国道263号の拡幅工事で確認された磨崖碑=佐賀市大和町梅野

■ハスの花上に仏の名 国道拡幅工事で

 佐賀市大和町梅野で国道263号の拡幅工事のため道沿いにある岩壁の山林を伐採したところ、約340年前の磨崖碑が見つかった。縦約5メートル、横約10メートルの花こう岩で「南無大悲觀世音菩薩」と彫られている。台座に書かれた年号から江戸時代の1674(延宝2)年に作られたとみられる。佐賀市内で磨崖碑の確認は初めて。

 工事前は樹木で覆われていたが、昨年9月に着工後の伐採で姿を現した。同10月ごろ、佐賀市教委の文化振興課職員が現地を視察し、ハスの花の上に仏の名前が刻まれていることなどから磨崖碑と判断した。

 磨崖碑は、信仰の対象として自然の岩壁に仏教に関する文字が直接彫られているものを表す。岩壁に仏の顔などが彫られている場合は磨崖仏とされる。県文化財課などによると、磨崖仏は、県指定文化財の「鵜殿石仏群」(唐津市相知町)のほか、「如意輪観音彫像」(佐賀市久保泉町)、「立石観音磨崖仏」(唐津市相知町)などがある。

 今回見つかった磨崖碑は拡幅工事の区間内にあるため、計画を見直して現地保存や移転して保存するか、取り壊して予定通り工事を進めるか検討が必要とされ、工事発注者の佐賀土木事務所は市教委の調査結果と意向を踏まえ判断するとしている。

■保存か取り壊しか 文化財価値市教委判断へ

 保存か、取り壊しか。佐賀市大和町梅野で見つかった江戸時代の磨崖碑。地元では1953年ころまで「羅漢さん」として信仰されていたという。市教委は文化財調査をして「可能な限り保存したい」との意向だが、現計画で国道を改良するためには取り壊しが避けられず、工事発注者の佐賀土木事務所は工期もにらみながら市教委の判断を注視している。

 国道263号の拡幅工事は約300メートルの区間。道幅(約7メートル)が狭く、見通しの悪い道路を約13メートルまで拡幅し、ドライバーの視界確保や歩道整備を目的に実施している。12月完了予定で、総事業費は約2億円。

 佐賀土木事務所は当初、2013年度の事業着手時に工事区域に石碑があることは把握していた。ただ、磨崖碑であることまでは確認できず、写真などによる記録保存の状態で取り壊す方針だったという。現在、磨崖碑周辺を避けて可能な区域から優先的に工事を進めている。

 市文化振興課によると、磨崖碑を取り壊して拡幅工事を進めるか、保存する場合は移設や工事計画の見直しが考えられる。希少性や時代背景など文化財の価値を総合的に判断し、市の指定文化財登録の可能性もあるという。移設する場合、多額の費用も必要となる。

 再び姿を見せた磨崖碑に、佐賀市大和町八反原地区の古賀伸義自治会長(66)は「保存か取り壊しか、二者択一の選択は難しい」と戸惑いを見せる。「過疎化が進む地区で観光資源の一つとして保存はしてもらいたい。一方で道が狭く、ジョギングや歩行者は危ない側面もある。歩道だけでも確保するなど、さまざまな選択肢を検討してほしい」と要望する。

 少年時代を近くで過ごしたという西据廣さん(74)=三養基郡基山町=は「私が小さい頃は羅漢さんと呼ばれていた」と言い、かつての佐賀郡松梅村下田から20所帯が集まる羅漢さん祭りも催されていたという。「磨崖碑はそのまま保存してほしい。なくなってしまうのはさびしく、代々守ってきた先祖に対して申し訳ない」と保存を切望する。

 市文化振興課は「有識者の意見を聞いて、文化財としての価値を見極め、早めに結論を出したい」とする。佐賀土木事務所は「市側の判断を待ちたい」としながらも「既に工事に多少の遅れが出始めている」と気をもんでいる。