらえたようだな」

「はっ!恐縮です」

 

 もしかしたら腰が低くなるのは、このナーベの従の姿勢のせいかもしれないが。

 

 

 

 

 

「あちらで話を聞かせてもらえますか」

 

 そう彼──モモン殿に奥の食堂──というのは失礼か。喫茶エリアへと促される。ナーベさんから話は聞いていたものの、話半分程度に受けていた。が、実際会ってどうだろうか。なんという存在感か。これが王国が誇るアダマンタイト級の冒険者という事なのだろう。上に立つ資質というべきか。彼に頭を下げることに全くと言っていいほど抵抗を──いや、むしろ頭を下げる事こそが当然だと思わせるのは、彼のカリスマ性と言うべきか。どこか掴みどころのないナーベさんが仲間──リーダーに対するメンバーとしてではなく徹して従者としての立場を守り続けるのも頷けるというもの。もしかするとどこかの国のやんごとなき立場の人なのではないかと思ってしまうのも仕方ないのだろう。間違いなく、金のために国を出てこんな所に来るような者とは隔絶した人だ。もしかすると今まで金に困った事がないのではないか、とさえ思ってしまう。贅の限りを施した漆黒のフルプレートと背中に装備した──これもまた美しいという言葉しか出ないグレートソード。一体どれだけの値が掛けられているのか。羨ましい限りの筈なのに、余りに凄すぎて妬みが沸いてこないのは流石だろう。

 慣れた感じで給士に飲み物を頼んでくれる。だが自分の分は取ってないようだ。こういう場所では飲食しないという事なのか、それとも下々の前では食事をとらないという事なのか。理由は分からないがそれが当然として動く様は、貴族特有のいやらしさを欠片ほども感じさせない。

 

「どうですが、この国は」

「え──えぇ、とても豊かですね。エ・ランテルに来るまでに幾つかの村を経由しましたが、どこも平和に見えました」

 

 ──実は、彼はこの国の王子だったりするのではないか。いきなり国はどうか、なんて聞かれるとは思わなかった。普通ならば精々話の切り出しとして、この町はどうだと聞くのが関の山だろう。これがこの国のアダマンタイト級冒険者に求める資質だとしたら、恐らく俺達がこの国の冒険者になったとしても、一生彼らの足下にすら及ばないのは確実だろう。

 

「だからこそ不思議に思えるんですよ。こんな近くにモンスターが蔓延るダンジョンがあるなんて話は」

「ふむ」

 

 国を上げての大調査だ。しかも王は帝国の仕業だとばれないようにするために、一切軍を動かしていない。しかし息のかかったワーカーを大量に投入したところを考えるに、ただ『掃除』をするためだけに動いているのではないのは確かだ。

 王国側ではダンジョンについてどう思っているのかは知らないが、最高ランクの冒険者チームが来ているとなれば、安心していいのかもしれない。

 

「ですが助かりました。危険な場所であるという話は上がっていましたが、あなた方の様な凄い冒険者が一緒となれば──」

「いえ、逆です。我々アダマンタイト級冒険者チーム『漆黒』と、あちらに居る同じくアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』は──」

 

 そう思っていたのに、彼の口から出た言葉は全く真逆のものだったのだ。

 

「あなた方を止めに来たのですよ」

 

 

 

 

 

 

 

「どうするのですか、リーダー」

 

 日が落ち、少し熱の残る夜のこと。私たちフォーサイトは彼──モモンさんから齎された情報を胸に黄金の輝き亭を出て(流石にお金のない私たちには泊れない)近場の酒場に足を運んでいた。

 出された食事とエールに口を付けるも、あまり美味しくない。いや、帝国で食べていたものと比べるのは烏滸がましい程の味なのだけれど、あの黄金の輝き亭で彼に奢ってもらった食事とフルーツジュースの味がまだ舌に残っているのだ。それを穢されてる気分になって、少しだけ気が落ちてしまう。贅沢な話だ。

 下戸のロバ―テイクはジョッキのミルクを一気に飲み、大きく息を付きながらリーダーに絡んでいる。それはそうだ。大金を夢見てここに来たのに、厄ネタどころの騒ぎでは無い話が舞い込んできたのだから。

 曰く、敵対するものには一切の容赦は無い。まぁこれは当然か。だが逆を返せば敵対さえしなければ容赦してくれるということ。つまり、話が通じる相手であるという事だ。それがどれだけ恐ろしいことなのかは想像もつかない。何せ言葉を解せるということは、それだけ相手が高レベルのモンスターであるという決定的な証拠だからだ。元師であるフールーダ様からそれとなくアインズ・ウール・ゴウンなるものの情報を得るようにという話を頂いたが、その人がダンジョンのマスターなのだろうか。それとも間借りしているだけなのだろうか。話によればフールーダ様に匹敵するマジックキャスターである可能性があるとのこと。であれば、件のダンジョンの主であってもおかしくないはずだ。

 さて、ここからが恐ろしい話だ。ダンジョンの主となれるということは、人間ではないという事。では、それとフールーダ様曰く同等であるらしいアインズ・ウール・ゴウンがイコールであるとするならば。

 

「──今回は止めた方が良いと思う。嫌な予感しかしない」

 

 思わず声が震えてしまう。アルコールが入っているはずなのに、さっきから身体の震えが止まらない。寒いどころか暑い夜だというのに、冷や汗で服が貼りついてまるで行水でもしたかのようになってきている。

 

「そんなに危険だと思うの?」

 

 そんな私の状態に気付いたのか、驚いた顔をしてイミーナがリーダーの傍から離れてこちら側に座りなおしてきた。私の身体は驚くほどに冷えてきているのだろう。彼女の添えられた手を熱く感じるほどだ。

 

「──ナーベさんに初めて会ったときもそうだったけど、彼に──モモンさんに会ったときもそうだった。全く底が見えない」

「それだけの強さを持つ者が必死に止める相手、か」

 

 私には行かなくてはならない理由があった。お金をためてさっさと借金を返して(それでも両親は借金を作り続けるだろうけれど)、クーデとウレイを迎えに行かないといけない。こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。

 ではどうすればいい。会ったばかりの彼に頼むか。金の無心をするのか。ナーベさんと言う美しすぎる相手が居るのに、先ほど見た蒼の薔薇のメンバーらしき仮面の少女だってそうだ。あれだけの相手が居るのに、身体を差し出したところでどうにかしてくれるのか。見下ろす身体には金貨三百枚の価値があるとは到底思えない。

 で、あれば縋るべきは一つか。アインズ・ウール・ゴウンだ。ダンジョンを支配しているだろう彼ならば金貨三百枚などはした金だろう。ならば私の身体──いや、私の命を差し出せば、それくらいはだしてくれるかもしれない。妹二人を、あの地獄から救い出せるかもしれない。その道を作ってくれそうなのは、漆黒のリーダーであるモモンさんだ。まずは彼に会って、それから──

 

「──あ」

「だめよ、それはだめ」

 

 私は考えを口に出していたのだろうか。気付けば私はイミーナに抱きしめられていた。振るえる身体で私を抱きしめ続ける彼女の身体はとても暖かい。

 

「そこまで悪辣な人じゃないんじゃないか、と俺は思っている」

「ですね。話半分に聞いて居ましたが、次に向かう予定のカルネ村はアインズ・ウール・ゴウンなるマジックキャスターに助けられたという噂もありますから」

 

 現状、決して楽観視出来るはずもないのに。男二人は私を心配させまいと笑顔を作ってくれていた。顔を上げれば、泣いていたのだろう。イミーナの目じりに涙が残っている。

 

「──心配かけて、ごめんなさい」

「ううん、いいのよ」

「そうそう、俺達はチームだからな」

 

 いつの間にか私も泣いていたのだろう。無理に作った笑顔に涙が零れる。とりあえずは明日だ。明日、もう一度モモンさんに会おう。ただし、みんなで。

 

 

 

 

 

「──と、いうことらしいな。どう思う、ナーベ」

「あのような羽虫<ガガンボ>。放置で宜しいかと」

 

 にべもない、とはこの事か。シャドウデーモンを通して彼らの会話を聞いて居たが、ナーベは欠片ほども心を動かされなかったようだ。あの冒険者達と仲良くなって、少しは人間への印象がマシになったのかと思ったのだが。

 少しため息を付く。助けるのは簡単だ。彼女の妹二人を含めて。借金など聞いた感じでは前の八本指と同じく相当後ろ暗い相手だろう。ならば払わず潰しても問題ない。しかし、助ける理由が無い。

 彼女を助けたいのか、と自問する。どうでもいいと感じる自分が居る。言うなれば、カマキリに捕まった羽虫を助けたいかと思う程度でしかない。利が無ければ動く気にもならない。これで良いのかと人間であっただろう部分が自身に囁いてくる。だが、理由がなければ際限がなくなる。無限に助け続ける事などできるわけがない。俺は神ではないのだ。

 理由なしに助けたとなれば、あの子は助けたのにこの子は助けないのか。という面倒な話が上がってくる。この世界は平和ではないのだから。ああいう手合いはそれこそナーベの言う羽虫程度には居るだろうから。

 助ける理由が出来れば助けても良いだろう。理由がなければそれとなくやめない様に誘導してやればいい。あのアルシェとかいう娘はソリュシャンが好みそうな気がするし。

 

「そういえばナーベ。奴らの中に『タレント』を持つ者は居なかったのか」

「──申し訳ありません。そこまでは調べていませんでした」

 

 タレント持ちが居ればと一縷の望みを持って聞くも、そもそも人間に対して興味のないナーベでは無理らしからぬ回答しか返ってこない。

 

「まずは明日会って話してみるか」

 

 もう一度小さくため息を付きながら、窓の外に視線を向ける。もう夜中を過ぎたというのにまだ街の灯りは消えない。冒険者達の宴は終わらないようだった。








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