漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】 作:疑似ほにょぺにょこ
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「お帰りなさいませ、アインズ様」
優雅な笑みを湛えながら俺の帰りを喜んでくれるアルベドに『うむ』と鷹揚に頷く。久しぶりの我が家──このナザリック地下大墳墓へ帰ってくることが出来た。とはいえ、あくまで一時帰宅なのだが。
(あぁ…一時帰宅って…まるで現実世界のブラック会社みたいじゃないか)
謁見の間の奥に据えてある玉座に座り、『ふぅ』と息を付く。ほぼ自室と化しているためにここに居るとなんか落ち着く。しかし居れるのは後1時間ほどしかない。そこまで忙しいわけでもないのに詰めなくてはならないのは、身体が疲れなくなっても精神の安定化が作用するようになっても疲れを感じてしまうのは『人らしい』といえるのではないだろうか。俺はまだ人で居られるのだろうか。それともアンデッドとなってしまうのか。まだまだその辺りの踏ん切りがついてないのは感傷なのかもしれない。
「随分とお疲れの様ですね」
「あぁ、実はな──」
そうだ、折角なのでアルベドに聞いてみるか。と、現状を話してみることにした。
早々にヤルダバオトの件を看破してきた貴族が居ること。裏から手を回して蒼の薔薇を使って俺を監視していること。最初は特に能力の高いイビルアイだけだったのに…未だに尻尾を出さない俺に焦れたのか、今度は隠密能力の高いティアとティナのダブル忍者まで付け始めていること。
そのせいで中々エ・ランテルに戻ることは勿論のこと、このナザリックにすら中々帰られないのは流石に辛い。
──と、段々愚痴っぽくなってきた気がする。アルベドに愚痴ってどうするんだ。
「アインズ様、愚かな発言を致しますことをお許しください。──人間達がこちらの計画を看破したというのは本当なのでしょうか。そうであれば早急に殺す必要があると愚考致しますが」
「確かに妄想、虚言、お国騒動の愚痴など考えられることはいくつかあるが、まず間違いないと見て良い。最高戦力である蒼の薔薇を付けたのが良い証拠だ。そして、相手を殺すのは最悪の愚行だな。まず間違いなくそれに対する対策を立てているだろう。今はまだこちらの証拠を掴みきれていないが、殺してしまえばそれが証拠となってしまうだろうな」
そう、その看破した貴族と言うのはおおよそ検討は付いては居るものの、『こいつだ』という確信は未だに得られていない。噂が立って早2カ月。もうかなりの人数の間で噂が飛び交ってしまっている。ただ未だに向こうも確証がないため『かもしれない』でギリギリ止まっている。だがこちらが行動を起こしてしまえば最後、『やっぱりそうだった』に変わってしまう。そうなったら本当に最後だ。地道に上げていた名声も一気に逆転し、国賊と言われるのは間違いないだろう。
「人間風情にそのような事が出来るのでしょうか」
「違うぞ、アルベド。人間風情──弱者であるが故にだ。弱者が生きるには策を弄するしかない。無い知恵を絞り、潰される事を前提に策を弄し、十重二十重に罠を張る。人間達がこうやって生きて来れたのは力があるからではない。こういう知恵が奴らを生かし続けているのだ」
それは人間だったからわかる。知恵を絞り策を弄し、団結して強者に立ち向かうのが人間なのだから。
「それでは蒼の薔薇への対応は如何ななものなのでしょうか。流石に甘やかしすぎだと愚考しますが。それに──」
アルベドが珍しく言い淀む。視線を俺から外し、言っても良いものかと考えているようだ。頭の良いアルベドのことだ。短い会話の中で何か察したのだろうか。
「──それにあのイビルアイとかいうヴァンパイアです。鎧越しとはいえ、アインズ様にあんなベタベタとうらやま──いえ不敬ではありませんか!」
「あれは良──くはないが、仕方のない事だ」
「仕方のないとはどういうことなのですか、アインズ様! 至高の御方であるあなた様にあのような事をするなど決して──えぇ、決して許されるものではありません。もしやあのようなヴァンパイアに──」
そんなにアレが引っ付いて来ることが気になるのか。俺に詰め寄り捲し立てるように口早に抗議してくる。が、俺の雰囲気が変わっていることに気付いたのだろう。段々と尻すぼみになっていた。
「──どうした。続けろ、アルベド」
「いえ、あの、もうしわけ──」
「何が申し訳ないというのだ、アルベド。俺が何も考え無しに奴らに好き勝手させていることに対するものか。それとも奴らに迎合し、施しを行い続けていることか。それとも──」
アンデッドになり、精神の起伏が減ったとはいえ無くなったわけではない。特に怒りは人間であった時に起因するのか一番抑制される回数の高いものだ。だがその抑制は今回の事に対しては何の意味もなさない。まるでシャルティアにかけられた精神支配がワールドアイテムであったと知った時ようだ。
「それとも! このアインズ・ウール・ゴウンが! 己の大切にしているものを踏み躙られ! あまつさえそれを行ったモノに対して! この私が! 懸想している等と言うつもりか!」
「もっ──申し訳ありません! 失言でございました!!」
幾度となく精神抑制がかかりながらもなお怒気を納めず、立ち上がり激高する俺にどれだけの失言だったのか気付いたのだろう。アルベドは数歩後ろに下がり、床に頭を擦り付けるようにして謝罪を始めた。
──何をやっているんだ俺は。確かにアレに対する怒りは相当なものだ。漆黒の英雄等という枷が無ければ四肢を切り落とし魔力を封印し、恐怖公の配下に回復魔法を掛けながらじわじわと内側から喰わせるか。それともソリュシャンに何十年も延々と溶かし続けさせるかさせていただろう。
だがそれはあくまで俺個人の感情だ。アルベドに八つ当たりして良いものでは決してない。
「よい、アルベド。謝罪を受け入れ、お前の失言を許そう。その代り今の事を忘れるのだ」
本当に精神抑制が無かったら今頃俺はどうなっていたのだろうか。平坦になってくれた気持ちに軽いため息を付きながら。
「──そういうことだ。少しは理解したか、エントマ」
アルベドが個人の感情だけでここまで動くだろうか、と思っていたら案の定だ。殺されかけたエントマを心配していたのだ。なんと俺は情けないんだ。エントマを、アルベドを心配させ、悲しませることしかできないなんて。
柱の影に隠れるエントマに、出来るだけ優しく話しかける。気付かれていないとは思っていなかっただろうエントマは、無言のままにこちらに姿を見せてくれた。だがその姿は元気がない。
「どうした、エントマ。口唇蟲を失っても、声を失ったわけではないだろう」
「あいんずサマ。コのヨウナ醜イ耳障リなコエヲ──」
「そんなことはない。確かに源次郎さんが与えた声も私は好きだぞ。だがな、エントマ」
ゆっくりと立ち上がり、エントマに近づく。落ち込み俯く──とはいえ仮面蟲が下を向いているだけだが──エントマの両肩にそっと手を添えた。それでもなお顔を上げてはくれない。源次郎さんに何か言われていたのかは想像もつかない。だからなぜエントマが自分の声を嫌っているのかもわからない。だったらいう事は一つだ。
「私はな、エントマ。お前の口唇蟲を使わぬ本来の声も──」
屈んでエントマと視線を──しつこいがあくまで仮面蟲のだけど──合わせる。エントマは、いや皆、至高の41人と言われる俺の友達の子供なのだから。だから、優しく言い聞かせるのが一番だ。
「──私は好きだぞ」
「っ!? あいんずサマ──アインズサマァ!」
なぜか後ろからギシリと聞こえてはいけないような音が聞こえた気がするが、後ろにはアルベドしかいないはずだ。恐らく気のせいだろう。震えるエントマの頭──を撫でるのは無理か。優しく抱きしめる。なぜか後ろから凄まじい音がさらに聞こえた気がするけど、気のせいだと思いたい。そもそも今はエントマに集中せねば。
「お前は私にとって源次郎さんの大切な子供であり、このナザリック地下大墳墓を守る──私の信頼するプレアデスが一人なのだ。何を恥じる必要がある。エントマ、お前が自分の声を嫌うというならばそれでも良い。だからたまにで良い。私だけにで良い」
抱きしめる腕を解き、そっとエントマの頬辺りに手を添える。うーん、わしゃわしゃして不思議な感触だけど、それがまた気持ちが良い。そういえばエントマはこの仮面蟲の目の辺りから見えているのだろうか。それとも実際は蟲の様にほとんど見えず、触角等で周囲を察知しているだけなのだろうか。こっそりとエントマの脚が俺の指に絡んでくる。それはまるで小さな子が大人の手を握っているように──いやまさにそうなのだろうな。
「時々、お前の本来の声を聴かせてほしい。良いな?」
「ハイ!!!!」
仮面蟲の下から垂れてきたのは涙だろうか。涙だよな。涎じゃないよな。こういう時判別不可能なのは少々不便だが、きっと涙だろう。
「ア、スみマセン。安心シタらオ腹ガ空イチャッテ」
(やっぱり涎だったよオィィ!!)
「そ、そうか。健啖なのは良いことだな、うん。そ、そうだアルベド。このナザリックに侵入しようと計画しているという話は届いているか」
懐から取り出した──もしかして常備しているのか、ゴキ──じゃない恐怖公の配下を仮面蟲の下側から突っ込んでパリパリと小気味良い音を出しながら咀嚼を始めたエントマから離れ、急いでアルベドの方を向いた。流石はアルベドか。ゴ──黒い蟲を咀嚼するエントマを直視したというのにその表情は相変わらず余裕の笑みを浮かべている。本当に流石だ。思わず心の中で『うわぁ』って思ってしまった自分が恥ずかしい。そういえばコキュートスもゴ──アレを食べるのだろうか。いやいや、想像してどうする。忘れろ。忘れるんだ。
足早に玉座に戻り、座る。それとほぼ同時に食べ終えたのかエントマは、一礼した後に小走りで謁見の間から出て行った。
「当然こちらでも察知しています。愚かにもこのナザリックを襲おうと考えているものたち──主にバハルス帝国の冒険者達の事ですね」
「あぁ、そうだ」
そうか、バハルス帝国の方だったのか。王国ではあまり募集を聞いたことがないと思ったらそういう事だったわけだ。
『ふむ』と片手を顎にやり、いつものように考えるそぶりをする。仕方ないのだ。下手な考え休むに似たりと、死獣天朱雀さんにもよく言われてたし。そもそもアインズ・ウール・ゴウンが多数決なのも俺がそこまで頭が良くないからだしなぁ…
とはいえ一から十までアルベド達に任せきりにするわけにはいかない。どうにかせねば。
「私は先の件のために直接動くことは出来ないとは思うが、どうにか冒険者モモンとして対応を行うつもりだ。なのでその間はパンドラズ・アクターに私の──アインズ・ウール・ゴウンの姿になってもらっておこう。それと、ナーベラル──ナーベに帝国に向かうよう指示するのだ。少しでも奴らの情報が欲しいからな。それと、セバスとソリュシャンはどうしている」
「はい、既に帰還しております。セバスはツアレという人間への対応を、ソリュシャンはナザリック内にて通常教務を行っております」
あぁ居たなそんなのとツアレの事を思い出す。色々あったせいで後回しになっていた。まだ時間は…
『只今午前3時です、アインズ様』
「──ナーベラルですか?」
突然ナーベラルの声が聞こえて不審に思ったのだろう、アルベドは少しだけ眉を潜める。が、そんな顔ですら彼女の美貌に一切の陰りを見せない所は流石である。
「あぁ、時間が分かりづらかったからな。ぶくぶく茶釜さんのはアウラにやったので、複製して声をナーベラルに──」
「なぜ私に言って下さらなかったのですか、アインズ様!!!!」
俺とアルベドとの距離は凡そ5歩分くらいはあったはずだ。それが一瞬でほぼゼロになっていた。あくまで『ほぼ』だ。アルベドの吐息を感じるな、とかなんかベッドに潜った時と同じ良い香りがするなとかちょっとだけ思ってしまったが、触れてはいない。ちょっとだけ残念に思った気もするが、気のせいだ。
「いや──作ったのが王都に居た時だったからな。ナーベがエ・ランテルに戻る前に手伝って──」
「アインズ様に時間をお知らせるマジックアイテムに声を与える。そのような大事!この守護者統括である私こそが適任であったと愚考致します!」
絶妙だ。本当に絶妙だ。『触れたいならどうぞ』と言わんばかりの距離なのに、決して自分からは触れようとしない。全身ほぼ密着『しそう』な距離だというのに大きすぎる胸すら掠りもしない。頑張りすぎだよ、タブラさん。必死に逃げようとするも玉座に阻まれて身動きすら取れないのだから。
そもそもアルベドにコレの声当てを頼んだらどうなるか想像もつかない。まず間違いなくロクなことにはならないだろう。そういう意味でもナーベラルは適任だったのだ。まぁ個人的にはデミウルゴスの耳に良い声も推したかったが、居ないものは仕方ない。
「色々な要素があり、ナーベラルになったのだ。出来上がった物を今更言っても仕方ないだろう」
「でしたら! アインズ様のお声の入った物を頂きたく存じます!」
なぜそうなる。話の流れからすると、時間を知るアイテムが欲しい。しかも俺の声で作った奴を。ということなのだろう。確かに守護者統括であるアルベドは時間に厳しく行動した方が何かとやり易いのは分かるが、それは他の階層守護者や領域守護者、セバス含むプレアデス達も同じはずだ。
(しかし全員が俺の声が充てられた時計を付ける? それなんて拷問だよ…)
恥ずかしすぎて俺の声が聞こえる度に精神抑制が走りそうだ。しかも確りとナーベラルにネタ枠も作って貰ってるわけだし、それを俺もやらないと言わけないわけだ。
(うわぁ、無理だ! 黒歴史はパンドラズ・アクターだけでいいよ、本当に!!)
「あ、あぁ…うむ。渡すのは簡単だ。だがな、アルベド。信賞必罰──そう!信賞必罰だ!」
上手い事考えたぞ俺!そうだよ信賞必罰にすればいいんだ。と、手を叩いた。
「次回以降、この私やナザリックに対し、素晴らしい働きを行った物に対する褒美の一つとして、それを作っておこう。そしてだ、アルベド。万分の一、いや臆分の一、その褒美を──私の声の入った時計が欲しいと言ったものにだけ!いいか、『だけ』だぞ!その──どうしても欲しいと言ったものにだけ与えるものとする。よいな」
「はっ!! 私の提案を飲んで頂き、感謝いたします。アインズ様」
(流石に俺の声入り時計を欲しがる人は居ないだろう。うん、数個作っておくつもりだけど。実は誰も欲しくないとか言われたらそれはそれで悲しいな。だけど全員が欲しいとか言われたら間違いなく悶え死ぬ!黒歴史が増えてしまう! あぁ悩ましい!!)
──なぜこんな事で俺は精神抑制を受けているのだろう。すでこれは黒歴史の一つということなのか。
「──アインズ様、セバスとソリュシャンが来たようです」
「そうか、入れ」
そうか。俺が二人を呼ぼうとしていたことを察して、二人が来るまで退屈しない様にこんな雑談を入れてくれたのか。その気持ちは嬉しいが、もう少しココロに優しい話題にしてほしいものだ。
「失礼いたします、アインズ様」
「ソリュシャン、並びに私セバス。只今参りました」
「ご苦労、セバス、ソリュシャン。まず、私に時間が無いのでこんな真夜中になってしまったこと、許せ」
謝れない上司は悪い上司だ。ホワイト企業ナザリックを目指している俺には謝罪しないという選択肢はない。俺は寝なくても休まなくても問題ないが、セバスたちは違うからな。
しかし俺の謝罪など心外だとばかりに驚かれてしまった。もっと傲慢で居ろと言うのか。勘弁してくれ。俺は皆に愛される優しい上司で居たいんだ。
「続いて、先の件でのお前たちの働き。真に大儀であった。よってその見事な働きを讃え、褒美を与える」
「アインズ様、私はツアレの命を助けていただくという褒美を既に頂きました」
「私も失態を犯しました。褒美を頂くわけにはいきません」
本当みんな忠誠心が高い。だからこそ支配者としてのプレッシャーが凄いのだけれど。信賞必罰なのだ。賞を貰う事で熱意をもって仕事に励んでもらいたいのだ。これは譲るわけにはいかない。
「セバス、ツアレの保護を約束したのは私が受けた恩義を返すためだ。故にお前の仕事ぶりとの因果関係は一切ない」
「恩義──で、ございますか?」
そういえばセバスはニニャの事は知らないのか。カッパー級冒険者時代の話だからな。一応ナーベラルからアルベドに報告は行っているはずなのだが。
まぁすべてを把握しているのはアルベドだけで良いのだから、知らなくても当然と言えば当然なのか。
「漆黒の剣の一人、ニニャのことでございますね」
「そうだ。漆黒の剣の人たちには冒険者を始めたばかりの頃に世話になったのだ。そして彼──いや、彼女は貴族に浚われた姉。つまり、ツアレを助けるために冒険者をやっていたのだよ。そしてこれだ」
空間から取り出すは彼女の日記。その中には数多の情報と共に、姉の──ツアレに対する思いが綴られていた。だからこそ俺はツアレを助命し、保護しようとしたのだから。
「なんと──では、僭越ながらツアレにその妹──ニニャに一目でも会わせてあげたいと思いますが、よろしいでしょうか」
よしきた。来ると思ってニニャの死体を保管しておいてよかった。ついでにニニャのことはセバスに任せるとしよう。
早々にコキュートスに《メッセージ/伝言》を飛ばす。流石に深夜であるため人間であるツアレはまだ寝ているだろうから、明日で良いか。ニニャはあまりレベルが高いわけでもないからルプスレギナに復活させた方がいいだろう。
「今日、ルプスレギナの魔法によりツアレの妹──ニニャを生き返らせることとする。以後の管理はセバス、お前が行え」
「多大なるご慈悲。真に感謝いたします」
さて、次はソリュシャンか。アルベドと同じくずっと表情が変わらないのは姿そのものが『作って』いるからなのか、それとも常にそうあれとしたヘロヘロさんのお蔭なのか。多分にブラック従事者たるヘロヘロさんのお蔭だろう。
「ソリュシャン、お前は何が欲しい。なに遠慮することはないぞ。これは信賞必罰。お前の信に対する褒美なのだからな」
「でしたら、アインズ様。人間が欲しゅうございます。それも出来れば、無垢なものを」
ソリュシャンの言葉は大体予想できたものだった。だったら話が早いというもの。なにせ沢山やってくるのだから。
「そうか。ならば喜べ。今度ここへ沢山やってくるぞ。何人かは情報を得るために捕縛する必要があるが大半は生かす必要すらも無い者達ばかりだ。その中に無垢なものが居るかは分からんが、もし居たとしたら優先的にお前に回すとしよう。存分に味わえ」
「──!! 過分なご判断。誠にありがとうございます!」
正に喜色満面。他の比べればずっと薄い表情だが、俺にはそれが満面の笑みであることは探らずとも理解できた。そうか。スライムであるソリュシャンは、顔ではなく全身で喜びを表すのだ。そういえばと良く見れば、微かに体の表面が波打っている。余程嬉しくて身体が維持し辛いのかもしれない。
そこまで喜んで貰えたのであればこちらとしても嬉しい限りだ。
「では、これで以上とする。すまぬな、あまり王都を離れられぬ現状であるが故、お前たちと余り時間が取れぬこの身を恥じよう」
「いいえ! そのような忙しい身でありながらも、態々私達に時間を割いて頂ける慈悲深き御方に何も恥じることはございません! ただただ感謝するばかりです、アインズ様」
相変わらず忠誠心高すぎだろう。アルベドしか喋っていないが、二人も同じだとばかりに傅きながらも『うんうん』と頷いている。もっと頼っていいんだよ。我儘言っていいんだよ。と言いたい。暴走する者が居るから言うわけにもいかないが。
(あぁそうだ。功労者という意味ではデミウルゴスもだ。そうだ、こそっとデミウルゴスに俺の声入り腕時計を送ってみよう。そして感想を聞いて、それを報奨の中に入れていいものか相談すればいいんだよ。それにデミウルゴスであればそこまで心を抉るような辛辣な言葉は出ないはずだから、精神衛生上にも良い。よし、そうしよう)
鷹揚に頷いて謁見の間を後にする。早々に帰らねば日が昇る。昇る前に帰らねばまず間違いなく奴らが侵入してくる。早く帰らねばと思えば、自然と歩く足が速くなっていく。
(しかし今回大掛かりな侵入になりそうだな。冒険者モモンとしては静観すべきか、もしかしたらその侵入者の中にナーベラルが混じる事もあるだろうから…あぁ、デミウルゴスどこに居るんだよ今!)
なんとも情けない声が頭の中から聞こえる。自分の考えなのにそう思いたくない自分が居る。
王都での気持ちのいい朝日を浴びながら、しかし問題山積な現状に出るのはため息しかなかった。
はぁ──エントマちゃんかわゆ──