ロボットアームが空揚げや梅干しといった具材を器用につまみ上げ、弁当のトレーに正確に盛り付けていく──。6月中旬に東京ビッグサイトで開催された食品機械展示会で注目を集めたのが、このロボットによる盛り付けデモだ。
今、弁当や総菜などの食品製造業で人手不足が深刻だ。主戦力であるパート職員が足りず、厚生労働省によれば、業界の欠員率は製造業全体の倍以上。加えて食品工場の7割は中小企業で、大半は小規模ラインで日々さまざまな品目を生産する。そこで人手に代わる存在として期待されるのが、多様な動作を柔軟に設定できる産業用ロボットだ。
幅広い業界で自動化需要が高まり、ロボットの出荷台数は近年右肩上がりだ。2017年は過去最多となる23.3万台を記録。だが食品業界向けは全体の1%にも満たない。人手不足の解消は喫緊の課題なのに、なぜ導入が進まないのか。
要因の一つには、そもそも食品製造がロボットより人間の得意な領域ということがある。生産品目は多岐にわたり、入れ替わりも激しい。人間なら「まずは漬物の梱包、次に弁当の盛り付け。明日からはケーキを作る」と指示すればよい。軟らかいもの、滑りやすいものを一目で見分け、力を加減してつかむことも可能だ。
これらをロボットに任せようとすると、短期間であらゆる品目に合わせてプログラミングや生産ラインの設計変更などを繰り返さなければならない。結局思うように活用できず、「生産性が導入前を下回ることもある」(経済産業省ロボット政策室の小林寛係長)。
ロボット導入の高い壁
さらに、食品工場側のノウハウ不足も要因だ。安川電機の髙宮浩一営業本部長は、「(産業用ロボットを使いこなす)自動車会社は購入したロボットを工場のシステムに組み込む技術部隊を持つ」と話す。一方、中小食品工場にはそうした要員がおらず、自力のプログラミングは至難の業。北海道の総菜メーカー・コスモジャパンの小林惣代表は「大企業ならロボットを容易に設置できても、中小には難しい」と嘆く。
そんな食品業界の突破口として関係者の多くが挙げるのが、「ロボットシステムインテグレーター(SIer)」と呼ばれる企業の存在だ。SIerは“ロボット初心者”の代わりに、工場のラインに最適な自動化機器を選別・統合する役割を担う。
だが現状はロボットSIerが足りず、食品工場の特殊性を理解する事業者はさらに少ない。見かねた経産省は、SIerの業界団体の設立に向け動きだした。食品などの未開拓領域に関する情報共有のほか、関連業種からの新規参入も促したい考えだ。
さまざまなロボットを備えるSIer育成施設も増えつつある。栃木県で「スマラボ」という施設を運営するFAプロダクツの天野眞也会長は、「メーカー側からも需要があり、いずれは全国展開したい」と話す。
最も強い危機感を抱くのは、食品業界とかかわりの深い農林水産省だ。食品製造課の横島直彦課長は、「生産性が落ちるからと自動化をためらえば、近い将来何も作れなくなる」と言う。横島氏は、戦後初となる経産省からの出向課長。農水・経産両省のロボット関連の取り組みをつなげ、脱縦割りで政策の加速を狙う。
ロボットメーカー側は新規分野として食品業界に注目してきたが、売れ行きは鈍かった。食品工場は生き残れるか。SIer育成の本気度が問われている。
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