「侵害コンテンツへのリンクは著作権侵害」とのEU判決 「表現の自由」への制約が懸念されるEU著作権法の最新動向

知的財産権・エンタメ
中川 隆太郎弁護士

 2016年9月8日、欧州連合(EU)司法裁判所は、男性誌「Playboy」に掲載予定だった未公開の写真を閲覧できるウェブサイトへのリンクを、別のメディアが許可なく掲載したことに対して、著作権侵害にあたると判決を下した。これまで、ウェブサイトのリンクは著作権侵害にあたらないと判断されてきたため、今回のEU司法裁判所の判決は、注目を浴びる判決であった。

 また同年9月14日には、欧州委員会がEU改正著作権法案を発表。これによると、Googleニュース等のニュースアグリゲーターが報道機関のコンテンツにリンクを張る場合は、使用料を支払う必要性があるものとなっており、物議を醸している。

 今回は、EUにおける著作権の最新動向と今後考えられる日本への影響について、現在パリに在住し、EU法について詳しい、骨董通り法律事務所の中川隆太郎弁護士に話を聞いた。

EUにおける著作権の動向

EUでは、著作権についてこれまでどのような議論がなされてきたのでしょうか。EUでの著作権に関する動向について教えてください。

 EUは、これまでに10を超える指令 1によって、著作権に関するルールを間接的・段階的に統一してきました。大まかには、断片的な取り決めにとどまっていた時代を経て、2001年に「著作権指令」とも呼ばれる情報社会指令によってEU著作権法の基本的な枠組みを形成しつつ、その後も貸与権指令やソフトウェア指令、孤児著作物指令などを通じて部分的にルールのさらなる統一化を進めてきました。

 しかし、情報社会指令の成立から15年が経過し、インターネットを中心とするテクノロジーの飛躍的な進化と、それに伴うコンテンツ関連のビジネスモデルやプレイヤーの激変によって、オンライン/デジタルコンテンツと著作権を取り囲む状況は全く異なるものへと大きくシフトしています。そのためEUにおいても、時代に即したEU著作権法のアップデートを求める声が、権利強化・利用促進の両面で高まると共に、新たな利用について、既存のEU著作権法においてどのように解釈すべきかが問い直される場面が次々と生じています。
 また、域内市場の統合を大きな目的として掲げるEUは2015年、デジタルコンテンツについて、よりハイレベルな域内市場統合を目指す「デジタル・シングル・マーケット戦略」も採用しています。

欧州委員会が新しい著作権法案を発表しましたが、こちらの概要について教えていただけますか。

 先ほどのような背景の中で、欧州委員会は2015年12月にEU著作権法のリフォーム構想を発表し、2016年9月に正式に立法提案を行いました。今回のリフォーム案は、コンテンツのデジタル/オンライン利用の面を中心に、EU著作権法の大規模なアップデートを図るものです。その内容は実に多様ですが、主な視点は次の3つです。

① オンラインコンテンツへのクロスボーダー・アクセスの向上
② 調査・教育、文化遺産、障害者に関するデジタル/オンライン利用のための権利制限規定の整備
③ クリエイターおよび報道機関のための、より公平なオンライン環境の整備

 最も議論を呼んでいるトピックのひとつは、③の一環として提案されている、新聞社や雑誌出版社といったニュースメディアへの著作隣接権の付与でしょう 2。ニュース記事のオンライン利用に関し、Googleニュース等のニュースアグリゲーターから報道機関への対価(いわゆる「Google税」)の支払いを促進することを意図するものですが、スペインやドイツでの類似の法改正が上手く機能しなかったという前例もあり、立法提案前の検討過程でも賛成派・反対派双方により侃侃諤諤の激論が交わされています。今回の立法提案には盛り込まれたものの、すでにケンブリッジ大などの著作権法の教授37名から反対声明が公表されるなど、今後の理事会および欧州議会における検討でも紛糾必至の状況です。
 いずれにせよ、この点に限らず今回の盛りだくさんのメニューについては権利者側・利用者側からも様々な指摘・批判のあるところで、今後の検討経過で修正・削除される可能性は十分にあり、引き続き注目していく必要があります。

無断リンクが著作権侵害と判断された

欧州連合司法裁判所(EU司法裁)が、「無断でのリンクは著作権侵害である」と判断を下したことが話題となっていますが、この事件の概要についても教えてください。

 このGS Media事件は、Sanoma社が発行しているPlayboy誌(オランダ版)に掲載予定だった同国のテレビ番組司会者のヌード写真が、その発売前に何者かによってリークされ、権利者の許諾を得ずにファイル共有サイトにアップロードされたことに端を発します。この写真についてオランダのゴシップ系ニュースサイトを運営するGS Media社は、これを記事として取り上げたうえで、問題の写真がアップロードされたページへリンクを張り、Sanoma社らの削除要請にも応じませんでした 3。そこで、Sanoma社らは「このような侵害コンテンツへのリンク行為は著作権侵害に当たる」としてオランダのアムステルダム地裁に提訴しました。

 本件に関して、EU司法裁は、2016年9月の判決で「権利者の許諾を得ずに違法に公開された侵害コンテンツと認識しながら(または認識すべきであったにもかかわらず)公開された著作物にリンクする行為は、情報社会指令における公衆送信権 4(right to communication to the public)侵害に当たる」と判断しました。さらに、「リンク行為が営利目的でなされた場合には、侵害コンテンツと認識していたと推定される」とまで踏み込んでいます。これは事実上、営利目的でのリンクに際してリンク先の調査義務を課すものといえます。

<GS Media事件判決の結論>

営利目的でのリンク行為で、リンク先のコンテンツが違法に公開されていた場合 原則として著作権侵害
(違法公開の認識に関する推定を覆した場合は非侵害)
営利を目的としないリンク行為で、リンク先のコンテンツが違法に公開されていた場合 違法公開の認識があった場合、または認識すべきであった場合は著作権侵害

今回の判決による懸念点があれば、教えてください。

 リンクはインターネット社会に欠くことのできない情報流通の「血脈」として、極めて重要な役割を果たしています。そのため、今回の裁判では欧州委員会に加え、ドイツなどの複数の加盟国によって「侵害コンテンツへのリンクを一律に著作権侵害とすることは、表現の自由や知る自由への強い制約となり、表現の自由や公共の利益と著作権者の保護との正当なバランスを損なう」と主張されていました。
 EU司法裁としては、侵害コンテンツであることの認識を問うことでこれらの警告に対して配慮したのでしょう。それでもなお、今回の判決には以下のような懸念があります。

①判決の線引きは妥当だったのか 

 まず、判決の線引きそのものの妥当性を疑問視する声があります。たとえば日本では広告収入を目的として侵害コンテンツの掲載されたストレージサイトへのリンクを大量かつ系統立てて掲載する、いわゆるリーチサイト規制についての検討が始まっていますが、検討の土台となっている知財推進本部・次世代知財システム検討委員会の報告書では、リーチサイトの悪質性などを踏まえた検討が必要とされ、一例として①営利性や②大量性、③継続性の観点から対象範囲を限定して 5 著作権侵害とすることなどが提案されています。

 これに対し、今回の判決の判断枠組みは「リンク先が侵害コンテンツと知りながら(または知るべきであったにもかかわらず)リンクを張る行為」を広く公衆送信権侵害とするもので、リンク行為のうち侵害となる範囲をごく悪質なものに限定するためのその他の要件は加えていないため、侵害となる範囲が広く、表現の自由への制約という観点で正当なバランスを失くしているのではないか、と疑問に思います。
 たとえば、日々大量のリンクを取り扱うウェブメディア等にとっては、(一見して明らかに許諾を得ていないようなコンテンツを除き)そのすべてのリンク先が公開の許諾を得ているか否かを確認することは困難を伴うため、リンクの掲載を控えるのか、または削除するのか、難しい判断を迫られそうです。また、内容に照らし違法公開と疑われるYouTube上の動画について、個人ユーザーがfacebook上で多数の知人にシェアする行為も公衆送信権侵害とされるリスクが高くなります。

②曖昧な判断の枠組み

 さらに、今回の判決の判断枠組みは基準として曖昧であるとの批判もあります。①どのような場合に「侵害コンテンツと知るべきであった」とされるのか、あるいは②どのような場合に営利目的であるとされるのか(たとえば、個人ユーザーによるブログへのリンクでもブログのウェブ広告により収入を得ていれば営利目的ありとされるのか?など)、明確ではない点が少なからず存在します。繰り返しになりますが、表現の自由や知る権利への強い制約であるにもかかわらず限界がクリアでないことにより、萎縮効果が懸念されます。

これまでリンクは著作権侵害にあたらないとされてきたと思いますが、今回の判決に至るポイントはどこだったのでしょうか。

 確かに、この点に関して、従来のEU司法裁によるSvensson事件判決(2014年)やBestWater事件判決(2014年) 6 では、リンクを張るだけであれば原則として侵害にあたらないと判断されていますが(有料の会員登録制ニュースサイトなど権利者により公開範囲が限定されたコンテンツにリンクして、権利者の想定していない「新たな公衆」(new public)にアクセス可能とした場合に限り侵害とされています)、これらはいずれも適法に公開されたコンテンツへのリンクが著作権侵害となるかが判断されたケースでした。
 これに対し、今回のGS Media事件判決は、権利者の許諾を得ずに違法に公開されたコンテンツにリンクする行為について判断しており、この違いが今回の結論に至ったポイントと言えます 7

日本企業への影響は

今後考えられる日本企業への影響について教えてください。

 今回の判決により、日本のコンテンツホルダーにとっては、ストレージサイトなどに違法アップロードされたコンテンツへリンクを張って、EU内のユーザーに向けて提供しているリーチサイトに対し、公衆送信権侵害に基づき削除等の対応を求めやすくなったと言えます。他方、EU内のユーザーに向けたウェブサイトにおいて他者のコンテンツにリンクしている日本企業にとっては、リンク先のコンテンツが違法に公開されていないか確認することが事実上義務付けられることになります。

 日本国内においては、これまでの学説や下級審裁判例から、侵害コンテンツへのリンクであっても、リンク行為自体は原則として公衆送信権侵害に当たらないとの見解が通説的地位を占めています(だからこそリーチサイト規制についても立法論を軸に検討されています)。また、これまでの裁判例を見る限り、①営利目的の有無や②リンク先が侵害コンテンツか否か(およびその認識)を公衆送信権侵害の成否の考慮要素として取り入れる判断枠組みは見当たりません。たとえばロケットニュース事件(2013年)は侵害コンテンツへのリンクが公衆送信権侵害となるかが問題となった事案でしたが、大阪地裁はこの点につき特段考慮せずに、条文の文言に従い「送信可能化」に当たらず非侵害としています 8 。また、リツイートによるインラインリンクが著作権侵害となるかが争点となった事案では、東京地裁は自動公衆送信の主体について規範的判断を行いつつ、比較的あっさりと、リツイートしたユーザーが自動公衆送信の主体とは認められないと判断しています。そもそも日本とEUとではこの点に関する著作権法の文言が異なることも考慮すると、日本企業の国内での活動にただちに影響を与えるものではないように思われます。

 ただし、先ほど述べたリーチサイト規制の検討に際し、規制を求める立場からは今回の判決をその主張の根拠の1つとするでしょうし、検討過程において一定の影響を持つ可能性はあります。とはいえ、インターネット社会においてリンクの果たしている役割の重要性を考慮すると、次世代知財システム検討委員会の報告書の打ち出した基本線に沿って、悪質なリーチサイトのみをみなし侵害の対象とし、通常の個人ユーザーのリンクへの萎縮効果が生じぬよう、慎重に検討を進めることが求められているように思います。


  1. EU法は、その根幹をなすEU条約・EU機能条約のほか、その発効によりただちに加盟国において直接効力を有する規則(Regulation)と、各加盟国に立法を義務付ける形で間接的にルールを統一する指令(Directive)とに主として大別されます。 ↩︎

  2. このほか、①では、EU内の1か国でオンラインテレビ・動画配信サイトと契約しているユーザーが他のEU加盟国への移動後も引き続きオンラインでコンテンツを視聴可能とすることを促進するための取り組み(いわゆるコンテンツポータビリティ)や絶版コンテンツのライセンスシステムの整備などが、②では、MOOCsでの教材利用や文化施設による文化遺産の保存のための複製、さらにはテキストおよびデータマイニングによる調査・研究に関する権利制限に加え、視聴覚障害者のための権利制限規定の拡充(マラケシュ条約の内容を反映するもの)などが、③ではUGCプラットフォームに対するコンテンツIDシステムの義務化などが、それぞれ提案されています。 ↩︎

  3. その後もGS Media社は、元の共有サイトが問題の写真を削除すると、Sanoma社とのトラブルそのものを別途記事化し、問題の写真がアップロードされた他のサイトへ改めてリンクするなど、徹底的に争いました。なお、Sanoma社は問題の写真を撮影したカメラマンから著作権管理について一定の委託を受けていました。 ↩︎

  4. 厳密には「公衆伝達権」とも訳され、日本の公衆送信権と完全に同一ではありませんが、ここでは便宜上、「公衆送信権」とします。 ↩︎

  5. 既存の公衆送信権の規定の解釈ではなく特別のみなし侵害規定の新設によることが示唆されています。 ↩︎

  6. Svensson事件は、新聞に寄稿し同新聞社のウェブサイトに掲載された記事(誰でも自由にアクセス可能)が他のメディアによりハイパーリンクを張られていることについて、記事を執筆したジャーナリストらが公衆送信権侵害と訴えた事案で、EU司法裁は、権利者の許諾に基づき誰でも自由にアクセスできる著作物にリンクを張る行為は、それが権利者の想定していない新たな公衆(new public)に対するリンクである場合を除き原則として著作権侵害に当たらないと判断しました。また、BestWater事件では、フレームリンクについて同様に公衆送信権侵害の有無が争われ、EU司法裁は、フレームリンクであっても判断枠組みは同じであり、著作権侵害に当たらないと判断していました。 ↩︎

  7. 実際にEU司法裁も、この点で従来の裁判例と本件とは事案を異にし、本件でリンクを著作権侵害とすることは先例により排除されないと述べています。 ↩︎

  8. 他方、公衆送信権侵害の幇助に関しては、①コンテンツの内容や体裁上、公開への許諾の有無が明らかではないことや②削除要請を受けてすぐに削除していることを理由に、第三者による著作権侵害(公衆送信権侵害)を違法に幇助したものとも言えず、故意・過失もないと判断しており、違法公開についての認識を考慮しているように読めますが、これはあくまで幇助犯の成否に関する一般的な判断枠組みに沿ったものです。 ↩︎

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