「どんなに使いやすい正規サイトがあっても無料の海賊版サイトに勝てるわけがない。あらゆる対策をした上で、ブロッキング以外に手段はないと考えている」――カドカワの川上量生社長が、6月22日に配信されたニコニコ生放送「激論 どうなる、海賊版サイト対策のこれから」で、こう語った。
番組では法律家やネット関連団体など有識者らが海賊版サイト対策について議論。漫画やアニメの海賊版サイト対策をめぐっては、政府が4月、特定3サイトについてISPに自主的なブロッキングを促す緊急対策を決定。ブロッキング実施については、ネット関連団体、法律家、コンテンツホルダーの間で賛否が大きく分かれている。
政府は、ブロッキングやリーチサイト対策について法整備し、2019年に通常国会への提出を目指すとしている。
番組では「ブロッキング以外に手段はない」とする川上社長に、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)の中川譲幹事らが「使いやすい合法サイトを作るなど、他にもやるべき対策はある」と反論。川上社長による「ブロッキングは(憲法や電気通信事業法が定める)『通信の秘密』の侵害には当たらない」という主張も争点になった。
堀潤(ジャーナリスト、市民ニュースサイト「8bitNews」代表 司会進行)
石田慶樹(NGN IPoE協議会 会長)
川上量生(カドカワ株式会社代表取締役社長)
立石聡明(一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会[JAIPA]副会長)
中川譲(一般社団法人インターネットユーザー協会[MIAU]幹事)
村瀬拓男(弁護士)
森亮二(弁護士)
「ブロッキングで通信を見られることで、具体的にどんな実害があるのか。現実問題としてユーザーに実害はないと思っている」──川上社長はこう主張する。
海賊版サイトへのコンテンツ削除依頼や刑事告訴などの法的手段、GoogleへのDMCAに基づく検索結果の削除要請など、出版社はさまざまな手段を講じてきたが、その結果ブロッキングしかないという結論にたどりついたと川上社長は話す。
一方で、ブロッキングを反対する声も根強い。日本国内のインターネットの普及拡大を促進する業界団体・NGN IPoE協議会 石田慶樹会長は「ブロッキングは(自由に目的のサイトにアクセスできる)インターネットの根幹を犯しかねず、基本的にやるべきではない」と指摘。森亮二弁護士も「ブロッキングの弊害は大きい。通信の宛先を監視されることで、通信の萎縮行為・表現の後退が生じる」と反論した。
それに対し、川上社長は「(今回の海賊版対策の議論で挙がっている手段で)通信を見られることに対して、通信の秘密の侵害だとするのはナンセンス」とし、「今のネット時代に守らなければいけないプライバシーはもっと他にある。昔からの延長線上にある通信の秘密の議論に固執すれば、日本はどんどん遅れていき、みんなのプライバシーはもっと侵害される」と語気を強めた。
出版社横断の使いやすい電子書籍プラットフォームがあれば海賊版サイトを駆逐できる――こうした対策案も根強い。漫画家の赤松健さんも、「海賊版サイトをつぶす唯一の方法」として使いやすい正規サイトの作成を挙げる。
しかし、赤松さん自身も語っていたようにその実現は容易ではない。川上社長も「漫画村は非常に使いやすかった。ユーザー的には全ての漫画が見られるのが理想だが、実際はそう簡単にはいかない」と頭を抱える。
「(横断サイトを作るとして)一番得をするのはプラットフォーマーで、どの出版社も自分たちがプラットフォーマーになりたいと考える。その調整が難しい。ただ海外のプラットフォームに(その役割を)取られてしまうことがないよう、国内で談義すべきとは思う」(川上社長)
一方で、使いやすい正規サイトを作るだけでは根本的な解決にはならないとも考える。「どんな使いやすいサイトがあっても無料(の海賊版)サイトに勝てるわけがない」とし、海賊版サイト撲滅の働きかけの重要性も強調する。「漫画村などの影響で、若者が漫画にお金を出さない文化が定着すると、10年後、20年後に響く」(川上社長)
村瀬拓男弁護士も「音楽や映像業界に比べ、出版というマーケットは幅広くいろんなものを内包している。包括的なサイトはそう簡単には作れないし、作らない方が出版業界が活性化されるのでは」と補足する。
川上社長は「これまで(海賊版サイト対策をめぐる)議論の過程が見えないという批判を受けてきた。出版社も(さまざまな対策を講じてきたりなどの)実態をアピールする努力が不足していると思う。こうした議論の場は増やしていった方がいい」と語った。
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