銀の烏、両翼を広げ   作:八咫烏

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プロローグ

如何して、こうなった……?

 

黒いリムジンの後部座席、中央に座って居る少年は静かに進んで行く車の中で溜息を吐いた。いや、本当に如何してこうなってしまったのか……と。

 

ISと呼ばれる存在がこの世に現れ世界は女尊男卑に染まりし世界となって居た。

 

女性権利団体が生まれIS委員会が生まれそして女尊男卑が生まれたこの時代。平和と呼ぶには陰陽が極めて大きく現れるだろうこの時代。IS……正式名称『インフィニット・ストラトス』……それは女性にしか使えない代物だと思われて居た……そう思われて居たのだ。

 

だが、現れてしまった。男性でISを起動出来る人物、織斑 一夏と呼ばれる人物が。一夏の登場により世界は騒然となり各国政府は主催で織斑 一夏以外にも起動出来る者がいないか一斉検査を行った。その結果、たった1人だけ、現れてしまった。史上2人目の男性操縦者となり得る存在。検査に引っかかってしまい自身の都合を無視して来る政府、2人目はその対応を不服として日本政府の要求を拒んだ。2人居るならば片方を何故、男性が動かせるのか調べる為の実験材料とすると言う考えを2人目は見抜いていたからだ。それから人道的な判断でIS学園に入学しろと言うIS学園側の要求も聞く耳を持たなかった。

 

そんな時、第三者が2人目に接触を図り一瞬の隙を突いて日本政府、IS学園の双方を出し抜き2人目を連れ去った。

 

「……随分も強引な手を使うんだな。綺麗な顔して、やる事がエゲツない」

 

「……お褒め預かり光栄です」

 

「褒めて無い……」

 

2人目の少年を多少、強引な手法を用いてリムジンの中に連れ込んだ第三勢力の代表の少女はリムジンの向かい合う席の中で嬉しくも何とも無い会話を交わして居た。片方は黒髪をオールバックにして居るこれと言って他に特徴は見受けられない。対する少女はアルビノの様に白い長髪を後ろに垂らして居る。可愛いと言うよりも綺麗と言う形容詞が似合う事だろう。

 

「……そもそもいきなり人の借家の前に現れて拉致を敢行したお前は何者なんだよ……動かせるからと言って政府の連中に従う気は無いぜ?」

 

「……手荒な真似、重ね重ね謝罪致します。この策を講じたには理由が有っての事。こうでもしなければならなかったのです」

 

「……押し入り拉致せざるを得ない状態って何だよ……?」

 

「……数日後、痺れを切らした日本政府及び女性権利団体の面々が小火を装い放火、炙り出して確保する算段を立てて居たのです」

 

「おいおい、冗談の与太話にしては出来過ぎな話じゃねぇのか? 政府主導の放火って……一歩間違えば延焼を招いてしまうぞ?」

 

「……女性権利団体が自らの利権以外の事を気に掛けるような存在と言えますか?」

 

少女は少年にそう問い掛ける。それは否定する箇所が見当たらない程に的を射た内容だった。女性権利団体はISを女尊男卑を崇めそれを害する者には容赦しない事で有名である。例えば気に入らないからと言って道行く人間に冤罪を吹っかけたり、買物等の踏み倒し、更に恐喝等も横行して居る。噂では贈収賄やら後ろ暗い事もして居るらしい……噂に過ぎないが。

 

「女性だけが使える。故にISに選ばれたと称して神聖視して居る……まるで宗教の様な態度、それを穢すのは認めないとして強引な手段に出る者も現れるでしょう」

 

「…………………」

 

その説明を聞いて理に合い、更にあり得ると少年は判断する。確かに憶測ではあるが女尊男卑の人間達の行動を鑑みれば起こっても可笑しくは無いと言える。

 

「……その件はもう良い。それで、お前達は何者なんだ?」

 

「うふふ。当てて見せて下さい?」

 

質問を質問で返された。どうやら自分から答える気は無いらしい……仕方が無いので乗ってやる事にした。

 

「…………」

 

こんなくだらない事でリムジン(運転手付き)を持ち出すと言う事は相応の地位がありそうだな。それから目の前のこの女の服装、何処かの学園の制服だな……然し、IS学園の制服では無さそうだな。かと言ってISを動かせる人間をIS学園以外の学校の面子が求めるのか?

 

「大凡、答えは出たのでは無いのでしょうか?」

 

「金のある学校。と、ぐらいしか思いつかねぇよ……」

 

「ふふ、及第点。としておきましょうか……前情報無しでは其処までが限界でしょう」

 

「何がしたいんだよ。お前達は……」

 

「……説明は到着してから致します」

 

そう言うと同時にリムジンが豪奢な校門を潜った。そしてリムジンが本校舎の正面玄関の前に静かに停車した。

 

「到着しましたわ。ようこそ、聖アルスタイン女学院へ」

 

リムジンの扉が開かれて少女が先に出て少年を手招きする。此処で篭っても無意味だろうと判断してリムジンから降りる。

 

リムジンから降りて正面玄関から本校舎の中へと入る。その先に存在した物は初見の者を圧倒する光景が広がって居た。

 

「おいおい……女学院とか言ったが……豪華過ぎだろうが」

 

メインエントランス。床は大理石、壁には額入りの絵画(額すらも高級そうである)、照明はシャンデリアと完全にお嬢様学校の上位互換の様な光景が広がって居た。気品を感じさせるエントランスにて暖かなシャンデリアの灯りがそれを引き立てて居る。まるで中世を舞台にした本の世界に迷い込んだかの様な錯覚を覚える。

 

「……この程度で圧倒されては身が保ちませんよ?」

 

「この程度って……あー、はいはい杜撰で野蛮な野郎からすれば、住む世界が違い過ぎるわ」

 

「……最初だけです。その内、慣れますよ」

 

慣れたくねぇ……場違い感が半端じゃない。100%、金持ち校だろ……庶民的だから感覚が分からない……あの絵画とかシャンデリアとかこのエントランスだけの調度品の総額は億を超えて居るだろう、と言うぐらいしか感想が出ない。エントランスでコレならば他はどうなるんだよ……。

 

校舎内の廊下もクローリングが凄いこった。隅々まで金を掛けてそうな気がするわ……。

 

「……時間的にそろそろ休憩時間に差し掛かりますね。速やかに此処まで来れたのは僥倖でしたわね」

 

「……は?」

 

おい、今……休憩時間に差し掛かるとか言ったか? オマケに此処は女学院とも……つまりこの場に野郎は俺だけ……‼︎

 

その直後、教室と思われる一室の扉が開かれて青を基調とした女学院の制服を着た多数の生徒達が廊下へと繰り出して来る。

 

「あ、生徒会長……ごきげんよう」

 

「ふふ、ごきげんよう……」

 

「其方の方が例の……⁉︎」

 

「ええ、先程到着したばかりで案内も終わって居ません」

 

「男の子だ‼︎ 男子が居るっ‼︎」

 

「ニュースで言って居た2人目って事⁉︎ この女学院に⁉︎」

 

「あ、意外とカッコいい? かも」

 

ワラワラと湧いて来る。湧いて来る生徒達……その為廊下は塞がれてしまった。うわぁ、逃げたい……‼︎

 

「そんなに詰め寄らなくても彼は逃げませんよ。すみませんが時間的な問題もありますので、通して下さるとありがたいのですが……」

 

「は、はいッ‼︎ どうぞ、どうぞ‼︎」

 

モーゼか⁉︎ アレだけ群がって居た生徒達が一斉に壁際に分かれて道が出来たぞ……と、なれば薄々は考えては居たが最初の呟きから察するに生徒会長だな。うわぁ……お嬢様学校の生徒会長ともなればカリスマ性も備わって居るのか……。

 

そして辿り着いた先は生徒会室。エントランスで面食らいはしたが生徒会室は案外、落ち着きはある内装となって居た。

 

「ふふ、生徒達は貴方に興味津々な様ですね」

 

「有難迷惑だよ……はぁ、頭が痛くなりそうだ」

 

「さて、改めて自己紹介をしましょう。私は聖アルスタイン女学院の生徒会長。上杉 影道と申します。どうぞ、宜しくお願いしますね」

 

…………。

 

「率直に言おう……少なくとも女に付ける名前では無いぞ……」

 

「貴方にだけは言われたくはありませんよ? 神狩 采華」

 

そう言われて詰まる。確かに俺の名前は神狩 采華……男に付ける名前では無いと思うがそうなのだから仕方がないんだよ……恨むぞ。

 

「…………さて、前置きは終わりましたので貴方を此処まで連れ込んだ理由を言いましょう」

 

「連れ込んだって……誤解を招きそうな言い方は止めろ……」

 

「ふふ。確かに誰かに見られたら……勘繰ってしまいますね。ですが生徒会室は防音処理を施して居ますのでご心配無く」

 

「いや、そう言う問題じゃ無ぇから……」

 

調子狂う生徒会長だ……上杉、上杉か……。

 

「話が逸れました……コホン、神狩 采華さん、貴方を我が聖アルスタイン女学院へ迎え入れたく多少手荒な真似を働きましたがお招き致しました」

 

「全部すっ飛ばすが……野郎が女の園へ入り込んで大丈夫なのか? 昨今の女尊男卑だと男アレルギーの様な女も居るだろう?」

 

「問題ありませんわ。我が校にその様な者が居ない事はこの私が誓って宣言出来ます。そして貴方の問いにも問題無いと答えます」

 

「……何故?」

 

「……我が校は3年前からISに関する本格的な教育を開始しました。流石にIS学園には劣るかと思いますが、設備等は引けを取りません」

 

おいおい、初耳だ。こんなお嬢様学校がISの教育を、だと? IS絡みはほぼ国政が絡んで居る……となればこの学園は……。

 

「貴方の考えは否と答えましょう。我が校は日本政府との関わりは持って居ませんよ」

 

「……調度品の高さから、恐らく私立よりも潤沢……即ち何処ぞ王室クラスが通う学院の姉妹校と言った所か?」

 

「明晰な推察、感服しますよ。細かい所は省かせて貰いますが英国の協力もあり我が校は設立されました」

 

学校としては伝統がありそうな学校だな、オイ。IS学園なんかよりも為来りが五月蝿そうだな……鬱だ。ああ、それで概ね読めたよ、コレで。

 

「……このお嬢様学校にISの学科を取り入れた。招致する下準備は整って居る……故に条件が揃ったが為にこの様な荒事を辞さぬ構えで行った……そう言う事か?」

 

「お見事。概ね、正解ですよ。IS学園にはかの1人目こと織斑 一夏の入学が決定して居ます。その後、貴方は日本政府の要求にもIS学園の入学要請も拒否した……その一時的には貴方はフリーな状態。故に誰もが手を出せる瞬間でした」

 

「……狙い澄ましたかの様なタイミングで鮮やかに連れ去った、か。してやられたよ……んで、メリットは何だ?」

 

「……おや? 気になりますか?」

 

「違う、そう言う意味では無い。政府にも加担して居ない、ISの学科はある。其処に俺を入学なり編入なりさせた際に生じるメリットは何なんだ?」

 

其処が分からない。女学院は男子禁制、其処に野郎を放り込む事を辞さない態度はどう言う事だ? IS学科にしてもそうだ……ISコアの絶対数は決まって居る、其処に学科を設けられる程のコアを用意出来るのか? それに俺を招くと言う事は少なくとも要らぬ諍い、争いを招きかねん(女性権利団体やIS委員会、オマケの日本政府)。分からない事が多過ぎる……。

 

「…………それは、貴方が欲しいから。と言えば信じますか?」

 

采華の問い掛けに影道は自身の髪の毛が采華に掛かる程に近寄り耳打ちする。

 

「そんな言葉、悪いが信じないね。建前だろう?」

 

「……まぁ、そう受け取られても仕方がありません。ですが、理由は後から分かりますよ」

 

「……そうかよ」

 

分かった。コイツは自身の考えをそう簡単には漏らさない、或いは真実に嘘を混ぜて逸らすタイプ。油断出来ないなぁ……こりゃ。しかし……。

 

「して返答は如何に? 神狩 采華さん」

 

「少なくとも日本政府とかの連中よりはマシそうだ。本来ならば全部蹴って、どっかの辺境なり紛争地域なりに高飛びするつもりだったが……騙されたと思ってその要請、受けるとする。編入なり入学なりの用紙とか書く必要があるだろう?」

 

「……聡明な判断、有難うございます。騙すつもりはありませんので悪しからず……用紙は此方で既に代筆してあります。後は貴方の直筆の名前のみです……最も拒否されたら残念ながらシュレッダー行きでしたが無駄にならずに済みそうです」

 

「用意周到な事だ……差し詰め神の軍略って所か?」

 

「………………私は其処までの領域には至っては居ませんよ」

 

少し悔しそうな表情を見せた。まぁ、最初はこの程度でも充分か、としてやったりな感情を心の中にしまった采華は笑みを堪えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……してやられた、な」

 

一方、采華の借家近辺。其処では火災に塗れており多数の消防車が出動し賢明な消化活動が行われて居た。日本政府やIS学園、女性権利団体の再三の要求にも答えない采華を炙り出す為に女性権利団体の人間が行なった小火を装った放火。その時、一陣の風が吹き荒れ近隣住宅へ延焼。借家はアパートの為に全焼は免れず更にはアパートの周辺には観葉樹が植えられて居た為に其方にも火が伝わり延焼、挙句の果てに燃え上がった観葉樹の根元が燃えて焦げて重みに耐え切れず更に外側の近隣住宅に倒れ延焼、大火災へと発展した。

 

「……やり過ぎだ。コレでは炙り出す所か、死傷者を出しかねないぞ……‼︎」

 

その様子を立ち入り禁止テープが貼られた境目近くで様子を見て居たIS学園の教員が1人、織斑 千冬はそう呟いた。千冬は日本政府が採った手段に眉を顰めたが意見しても聞く耳を持たれずな強行が取られた。そして結果が目の前の大火災である。

 

「……こんな真似をしては不信感しか上がらぬだろうに」

 

恐らく放火犯である女性権利団体の構成員は無罪放免となるだろう……嘆かわしい事に日本政府との癒着もあり得るのだから……そもそも日本の首相自体が女尊男卑の様な人間だ。きっと法廷すら開かれないだろう。

 

その後、火災は10時間後に鎮火、死者はアパートに居て逃げ遅れた男性(62歳、51歳、38歳)、子供(12歳、6歳)。近隣住宅にて炎上した観葉樹に押し潰された女性(21歳)の計6名。重軽傷が4名と言った惨事となった。然し、その中に件の2人目の存在は確認されて居なかったと言う……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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