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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 今日はお兄様と鴨料理を食べにフレンチレストラン。これは少し遅いホワイトデーのお返しだ。

 お兄様は大きなプロジェクトを任されて、ここ最近ずっと忙しかったそうだ。確かに毎晩残業で夜遅くまで帰って来ないし、帰ってきてもPCとにらめっこが多かったもんね。大変だなぁ、社会人って。で、その仕事にやっと目途が付いたということで、今夜約束していたディナーに連れてきてもらった。久しぶりのお兄様との外食、嬉しいな!今日はいつもより髪をしっかり巻いております。ドレスも買ってもらったばかりのお気に入りだ。お兄様にエスコートされて、お姫様きぶ~ん!


「ごめんね、約束が遅くなって」

「そんな!お兄様はお仕事で忙しかったのだから、気になさらないで」


 私がそう言うと、キャンドルの灯りの向こうでお兄様は優しく微笑んだ。


「でもあまり頑張り過ぎないでくださいね?お兄様の体が心配です」

「ありがと。ただ今回のプロジェクトは絶対に成功させないといけなかったから。僕が後継者だということは周知の事実だけど、実力を示さなければ所詮名ばかりのお坊ちゃんだと内外的にも侮られるしね。でもこれで一応、認めさせることはできるかな。あらゆる意味で」

「まぁ!」


 偉い!偉いよ、お兄様!後継者の椅子に胡坐をかかず、仕事で周りを納得させようというその姿勢。さすがは私の自慢のお兄様だ!


「尊敬しますわ、お兄様!私も妹として鼻が高いです!」


 私はぐっと拳を握りしめた。お兄様は「大袈裟だね」と笑ってワインを飲んだ。


「どうです?お兄様。今日のワインのお味は」

「うん、程よい重さで麗華が好きな味かもね」


 私はソムリエのかたに頼んで、お兄様が飲んでいるワインのラベルをもらった。私は前々からこうして家族がおいしいと言ったワインのラベルをコツコツ集めている。20歳になってまだ家が没落していなかったら、お兄様達がおいしいと言っていたワインを1本ずつ飲むのだ。お兄様の話では会社も順調のようだし、高いワインをがぶがぶ飲める未来ももうすぐだ。前世では居酒屋のサワーくらいしか飲んでいなかったからね。楽しみ~!前世の私の酒癖はあまり良くなかったけれど、今世は大丈夫だと思う!

 しかしこの鴨サマはおいしいなぁ。あ~んと口を開けてもう一口。


「ところで麗華、鏑木家の雅哉君とは最近どう?」


 ぐほっ!鴨が喉に詰まった!こんな場所で醜態を晒すわけにはいかない。私は必死で飲み下した。


「麗華、大丈夫かい?」

「…ええ、お兄様」


 さすがお兄様ですわ。核心に触れるのは相手が息を吸った時。見事に動揺してしまいました。


「最近と言われましても、特になにもありませんけど…」

「そうなの?でもこの前の観桜会では、ふたりで親しげに話していたようだしね」


 気づかれていたか…。でも断じて親しくはない!


「話くらいはいたしますけど、特別仲が悪いわけでも良いわけでもありませんわね…」


 疾しいことはないけれど、なんとなく気まずい。私は食事に集中しているフリをして、お兄様から目を逸らした。お兄様は「そうなんだ」と納得した。


「では円城家の秀介君とはどうなのかな?」


 ぐへっ!


「…以下同文ですわね」


 勘弁して~。そっちはさらに聞かれたくない…。


「彼は観桜会できれいな女性を伴っていたけど。麗華は知ってる?」

「円城家の親戚筋のかただとお聞きしましたわ…」

「へぇ。親戚筋、ねぇ?」


 お兄様は意味深に笑った。え、なにぃ…?


「まぁ、なにかあったら僕に言うんだよ?」

「はい。お兄様」


 私は神妙に頷いた。


「最近の麗華は僕に隠しごとが多いようだから心配だよ?」

「えっ…?!」


 私が顔を上げると、お兄様はにっこり微笑んだ。

 お兄様は、どこまでご存じなのでしょうか…?






 今日はお釈迦様の誕生日。私はお寺でお釈迦様の像に甘茶をかけた。

 お釈迦様、私は西洋文化にかぶれた浮かれ者達のように、クリスマスやバレンタインなどという行事にも参加せず、こうしてお釈迦様の誕生日を祝う敬虔な仏教徒でございます。

 どうか、私にも素敵な恋を!そして平穏な新学年生活を!




 3年は修学旅行があるので、クラス替えで一緒になるメンバーが誰かがとても重要だ。ドキドキしながらクラス表を見ると、なんと芹香ちゃんと菊乃ちゃんと一緒だ!3人一緒のクラスって、初等科以来じゃない?!


「麗華様、同じクラスですわよ!」

「3人で楽しい1年を過ごしましょうね!」

「嬉しいですわ!今年も仲良くしてくださいね!」


 私達はきゃっきゃと喜びあった。お釈迦様効果かも?!


「でも鏑木様達とは同じクラスになれませんでしたわね~」


 芹香ちゃんが残念そうに呟いた。鏑木と円城と私、ついでに同志当て馬は全員別のクラスだ。これは学院側が、クラスのパワーバランスを考えて振り分けているのかなぁ。でも修学旅行で鏑木、円城と同じクラスは大変そうだから、私としてはラッキー。これもお釈迦様効果か?!

 私はまたもやクラス委員をやることになってしまった。もう恒例だから黙って引き受ける。そして相方は1年の時に同じクラスだった佐富君だ。佐富君なら気心も知れているから良かった。


「よろしくね、吉祥院さん」

「こちらこそ」


 私は佐富君とクラス委員の挨拶を交わした。

 そして同じクラスになったのはもうひとり。教室にいる私達の姿を見て、この世の終わりのような顔をしている多垣君だ。

 多垣君は結局春期講習でも私に怯えて逃げまくっていた。ここは優しく声を掛けてあげないとね。私は芹香ちゃんと菊乃ちゃんと一緒に多垣君の座る席を取り囲んだ。


「多垣君、私は今年もクラス委員をすることになりましたの。なにかと協力していただけるわよね?」


 あら?親しくなるために声を掛けたつもりが、なんだか脅しのように聞こえてしまったかしら?多垣君の顔色が青を通り越して土気色になっているけど?芹香ちゃん、菊乃ちゃん、「わかっているわよね?」はやめとこうか。多垣君、泣かないで?



 始業式のあと、私はピヴォワーヌのサロンに向かう。新年度の顔合わせもあるけれど、昨日の夜鏑木からメールがきたのだ。

“今日一緒に図書館に行ってきた。しかしトラブル発生。詳しいことは明日話すので、必ずサロンに来い!”

 あ~あ、また恋愛相談に付き合わないといけないのかぁ…。でも鏑木って、昔から提案を即実行にうつすヤツだな。素直というか、バカというか。

 サロンでは鏑木が手ぐすね引いて待っていた。

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