(筆者:株式会社トライフォートCEO大竹慎太郎)
物語:サイバーエージェント流採用戦略
サイバーエージェントに入社して1年が経った頃、私は面接官に任命されることになった。その時、「なぜ自分が選ばれたのだろう?」と考えた。もちろん新人賞やMVPを取ったということが関係しているのだろう。
しかし面接官に向いている人というのは、ほかに存在しているのではないだろうか。学生の話を聞き出し、優秀さを測るのが得意な人というのはほかにもいるのではないだろうか?
実際、なぜ私のような若造が面接官に選ばれたのか? 人事からの採用基準についてのアナウンスを聞いて、その理由が分かった。
面接官に選ばれた時、人事から言われたのは、「いわゆる優秀な人ではなく、一緒に働きたいと思った人を残してください」ということだった。これは、サイバーエージェントが組織カルチャー(*)を重視しているということから導き出される基準だった。
(*)「組織カルチャー」とは、『起業3年目までの教科書』の中で私が明確に定義した、企業の経営上最もといえるほど重要な、マネジメント上の概念である。
つまり、サイバーエージェントのカルチャーを楽しめそうな人を採用したい、という人事の意向がこの基準に反映されているのだ。
サイバーエージェントのカルチャーに馴染めそうかどうかは、サイバーエージェントのカルチャーに染まっている人が一番分かる。サイバーエージェントのカルチャーに一番染まっている人とは? それはサイバーエージェントでバリバリに頑張って、その時点で活躍している人である。
だから私のような人間が面接官に選ばれた。当時私は確かに成果も上げていたが、何よりも仕事を楽しんでいた。今振り返れば何かの魔法にかかかっていたんじゃないかと思えるほど、サイバーエージェントの仕事にのめりこんでいた。
採用基準を告げられた私は、一次面接であるグループディスカッションの試験官と二次面接の面接官を担当することになった。
ではサイバーエージェントは、面接でどのような視点で学生を見ていたか? 人事から言われたのは「一緒に働きたいと思うかどうか」だった。それを見るためには、結局たたずまいや話し方、表情など会話以外の部分も重要だ。
私が一緒に働きたいと思う人の定義は、「サイバーエージェントっぽい人」と、明確だった。それを判断するのは面接が始まって最初の数分で十分だった。「そんな適当な」と思うかもしれないが、結局はこうした印象こそが組織カルチャーの形成に大きく関わってくるものなのだ。
サイバーエージェントで私が関わっていたのは2次面接までだったが、当時、全候補者の最終面接の面接官を担当していたのは藤田晋社長本人だった。それは、藤田さんが、人を見抜くことの重要さを身にしみて感じているからだ。
藤田さんが最終面接での面接官役にそこまでこだわっていた理由は、厳密に人を選抜するため、“ではない”。
現在ではさすがに最終面接のすべてに藤田さんが出られているわけではないと聞いたが、藤田さんは会社の顔となっている自分が最終面接の場に立つことで、優秀な人材にぜひサイバーエージェントにきてほしいという願いを込めて、最終面接と内定者懇親会の場に立っていたはずだ。
『ベンチャー通信28号』(2007年11月号)の記事には、当時の藤田さんの次のような証言が残っている。
私が採用にかけている時間は、他の経営者の方と比べても多い方だと思います。毎年200名くらいの最終面接を行っていますし、当社のすべての新卒採用セミナーで会社についてプレゼンするようにしています。時間があれば、内定者懇親会や研修にも顔を出します
ただ先程私は、当時数分で人を見抜いていたといっていたが、そこまで短時間で見極められたのは、サイバーエージュエントが何度も面接を課すからだった。何層にもフィルターがかかるわけだから、そのスピードが可能になっただけではある。
その意味で、もし創業間もないベンチャー企業で、そんなに面接の回数を重ねられない場合は、一回一回の見極めにはもっと時間をかけて、慎重に事を運んだほうがいいだろうとは思う。
誰をバスに乗せるか?
私はこれまで在籍してきたサイバーエージェント、SBIグループ、Speeeのすべてにおいて採用面接に関わってきた。その経験からいえるのは、「優秀な人ではなく、一緒に働きたいと思う人を採用するべき」ということだ。これはすべての大前提になるのでよく覚えておいていただきたい事柄である。
これはなにも、何のスキルもないが仲のいい友達を会社に迎え入れるのがいいといっているものではない。基本的なスキルはもちろん必要である。ただ、そのうえで応用的な技術力をもっている人を採用するよりも、一緒に働きたいと思う人を採用したほうが、結果的に会社のカルチャーを形成しやすく、引いては結束力の強い組織を生むことにつながるという塩梅である。
「一緒に働きたい人を雇う」ということを、あえて陳腐な言い方に転換すればそれは、「ぽい」人を探す、ということになる。これは、あなたの会社で、あなたの会社のビジョンに沿って喜んで働いてくれている姿がありありと想像できるような、あなたの会社にすごく合いそうっ「ぽい」人を採用する。あなたの会社っ「ぽい」人を採る、ということである。
「ぽい」人は、きっと活躍してくれるはずだ。たとえばサイバーエージェントは、積極的に手を挙げ、失敗してもめげずに新しい挑戦をするようなカルチャーをもっている。人とのコミュニケーションを怖れず、誰とでも活発に接するような人が多いイメージを多くの人が持っているだろう。
なぜサイバーエージェントがそのようなカルチャーを形成できたかといえば、そのようなカルチャーに馴染んでくれそうっ「ぽい」人を最初から採用しているからだ。身もふたもない話だが、本当にこのことに気づいている経営者の方は少ないように思う。
つまりイメージに合致する人を採用しているのだ。たとえば私は、サイバーエージェントに入社して以来、現在までに何人の人から「大竹くんはサイバーエージェントっぽいね」といわれたかわからないほどである。
普通経営者は「優秀な人」を採ろうとするだろう。しかし、優秀な人がいつでもどこでも「優秀」かといえば、そんなことはない。絶対にその会社に「合う」「合わない」の問題が出てくる。その時に「ぽい」人を雇うことは、総じて「合う人」、すなわち「あなたの会社でのびのびと活躍してくれる人」を雇い入れていることになっているのである。
つまり、「”あなたの会社で”のびのびと活躍してくれそうな人を雇いなさい」が答えなのである。
あなたは本当は、「優秀な人」と「活躍してくれる人」のどちらがほしいだろうか? 今まさに、「うちの部下はやる気がない」とおなげきの経営者の方を含め、よくよく考え直してみるべきだろうと私は考えている。
サイバーエージェントの「採用基準」
「あなたの会社でのびのびと活躍してくれる人を雇いなさい」を言い換えるとしたらそれは、「会社のカルチャーを体現してくれる人を採用しなさい」になる。カルチャーという言葉がわかりづらければ、「自分の理想の会社を熱意を持って“一緒に”作っていけそうな人をそもそも雇いなさい」でもいい。
そのことをサイバーエージェントの藤田さんは次のように表現している。
15年サイバーエージェントを率いてきた身としては、先に適切な人を選ぶことの大事さを痛感します。先に適切な人を選んでおけば、途中で環境の変化に適応しやすくなります。(略)
「適切な人をバスに乗せる」というのは、優秀な人から順に選んで乗せるのとは、似て非なるものです。感覚的には、一緒に働きたいひとを乗せるに近いでしょう。ただし、一緒に働きたい人はだいたい、優秀な人なのですが。
一緒に働きたい人が会社に集まっているならば、「働く仲間が好きだから」「この会社が好きだから」といった理由が発生し、皆のモチベーションを上げるための努力は少なくて済み、厳しく管理する必要もなくなります。何より、危機の時に団結する強い組織になります(「渋谷で働く社長のアメブロ」2014年1月5日の記事「採用で大事なこと」より引用)
サイバーエージェントは、社員のモチベーションがすごく高い会社だといわれている。
実際、サイバーエージェントの社員はみながいきいきと自らの意志で日々前向きに働いている人たちがとても多い。これをはたから見ると、藤田さんが何か魔法のような方法を使って社員を鼓舞しているように思われるかもしれない。だが、社員を鼓舞する方法というのは、手段の一つに過ぎない。
サイバーエージェント社員のモチベーションが高いのは、「そもそも〟サイバーエージェントで〟モチベーション高く働いてくれそうな人を雇い入れてきている」からだ。藤田さんはそのことの重要性を誰よりも理解している経営者の一人だからこそ、サイバーエージェントを、あそこまで偉大な会社に育て上げることできたのである。
藤田さんがまず魔法を使う場所は、最初の最初である採用の場面においてなのである——。
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では、会社の経営にとってそこまで重要な面接の場面で、担当する面接官は、どういった視点で人を見抜いていけばいい? 先に提示した「一緒に働きたいと思う人」というのは、一体全体どのような人のことを指すのだろうか?
それについては、元々採用においては、「一緒に働きたいと思う人を雇いなさい」を提唱している、サイバーエージェントの藤田さん自身が、転職サイトのDODAの取材に対して次のように答えているのが参考になる。
サイバーエージェントの昔と今とで変わらない採用の条件としては〟ビジョンへの共感〟を大事にしていることです。自分の持っている技術やキャリアを一生懸命説明する人も多いですけど、一番重要なのはそこじゃないんですよね。同じチームの仲間として志を一緒にできるかどうなのかというところ。逆に言うと、どんなに優秀な人でも〟ビジョンへの共感〟がなければ採用を見送ります。
例えば今、イチから新しい会社を設立すると仮定します。それでも私は、今サイバーエージェントで働いている社員をもう一回採用すると思います。この組織であれば、インターネットに限らず、違う事業をすることになったとしても、会社を大きくできる自信がある。それはみなが「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンに共感しているから。
経営者は孤独なんです。自分の会社が最後にどうなるかなんて誰にも分からないけど、それでも会社の成長を信じている。そんな中、一緒に会社の成長を信じてくれる人がいたら、すごく頼もしいですよね。そういう人と「一緒に働きたい」と私は思います(「「一緒に働きたい」と思われるための3カ条」より引用)
つまり、藤田さんの言う「一緒に働きたい人」とは、あなたの会社のビジョンに共感してくれていると同時に、あなたの会社の成長を信じてくれる人。それすなわち、「会社の将来を信じ、あなたと一緒に〟喜んで〟会社を大きくしていってくれる人」のことなのだ。
藤田晋の「決断力」
では、「会社の将来を信じ、あなたと一緒に〟喜んで〟会社を大きくしていってくれる人」とは、具体的にはどういう人のこというのだろうか?
それに対しては、サイバーエージェントで長年採用に関わってきた、現同社の取締役である曽山哲人さんが、「経営者人事対談」というサイトの対談の中で、次のように答えているのが参考になる。
素直であるというのが第一条件です。当社では素直な人材、もしくは素直になろうと決めた人材にまず機会が与えられます。またそのような人材はこうした機会を通じ自分なりに決断を繰り返し、その結果からさらに学んでいきます
それに引き続き曽山さんは、「「素直さ」以外に御社で頭角を現す人材の共通点はありますか?」という質問に対して、次のように答えている。
あります。それは「意思表明」です。「これをやってみたい」という想いをどれだけ表に出せるかによって自分のキャリアが決まるといっても過言ではありません。
たとえば「社長になりたい」でも「こういう仕事がしたい」でも良いのですが、まず表明することで周りから反応が返ってきます。それには「それならばやってみたら?」と賛同が得られるラッキーな場合と「何言っているの?まだ早いでしょう。」と言われてしまう残念な場合がありますがそのどちらであっても経験になるということがポイントです
つまりサイバーエージェントは、「素直であり、自ら意思表示のできる人」——すなわち、「素直かつ、闊達で前向きな人」——を「一緒に働きたい人」だと考えているのである。
では、藤田さん自身はどうやって、その候補者が〟そういう人かどうか〟を見抜き、決断しているのか?
答えは、「ベンチャー通信28号(2007年11月号)」の取材の中で、藤田さん自身が次のように答えていることが参考になる(これは「人を見抜くためにどこを見ていますか?」といった主旨の質問に対する回答である)。
さまざまな要素があり、一つ一つを言葉にするのはむずかしいですね。ある種の直感としか言いようがありません。ただ、直感というのは結構当たるものなのですよ。経営者を見て「この人は合わないな」と思った会社は選ばない方が良いかもしれませんね。
また人相などは特に大事だと思います。その人の長年の人生や人間性が顔に表れたりしますから。この直感のおかげで、私はこれまで人に騙されたことがほとんどありませんね
この発言から藤田さんは、人を見抜く際に、「この人は合うかどうかの直感」と「人相などの非論理的な部分」で判断していることがわかる。
ここまでの話をまとめると、サイバーエージェントがいう「一緒に働きたい人」とは、「素直で、自ら意思表示ができる人」であり、それすなわち「自ら率先して”闊達に”働きながらも、長く愛社精神を持って会社で働いてくれる”素直な”人」のことである。
そういう人かどうかを面接における対話でどうやって判断すればいいかといえば、「人相と会話の中での直感から判断する」ということになる。
これがサイバーエージェントが「一緒に働きたいと思う人」=「一緒のバスに乗せるべき人」の正体であり、それを私流の言葉になおすと「ぽい人を採用する」ということになるものである。
実際、多くの企業にとって、「自ら率先して闊達に動きながらも、長く愛社精神を持って会社で働いてくれる素直な人を雇っていく」というのは、会社にとっても、働く人にとっても、双方が幸せになることのできる、とても合理的な採用基準であるように思う。
この「人を見る目」こそが、藤田さんの「決断力の源泉」であり、藤田さんはその決断を「わずか数秒~数分足らず」で下しているのである。
(以上、『起業3年目までの教科書』の「ベンチャー企業の採用戦略」の章より引用)