2018年06月25日

ハリルホジッチ解任を考える(2) 打ち捨てられるハリルホジッチフィロソフィー~日本サッカーに人の話を聞く気はあるか~

さて、ハリルホジッチの話をしたい。
彼がどういうフットボールを志向し、何をしたいと言ったのか、そういう部分をこれから見ていこうと思う。
そして同時に、ハリルホジッチを語る際に同時に使われる「自分たちのサッカー」についても考えていかなければならない。
つまり、ザッケローニが何を言い、どういうことを目指したかということも探しに行かなければならない。
まずは、ザッケローニが選手たちに語ったものを見ていこう。
次に、ではハリルホジッチは何をしようとしたのか、というものを見ていこう。
ザッケローニ時代との違い、縦に速いサッカーと言われたハリルホジッチの、実際のやりたかったことは何か。
日本に合わなかったというのならば、ではなぜ日本に合わなかったのか。
そのことを考えるには、まずはハリルホジッチのサッカーを定義しなければならないだろう。






●2-1 自分たちのサッカー #とは

さて、時は遡り2002年、ベルギー戦の前のミーティングでのフィリップ・トルシエの言葉をまずは紹介しよう。いくつか省略はしている。


今日の試合は全てを出し切って勝ちにいかないといけない。
本当に日本にとっては決勝だ。試合は前半が勝負だといつも言っている。
最初からベストを尽くして全部を出すこと。
向こうは左サイドが強いから守備で行こう、こういう選手がいるからカバーするためにこういう選手を置いておこう、こういう戦術ではゲームが進まない。
それは例えばスペイン戦の話。
もちろんブロックはできるし、守備はきちんとできるけど、試合に勝てない。
最初から戦いだぞ、最初から火をつけること。最初からみんなを、向こうのチームを驚かせるような速い展開、それは基本、それは原則だ。

だけど、ワールドカップだから4年間それを準備したから、世界に日本の本当の実力を見せないといけない。
90%の選手は国内リーグでやったとしても、うちはもうヨーロッパには負けてないぞ。
うちのサッカーは彼らに負けてない、同じ頭脳サッカーだし同じ技術も持ってるし、みせないといけない。

向こうの監督の言葉を繰り返す。
日本はボールを持つ。我々よりそういうつなぎそういうビルドアップ我々より日本は強い。
だから引いて守るしかない。そしてそこから後ろから強く潰していく、向こうは3バックだから、この3バックの裏のスペースにボールを出して逆襲で狙っていく。
うちは90分で1点取れば、ロスタイムで1点を取ればなんでもいい。
チャンスは1回2回3回だろうが、1点しか入らなければそれで満足する。
うちの選手はヨーロッパでプレーしているから関係ない。
結果がすべて。チャンピオンズリーグに毎週出てるから。
だからこの選手は市川のことはもちろん恐れないし、松田の競り合いも恐れないし、中田のことも恐れない。
もちろんそういう相手に負けるかもしれない。負けたとしてもうちは後悔せずに自分のサッカーをやろう。
90分間ベストを尽くして、どんな競り合いにも100%で行ったというスピリットで激しく行ったっていうことの結果だったら私は納得がいく。そして攻撃的に後悔せずに全てを出し切っていて試合がそれで終わったら、私は納得いく。
我々より彼らが圧倒的に強ければ、全てを出し切ってそれにしても結果がそういう負けになるのなら、悲劇ではない。
なぜかって言うとそのとき自分をしっかりと鏡で見て「いや、後悔はない。全てをやったから」(六月の勝利の歌を忘れない 日本代表、真実の30日間ドキュメントより)


トルシエ氏のチームについては、一時的に腰抜けとも言われる戦いを志向したこともあった。
氏が例に挙げているスペイン戦などがそうだ。
前期では、ダニッシュダイナマイトを参考にし、中田や小野、中村俊輔といった若手から名波といった中堅まで優秀で技術力に優れた選手が揃う中盤を軸とした極めて攻撃的なチームを作りあげたものの、サンドニの悲劇と言われるフランス戦の敗北以降、氏のチームは表情を変える。
布陣はそのままに、フラット3によるラインの押し上げを活用したコンパクトな守備と、中盤の分厚さをプレスに転用することで、ショートカウンターを軸に素早い攻撃で相手陣を攻略するフットボールへと移っていった。
例えばイタリア戦などは、相手陣でボールを奪い、そのまま一本のパスでゴールを奪った。
トルシエ氏の戦術を説明する際にはあのゴールがとてもわかりやすい。
当時はその戦術を説明する言葉はなかったので、例えば「プレスカウンター」という造語を僕は目にしている。
さて、氏の言葉にはいくつか自分たちのサッカーを思わせるものがある。
うちのサッカー、自分のサッカー。
もちろんこれは試合前のチームトークであり、選手たちのモチベーションを上げ、これからの試合に向けて強い気持ちで向かえるように、こういう言葉を使用した、というところだろうが。
自分のサッカーというもの自体の概念はこのころからあり、ザッケローニ氏の代表チームがことさら特別だったわけではない。
世界を驚かせよう、という言葉もトルシエ氏は使用している。
日本代表チームをモチベートするには最適な言葉というのはあるのかもしれない。
さて、自分のサッカー、自分たちのサッカーという単語自体はそれなりに使われるものであるのでは、ということをここでは確認しておきたい。
ではザッケローニ氏の代表チームにおける自分たちのサッカーとはどのようなものだったか。
通訳日記や、ザッケローニ氏自身の手記からまずはそのエッセンスを読み取っていきたい。


2-2 ザッケローニのフィロソフィー


原則、というものの話をしたい。
原則。プリンシパル。有名なのは、リバプールの下部組織で使われていると言われる、原則のフローチャートだろう。
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さて、ふざけてると思われるかもしれないが原則についての文章をゲームに関わる記事から引用させてもらう。
「Football Manager」というゲームについて書かれた文章だ。
正直自分もここまで真面目に書いておいてここから引用するというのもどうかとは思うのだが。
とはいえ、有名選手が多数プレイし(ポグバが有名!)若手選手のスカウティングにも活用される、英国産ゲームだ。
昨今では、日本で言うインナーラップと言う語が英語圏では”アンダーラップ”と呼ばれることを僕らに教えてくれた。
英語圏、欧州圏においてfootballがどのように理解されているか、理解の一助になると考えた。
今回引用するのはゲームユーザー向けに書かれたLines and Diamonds: The Tactician's Handbook for Football Manager 2015 からだ。
もし読みたいという方がいるならば挑戦してみるとよいだろう。
以下、英語引用は原則L&Dからのものである。
さて、プレー原則というものについてはこのように書かれている。


There can be many aspects to a managerial philosophy, but at its core are the principles of play that the manager chooses to emphasise in his approach to tactics and training.

The principles of play are the universal tactical concepts that structure and guide the decisions of players over the course of a football match. For a player, a clear understanding of the principles of play will help him recognise good decisions in different tactical situations.

The principles provide the bedrock for tactical coaching, but their usefulness to managers extends beyond the training ground.
During matches, the principles of play are essential tools for identifying both tactical problems and possible solutions.

If you understand the principles of play, then you have all the tools you need to read what’s happening in a match, regardless of which playing systems and styles are being used by the teams involved.

The basic ideas behind the various principles have been in circulation among football coaches for more than fifty years, but while the preferred tactical methods of managers have changed, the theory behind the principles have remained largely intact.


和訳するとこうである。
なんちゃって和訳なので、何か変だなと思った方は適宜原文を読み突っ込んでいただいてよい。

フットボールのマネージャーの哲学には多くの側面がありますが、その中心には、マネージャーが戦術とトレーニングへのアプローチで強調することを選択したプレーの原則があります。
プレーの原則は、試合中に選手の決定を組み立て、導く普遍的な戦術コンセプトになります。
プレイヤーにとっては、プレーの原則をはっきりと理解することで、さまざまな戦術的状況における良い決定を認識するのに役立ちます。

原則は戦術の指導の基盤となりますが、マネージャーにとってその有用性はトレーニンググラウンドの先へと広がっています。
試合中、プレーの原則は、戦術上の問題と可能な解決策の両方を特定するために不可欠なツールです。
プレーの原則を理解していれば、関係するチームがどのシステムやスタイルを使用しているかにかかわらず、試合で何が起きているのかを理解するために必要なすべてのツールを持っていることになります。

様々な原則の背景にある基本的な考え方、アイデアはフットボールコーチの間で50年以上にわたり流布しており、監督が選ぶ戦術方式は変化しつつも、原則の背景にある理論はほとんど変わっていません。


この中で、攻撃で7つ、守備で7つの基本原則がある、と書いてある。

まず攻撃の7原則の話に行こう。

The Principles of Attack
1. Penetration: The principle of penetration instructs players to move the ball forward into space
behind the lines of the opposition’s defence, usually by dribbling or passing.

2. Possession: The principle of possession instructs players to simply maintain control of the ball by
holding it up or safely circulating it when lacking acceptable options to advance attacking play.

3. Depth: The principle of depth instructs players to spread out into varied positions from back to
front in order to pin back, disrupt and create space between the lines of the opposition’s defence.

4. Width: The principle of width instructs players to spread out from side to side in order to advance
the ball through space on the flanks and create space between opposition players.

5. Support: The principle of support instructs players to offer safe passing options from multiple
angles to prevent isolation and allow quick circulation of the ball in any direction.

6. Mobility: The principle of mobility instructs players to move constantly and change positions to
distract defenders and prevent them from maintaining a steady shape.

7. Improvisation: The principle of improvisation instructs players to play with flair and creativity to
avoid becoming predictable and allowing the opposition defence to get into a comfortable rhythm.

攻撃の原則
1.ペネトレーション(侵入):ペネトレーションの原則は、通常、ドリブルまたはパスすることによって、ボールを相手のディフェンスラインの後ろのスペースに動かすさせることをプレイヤーに指示する。

2.ポゼッション:ポゼッションの原則は、攻撃を進めるために利用可能な選択肢がないときに攻撃の侵攻を遅らせたり、安全にそれを循環させることによって、ボールのコントロールを単純に維持するようプレーヤーに指示する。

3.深さ:深さの原則は、プレイヤーに、前後様々な位置への広がりを指示し、相手のディフェンスラインの間に断絶とスペースをもたらす。

4.幅:幅の原則は、サイドのスペースを介してボールを進め、相手選手の間にスペースを作り出すために、プレーヤーが左右に広がるように指示します。

5.サポート:サポートの原則は、プレーヤーがアイソレーションになることを防ぎ、ボールをあらゆる方向に素早く回すことができるように、複数の角度から安全なパスオプションを提供するようプレーヤーに指示します。

6.モビリティ:モビリティの原則は、プレイヤーに常に移動し、ポジションを変えてディフェンダーをかき乱し、安定した形を維持することを防ぐよう指示します。

7.即興:即興の原則は、プレイヤーに相手ディフェンスがプレーを予測できることにより快適なリズムでディフェンスができるようになることを防ぐため、創造性とひらめきをもってプレーするよう指示します。


ザッケローニが言っていることと合わせてみよう。
特にザッケローニが強調した原則は、まずペネトレーション、つまりボールを前に進めて相手陣内に入っていくということ。
単調でもいいから前に仕掛けていきたいサッカーをザッケローニはしたかったという。
ボールを前に進めることをチームに求めていたのは確かだ。

単調でもいいから前に仕掛けて、相手の陣形が揃う前に崩したいのが監督が目指すサッカー。しかし日本は、とにかくつないで、横にずらして相手を走らせるサッカーをしようとする。(通訳日記:p203)


深さ。
矢野大輔氏が試合の感想としてこのようなことを書き残している。

2-1で勝ちはしたものの、課題が目立った。皆が足元でボールを受けたがり、前線のメンバーも裏に抜けない。まるで深みのないサッカー。(通訳日記p193)


ディフェンスラインの裏に仕掛け続けることをフランス戦で要求したことからも、深さを作ることをチームに要求していたのははっきりしている。

ザッケローニ監督手記 vol.19「欧州遠征でつかんだもの」


日本の一番の良さは広めのスペースに複数の選手が入り込んで、スピードとテクニックを兼備した攻撃を連動して仕掛けていくことにあると私は思っています。
そういう攻撃を実現する方法の一つがDF陣の背後へのチョイスを持つことです。
タイミング良く裏に飛び出してスペースでボールを受ける。
それを繰り返すことで相手のDFラインを下げさせ、DFラインとMFの間のスペースも拡張する。
日本のスピードとテクニックが生きてくる。
後半、日本の攻めが活性化したのは、そういう動きを入れていったからです。
フランスのDF陣が前だけをケアしていればすんだ前半は完全にフランスのペースでした。
しかし、裏へのチョイスを味方に与えた後半は相手のラインが下がり始めました。
前半はほぼ攻撃に専念できたフランスは後半、裏をケアする必要に迫られるうちに陣形が間延びし始めました。
そうやって崩れた後はどちらが勝ってもおかしくない展開になり、勇気を持ってプレーした日本が土壇場で勝利をもぎ取りました。
裏へのチョイスはチーム全体の意識として求めていることです。フランスのセンターバックはどちらも前には強いけれど、裏には決して強くはありませんでした。
だからこそ余計に、足元で受けて背負うより、裏のスペースを突いて受ける回数を前半のうちから増やしてほしかったと思うのです。


幅。
ワイドで起点を作って逆ワイドで仕留めるという言葉や、香川への要求から幅を広く保つことはチームの原則になっていたと考えられる。
モビリティ。
オフザボールの動きを繰り返して前線を活性化させるのだ、という言葉がある。

「オマーンより我々の方がクオリティは優れている。
しかし、その差はしかるべきプレーをしたときに表れる。
スペースのないところでクオリティは出せない。
だから、スペースにボールを運んでクオリティの差を見せつける。
ではどうやってスペースを見つけるのか?
それはボールホルダーに対して、オフザボールの動きによってスペースを作り出す。前線の活性化が必要なんだ。
逆に我々が狭いところで2~3mの緩いパスを交換していると、オマーンの思う壺だ。
10~15mくらいの距離感でパスを出しながら、サイドチェンジも仕掛けてスペースを見つける。
我々のサッカーは、ワイドで起点を作って、逆サイドで仕留めるんだ」(通訳日記:p143)



HHEミーティングでも前線のダイナミズムが必要だと監督が語っていることからこれもザッケローニのチームの原則の一つだろう。
一方で、強調されなかった原則は3つ。
まずポゼッション。
もちろんボールを持つことについて制限はしていないが、単純なポゼッションはしたくないと語っていることから哲学の中には入っていない。

監督が(本田)圭祐と話す。「ただのポゼッションがしたいんじゃない。スピーディーに攻めなければ相手を崩せない。」(通訳日記:p133)


「一番やってはいけないことは、無意味なボールポゼッションだ。
特に日本陣内での横パスやバックパスにオマーンはアグレッシブに寄せてくる。そこからのカウンターが相手の狙いだ」(通訳日記:p142~143)


サポート。
サイドチェンジで逆ワイドに入れようとしていることから、アイソレーションの発生は想定されていると考えられる。
もちろんテンポの良いパス回しで前進することから個人個人で仕掛けて、というところまではいかないが、必要に応じて孤立した選手を作るということも、ザッケローニは考えていたと思われる。
そして最後に即興。
全てを制限していたわけではないけれども、即興に頼ったフットボールをしようとしてたわけではない。
攻撃時のバリエーションもそれなりに用意して、ただ何をチョイスするかは君たちの自由だ、としていた。
HHEMTGの時のザッケローニの言葉を引用しよう。

チームの全員が臨機応変に状況に順応できる能力、つまり、自由のもと、即興だけでチャンスが作れるわけではない。
やはり形があって、動き出す人間と連動する人間、それぞれの役割を整備しておかなければならない。
〝自由にやる”といっても、ある程度の約束事は決めておくべきだし、サッカーはチームスポーツだから、攻守においてチームの目的ややり方を定めておく必要がある。(通訳日記:p283)


これらの原則を強調した哲学をザッケローニは曲げただろうか。
選手たちの提案に妥協しただろうか。
答えはNOだ。
ブラジル入りした後に、中盤の選手を呼んでミーティングをした際のメッセージで分かる。

この2試合で7得点。そのうち5つが幅を取ってから生まれたもの。
1つがショートカウンター。もう1つがロングパスからヨシトのゴール。
中で細かくつないで中央突破するサッカーが悪い、やるなとは言わない。
しかし人数が揃っている相手DFラインにそればかり繰り返すのはどうかと思う。
攻撃のバリエーションを出すことが大切だし、サイドに一度起点を置くことで、相手DFラインの間隔を広げておいてから中に入っていくほうがチャンスが生まれる可能性は高い。(通訳日記:p359~360)


またギリシャ戦後の矢野大輔氏の文章からも、ザッケローニが幅と深さを捨てていないことは読み取れる。

「ボールを動かすこと」がポゼッションと言えるが、イタリア人の言うポゼッションは、ボールを動かして相手を上下左右に広げ、スペースを作ってゴールに向かうというもの。(通訳日記:p375)


ここまで来れば、皆様の認識は概ね覆ってくれることだろう。
ザッケローニの日本代表の自分たちのサッカーに、中央突破も、ポゼッションもない。
相手陣内へ侵入すること、幅を取ること、深さを作ること、動きを出すこと。
そのすべてが、ムンディアル本大会では不足していた。
だから、自分たちのサッカーができなかった、なのだ。
なので、自分たちのサッカーは中央突破云々という議論については、タンスの中に一度引っ込めて、タンスごと爆破していただきたい。
まずザッケローニがやりたかったフットボールは何か、そこだけに目を向けたい。
もちろんこの後はハリルホジッチについてもだが。
そこからはじめてではなにがだめだったんだろうね、という議論がはじまると思う。
ザッケローニの自分たちのサッカーの話を続けよう。

次は守備の7原則だ。

The Principles of Defence
1. Delay: The principle of delay instructs the first defender directly engaging the player in possession
of the ball to position himself to prevent a forward pass.

2. Pressure: The principle of pressure instructs defenders to attempt to prompt poor decision
making from attackers by reducing the amount of time and space they’re afforded on the ball.

3. Compression: The principle of compression instructs defenders to get compact around the ball to
deny space between the lines and prevent attackers from playing through the defence.

4. Balance: The principle of balance instructs defenders away from the ball to help maintain an
effective shape and avoid exposing large gaps vulnerable to a change in direction by the attack.

5. Cover: The principle of cover instructs defenders to cut off passing options for the attacker in
possession and protect space behind defenders stepping out to delay or pressure.

6. Consolidation: The principle of consolidation instructs defenders to recover positions in a narrow
defensive shape to deny space for movement and penetration into areas in front of goal.

7. Restraint: The principle of restraint instructs defenders to avoid overcommitting to a challenge or
moving out of position unnecessarily in response to a dangerous or unanticipated situation.


守備の原則
1.ディレイ:ディレイの原則は、ボールを保持しているプレイヤーにまず関わるファーストディフェンダーに、前方向のパスを防ぐためにポジショニングするように指示します。

2.プレッシャー:プレッシャーの原則は、ボール保持者に与えられる時間とスペースの量を減らすことによって、攻撃側が良くない判断をしてしまうようにを促すようディフェンスに指示します。

3.圧縮:圧縮の原則は、ボールの周りにコンパクトになるようにディフェンスに指示し、ライン間にスペースを作らないようにし、アタッカーがライン間でプレーするのを防ぐよう指示します。

4.バランス:バランスの原則は、効果的な形を維持し、サイドチェンジに弱い大きなギャップを作らないよう、ボールから離れるよう指示します。

5.カバー:カバーの原則は、ディフェンスに、ボール保持者が出せるパスのコースを断つように指示し、ディレイやプレッシャーに出た選手の後ろのスペースを守るよう指示します。

6.統合:統合の原則は、ディフェンスの選手にゴール前のエリアへの動きや前進を拒否するために、低い位置でディフェンスの形を回復するよう指示します。

7.自制:自制の原則は、危険または予期せぬ状況に対応して、不必要な挑戦やポジションからの逸脱を避けるようディフェンダーに指示します。


なんちゃって和訳なので、なにかツッコミどころがあればどうぞツッコんでもらって構わない。
ザッケローニの守備の基本ルールは、アジア杯前のミーティングでチームに示されている。

チームとしての守備ルールの共有。基本コンセプトはこの4つ。
①FWがサイドを決める。
②選手は縦の直線状に並ばない。
③我々のストロングサイドに密集する。
④トップ下が相手ボランチのマークにつき、センターFWが相手センターバックをチェックする。
そして自陣では、相手にサイドチェンジさせないことが大切。
ボールを中心に動くこと。
①ボールの位置。
②ボール側の味方。
③マークする相手。
この3つだけを気にすればいい。また、逆サイドにボールがあるときのサイドバックの体の向きも指導した。(通訳日記:p37)


6月のキリンカップ、チェコ戦の時のミーティング。

システムで言えばチェコは4-2-3-1、こちらは3-4-3。ピッチ中央では不利だが、そのリスクは中盤4枚が連動しDFラインを押し上げてチーム全体をコンパクトに保つことができれば大丈夫。(通訳日記:p94)


2012年6月ヨルダン戦前のミーティング。

アプローチの質を高めていこう。アプローチとは時間とスペースを限定すること。
相手からボールを奪うことではない。一発で飛び込まないで相手の攻撃を遅らせる。
ヨルダンは技術レベルはさほど高くないから、我々のアプローチによって焦らせる。ミスを誘うのが狙いだ。(通訳日記:p147)


このことからザッケローニの哲学で優先されていた原則は4つ。
まず1つ目はディレイ。相手のディフェンスラインのボールがそのまま中央に通ることは防ごうとしていた。
2つ目はプレッシャー。積極的に相手にアプローチをし、ミスを誘ってボールを回収しようとした。
3つ目は圧縮。ディフェンスラインを上げられるときは上げ、ライン間をコンパクトに保つことをチームに求めた。
4つ目はカバー。縦の直線上に並ばないのルール、またボールを中心に動くことを指示した際の3つのルールや、ボールに連動した守備をチームの要求していたことを考えると、原則の中にはあったのではないかと考えている。
ただ、これは守備のやり方のルールの中に組み込まれている、としてもよいかもしれない。

優先度がこれらの原則に比べて少し低かったのが、統合、つまりローラインブロックだ。
もちろんザッケローニもなんでもかんでもハイラインという指示を出していたわけではない。
ディフェンスラインをどういう時に下げるのか、そういう部分のルールも整備はされていた。
ただ、2012年のUAE戦でこういうことがあった。

そしてDFラインの選手には、相手に食いつき過ぎないようにすること、相手にプレスがかかっておらず、ボールを蹴れる状況であればラインを下げる準備をするように指示。
(中略)
前半は日本の良いところはあまり出なかった。裏をケアしようと、DFラインが低いように感じた。(通訳日記:p159)


ラインを下げてもよい、と指示をするとラインが上がらなくなる現象が発生したため、より圧縮の原則のほうの優先順位を強調するようにした、と考えられる。
自制の原則は、個人の守備のプレーのルールの中に組み込まれてるとしたほうが良いだろう。
エリア内ではマンマーク、1対1の対応では相手を遅らせて外に追いやる、などディフェンスの選手個人個人に指示を与えてはいる。
ただチームとして強調している感じがないのは、これもまた強調すると逆にチャレンジを行わなくなるかもしれないという懸念があったかもしれない。
最後に一切強調されてないのはバランスだ。
この場合のバランスはザッケローニがよく言う勇気とバランスのバランスではない。
例えば相手がサイドチェンジして逆サイドを活用しようとしてきたら困るので、横幅守れるように5バックにしよう。
これが守備の原則のバランスだ。
ザッケローニはサイドチェンジはさせなければいいという立場だったので、この原則については明確に採用していないと言えるだろう。

以上、ここまで攻守の原則についてみてきた。
現時点でこの原則についての批評はしない。
とにかく何をしようとしてきたかを見ていこうではないか。

プレー原則の話をしたので次は戦術の話に移る。

While the principles of play are the basic concepts that guide tactical decisions in a football match,
tactics are methods of organising the team to more effectively carry out certain principles during a
match.
A manager’s preferred tactics reflect the core principles of his philosophy. For example, a
manager who favours the principles of possession and pressure will develop tactics that help those
players carry those principles out. There are two basic components of a tactic through which this is
done: system and style.

プレーの原則は、フットボールの試合における戦術的決定を導く基本的な概念ですが、
戦術は、試合中に特定の原則をより効果的に実行するためにチームを組織する方法です。
マネージャーの選択する戦術は、彼の哲学の基本原則を反映しています。
たとえば、ポゼッションとプレッシャーの原則を支持するマネージャーは、
選手がその原則を実行するのを助ける戦術を開発するでしょう。
基本の構成要素としてシステムとスタイルの2つがあります。


A tactic’s system is the set of instructions that organise the basic positioning, responsibilities and
movement patterns of the players.
The two main aspects of a system are the defensive formation and
roles. The defensive formation assigns defensive positions to the players and establishes the team’s
basic shape when they have consolidated inside their own half of the pitch. Roles primarily assign
attacking responsibilities to the players and establish the team’s main patterns of attack.


戦術のシステムとは、プレイヤーの基本的なポジショニング、責任、および行動パターンを組織化する一連の指示です。
システムの2つの主な側面は、ディフェンスの形成とロールです。
ディフェンスフォーメーションは、プレイヤーにディフェンスのポジションを割り当て、自陣で統合したときのチームの基本的な形を確立する。
ロールは主に攻撃の際の責務をプレイヤーに割り当て、チームの主な攻撃パターンを確立します。


A tactic’s style is the set of instructions detailing the specific techniques and methods that players use to carry out their responsibilities within the system.
There are many aspects to a style of play, but the three most prominent aspects are the defensive style (how the players look to protect their goal and win the ball back), the build-up style (how the players look to set up attacks) and the team’s preferred attacking techniques (how the players use the ball to achieve penetration).

戦術のスタイルは、プレイヤーがシステム内で責務を果たすために使用する具体的なテクニックと方法を詳述する一連の指示です。
プレイスタイルには多くの側面がありますが、最も重要な3つの側面は、ディフェンススタイル(選手がどのようにゴールを守りボールを取り戻すか)、
ビルドアップスタイル(選手がどのようにして攻撃を組み立てるか)とチームが推奨する攻撃時のテクニック(選手がどのようにボールを使って前進を達成するか)を示します。


ザッケローニが用いたシステムは4-2-3-1であるが、これは妥協の産物である。
本来的にはザッケローニは3-4-3を使いたかったのは周知の事実だ。
3-4-3を使用したがった理由は、特に攻撃の原則の部分で哲学を実行しやすかった、という面はあるだろう。

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ただこの試みはうまく行かず、結果として4-2-3-1に落ち着いている。
攻撃のロールというのは、香川選手にサイドからスタートして中に入ってくるようにと指示を出していた部分だ。

そして戦術のスタイル。
L&Dではフットボールのフェイズを4つの部分に分けている。
ディフェンスフェイズ、ビルドアップフェイズ、オフェンスフェイズ、そしてリカバリーフェイズ。
世間一般的に言いかえれば、ビルドアップフェイズがポジティブトランジッション、リカバリーフェイズがネガティブトランジッションとなるだろう。
ボールを失った後は、ディフェンスブロックの作成の「回復」を目指し、ボールを奪った後は、攻撃のための布陣の「構築」を目指す。
ビルドアップするからと言ってポゼッションというわけではない、という話だ。
ザッケローニが各フェイズで日本代表に求めたプレーを探ってみよう。
まずはディフェンスのフェイズ。

The first phase of play is the defensive phase.
This phase begins when a team has fully reorganised to carry out the team’s intended defensive approach.
This is mainly associated with where the team will set its defensive block.
The defensive block refers to the collective positioning of the team in terms of where they will attempt to limit any further advance of the opposition attack.
In other words, it sets the area of the pitch where the defence will try to make its stand and win the ball.
There are two lines that serve as points of reference demarcating the defensive block: the line of restraint and the line of confrontation.

プレイの第1段階はディフェンシヴ・フェイズです。
このフェイズは、チームの意図した守備のアプローチを実行するためにチームが完全に再構成されたときに始まります。
これは、主にチームがディフェンスブロックを設定する場所に関連しています。
ディフェンスブロックとは、相手の攻撃のさらなる前進を制限するということで、チームの集団的な配置のことについてを指します。
言い換えれば、ディフェンスが攻撃を食い止め、ボールを奪取しようとするピッチの領域を設定します。
ディフェンスラインを画定する基準点として役立つ2つのライン、すなわち制限線と対立線がある。


The line of restraint denotes the general area in which the defence will try to hold the offside line.
This is the line to which the central defenders and fullbacks will willingly retreat (and, when necessary, to which they’ll push up), and it denotes the position they will attempt to hold as the midfielders and forwards apply pressure.
In theory, this idea is relatively straight forward, but in practice, a lot can influence how much the line of restraint actually comes into play.

制限線は、ディフェンスがオフサイドラインを維持しようとする通常のエリアを意味する。
これは、センターバックとフルバックが自律的に撤退する(そして、必要なときに彼らが押し上げる)ラインであり、
ミッドフィールダーとフォワードがプレッシャーをかけるときに保持しようとするポジションを示す。
理論的にはこのアイデアは比較的単純ですが、現実には、実際のプレーの多くが制限線に影響を与えることができます。


For example, if a team has been instructed to retreat to a deep line and has moved high up the pitch to attack, it will still try slow the pace of build-up play and prevent the attack from rushing onto them if there’s no immediate threat of penetration from a direct ball.
As another example, a team with a high line of restraint will still end up getting pushed back if pressure isn’t applied effectively by the forwards and midfielders.

例えば、チームが深いラインに退却するように指示され、攻撃のときにはピッチの高いところへ動いた場合、
それは遅いペースでビルドアップしていることを意味し、ダイレクトなボールによる前進という直接的な脅威がなければ速く攻め入ることを阻んでしまいます。
別の例として、制限線の位置が高いチームは、フォワードやミッドフィールダーが効果的にプレッシャーをかけることがなければ、プッシュ・バックを行うことになります。


At the other end of the defensive block, the line of confrontation denotes the point beyond which the team, starting with the forwards, will begin to apply immediate pressure on any attacker in possession of the ball.
Ideally, a forward will apply pressure and win back the ball, though with most formations, pressure from a forward is intended more to force the ball into an area where the midfield can safely apply pressure to win back the ball outright.
With that said, the way a defensive block actually operates depends greatly on the team’s system of play.

ディフェンスブロックのもう一方の端、対立線は、チームがフォワードから始めて、ボールを所持している攻撃者に即座に圧力をかけ始める点を示します。
理想的には、フォワードはプレッシャーをかけてボールを取り戻すが、ほとんどのフォーメーションでは、フォワードからのプレッシャーは、中盤が安全にボールを完全に戻すために圧力をかけることができるエリアにボールを押し込むことを意図している。
ディフェンスブロックが実際に動作する方法は、チームのプレーシステムに大きく依存します。


Generally speaking, the line of restraint and line of confrontation give you a sense of where the defensive and forward lines will be positioned in the defensive block.
The midfield, then, will be positioned in between, though it is often the case that the wide and advanced midfielders will step up or even briefly stay up to help the forwards put pressure on opponents near the line of confrontation as covering midfielders hold position behind them.

一般的に言えば、制限線と対立線は、ディフェンスとフォワードのラインがディフェンスブロックのどこに配置されるのかを示します。
ミドルフィールドは、その中間に位置することになるだろうが、多くの場合、ワイドと、前目のミッドフィルダーが、対立線の近くにいるフォワードを背後のポジションを埋めるカバーリングのミッドフィルダーとして、ポジションを上げたり、単純に前のほうに残ったりすることで助けます


Normally, a high block is associated with a pressing style of defending while a low block is associated with a containment style of defending.
Pressing occurs when every player moves towards the ball to compress the space around it in an attempt to force an immediate change of possession.

通常、ハイブロックはプレススタイルに関連付けられ、ローブロックはコンテイメントスタイルに関連付けられます。
プレッシングスタイルは、すべてのプレイヤーがボールの方に移動し、周囲のスペースを圧縮して、すぐにボールを取り戻そうとします。


Containment means the team stands off and maintains the basic shape of the formation in an attempt to discourage and cut off attempts at penetration through the midfield or forward lines.
These two approaches aren’t necessarily mutually exclusive.
At times, a team that presses aggressively might need to reorganise and just contain the opposition attack, and a team that nearly always drops back in a containment defence might occasionally press if specific situations allow it.
However, a team that favours pressing as its basic method of defending is said to play a pressing style while a team that favours containment as its basic method of defending is said to play a containment style.

コンテインメント、封じ込めとは、ミッドフィールドまたはフォワードラインを通す前進への試みを立ち止まらせ、阻止するために
チームをあまり動かさず、フォーメーションの基本的な形を維持することを意味します。
これらの2つのアプローチは必ずしも対立しあうわけではありません。
時々、積極的にプレッシャーをかけるチームでもブロックを再構成し、相手の攻撃を食い止める必要があります。
状況が許せば、コンテイメントスタイルでほぼいつも退却するチームがプレッシングに出ることがあります。
しかし、ディフェンスの基本的な方法としてプレスを好むチームはプレッシングスタイルと言われ、コンテインメントを好むチームはコンテイメントスタイルでプレーしていると言われています。


では、ザッケローニの守備についてみていこう。

また、昨年からの課題ではあるが、DFラインをもっと高く保つこと。そして相手陣内でボールを失ったときの攻守の切り替えをもっと早めたい(通訳日記:p126)


守備ではアグレッシブに行き、相手をはめ込む動きをする。(通訳日記:p136)


これに、先ほどの守備の原則のときの議論も併せて考えるてみよう。
・制限線は高めに保つことが基本。
・制限線と対立線の間はコンパクトに。
・最前線の選手からプレッシャーをかけに行き、相手の攻撃をサイドに誘導する。
・ボールを中心に動き、ボールサイドに集中する。

これらのことから、ザッケローニがチームに求めた守備のスタイルは、大雑把に言えばプレッシング・スタイルということになる。
いかにして相手にプレッシャーをかけていくか、という方法論になったときに、ゾーンだのなんだのの議論にはなるだろう。
また、書いてある通り逆のスタイルも併せて使うということは普通にあるので猫も杓子もプレッシングじゃ、と言いたいわけでもない。
ただ、ザッケローニが基本として求めたのは、相手に積極的に仕掛けていく守備だった、ということは言えるだろう。

次はビルドアップ・フェイズである。

Immediately after a team has regained possession, the build-up phase begins with the team transitioning from defence to attack.
This phase mainly involves players repositioning themselves to move the ball into the attacking third of the pitch.
The duration of the build-up phase depends on exactly where the ball has been won and how quickly a team moves the ball forward.
If the ball is won high up the pitch, the transition to attack can be nearly instantaneous whereas a team that gradually works the ball out from its own half will see a more gradual and complex transition to attack.

チームがボールを取り戻した直後に、ビルドアップフェイズはチームがディフェンスからオフェンスに移行することで始まります。
このフェイズは主に、ボールをあたっキングサード移動するためにプレイヤーが自身を再ポジショニングすることを意味します。
ビルドアップフェイズにかかる時間は、ボールを奪った場所とチームがボールをどれくらい早く動かすかによって異なります。
ボールを高い位置で奪えれば、攻撃への移行はほぼ瞬間的になりますが、徐々に自陣からボールを前進させるチームは、より緩やかかつ複雑な攻撃への移行を見せるでしょう。



Teams that aim to minimise the amount of time spent in the build-up phase are described as playing a transition style.
The premise of a transition style is that it is more effective and efficient to attempt to carry out the attack before the opposition has fully transitioned to defence. This can be achieved with either very direct, long-range passes or a quick succession of short, penetrating passes.
It should be noted that a transition style can be combined with any sort of passing style, so a more technical, short passing style does not necessarily equate to a possession-oriented style of play.

ビルドアップフェイズで費やされる時間の最小化を目指すチームは、トランジションスタイルでプレイすると言われれています。
トランジッションスタイルの前提は、相手がディフェンシヴフェイズに完全に移行する前に、攻撃を実行することがより効果的かつ効率的であるということです。
これは、とても直接的な長距離のパスか、短い連続したパスで達成できます。
トランジションスタイルはどんな種類のパススタイルとも組み合わせることができるので、
よりテクニカルで短いパススタイルは必ずポゼッションを重視したスタイルのプレイスタイルに一致するとは限りません。


Other teams are content to take advantage of the build-up phase to move more players forward and attempt to pin back the opposition.
This complex style of attack is achieved with a longer sequence of passing, and to be successful, it normally requires the team to be prepared to use a greater variety of attacking principles and techniques.
A complex style of build-up is often associated with a possession-oriented style of play, but this is not always the case.
Complex styles can be very aggressive with a heavy emphasis on the principle of penetration, but the distinguishing characteristic is that the approach is based on breaking down a settled defence with more varied and intricate patterns of attack.

他のチームは、ビルドアップフェイズを利用してより多くの選手を前進させ、相手後退させようとすることに満足している。
この複雑なスタイルの攻撃は、より長く連続したパスで達成され、成功するためには、通常、チームはより多様な攻撃の原則と技術を使用する準備が必要です
コンプレックススタイルのビルドアップは、しばしばポゼッションを重視したプレイスタイルに関連付けられますが、これは必ずしもそうではありません。
コンプレッションスタイルは、ペネトレーションの原則に重きを置くことで非常に積極的になることがありますが、
しかしこのアプローチは、より多様で複雑な攻撃によって相手のセットされた守備を破壊することに基づくという際立った特徴があります。


ザッケローニの指示を見ると、本来的な志向はトランジッションスタイルであったと思われる。

「昨日のパフォーマンスには満足していない。あのサッカーでは日本の良さは出ない。相手の守備が整う前に攻めなければ、日本の高い技術力が生きない。だからもっと早く前にパスを出して欲しい」(通訳日記:p203)


単調でもいいから前に仕掛けて、相手の陣形が揃う前に崩したいのが監督が目指すサッカー。(通訳日記:p203)


一方で、コンプレックススタイルか、とも取れる部分もないわけではない。

「オマーンより我々の方がクオリティは優れている。しかし、その差はしかるべきプレーをしたときに表れる。スペースのないところでクオリティは出せない。だから、スペースにボールを運んでクオリティの差を見せつける。
ではどうやってスペースを見つけるのか? それはボールホルダーに対して、オフザボールの動きによってスペースを作り出す。前線の活性化が必要なんだ。
逆に我々が狭いところで2~3mの緩いパスを交換していると、オマーンの思う壺だ。10~15mくらいの距離感でパスを出しながら、サイドチェンジも仕掛けてスペースを見つける。
我々のサッカーは、ワイドで起点を作って、逆サイドで仕留めるんだ」(通訳日記:p143)


どう考えるか。
しかし重要なことがある。
コンプレックススタイル、つまり複雑な攻撃をしようとするチームが必ずポゼッションを重視したスタイルというわけではなということだ。
ザッケローニの作ろうとしたチーム哲学にペネトレーションの原則があったことは確認した。
アジアでの戦いのように相手が引いてくるときには、少し手数がかかることも考え前線のモビリティを活かした複雑な攻撃を志向。
これにより破壊的な攻撃力を身に着けた日本は時にもはやアジアには敵がいないのでは、と思わせるパフォーマンスを披露した。
そしてプレー原則を変えることなく、今度は世界相手の時には相手があまり引いてこないだろうことも見越して、そのままトランジッションを重視した速い攻撃を幾度となく繰り返すスタイルへと移行していく、というのがザッケローニの計算だったのではないだろうか。
アジア予選ではサイドチェンジを前提としていたものの、東欧遠征時には同サイドを攻めきる形に考えが少しスライドしている気配があることもこの考えを補強してくれる。

昨日言っていた、岡崎のダイアゴナルランに合わせられなかった時に、内田に出すことはできないか(つまり両サイドバックを同時に高い位置に上げる)という提案について。一晩考えてみたが、悪い提案ではないと思う。しかし、今のやり方では、もし相手が1トップだとしたらセンターバック2枚でその1トップを見て、その前の攻め残りを(例えばトップ下)内田がマークにつく。なぜならば、ボールを奪われた時に、素早く切り替えたいからだ。そのためにはチーム全体がボールサイドに寄る方が理にかなっている。(通訳日記:p281)



としたので、基本はトランジッションスタイル、つまりビルドアップを素早く行い、相手の守備が整う前に攻めきるチームを作りたかった、と一旦は定義したい。
また、チームが前進する際どのような形での前進をめざしたか、という点も確認しなければならない。


ザッケローニ監督手記 vol.13「日本の特徴を武器に、最終予選へ」

日本人選手に共通するのは、スピーディーにプレーしながらでも精度が落ちない技術を持っていることです。それがチームにプラスになると監督に重宝がられている。日本でしっかりとした技術を身に着けた上でヨーロッパに渡り、そこでさらに磨きをかけたのが成功の理由でしょう。
 ハイスピードでもぶれない技術をベースに判断力にも磨きがかかっています。例えば、香川や長友も2タッチ以上、手数をかけてプレーすることはめったにない。シンプルにさばくべきところはシンプルに徹し、ここぞ、というときに勝負に出る。ヨーロッパに既にいる選手も、これからヨーロッパに渡る選手も、そういう部分を念頭に置いてアジャストしていくべきなのでしょう。



ビルドアップが終わればオフェンスフェイズだ。
しかし実はあまりこの部分では語ることがない。
ザッケローニも言っているが、このフェイズに入れば選手たちの判断に大きな比重がかかっていく。
もちろん、パターンを複数用意し、選べる選択肢を増やすことまではできるが。
ただ、もちろんすべてを自由に、というわけにはいかない。
ザッケローニが考える攻撃の武器も東欧でのミーティングで説明されている。

特に、左サイドのコンビネーションから香川(真司)をバイタルエリアでフリーにさせるやり方、そこから裏を突く方法。幅はサイドバックが取ることで、相手が4バックだとしたら、DFラインの1人を外せる。その余った3DFに対して、3対3または4対3を仕掛けていくやり方。この状況を作ったうえで、ワンツー、起点パス、クロスオーバー、プルアウェイの動き、当てて落として3人目の動き、ミドルシュートと6つの手法を使って相手ゴールに迫っていく。この6つが無理だとしてもクロスがある。
(通訳日記:p281)


率直に言って、義務を多く与えているつもりはない。与えているのは、例えばサイドのコンビネーション、1人が幅、2人がバイタルへ、2人が裏のスペースへ入ること、といった形を作っているだけだ。それ以上の義務は与えていない。誰にパスしろとも言っていない。この形を作ったら、後のチョイスは自由にすればよい。(通訳日記:p283)


スピードと技術を活かして相手を崩すべく、空間を得るために幅と深さを原則として強調し、オフザボールの動きを基調とした攻撃の形を7つ用意したザッケローニの仕事は素晴らしいと、僕は思う。

最後がリカバリーフェイズ、つまりネガトラだ。

Immediately after a team has lost possession, the recovery phase begins with the team transitioning from attack to defence.
As described above, this involves the team reconsolidating into its defensive block, though the movement of players back into their defensive positions must be carefully balanced to ensure the opposition isn’t allowed to freely advance the ball before the defence is prepared to deal with it.
This usually involves the forwards and more attacking midfielders carrying out the principles of delay and cover to cut off forward passing options for the opposition players.
As this is done, they either gradually retreat while facing the ball or wait for the deeper players to recover positions and then apply pressure.

チームがボールを失った直後に、チームはオフェンスからディフェンスに移行することからリカバリーフェイズが始まります。
前述のように、これはチームがディフェンスブロックに再統合することを必要としますが、ディフェンスのポジションに戻る選手の動きはディフェンスが攻撃に対処する準備ができるまで相手が自由に前進することを許さないように注意深くバランスを取らなければならない 。
これは通常、相手が前進するパスのオプションを断つために、ディレイとカバーの原則を実行しているフォワードとより攻撃的なミッドフィルダーが関わります。
これが行われると、彼らはボールと向いあいながら徐々に退却か、より後ろのプレイヤーがポジションを回復するのを待ってプレッシャーをかけます。


ザッケローニは攻守の切り替えについては当初からかなり速くするようにチームには伝えていた。

そして相手陣内でボールを失ったときの攻守の切り替えをもっと早めたい(通訳日記:p126)



とはいえ、ファーストディフェンスにはアプローチという言葉を使っている。
先ほど引用したように、ザッケローニにとってのアプローチは、ミスを誘うものである。
一発で飛び込み、奪いきるというものではない。
となるとカウンタープレス、というほどでもないか。
同サイドで攻めきることで、そのまま圧縮守備を展開しようともしていたかもしれない。



ディフェンシヴフェイズ
・ハイブロックを基調としたプレッシングスタイル
・ボールオリエンテッドに動く。
・サイドチェンジはさせない方針。バランスよりも圧縮を優先。

ビルドアップフェイズ
・1タッチ2タッチのタッチ数の少ないパスを速いテンポで繋ぎながら相手陣内への侵入を目指す。
・高い位置からの守備を行うことで、ビルドアップの時間の短縮を目指すトランジッションスタイルを志向。
・引かれた場合は、連続したショートパスで相手を押し込み続けるコンプレックススタイルへ。
・いずれにせよ最優先原則はペネトレーション、つまり侵入。

オフェンスフェイズ
・幅と深さで空間を確保。
・生まれた空間を活用し、連動性・スピード・技術を活かして複数人でエリアに侵入。
・アジア予選期は引かれた場合には逆サイドの活用を視野。
・アジア予選後はネガティブトランジッションを考慮し左サイドの同サイドアタックを軸にし、逆サイドは無理には活用せず。

リカバリーフェイズ
・攻守の切り替えは速く。ただし最前線の選手が無理には奪いに行かない。
・まずはカウンターを防ぐ。相手前残りの選手はセンターバックと、攻めていない逆サイドのサイドバックでマーク。
・最前線の選手はアプローチをかけ、そのまま縦にカウンターに繋がるパスを出されること制限。

ディフェンシヴフェイズ

これがザッケローニにチームが目指した「自分たちのサッカー」である。
よろしいだろうか。


●2-3 ハリルホジッチのフィロソフィー

それはでハリルホジッチの代表チームの話に移ろう。
ハリルホジッチは反自分たちのサッカーという文脈で語られることが多いが、決してそんなことはない。
彼もまた、日本の特徴を生かした日本のサッカーという物を追い求める人物のひとりであった。

ハリルホジッチ「DF陣は競争が激しい」 アフガニスタン、シリア戦メンバー発表 - スポーツナビ

受け持つ選手の個人の長所を生かして戦っていくことは変わらない。そして日本のアイデンティティーを見つけていかなければいけない。


ハリル「ポゼッションがすべてではない」 親善試合 NZ戦、ハイチ戦メンバー発表 - スポーツナビ

日本のサッカーは独自のアイデンティティーを築くべきで、それは日本人選手の特徴をもとにしたものでなければならない。


では、ハリルホジッチはどのようなフットボールを日本に根付かせようとしたのでしょう。
ここから論じるのはもう一つのハリルホジッチプラン。
ハリルホジッチによる日本のサッカー構築大作戦である。
そして、そのためにはどうしてもザッケローニのプランについても論じる必要があった。
その理由はのちに分かることだろう。
さて、まずはザッケローニの時と同じように、ハリルホジッチが求めたプレーの原則を探っていこう。
ハリルホジッチが攻撃の時にチームに求めた原則は概ね4つ。
まずはペネトレーション、前進である。
これは皆さんにとってもすぐにすっと入っていくものだろう。
恐らく頭の中に「縦への速さ」というワードが思い浮かんだのではないだろうか。
今日今、これを読んだ後には、その言葉は頭から消し去っていただきたい。
さて、ハリルホジッチが前進を要求していた、というのは就任会見時の言葉ではっきりしている。

ハリルホジッチ「勝利を多く届けたい」=日本代表新監督就任会見 - スポーツナビ

 
私はもともとFWだった。全選手に期待したいのは効果的な選手であること。私はどちらかと言うとオフェンスが大好きで、ビルドアップもどんどん前に行ってほしい。攻撃にたくさんの選手が関わってほしい、たんさんの人数を掛けたい。これに関しても向上させたいと思っている。


ハリル「ものすごく可能性を感じた」 国際親善試合 ベルギー戦後の会見 - スポーツナビ

 
まず、このチームにものすごく可能性を感じた。守備はブロックを作れば、ある程度のチームに対しても、どんなチームにでもボールが奪えることを証明した。これからは、ボール奪った後の冷静さをトレーニングしなければならない。できるだけボールを前の局面に進めていかなければならない。つまり背後にボールを導き出すということだ。良いチョイスをする、良いパスをするということが問題になる。


深さ。
ハリルホジッチは深さ、という言葉を使用はしていない。
一度田村修一さんが使用しているが、監督本人はその言葉を口にしていない。
では重視していなかったかと言えば、そういうことはない。
別の言葉で表現していた。
頻繁に使用していたのは「相手の背後を狙うこと」そして1度だけ見えたのが「奥行き」という言葉だ。

ハリルホジッチ「新たなトライをしたい」 イラン戦前日、監督コメント - スポーツナビ

われわれの目指すべきところは、速いグラウンダーのクロスを(相手の)背後に狙うことだ。そしてできることなら、広がりや奥行き、3人目や4人目を使うということだ。常に動きながらのプレーを求める。できるだけわれわれのFW陣が、相手のゴールに身体を向けた状態でプレーしなければならない。


ハリルホジッチ「心の底から勝利を願う」=国際親善試合 チュニジア戦前日会見 - スポーツナビ

グラウンダーでスピードのあるパスを使い、できるだけ相手の背後を狙いたい


この背後という言葉には相手ディフェンスのラインの裏という意味だけではなく、相手の中盤の選手のラインの裏、つまりディフェンスとミッドフィールドの間のスペースという意味も含まれている、とは考えられる。
しかし、浅野選手の招集時にもこの言葉を使っていることから、深さを作るためのキーワードだと考えた。

ハリルホジッチ「とにかく勝ちたい」 キリンカップメンバー発表会見 - スポーツナビ

 浅野を初めて見たときに思ったのは、日本国内で1人だけ背後に動き出せる選手だということだ。彼の試合(トゥーロン国際大会)も見たが、背後に走るパワーもスピードもある。まだまだ伸ばせるところもある。


幅は時々優先順位が落ちることはあったように思う。
例えば、2次予選のカンボジア戦では4-1-2-1-2を採用した。
しかし、先ほど引用した中に広がり、というワードがあり、また基本的には3トップを採用していたことから、チームに対して幅を要求していたのではないか、とは思っている。

ハリルホジッチ「求める理想はまだ遠い」 W杯アジア予選 カンボジア戦後会見 - スポーツナビ

まずはゴールするためのポジションをとる。引いてきた相手に対して、一番いいのはサイドからの攻撃だ


原口や乾といったワイドプレーヤーの活用も、特にハリルホジッチ中期から後期の特徴だった。
状況によっては優先度は下がるものの、アイデンティティの中に、サイドの活用というものは入っていただろう。
それが、日本化なのか、現代フットボールの要請によるものかは議論の必要があるだろうが。
最後にモビリティ。

ハリルホジッチ「勝利し続けていきたい」 国際親善試合 イラク戦後会見 - スポーツナビ

特にオフェンスの組み立てにおいて、3人目、4人目(の動き)にワンタッチを要求していたが、それらをよくやってくれたので本当に満足している




ハリル「ハイレベルな予測が鍵になる」 W杯最終予選 UAE、タイ戦メンバー発表 - スポーツナビ

攻撃の原則には何があるのかだが、バルセロナのようにプレーするのは難しい。ステレオタイプになってはいけない。日本の選手はパワーがあるわけではないので、グラウンダーのボールを素早く回さないといけない。(相手の)背後にボールを要求しなければならない。そして全員が動きを連動させなければいけない。ポジションチェンジをしながら、ボールは足元なのかスペースなのか。


初期のころから複数人の連動した動きによる崩しを志向している。
そして、日本代表の強化に向けたこれからの資料の攻撃の原則の中にポジションチェンジの言葉がある。
このことから、選手たちには攻撃の際には動いて相手を崩しにかかることが指示されていたと考えられる。
つまり、モビリティの原則もあった、と。

一方一切強調されていない原則は3つ。
まずはポゼッション、
これはニュージーランド戦での有名な大演説で切り捨てられている。

ハリル「ポゼッションがすべてではない」 親善試合 NZ戦、ハイチ戦メンバー発表 - スポーツナビ

私が日本に来てから、指導者の方からもメディアの方からも、「ポゼッション」という言葉を耳にする。そして日本のサッカーの教育は「ポゼッション」をベースに作られていると感じた。もちろん、点を取るためにはボールが必要で、ボールを持つことが「ポゼッション」だ。だが、相手よりボールを持ったからといって勝てるわけではない。なので、ポゼッションが高ければ勝てるというのは真ではない。


そして、即興。
初期のころからハリルホジッチは「オートマティズムを作りたい、でも時間が足りない」と語っている。
選手同士の自由な発想からの攻撃ではなく、ある程度形を作り安定的にチャンスを作り続けたいというのがハリルホジッチの考えだろう。

ハリルホジッチ「勝利を多く届けたい」=日本代表新監督就任会見 - スポーツナビ


勝つためには、ある程度のオートマティズムとメンタリティーが必要になってくる。そのために少し時間が必要だ。そのために、これからわれわれはトレーニングをしていきたいと思っている。


そしてサポート。
サポートについては明白に重視してなかったのでは、と言える言及がない。
しかし、ハリルホジッチがデュエルを強調していたことから、ある程度1v1の状況での打開を選手たちには求めていたのではないか、と思う。
もちろん、パスを連続させることをハリルホジッチが求めているため、選手たちにある程度は離れないでプレーすることを求めていたのは確かだ。
それはコンパクトさ、とも言えるだろうか。

ハリルホジッチ「目的を果たせた」 W杯アジア予選 シリア戦後会見 - スポーツナビ

少し相手ゴールを背負った状態で、お互いが広がり過ぎていた。そして相手は、しっかり戦う意識があり、それをブロックしてきた。また、われわれのパス交換が正確でなかったため、プレースピードが上がらなかったという分析をしている。中盤と前線に修正を加えたことで、後半には日本の真のイメージを皆さんにお見せすることができたと思う。


しかし、前線が下がってきてボールを受けることについては否定的である。
何が何でもボールホルダーをサポートするように、ということではなかったのではなかろうか。
原則の中で無視されていたわけではないが、強調されていたわけでもない。
選手がどこにどう位置するのか、誰が直接的な助けに入り誰は直接的な助けには入らない、というのは原則の下位レベル、システムやスタイルで定義するというのが、ハリルホジッチの考えだったかもしれない。

守備の原則を見てみよう。
ハリルホジッチは守備についてはかなりフレキシブルな運用をしていたように見える。
特にブロックの高低については常々状況が決める、と説明しておりハイラインであるとかローラインであるとか、そのような発言は一切していない。
もちろんこれは正しい。
しかし、その中にも必ず原則はある。
いくつか発言を見てみよう。

ハリルホジッチ「勝利を多く届けたい」=日本代表新監督就任会見 - スポーツナビ

ハリルホジッチ フットボールには2つの面がある。ボールを持っているときと持っていないときだ。ボールを持っていないときがどうなっているのかと言うと、みんなが同時にブロックを作って守備をしている。守備ブロックに関しては高い位置、中くらいの位置、低い位置というのがあるが、全員が関わらなければならない。全員の努力が必要な状況で一人が欠けていてはならない。われわれがボールを持っている状態のときもある。これも同じで、ビルドアップについてもみんなが関わらなければならない。


ハリルホジッチ「いい道を歩んでいる」 キリンカップ ブルガリア戦後会見 - スポーツナビ

──今日はいい試合だったと思うが、失点以外で「もっとこうしてほしい」という面があれば、それは何か?(大住良之/フリーランス)

 われわれは体力について、まだまだコントロールできていない。例えば毎回ハイプレスをかけることができない。ブロックをもう少し管理する必要がある。相手がさらにレベルが高いと、今日のようにはいかない。今日は「まず、ブロックをしっかり作るように」と、ずっと叫んでいた。ブロックをしっかり作ってからプレスに行かせたかった。特に、真ん中ではなく、相手をサイドに誘った上でプレスをかけたかった。


ハリル「ハイレベルな予測が鍵になる」 W杯最終予選 UAE、タイ戦メンバー発表 - スポーツナビ

まずディフェンスの原則が盛り込まれている。守備に関して、何を伸ばさなければならないか、細かく書いてある。五輪を思い出してほしい。もしディフェンスを厳しく、効果的に行っていれば、もっと良い結果が得られたのではないか。守備の原則はたくさんある。デュエル(1対1の競り合い)、プレッシャー、つまりどこでプレスをかけるか。どこでどのようにボールを奪うか。ブロックのポジションをどこに置くのか、高いのか低いのか、それは状況によって異なる。ただし「前に行きながら守備をする」というのが原則だ。

 Jリーグを見ていてどうだろうか。ブロックを敷くが、引いてブロックしている。そして、そこで止まった状況になっている。アグレッシブに前に行っているだろうか。(そういうチームは)非常に少ない。川崎が少しやっているくらいだ。他のチームは、ただ待っているだけだ。われわれ日本代表が、もう少しハイプレスをかければ……まあ、言うだけなら簡単だが。それでも守備は、下がりながらではなく、前を向きながらやってほしい。Jリーグは下がりながらやっていて、まだまだ問題がある。下がりながらだと、ボールホルダーとの距離ができてしまう。

 それからデュエルだ。地上戦なのか空中戦なのか、その中でアグレッシブさをもって行かないと成功はない。Jリーグでは見られないが、デュエルというのはベースだ。その原則はここに入っている。そしてどこでボールを奪うのかもいろいろある。それをこと細かに、この資料に入れた。すぐに前へ行くのか、それともいったんブロックを敷くのか。それは、いろいろなトレーニングをやりながら落とし込んでいく。そして最後の30メートルでどうするか。相手をフリーで動かしてはいけない。10メートルでどうするのか。ここでは本当に、体が触れ合うくらいのマークをしなければならない。


ハリル「2〜3人入れ替える可能性がある」 親善試合 ベルギー戦前日会見 - スポーツナビ


――ブラジル戦の守備で前からボールを奪いにいくのか、それともブロックを作って対応するのか曖昧な時間があったと思う。そこの修正をどう考えているのか?

 選手たちにも同じような質問をされた(笑)。いつハイプレスをかけるのか。いつ下がってブロックを作るのか。それは「ゲームの状況」が決めることだ。ハイプレスをかけるのか、ミドルブロックを形成するのか、ローブロックにするのか。それは私が「ここで作りなさい」と決めることではなくて、ゲームの状況に合わせて作るものだ。つまりブロックは「ハイ」「ミドル」「ロー」と3つあるが、自分たちで決めることではなく、相手を見ながら状況によって形成する位置を決めるのだ。私ではない。もちろん、タッチラインから「前からいけ」「戻ってこい」といった指示も出すが、それが聞こえなかったり、聞こうとされていなかったのかは分からないが、伝わっていないことがある。

 ただ、いずれにしても走らなければならない。プレッシングというのは組織プレーであり、しっかりとトレーニングしなければならない。ゲームの読み、戦術、そして献身性といったものがなければできないものだ。ハイプレスというのはいい守り方だと思うが、リスクを伴う。全体でいいポジションからハードワークをしながらやらなければ、ブラジルやベルギーのようなチームはそこから抜け出してカウンターでチャンスを作り出すことができる。そのようなチャンスを先日のブラジルは作っていた。特に3点目、それ以外にもチャンスがあった。

 よって、いつどのようにプレスをかけるのかということは選手にも聞かれたが、「開始8分でハイプレス」というような指示の出し方はしていない。これはゲームコントロール、ゲームマネジメント次第だ


サイドに誘導したい、ということからディレイの原則はあったか。
プレッシャーは確実にある。ブロックを組んでからか、それとも高い位置からなのかの違いはあれど、原則として相手に仕掛けていく守備を求めている。
コンプレッション。サイドに誘導してからプレスをかけたい、という記述から、やはりこれも入るだろう。
バランス。一貫して4バックを使用しており、横幅を守るために人を置く、ということはしていない。
サイド誘導からプレス、という原則とも相性が悪く、採用されてないものと考えられる。
カバー。
ゾーンプレスをしたいというのはハリルホジッチの初期の頃の言葉だ。
現実のピッチの上ではカバーが機能していたとは言えないし、マンマークと選手が理解していた節もある。
一旦はカバーは強調してなかったとしたほうが良いか。
統合。ブロックを作ることを求めていることからこちらは原則のうちの1つに入っていた、と言えるかもしれない。
ただし敵陣でのボール奪取がザッケローニ時代よりも多かったという話がある。

データで比較 サッカー日本の戦い方の変遷: 日本経済新聞

「カウンター」(ボールを奪ってからシュートまでの時間が10秒未満のシュート数)と「敵陣でのボール奪取」(敵陣でボールを奪って守備から攻撃に切り替わった回数)に優れた数字を残した。


まずは低い位置でという統合の原則の文言に引っかかるものがある。
が、ハリルホジッチはブロックを作って出ていく、という言葉を使っており、まずはディフェンスブロックを作る、というのが原則であったと考えられる。
そして自制。これはザッケローニ時代と同じく、選手個人個人のプレーとして指導されていた、と理解している。
槙野選手への個人指導など。
そのためチームとしては強調してなかった、としたい。

日本代表DF槙野智章はなぜ挫折やダメ出しから逃げないのか | ニュース3面鏡 | ダイヤモンド・オンライン

 その過程で口を酸っぱくしながら徹底させられたのが、ディフェンダーとして絶対に順守しなければならない「3ヵ条」だった。自軍のゴール前でボールを持つ相手に対して「前を向かせない」「ゴールから遠ざける」「不要なファウルは犯さない」――これらが実践され始めたのは昨秋だった。


ハリルホジッチのプレーの原則についてざざざっとおさらいしてみた。
というところだが、ちょっとここで待ってほしい。
ハリルホジッチは確かにアジア最終予選最中からマンマークへと舵を切っていく。
しかしその前には、ゾーンの守備の練習を行っていた。
河治氏がその模様はレポートしてくれている。


【代表合宿2日目:午前練習レポート】戦術練習で見えてきた“ハリル式ゾーンプレス”のコンセプト(河治良幸) - Y!ニュース

この時期にここまではっきりとしたゾーンの練習をしていることから、元々のハリルホジッチの守備の原則にはカバーがあったものと思われる。
つまり、現実に適合する前、マンマークの要素を押し出す前の、元々のハリルホジッチのフィロソフィーはディレイ、プレッシャー、コンプレッション、カバー、そして時々統合、である。
ここでは、ハリルホジッチの理想計を採用する。
なぜならば、僕が論じたいのはハリルホジッチがやりたかったことであり、実際にやったことではないからだ。
やりたかったこと、そこにハリルホジッチの日本のサッカーのアイデンティティがあるとみている。

さて、ハリルホジッチのプレーの原則は以上である。
言いたいことがあるかもしれない。
だが少し待ってほしい。
それでは次はシステムとスタイルの話をしよう。
ハリルホジッチは基本形として4-3-3系である4-2-3-1、もしくは4-3-3を使用したが、
試合によってはそれ以外の形を使用したり、形はそのままで選手のロールを入れ替えるなどした。
ザッケローニとは違い、試合戦略に重きを置く監督だったと言えるだろう。

Whether a cunning pragmatist or visionary ideologue, all managers make tactical adjustments
between and during matches. Over the long term, managing the club’s tactics involves implementing
a tactical philosophy on the pitch, but in the short term, tactical management mainly involves
developing and implementing strategies for individual matches. While a philosophy defines the kind
of tactics that a manager will prefer generally, a strategy is a means of putting those tactics into
practice over the course of a single match.

老獪な実践主義者であろうと夢想家な理想主義者であろうと、すべてのマネージャーは試合と試合の間、そして試合中に戦術的な調整を行います。
長期的には、クラブの戦術を管理するということはピッチ上の戦術哲学をチームに実装することを意味しますが、短期的には戦術管理は主に個別の試合のための戦略を策定し実行するということを意味します。
マネージャーが一般的にどうしたいかという戦術の種類を哲学と定義していますが、戦略は一度の試合でそれらの戦術を実践する手段です。


A match strategy is a plan for using tactics to secure a desirable result from a match. This does not
necessarily mean a win. Depending on the circumstances, it could also mean a draw, a win by a
certain margin or a loss that maintains a favourable goal differential in a competition. A match
strategy may also incorporate considerations from other areas of club management. For example, a
match strategy may be set up to maintain player fitness or give youth players more experience with
competitive play.

試合戦略は、試合で望ましい結果を得るために使用する戦術計画です。 これは必ずしも勝利を意味するものではありません。
状況によっては、ドロー、コンペティションの中で有利な得失点差を維持する敗戦または一定の差による勝利も意味する可能性がある。
試合戦略には、クラブをマネージメントするほかの部分からの配慮も含まれます。
例えば、選手のコンディションを維持するために、または若手に試合の経験をより多く与えるために、試合戦略を設定することができる。


The key to an effective match strategy is knowing what you want to achieve and how you intend to go
about achieving it. The strategy itself looks to achieve a certain kind of result, but at the tactical level,
the individual tactics that make up a strategy usually have more precise objectives. A tactical
objective is a tactic’s intended effect on play. A tactic may have multiple explicit and implicit
objectives, and there are many different kinds of objective. Common objectives include stifling the
opposition attack, creating a certain type of goal-scoring opportunity, dominating possession, etc.

効果的な試合戦略を策定する鍵は、達成したいこととそれを達成する方法を知ることです。
戦略そのものがある種の結果を生むように見えますが、戦術的なレベルでは、戦略を構成する個々の戦術は通常、よりはっきりとしたな目的を持っています。
戦術目標は、プレイに影響を及ぼす戦術的な意図のことです。
戦術には、複数の明示的および暗黙的な目的が往々にしてあり、多くの異なる種類の目的があります。
一般的な目標には、相手の攻撃を抑えること、特定のゴールチャンスを作ること、ポゼッションを高めることなどが含まれます。


ハリルホジッチは、このことを「オーガナイズ」と表現している。

ハリルホジッチ「方向性をお見せしたい」=チュニジア戦、ウズベク戦メンバー発表 - スポーツナビ

――中盤の異なる2つのオーガナイズを準備するとはどういうことなのか? 国内の試合を見た印象は?

ハリルホジッチ 中盤のオーガナイズだが、異なるオーガナイズを準備する。それは試合に関するプランニング、システムも見せることはできるが、私にとって最も大事なのは各選手の役割だ。中盤では異なるオーガナイズがある。攻撃的な中盤にするのか、守備的な中盤にするのか。この2試合で皆さんが見ると思う。何人かの選手に異なるオーガナイズをプレーしてもらおうと思う。このグループの中で私のやり方を知ってもらいたい。各システム、オーガナイズで勝つ準備をしている。


ハリル「若手がまだ少しおとなしい」 親善試合 ハイチ戦前日会見 - スポーツナビ


――今月からW杯の戦いが始まっていると言っているが、W杯はこれまでやってきた戦術などの延長線上にあるのか? それとも本大会に向けて新しいものを作らなければと考えているのか?(ミムラユウスケ/フリーランス)


 いろいろなオーガナイズはトライしてみたい。私の頭には3つの異なるオーガナイズがある。ニュージーランド戦でも特に中盤で使ったが、明日も同じような感じになると予想している。


 例えば、3アタッカーだが、両サイドアタッカーがいて、真ん中という感じだ。もしかしたら状況などを考えて真ん中に2アタッカーで臨むかもしれないし、その時は真ん中も2枚になる。いろいろな状況が来るので、その状況に合わせて使っていきたい。この3つのオーガナイズは、われわれの選手リストに当てはめた時のことだ。それぞれのオーガナイズを阿吽(あうん)の呼吸にするには練習時間がかなり必要だ。ホワイトボードでの説明は簡単だが、練習や試合が必要だ。阿吽の呼吸や、補足関係、協力の関係が守備でも攻撃でも出てくる。


 ただ、私がオーガナイズを選んだ時に選手たちは役割を把握している。すでに選手に渡してある日本代表のアイデンティティーという資料があるが、それを必ず持ってきてもらい、特に守備で大事なことが書いてある。それをしっかりとリスペクトしていれば、この前の試合の失点はなかったと思っている。



全般的には幅を取るための3トップは、試合戦略上どうしても点を取らなければならないときを除き常に維持している。
どうしても点をとりたいときは2トップで、それは4-1-2-1-2等で披露されている。

スタイルへと移ろう。
まずはディフェンシヴ・フェイズでの振る舞いである。
ハリルホジッチは前を向く守備、アグレッシヴに行く守備を求めている。
守備スタイルは、理想形では高い位置からのプレッシング。
ブロックを組み、必要ならば下げる。
まずはアグレッシヴに行くことを求めていることからプレッシングスタイルであると言えるが、ザッケローニよりはフレキシブルと言えるか。
しかし、守備的とレッテルを貼るのは早計だ。
ハリルホジッチがラインを下げる時、それは相手の後方に自分たちの前進するためのスペースを確保するためだ。

ハリルホジッチ「日本はより強くなる」 国際親善試合 ウズベキスタン戦後会見 - スポーツナビ

タクティクスについてだが、(日本は)コンプレックスを抱いている。先に高い位置にプレスをかけに行くように要求しているが、第1ラインと第2ラインの間にスペースを空けていた。今回はトレーニングをほとんどしていないが、ゲームの展開によってウィークポイントをその都度タッチライン際から指示を出して修正した。そして後半、ブロックをわざと下げることで相手に対して罠を仕掛けた。これがタクティクスだ。相手にこちらに来るように仕向けて、スペースを作らせてからボールを奪って素早くカウンターを仕掛けることで4点が取れた。だからいつも後ろでオーガナイズすること、タクティクスをコントロールすることが重要だ。


そしてビルドアップフェイズ。
ハリルホジッチが求めたのは素早い前進による相手陣内への侵入だ。

ハリルホジッチ「向上して勝利する」 国際親善試合 ウズベキスタン戦前日会見 - スポーツナビ

(選手には)正確で速いパスを要求している。特に奪った瞬間、できるだけ一番最初のゾーンから出ること、できれば一番ボールを受けやすい選手につなぐことを要求している。


ハリル「ものすごく可能性を感じた」 国際親善試合 ベルギー戦後の会見 - スポーツナビ

これからは、ボール奪った後の冷静さをトレーニングしなければならない。できるだけボールを前の局面に進めていかなければならない。つまり背後にボールを導き出すということだ。良いチョイスをする、良いパスをするということが問題になる。


侵入の手段はグラウンダーのパスを1タッチ2タッチの速さで繋げることである。

ハリルホジッチ「心の底から勝利を願う」=国際親善試合 チュニジア戦前日会見 - スポーツナビ


グラウンダーでスピードのあるパスを使い、できるだけ相手の背後を狙いたい。


ハリルホジッチ「DF陣は競争が激しい」 アフガニスタン、シリア戦メンバー発表 - スポーツナビ

先ほど(ビデオで)ACLの浦和の試合(広州恒大戦/2−2)を見たが、広州がグラウンダーのボールで素早いプレーをすれば、チャンスを作り出していた。それがオフェンス面で大事なこと。われわれは早くボールを走らせたい。そしてワンタッチ、ツータッチを使わなければいけない。そして、自分たちよりフィジカルの強い選手とのフィジカルコンタクトを避ける必要がある。リーガの試合を見たが、非常にコンタクトが激しい、それを想定しなくてはならない。できるだけ早くグラウンダーのボールを走らせなくてはならない。話すのは簡単だが、それをすぐにでも選手にやってほしいし、毎試合向上させてほしい。経験のある選手たちには、そういった戦いをもたらしてほしいし、それを怖がってはいけない。このチームには勇気が必要だと思う。


さて、トランジッションスタイルは短い連続したパスでも達成できるともう皆さんは知っている。
つまり、グラウンダーのパスを要求したからと言ってポゼッションを目指したということではない。
でも、ポゼッションしなかったではないか、という話にはならない。
ハリルホジッチはオーストラリアとの試合についてこう述べている。

ハリル「ポゼッションがすべてではない」 親善試合 NZ戦、ハイチ戦メンバー発表 - スポーツナビ

攻撃ではスピードを重視し、日本人の特徴を生かしたグラウンダーでのパスがあった。日本人のフィジカル、そして技術に合わせたプレーの仕方だった。


さて、前進を達成し、オフェンスフェイズへと移る。
ハリルホジッチ体制初期は得点力不足に悩まされた。
そのため最後の崩しでどうするか、のアイデアをハリルホジッチはいくつか披露している。

ハリルホジッチ「勝つことを要求する」 W杯アジア予選 カンボジア戦前日会見 - スポーツナビ

──点を取るために6〜7の解決方法ということだが、ピッチ上でのプレーは基本的に選手に委ねられている。日本人選手は、柔軟に戦うこととや展開を見ながら戦術を選ぶということが苦手だが、判断力や柔軟性で選手に期待することは?

 先ほどの6〜7の解決方法についてだが、選手でも監督でもなく試合の状況が決める。シンガポール戦のアクションを見て、突破するためのアイデアを彼らに付け加えた。例えば中盤はミドルシュートをほとんど打っていない。ダイレクトプレーについても、ダイアゴナル(斜めの動き)なのか、それとも背後を直接狙うのか。そういったことがシンガポール戦では使えていなかったので、いくつかのソリューションを提示した。そして前へのビルドアップというところでは、相手もいるのでそれぞれ違うアクションが必要になる。インディビデュアル(個人)なのかコレクティブ(集団)なのか、それらはさまざまな状況による。そういったことを彼らに提案した。FKやPKがなぜないのかという話もした。


ハリルホジッチ「新たなトライをしたい」 イラン戦前日、監督コメント - スポーツナビ

われわれの目指すべきところは、速いグラウンダーのクロスを(相手の)背後に狙うことだ。


ハリルホジッチ「もっと良くならないと」 W杯アジア予選 カンボジア戦後会見 - スポーツナビ

(ハーフタイムでは)特に中盤と前線で、それぞれダイレクトに伝えたことがある。「背後への動き出しとオブリック・ランニング(編注:斜めに走りながら「く」の字を描くように鋭角的に方向転換する動き出し)をしっかりやってくれ」


ハリル「ハイレベルな予測が鍵になる」 W杯最終予選 UAE、タイ戦メンバー発表 - スポーツナビ

15〜20試合をやってきたが、PKを1回とFKを3回もらったくらいだ。われわれはずっと攻めているのに、それしかもらっていない。オフェンスのアグレッシブさを向上させないといけない。FKは30%がゴールになる。われわれは(FKによるゴールが)0.3%しかない。その数字を伸ばさないといけない。それはメンタルでアグレッシブに仕掛けていかないくてはならない。ペナルティーエリア内でファウルを誘うことも重要だ。それらがオフェンスの原則だ。ミドルシュートや、ファーポストや真ん中など、常に説明している。とにかく、全員がうまく連係して、グラウンダーでボールを素早くつなぐことが重要だ。


素早いパスの連続からサイドを攻略し、グラウンダーのクロスをエリア内に入れる。
アグレッシブに仕掛けてセットプレーを誘う。
ミドルシュート。
このあたりがキーワードになるだろうか。
そしてリカバリーフェイズ。
ここでは、まずブロックを作ってからディフェンスに行くように指示を良く出している。
最初にその指示を出したと明言したのはブルガリア戦。

ハリルホジッチ「いい道を歩んでいる」 キリンカップ ブルガリア戦後会見 - スポーツナビ

──今日はいい試合だったと思うが、失点以外で「もっとこうしてほしい」という面があれば、それは何か?(大住良之/フリーランス)

 われわれは体力について、まだまだコントロールできていない。例えば毎回ハイプレスをかけることができない。ブロックをもう少し管理する必要がある。相手がさらにレベルが高いと、今日のようにはいかない。今日は「まず、ブロックをしっかり作るように」と、ずっと叫んでいた。ブロックをしっかり作ってからプレスに行かせたかった。


前向きな守備を作るためにまずブロックを作るという作業をする。
これがハリルホジッチが最優先としていたことで、つまり原則の統合である。

これらを纏めると、ハリルホジッチが初期に目指し、日本代表のアイデンティティとなるようなフットボールとして定義したのはこういうものではないかと推測される。

ディフェンシヴフェイズ
・まずはブロックを組み、そこからアグレッシヴに相手に仕掛けにいくプレッシングスタイル。
・ブロックの高さは試合状況に応じて変えてよい。ハイブロックにはこだわらない。
・ゾーンディフェンスのトレーニングを行っていることから、ボールオリエンテッド。

ビルドアップフェイズ
・奪ったときから前進を始めることを求めるトランジッションスタイル。
・グラウンダーのパスを少ないタッチ数で連続させる。
・これにより、自分たちより強い選手とのフィジカルコンタクトを避ける。

オフェンスフェイズ
・基本はサイドを攻略してのクロス。できればグラウンダーで。
・オブストリックランやダイアゴナルの動きを利用して直接背後を狙う形も。
・エリア付近やエリア内では積極的にデュエルを仕掛けてセットプレーを狙う。

リカバリーフェイズ
・まずはブロックを素早く作る。
・ブロックができたらプレッシャーをはじめる。

ディフェンシヴフェイズ

これが、僕が少しだけの情報からではあるがハリルホジッチが当初日本代表のスタイルとして想定していたものではないかと考えている。
いかがだろうか。
読んでいてあなたはこう思っただろう。
ザッケローニに似ているな、と。

ザッケローニとハリルホジッチの言っていることが似ているな、と最初に思ったことがキーボードに向かい合っている理由だった。
実際にみてみると、まず攻撃のフィロソフィーがほぼ似通っていることが目につく。
前への速さを求めていること、スピーディーなパスの連続を求めていること。
攻撃についても、オフザボールの動きを基調にオートマティズム的なものを2人はチームに授けようとしている。
フィジカルの接触は避けられるなら避けるべきという見解も一致している。
それはデュエルから逃げてもいいという意味ではないとは思うが、フィジカルコンタクトを前提としたプレー、例えば相手を背負って時間を作ってもらうとか、そういうプレーはあまり積極的には使わないほうがいい、というのが2人の立場だろう。
国籍で判断はしないが、キャリアには敬意を払いたい。
これだけキャリアのある2人の監督が、こういうフットボールがいいよ、と提案してくれている。
日本に合うのは、グラウンダーのパスを、スピーディーに繋いでどんどん前に仕掛けていくことだよ、と。
攻守の切り替えは速くして、前向きに相手に向かって行く守備をしましょうね、と。
守備はぐっとボールを中心にみんなで寄せて、奪いに行きましょうね。
これらのことは、ザッケローニからアギーレを経てハリルホジッチの8年間を経てどれほど実行できるようになったかと言えば、何もないと言っていい。
ザッケローニ時代には、監督が求めぬポゼッションに溺れ、ハリルホジッチ時代には最終的に特段狙いもないロングボールを入れ始めるという醜態をさらしている。
彼らのサッカーを、僕らの代表チームは拒否し続けた。
このことをまずははっきりとさせておきたい。
重ねて言うが、片やイタリアの国内リーグでタイトルを獲得した経験があり、片や2014年のワールドカップでアフリカの一国で決勝トーナメントに進出した、リスペクトされるべき経験を誇る2人。
この2人が、日本の特長にあった日本のサッカーとして、こういうものを提案している。
日本人に合った、日本のサッカーというのは、僕たちが望んでやまなかったものではないか。
だが、それが今肯定されている状況には見えない。
無批判に受け入れろとは言わない。
しかし、今の状況は無視に近い。
雑な「パスをつなぐサッカー」などというフレーズではない、2人はともに確固たるフィロソフィーをもって、日本のサッカーという物へのヒントや道筋を、残してくれている。
それを無視するというのはいささかリスペクトが足りないというものだろう。
僕はこのフィロソフィーを支持する。
攻撃的でアグレッシヴで、世界的な流れに乗りつつも、日本人のメンタリティに合った戦術でもある。
スピーディーに攻めることで、僕らが誇る数々の才能がひしめくアタッカー陣にスペースと時間を提供できる。
守備もぐっと寄せるのがいい、横スライドを根性でやるというのは、少し過酷そうで意外とやってる感があることがやりがいになるかもしれない。


●2-4 ペネトレーション

ハリルホジッチの理想形については論じた。
現実には、アジア最終予選から守備や攻撃を目の前の試合に特化した形に変化させている。
それは、相手に攻撃させることで穴を作るまさにカウンターと呼べる戦術。
ここはその戦術について日本での認識を広めた五百蔵さんの言葉を素直に借りるとしよう。

また、この試合を通じてほとんど露呈していないか、露呈していても戦略的に活用されていた試合がいくつか存在します。インサイドハーフが釣り出される形でできたスペースに相手を誘い込みむ格好で迎撃し、返す刀でカウンターにつなげるというのがそれです。相手の戦術や攻撃面でキーとなる選手を分析し、「インサイドハーフが空けたスペース」を使う選手を特定、彼がそのスペースに入り込んだために生まれる敵陣のスペース(日本代表が空けるスペースに選手を送り込めば、その選手がいたスペースが必然的に空く)を使って逆襲するというわけです。「弱いところをあえて晒し、相手を引き付けて痛撃をくらわす」といえば、日本では大坂冬の陣における「真田丸」戦法が思い起こされます。(五百蔵容:砕かれたハリルホジッチプラン 日本サッカーにビジョンはあるか:p172~p173)


今大会でもメキシコ代表がドイツのボアテングを引きずり出す形でスペースを作り出したことが話題になっており、世界的にも活用され始めている戦術と言える。
ここで僕が論じたいのは、ハリルホジッチの原則の1、侵入のことを考えたときには非常に理がかなっている戦術だな、ということである。
現代において、チームが相手陣内に侵入していくことはますます困難となっている。
今回のワールドカップでもいくつかみただろう、素晴らしい速さの帰陣、そしてみるからに強固なブロック!
4-4ブロックが代表でも当然のように敷かれるようになった現代において、ボールをそのブロックをかいくぐらなければならないという点で相手陣内へ侵入する作業が極めて困難になってきている。

ハリルホジッチ「南野は面白い選手」 シリア戦、イラン戦メンバー発表会見 - スポーツナビ
ハリルホジッチ フットボールで一番難しいのは前に行くことだ。


ブロックを組まれても、スピーディーなパスを繋ぎ、オフザボールの動きも組み合わされば相手ブロックは崩せる、と挑戦的だったのはザッケローニだ。
僕はこの考えも嫌いではない。
しかし、現実問題日本がアジア最終予選でも安定してボールを持てるわけではない状況になってきている。
それは日本が弱体化したというよりは、アジアの各チームもボールを持てるようになってきたということだ。
特にオーストラリア代表の変貌ぶりは目を見張るものがあっただろう。
欧州からの指導者も多数アジアに流れてきており、ブロックの強度も高くなってきている。
では、どのようにボールを前に、相手陣地内に進めていくか。
相手のブロックに、突破口ができればいい。
でも、突破するための穴を自分たちがボールを持っている状態で作るのは困難だ。
例えばその手段としてポジショナルプレーはある。
ザッケローニの3-4-3も位置的優位を利用した攻撃を標榜している。
しかし、日本の選手はその3-4-3もものにすることができなかったほど、位置的優位については疎い。
ポジショナルプレーなどと言ってられる段階にはない。
では、どうするか。
相手が自分たちから穴を開いてくれればいい。
とても合理的で、スマートな考え方だ。
実際にその手段もある。
フットボールは「足りない」スポーツだ。
広大なフィールドを11人という中途半端な人数でカバーしなければならない。
必ずカバーできないところは発生し、そこはリスクとして、影のエリア化するなど様々な方法を駆使して隠される。
しかしそれでも穴は穴だ。
相手が攻撃のために、リスクとして開けてしまった空間を、橋頭堡として活用し前進を達成する。
プレーの原則、特に攻撃の原則はそのままに、より安定的に、効果的に相手陣内への侵入を達成するために編み出された戦法。
攻撃のことを考えた戦術、とでも言おうか。
相手陣内に攻め入るために、もしボールを奪いきれなかったらこちらが危険にさらされる、そういうことをする。
これを守備的とは言いたくない。
ハリルホジッチはどこまでも攻撃的な監督である。
攻撃の戦術を考えるのが大好きで、守備ももちろんしっかりやるが、根っこはどう攻めるかにある。
ボールポゼッションの高低も一切関係はない。
そしてカウンターであるから、守備的とは言わない。
リスクを取り、相手陣内に果敢に攻め込むハリルホジッチの戦い方は、十分にアグレッシヴである。
ハリルホジッチを守備的なサッカーと揶揄する向きにはここで断固たる覚悟で、決別をしたいと思う。

さて、ここまで侵入、侵入と連呼したがなぜ前進が重要なのかについて考えてみよう。

The first principle of attack is penetration. This simply means advancing the ball towards the
opposition goal. It is the first principle since moving the ball forward is the first possibility that the first
attacker should consider. There are several means by which penetration can be achieved. The first
and most common is a forward pass. Whether the pass is short or long, placed to a teammate’s feet
or into space, it achieves penetration if it advances the ball towards the opposition goal.

攻撃の第1の原則は侵入である。 これは単に相手のゴールに向かってボールを進めることを意味します。
ボールを前方に動かすことは、最初にボールを持った選手がが検討すべき最初の可能性であるため、第一の原則です。
侵入を達成するにはいくつかの手段があります。
最も一般的なものは前方へのパスです。
パスが短くても長くても、チームメイトの足下かスペースでも、ボールが相手のゴールに向かって進んだ場合、侵入は成立します。


However, penetration does not only concern passing. Dribbling and shooting are also important
aspects of penetration. Dribbling is especially important in tactics where an attacker is expected to
directly create space for himself in a 1v1 duel. In the case of shooting, even shots that do not result in
goal can potentially yield a corner or a loose ball in the penalty area. Beyond dribbling, shooting and
passing, sheer physical ability can also be used to penetrate a defence. For example, a player can
attempt to outmuscle or outpace a defender after knocking the ball forward, though these
applications of pure athletic skill are less effective at the higher levels of the game.

しかし、侵入にはパスが関わるだけではありません。
ドリブルやシュートもまた、侵入の重要な側面です。
ドリブルは、アタッカーが1v1のデュエルで自力でスペースを直接生み出すことが期待される戦術で特に重要です。
シュートの場合、ゴールをもたらさないシュートであっても、コーナーやペナルティーエリア内でルーズボールが得られる可能性があります。
ドリブル、シュート、パスをする以外にも、フィジカルの能力を使ってディフェンスに侵入させることもできます。
例えば、プレーヤーはボールを前方に打ち出した後にディフェンダーに力で勝ったり速さで勝ったりすることができますが、
これらの純粋な運動能力の活用は、高レベルの試合ではあまり効果がありません。


The defining characteristic of a team focused on penetration is the urgency with which they move the
ball forward. An extreme emphasis on the principle of penetration will see passing and movement
progress along more direct, vertical lines, though it is possible that a team will play a short passing
style in which the majority of passes are quick, vertical/forward passes.

侵入に焦点を当てたチームの明確な特徴は、ボールを前方に動かす強引さです。
侵入の原則を極端に重視すると、より直接的な縦の線に沿ったパスと前方への動き見るでしょう。
ただし、パスの多くが前方への素早いパスの中でならショートパスのスタイルでプレーすることも可能です。


ペネトレーションとは、前方への移動のことである。
では、なぜペネトレーションをザッケローニもハリルホジッチも重んじたのだろうか。
1つの要素として、現代フットボールのディフェンスがボールオリエンテッド、つまりボールを中心に動くことと、その周囲にコンパクトに選手が集まるということが考えられる。

「今のゲーム、パスのほとんどが足元へのものだった。そして中央のスペースのない狭いところでばかりプレーをしていた。これだと明日の結果は見えている。自らガーナの術中にはまるようなものだ。
狭いところでプレーすれば、相手はフィジカルで押し込んでくる。センターFWが下がれば、結果的に自然と相手がコンパクトになる。
そうではなく、スペースにボールを出して、そこに向かって動き、相手が守備ブロックを構築する前に攻めきるサッカーをしよう。でなければやられてしまう」(通訳日記:p271)


これはザッケローニがガーナ戦前のトレーニングで選手に語ったことである。
なぜ相手がコンパクトになるのか。
まずゴールに向かって背を向けて相手が動くことで、ゴール方向にボールが出る危険が少なくなる。
もちろんターンやヒールと言ったプレーの危険はあるが、それがエリアの近くならまだしも、アタッキングサードに入る前くらいならば抜け出されたところで十分ほかの誰かがカバーはできる。
となれば下がる選手に向かってディフェンスの選手はアタックできる。
つまり、ラインが上がる。
後ろ向きでボールを受けたところで、次にボールが行く行先は横か後ろである。
そこに向かってまたディフェンスはアタックを仕掛ける。もし後ろ向きにボールを戻せば、ディフェンスは前方ベクトルのまま守備を続けることができる。
どんどん相手に押し込まれていく。
そして重要なのが現代の守備はボールを中心に選手が動いているということだ。
ボールがあるところに選手がいる。
もしボールを自陣に押し込まれてしまえば、相手選手は高い位置を取り、自分たちは低い位置でのプレーを余儀なくされる。
そう、現代においては「ボールがどこにあるか」が重要で、ボールを持っているかどうかは重要ではない。
それを証明して見せたのが、最終予選、ホームで開催されたオーストラリア戦だっただろう。
AFCのデータによればポゼッションは33.5%。
しかし、ボールが日本側3分の1にきたのは20.5%。オーストラリア陣側のエリアで過ごした時間27.5%と比較すると少なく、結果としてオーストラリアのシュートを5本だけに留めている。
オーストラリアと言えば怖いのはセットプレーだがコーナーキックは日本が8本でオーストラリアが3本。
自陣深い位置への侵入を防ぐことでセットプレーすらも防ぐ。
確かにボールは握られていた。だがボールはこちらの陣内よりも、相手陣内のほうにあった。
結果としてオーストラリアを完封したのがあの試合と言えるのではないだろうか。
もちろん、自分たちがボールを持つことが悪いわけではない。
もしもボールポゼッションに長けたチームで、相手陣への侵入も安定してできるチームならば、自分たちの力で相手陣内でのプレーを強いることができる、と言える。
僕がザッケローニの考え方を嫌いではないとしたのはそこだ。
ただし、先ほど述べた通り現代では守備が大変ソリッドになっており、相手陣へ能動的に侵入するということが難しくなってきている。
そして、もしもリスクを承知で飛び込めばハリルホジッチも活用した「罠」による攻撃が飛んでくる危険がある。
自分たちでボールを持って、相手のプレーするエリアを強制するチームへの挑戦は、僕は価値があるものだと思う。
しかし、現状「ボールを持っていれば攻められない」程度の認識しかない状態でポゼッションに挑むのは自殺行為でしかないと思う。
まずは、ザッケローニやハリルホジッチが強調したように、前にボールを運ぶことを意識づけることが重要だろう。
縦ではない。
前だ。
相手陣内へ攻めにかかる。
侵入する。
ボールを送り込む。
縦に速く、ではなく、前に進んで行く。
そこからさてどうやって安定してボールを前に運ぼうか、という話にはなっていくだろう。

この前に進み、相手陣内にボールを侵入させる、という原則を第一にもっていくことに、ザッケローニとハリルホジッチはともに苦労している、という点をこれから指摘していきたい。

ザッケローニは度々「前に仕掛けよう」と言い続け、ついに最後の最後、ムンディアル直前のザンビア戦でも指示をして、そしてハーフタイムで怒っている。


「我々はザンビアに対してチーム力で上回る。できる限り早く前に仕掛けよう。チームとしてインテンシティ、クオリティを発揮して、ビルドアップをセーフティにすること。
チーム全体、攻守に連動すること。最後のテストマッチだから、テストの場として自分たちのサッカーをやり切ること」(通訳日記:p352)


「2mの距離で足元にしかパスを出していない。それを4年間言い続けてきた。このチームはできるだけ相手ゴールに仕掛けるために作られたチームで、そのためにこのメンバーを呼んでいる。だから、自分たちのサッカーを出そう。高い位置から連動してプレッシングを仕掛けること。相手DFは足元の技術が低いからボールを奪える。前半のパフォーマンスは忘れる。後半、またゼロからやるつもりで入ろう。前半30分の戦いをしていたら、日本ではない。これだと、本大会で前に進めない」(通訳日記:p353)

自分たちのサッカーは、できなかったのだ。


そしてハリルホジッチも最後の最後までペネトレーションを植え付けるのに苦労している。
最終的にはロングボールを入れるという段階まで行ってしまった。
プレーの原則という観点で見れば、ハリルホジッチのチームが3月の遠征では完全に壊れてしまったことが理解できると思う。

まずは(1)で指摘した本田選手のプレー。
「深さ」の原則の無視となる。
下がるプレーが良くない理由は先ほどのザッケローニの言葉通りで、原則レベルの無視は、監督が指摘するのはやむなしと言わざるをえない。
しかし、それだけだろうか。
ハリルホジッチの原則が壊れてしまったことを示す選手コメントが別にある。

川島永嗣「成長がないとW杯は難しい」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ

昌子源(鹿島アントラーズ)
「焦っていたら良い方向にはいかない」


(相手が)来ていないのに前の人に預ける必要はないと思います。ちょっと食いつかせてからとか、多少来たタイミングで(パスを)出したりとか。この前のマリ戦で思ったのは、相手が来ていなかったらボールをキープしていればいいということ。


(自分から)持ち上がるのも正解だとは思わないです。相手がブロックを敷いているところに突っ込んでいっても仕方がない。それだったら、近場でパスを回して、来なかったらキープしていればいい。もちろん勝っているとき、負けているときによっても違ってくるし、そこは使い分けをしていかないといけません。


 何事もチャレンジしないと始まらないと思います。W杯まで時間がないのはそうなのですが、それで焦っていたら良い方向にはいかない。経験のある選手は分かっていると思うけれど、焦らないというのは大事なことだと思います。


これは明白な原則の書き換えである。
先ほどから述べている通り、チームの第一の原則は侵入である。
相手がブロックを敷いているのなら、それを崩すための動きをしなければならない。
ボールを持っていればいいというのはポゼッションの原則であり、それは強調されていない。
監督への反逆である。
ボールを持ちあげることは、ブロックを動かすためにやることである。
相手のブロックがあるし、動くまで待とう。これでは前には進まない。

「運ぶドリブル」と「仕掛けるドリブル」の違いの理解に向けて


運ぶドリブル コンドゥクシオン 
・いつ?=前にスペースがある時(※ただし前線に優位な選手がいる場合はパスの方が優先順位は高い)や状況が硬直した時

・どこで?=ディフェンスエリア〜中盤エリア

・どのように?=顔を上げる、細かくアウトサイドでタッチ、方向転換時にインサイドも使う。相手がいる場合、遠い足を使用し、スピードは上げ過ぎない

「優位な状況を作り出す」ために、「運ぶドリブル」は非常に大切であり、コンセプトの理解が求められるスキルです。

スペインの代表的な選手ではイニエスタやシルバ、センターバックでもピケやセルヒオ ラモスは多くのシチュエーションで使用しています。

FCバルセロナにおいても、ピケやマスチェラーノが持ち上がるシーンが多く見受けられますが、攻撃のフェーズに移る際、前にスペースがある時に「前進の方法」として使用されます。

「運ぶドリブル」を効果的に使うことで、相手を引きつけることができ、味方の選手がフリーになり、数的優位で攻撃することができます。

パスコースがないときなど、状況が硬直した際には、相手を動かすことで「状況の変化」を作り出すこともできます。

ただしこのドリブルは、ボールを失わないことが前提です。そのため、視野が狭くなり、ボールコントロールが難しくなるような、極端なスピードアップは必要ありません。

総じて、組み立ての時に使用するドリブルと考えると良いでしょう。


重ねて言うが、ハリルホジッチのチームの原則でのポゼッションの優先度はかなり下だ。
それを自身の考えで覆すことはあってはならない。
プレーの原則はチームの顔を作る大事なもので、だから本田選手は批判覚悟のプレーをし、呼ばれなくても仕方がない、とテレビ番組で語ったのだ。
まず本田選手もやるなよという話なんだが。
ところが、世間一般ではディフェンスラインはハリルホジッチ支持だの、ディフェンス対オフェンスだので語られる。
一体なんなのだこれは。
悪い冗談か何かか。
確かにハリルホジッチは、ディフェンスラインの選手の名前を会見で挙げた。
だからと言ってこうした振る舞いがスルーされることはこれからにとって一切良いことはない。
昌子選手は、疑うまでもなく日本人では屈指の守備者で、次回大会を目指す代表チームの主軸の1人となるべき選手だ。
だからこそ、振る舞いを指摘しなければならない。
この時期、所属する鹿島でもハーフタイムにホワイトボードを取りだし選手を集める姿がDAZNに映っていた。
一体なにがこの時期の彼を追い立てていたのか。
本当に残念な発言で、振る舞いだと思う。


一方、この問題を選手一人に押し付けるわけにはいかない。
後ろがボールを出さない問題はザッケローニの頃から発生しており、最終的に噴出したのがここだった、というのが実際のところだろう。
日本のサッカーには、恐らくペネトレーションの原則がない。
深さも少し微妙だな。
幅もどうだろうか、最近のJ2では幅を取るアタッカーが増えてきている気はするが。
攻撃の原則、というものがない。
守備もどうだろうか。
田嶋会長は日本人の特徴を生かしたパスを回すサッカーということを言った。
パスをつないで、それで
ザッケローニもハリルホジッチも、パスを繋ぐことは手段で、目的はペネトレーションだった。
原則があって、スタイルがあって、テクニックがある。
テクニックが、戦術を作ってくれるわけじゃない。
これは本当に悪い冗談だ。
今、フィロソフィーがあり、手段も知っていて、実行する手立てを持っていた2人の監督による日本のサッカー構築という仕事が、その2人のレベルに全く達してない男により唾棄されようとしている。
僕の今書いているこれですら、足下にもたどり着いていない。
しかしそれでも。
2人の仕事を眺め、原則を知り、その中で日本のサッカーをどう定義しようとしていたかの一端を知ることはできた。
残念ながら、彼の男からはそう言った仕事に対する敬意も知性も感じられない。
ジョークだ。
彼のような人間がトップにたち、日本のサッカーの方向性を決めることは本当に、ジョークだ。


●2-5 そして何も残らなかった

今回の記事では、ザッケローニとハリルホジッチの哲学をみた。
そしてその中で、問題となっているものの一つがペネトレーションであることを指摘した。
だが、この部分が改善されるかはわからない。
まず、ペネトレーションという言葉を一般化させないといけないし、そしてそれが単純に縦に速いとかロングボールを入れるではないことも普遍化させなければならない。
そうしてようやく重要性が認識されたとして何年かかるだろうか。
もう一つ指摘しなければならないことがある。
日本サッカーは、外国人監督にちゃんと向き合ってきたのだろうか。
今回で言えば、ザッケローニが彼の哲学について一切チームに対して妥協をしていないことが分かった。
ところが、「日本人選手のイメージにある程度合わせて、自分たちでボールを保持して相手を圧倒するスタイルを掲げた」というコメントがライターからも出てくる始末だ。
ザッケローニの言うことを、僕らは耳をきちんと傾けられていたのだろうか。
少し疑問に思ってしまう。
ハリルホジッチは確かにあれこれあれは良くないあれも良くない、と指摘はしていた。
しかしそれに対して悲しくなると質問したメディア!
外国人監督は日本を愛し、日本に適合し、日本について悪く言ってはならないとでもいうのだろうか。
ハリルホジッチが日本を愛していなかったというわけではないが。
外国人が日本を認めるというストーリーにあまりにもこだわりすぎではなかろうか。
そしてまた、外国人の意見を利用しようとする風潮も払しょくしなければならない。
フィロソフィーを振り返れば、ハリルホジッチは決して世界標準だけを追い求めていたわけではない。
日本のサッカーのアイデンティティを構築したいという熱意は、自分たちのサッカーを追い求めたザッケローニといくらか重なるところがある。
だが、自分たちのサッカーはやめようという意見の旗頭にハリルホジッチが使われる。何を聞いていたのだろう。

僕らは今一度、ザッケローニとハリルホジッチの仕事を検証し、何をしようとし、何に阻まれ、何が足りなかったのかをきちんと総括する必要がある。
そうして足りなかったものを、育成で補っていく。
それはゾーンディフェンスをやりましょうねなんて単純な話では済まないと思う。
何が判断基準でどういうテクニックが必要でというところから洗いださなければならないだろう。

しかし、それは難しいだろうことも理解している。
ハリルホジッチが用意した日本サッカー強化に向けた原則も葬られるだろう。
そうしてJFAは、彼らは、彼らが考えることに誰も異を唱えない心地の良い環境で、彼らがやりたいことだけをやるのだろう。

哲学は、捨てられた。
たった一人の、無知な王様によって。

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posted by ふかば at 22:08| 多分サッカー | 更新情報をチェックする