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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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「璃々奈…」


 厄介。とても厄介。

 璃々奈の顔が張り切っている。殺ったるでえって顔をしている…。


「聞いたわよ、麗華さん!濡れ衣着せられて酷い目に合ったそうじゃない。なんで私に言わなかったのよ!」


 璃々奈なんかに話したら、余計に騒ぎを大きくするのがわかっていたからだよ!今みたいにね!


「まぁいいわ。で、こいつらが麗華さんの敵ってわけね。私も力を貸すわよ!ちょっとあんた達!私が相手になってやろうじゃない!」


 やっぱりかーー!!やめてぇーー!これ以上問題を大きくしないでーーー!

 でも私の心の叫びは誰にも通じなかった。私が余計なことをするなと止める前に、目を爛々と光らせた璃々奈は、見えない長ドスをぶん回して特攻していった。


「なんなの?!関係ない1年生はすっこんでいなさいよ!」

「私は麗華さんの従妹よ!麗華さんに文句があるなら私が聞いてあげるわ!さぁ、言いなさい!」

「麗華様の従妹なんてどうでもいいわ!それとも貴女も麗華様の悪行の片棒を担いでいるのかしら?」

「だから麗華様に言いがかりをつけるのはよしてちょうだい!麗華様を誰だと思っているの!ピヴォワーヌのメンバーよ!」

「ピヴォワーヌであろうと、生徒会は特別扱いしないわ!」

「だから関係のない生徒会は黙っていなさいよ!」

「たかが外部生が、私達、純血瑞鸞生に偉そうな口を利くんじゃないわよ!」

「そうよ!外部生のくせに!」

「生徒会役員になったからって、外部生が調子に乗らないで!」

「外部生、外部生って初等科から通ってるのがどんだけ偉いっていうのよ!」

「そうよ!内部生なんてバカばっかりじゃない!」

「なんですって!」

「ちょっと、私を無視すんじゃないわよ!」

「なによ!離しなさいよ!」

「きゃあっ!やったわねぇっ!このぉっ!」

「痛いっ!髪引っ張らないでよ!」

「やっちゃえ!璃々奈さん!麗華様の仇よ!」

「あっ!蔓花さん!ピアス開けているわね!校則違反よ!」

「うっさい、外部!あんたはそんなダサいからモテないのよ!このブス!」

「なんですって!」


 ひいいいっっ!バーリトゥード!!

 瑞鸞学院とは良家のお嬢様が通う学校ではなかったか?!


「なにをやってるんだ!いい加減にしろ!」


 野次馬をかき分けてやってきた同志当て馬が、無法と化した騒ぎを止めるために一喝した。

 騒ぎの中心にいたお嬢様達は髪も制服も乱れ、肩で息をしながら鬼の形相で、止めに入った同志当て馬を睨みつけた。璃々奈の拳には長い髪が数本絡まっていた。彼女達のあまりの姿に、同志当て馬の顔が一瞬引き攣った。頭に血が上った女子の争いを、有能な生徒会長といえど、男子ひとりで簡単に止められると思うな。

 各々が同志当て馬に相手の文句を訴えた。


「先に因縁をつけてきたのは彼女達よ!」

「はあ?!原因を作ったのはそっちでしょ!」

「私達はくだらない争いを止めようとしただけよ」

「いい子ぶらないでよ!貴女私のこと叩いたでしょ!」

「麗華さんの敵は私の敵よ!」


 一斉に女子達に訴えられた同志当て馬は、「わかった!わかったから落ち着け!」とうんざりしたように宥めた。

 私達は陣地に戻ってきた戦士達を労い、身繕いさせ、酷使した喉を潤す飲み物を渡した。


「ケンカの原因はなんだ」


 彼女達が落ち着いたのを見計らって、同志当て馬が聞いた。


「いきなり蔓花さん達が麗華様に因縁をつけてきたんですわ」

「私が麗華様に罪を擦り付けたとこの人達が言いふらしたのが悪いのよ!」

「私は生徒会として注意しただけで…」

「止めに入った人間が、騒ぎを大きくしてどうするんだ…」


 同志当て馬がため息をついた。そして「君は…」と璃々奈を見た。


「私は従妹として、麗華さんの窮地に黙ってはいられないわ!」


 堂々と言い放つ璃々奈を見て、同志当て馬は額に手をやり、「君はもういいから…」と蚊帳の外に追い出した。


「とにかく!不平不満があるなら、冷静に話し合え。掴み合いのケンカなんて言語道断だ」

「だって!」


 女子達が再度自分達の主張を訴えようと、同志当て馬に詰めかけた時、「うるさい」という声と共に、鏑木が現れた。


「耳障りな上に見苦しい」


 冷たい目でバッサリと切り捨てた皇帝に、場がシンとなった。言われた女の子達は恥ずかしさと気まずさで顔を赤くした。


「高道のロッカーの犯人は、まだ誰か特定されていない。くだらない憶測で騒ぎを起こすな」


 その姿は、血判に駄々をこねた鏑木とは別人のように威圧感があった。

「わかったな」と皇帝が返事を促すと、全員が頷いた。

 では話はこれまでと鏑木が終わらせようとした時、「待ってください!」と芹香ちゃんが引き止めた。


「あ、あの鏑木様!」


 芹香ちゃんと菊乃ちゃんが顔を強張らせながら鏑木の前に出た。


「鏑木様、麗華様は嫌がらせなどしていません。それだけは信じてください!」

「そうです!麗華様のことを誤解しないでください!」


 驚いた──。

 芹香ちゃんと菊乃ちゃんは初等科時代からずっと鏑木ファンで、鏑木のやることはすべて肯定するくらい心酔していた。そんな子達が鏑木に真っ向から意見した。

 子供の頃から憧れている皇帝よりも、私側に立ってくれた。

 うん、鼻の奥がツンとしてきた。

 鏑木はそんな芹香ちゃん達をしばらくの間見つめた後、


「信じてるよ」


 そのまま鏑木は食堂を出て行った。

 鏑木がいなくなって少しの間の後、きゃーっ!という女子達の黄色い悲鳴が食堂に轟いた。


「麗華様!鏑木様が信じてくださいましたわ!」

「良かったですわねぇ、麗華様!」


 芹香ちゃん達が私を囲んで大はしゃぎした。


「…ええ。ありがとう、芹香さん、菊乃さん。みなさんも」


 私は心からお礼を言った。芹香ちゃん達はニコニコと笑った。本当に、ありがとう。



 鏑木が私を信じる宣言をしたおかげで、私を疑うようなことを言う人は完全にいなくなった。さすが皇帝。

 しかし私が巻いた種とはいえ、この殺伐とした空気はどうしようか…。春休みまでこれじゃあきつい。なにか別の楽しい話題で落書き事件の話題を消すしかあるまい。芹香ちゃん達も蔓花さん達も食いつく別の話題…。そうだ!

 私は円城を売ることにした。


「円城様がホワイトデーにどなたかとデートしたらしいですわよ」


 案の定、女子達は“円城様に女の影が!”と円城スキャンダルに食いついた。よし、よし。瑞鸞は陰謀めいた話より、楽しい恋の話のほうが合ってるからね。私の口は水素なみに軽い。

 私は上手く話題を逸らせたことに機嫌よくして廊下を歩いていると、後ろから肩を叩かれた。

 円城が微笑んで立っていた。


「吉祥院さんにはなにかと借りがあるからね。今回のことは目を瞑るよ」


 私は背中の冷や汗が止まらなかった。

 円城は「まぁ、これからもよろしくね」と黒い笑顔を見せた。

 あぁっ!早く春休みよ、来い!

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