一昨年に出た『移民大国アメリカ』(ちくま新書)が非常に面白かった著者によるアメリカ政治全般の解説書。
このような概説書的な本はどうしても制度の説明+αとなりがちで、なかなか読んでいて面白いという形にはなりにくいのですが、この本は違います。
アメリカ政治のニュースに接していて感じる疑問、例えば、「民主主義がさかんな国なのになぜ投票率が低いのか?」、「「小さな政府」にもかかわらず常に減税が主張されるのはなぜか?」、「銃規制が進まないのはなぜか?」などに沿う形で、うまくアメリカの政治制度の説明を織り込んでいます。
「はじめに」や「あとがき」によると政治学を専攻するゼミの学生に疑問や感想などを出してもらい、それをもとにして本書を書いたとのことですが、それがうまくはまっていると言えるでしょう。
アメリカの政治にそれほど知識がない人にとっても、政治制度に一通りの知識がある人にとっても読み応えのある内容になっています。
目次は以下の通り。
第1章ではアメリカの民主政治がテーマとなっています。アメリカといえば民主主義を体現する国というイメージが強いですが、アメリカの建国の父たちが恐れたのは多数者の専制であり、それを防ぐためにさまざまな制度が構築されてます。
そして、選挙の投票率も実は高くありません。大統領選挙でも50%ほど、州や地方の選挙では10%ほどしかない場合もあるそうです(29p)。
この理由として、まずは選挙の数が多すぎることが挙げられます。大統領、上下両院の連邦議会、州知事、州議会、州務長官(州レベルの国務長官にあたる人)、市長、市議会、さらに警察署長や消防署長、、学校の校長まで選挙で選ぶところもあります。しかも、それらが平日に行われるため、熱心な人でないと投票に足を運ばないのです。
また、有権者登録が必要で、有権者登録をすると陪審員に選ばれる可能性が出てきてしまうこと、小選挙区中心で勝敗があらかじめ見えている選挙も多いことが投票率の低さを生んでいると考えられます。
日本と同じように「一票の格差」の問題も存在します。下院議員は435の議席を州ごとに人口比例で配分していますが、どんなに人口が少ない州でも1議席は配分されています。これによって下院でも2倍以上の格差が存在しています。
また、グアムやプエルトリコなど州に属さない地域の人々は大統領や連邦議会の選挙に投票できません。特にプエルトリコは20の州よりも多い人口を抱えているにもかかわらずです(36p)。
さらに重罪犯、元重罪犯に対する投票権剥奪の問題もあります。重罪の定義やその運用は州によって違い、州によっては合法化されているマリファナの単純所持によって投票権を失う人もいます。そして、これに引っかかってくるのが黒人男性で、黒人男性の13人に1人が投票できない状態になっているといいます(39p)。
第2章では大統領と連邦議会についてとり上げられています。
一般的に、日本の首相に比べてアメリカの大統領の権限は強いと考えられがちですが、立法部と行政部が融合している日本の議院内閣制に比べて、アメリカの大統領が議会に行使できる影響力は大きく限定されており、政治権力全体の中で必ずしも強い権限を持っているとは言えません。
一方、日本の行政権が内閣に属するのに対して、アメリカでは行政権は大統領個人に属しています。ですから、トランプ大統領がやるようなちゃぶ台返しも可能なのです。
アメリカの大統領といえば、まず何よりもリーダーシップが期待されますが、これは20世紀になって強まってきた傾向です。19世紀、少数の例外を除けば大統領はそれほど大きな役割を果たしてきませんでした。
しかし、大統領だけが全国民を代表していることや、統治機構(特に連邦議会)への不信などもあって、大統領個人への期待は高まってきています。
また、連邦議会への不信が強いにもかかわらず、現職の再選率が高いことが(ゲリマンダリングなど現職有利な仕組みがある)、アウトサイダー的な大統領候補への期待を高めています。
ここで著者はリーダーシップなる概念そのものに疑問を呈しています。「リーダーシップは結果論に過ぎず、成功した人がリーダーシップがあるといわれているものにすぎないのではないか」(74p)というのです。
実際、アイゼンハワーは現職のときは人柄は良いがリーダーシップに欠けると思われていましたが、アイゼンハワーのもとでさまざまな重要な法案が通っています。そこで、現在では目立たないながらもリーダーシップを発揮したと考えられています。
第3章では連邦制の問題がとり上げられています。
日本でもよく地方分権の推進が主張されますが、それはあくまでも単一主権制のもとでの話です。一方、アメリカの州政府は主権を持っており、その主権の一部が分割されてつくりあげられたのが連邦政府なのです。
連邦制によって州ごとに違いがあるということは、人々は自分の好む政策を行っている州に移り住むことで自分の選好をかなえることができます。いわゆる「足による投票」です。
しかし、州政府は独自の通貨を発行できるわけではないので、財政を成り立たせるには、できるだけ裕福な人に住んでもらい、貧しい人の割合を減らしていくことが合理的になります。そこで起こるのが福祉水準の切り下げという「底辺への競争」です。福祉水準が高い州には貧しい人が集まってしまい、それを嫌がる裕福な人たちが去ってしまうかもしれないからです。
第4章ではアメリカの二大政党とイデオロギーの問題がとり上げられています。
一般的に民主党はリベラル、共和党は保守となっていますが、アメリカのリベラルと保守ほどややこしい概念もありません。著者はこの章で「保守とリベラルの意味がわかりにくい理由を説明」(104p)するとしています。
アメリカの保守が何を保守するかというと、まずは独立宣言や合衆国憲法という建国の理念になりますが、これらは一般的にリベラルの人々も守ろうとするものです。そのため、アメリカの保守派を特定のイデオロギーにもとづいて説明することは難しいのです。
一方、リベラルはニューディール以降の民主党が行った社会福祉政策や公民権運動などに賛同した人々が集まったグループで、民主党優位な時期に「ある意味勝ち馬に乗る」(107p)形で拡大していきました。そして、これらの政策に反発を覚える人が保守という位置づけになっていったのです。
アメリカの政党は地方政党や利益集団、社会集団の連合といった側面が強く、政党規律は強くありません。特に民主党はニューディール期から比較的最近に至るまで、労働組合や移民団体、環境保護団体などの連合といった性格が強くあり、また、そうした民主党が80年代まで優位を保ってきました。
それに対して、劣勢に立たされた共和党はイデオロギー的に純化していきます。『ナショナル・レビュー』という雑誌や、シンクタンク、保守系メディアなどを中心に、共和党連合は団結し、よりイデオロギー的な性格を強めたのです。
94年の中間選挙ではニュート・ギングリッチを中心に党の公約をつくり上げた「ギングリッチ革命」によって共和党が勝利し、以後、議会においてもたびたび共和党が優位に立つようになりました。
しかし、そうなると今まで「反民主党」でまとまっていた共和党内部でさまざまな利害が衝突すようになり、共和党内部の対立も強まってきたのです。
第5章は世論とメディアについて、政治家は世論に従うべきなのか、それとも世論を説得すべきなのかというのは昔から民主政治につきまとう問題ですが、現在のアメリカではさらに「分極化」という問題にもさらされています。
つまり、民主党支持層の「世論」と共和党支持層の「世論」が分裂してしまっているのです。この分極化をもたらしている要因の一つがメディアの多様化やインターネット・SNSの普及です。
また、選挙において、日本とは違って都市部では足を使った地上戦が、農村部では人口密度が低いためにメディアを使った空中戦が展開されている(だから共和党は空中戦を志向する)という指摘は興味深いです(142-143p)。
第6章は、「移民・人種・白人性」という少し変わったタイトルが付いています。
まずは移民問題ですが、移民国家の米国において問題となるのは不法移民であり、その中心は中南米系の移民です。
中南米系の移民が特に問題とされるのは、その数と出稼ぎ感覚でアメリカに来ておりアメリカ社会に同化していかないのではないか、という懸念です。
一般的に民主党が不法移民に融和的、共和党が強硬的と見られていますが、共和党の支持層の企業経営者などにとっては不法移民は使い勝手の良い労働力ですし、民主党を支持する労働組合にとっては自分たちの職を奪う存在です。そのことも問題を複雑にしています。
人種問題もいまだに大きな問題です。現在では、黒人などのマイノリティの地位を引き上げるためのアファーマティヴ・アクションが「逆差別だ」という反発を受けたりもしていますが、もともと黒人などのために一定の枠を作るクオーター制を積極的に提唱したのは共和党のニクソンやレーガンでした。抜本的な貧困対策などよりも安上がりな政策だからです(170-171p)。
そうした中で浮上してきたのが、「マイノリティではない」白人男性の問題です。
他の人種に比べて白人男性の地位は相対的には上ですが、近年、45~54歳の白人男性の死亡率は他国が大きく減少する中で上昇傾向にあり、しかも薬物やアルコールの過剰摂取や自殺による死が増えています(177pの図13参照)。
アメリカでは福祉は本当に貧しい人々にしか提供されないので、没落した白人男性はなかなかその対象とはなりません。また、製造業で働く彼らが失業する一方で、サービス業に従事する妻は失業していないことも多く、そうした状況が彼らの被害者意識を強め、それがトランプ当選の一因となったと考えられるのです。
第7章では税金と社会福祉政策の問題がとり上げられていますが、ここでもポイントとなるのが本当に貧しい人々にしか供給されない福祉制度です。一般的な納税者にとってそれが自分たちの福祉のために使われているという感覚は薄く、それがさらなる減税志向、「小さな政府」志向へとつながります。
そのため、特に公的扶助に対する風当たりは非常に強いものがあります。アメリカの憲法には生存権の規定がなく(203p)、一時的貧困家庭扶助(TANF)プログラムも「働かざる者食うべからず」という性格の強いものとなっています。
第8章では「文化戦争の諸相」と題し、宗教や銃規制の問題がとり上げられています。
アメリカでは進化論を学校で教えるか、中絶・同性婚の是非といったことが政治においても大きな問題となりますが、この背景には宗教の多様性があります。
ヨーロッパなどでは自分の宗派というのは生まれた場所などによって決まっているケースが多いですが、移民の国のアメリカでは自分の宗派を自分で選択するという意識が強くなります。
さらにプロテスタント教会が分裂を続けたこともあって(なぜ分裂するかは深井智朗『プロテスタンティズム』(中公新書)に詳しい)、聖書に書いてあることをそのまま信じようとするキリスト教原理主義の影響も強くなったのです。
銃規制が進まない理由として、武装の権利を保障した修正第二条の影響は大きいですが、それ以外にも都市と農村の違いという問題もあります。銃の乱射事件が怒るのは都市であり、都市部では銃規制を求める声が強いですが、すぐに警察が駆けつけることができない農村では自衛のために銃を持つのは当然という意識があります。
このようにずいぶんと長く書いてしまいましたが、これ以外にも読みどころはいくつもあり、アメリカ政治に対する新たな見方を提供してくれる本になっています。
例えば、金成隆一『ルポ トランプ王国』(岩波新書)がトランプ現象を生んだアメリカ社会の雰囲気を伝えてくれる本だとすると、この本はトランプ現象と現在のトランプ政治を生み出している土壌を解説した本と言えるかもしれません。
アメリカ政治が流動化し、それが日本を始めとする各国に影響を与えている現在、非常に有益な本だと思います。
アメリカ政治講義 (ちくま新書)
西山 隆行
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このような概説書的な本はどうしても制度の説明+αとなりがちで、なかなか読んでいて面白いという形にはなりにくいのですが、この本は違います。
アメリカ政治のニュースに接していて感じる疑問、例えば、「民主主義がさかんな国なのになぜ投票率が低いのか?」、「「小さな政府」にもかかわらず常に減税が主張されるのはなぜか?」、「銃規制が進まないのはなぜか?」などに沿う形で、うまくアメリカの政治制度の説明を織り込んでいます。
「はじめに」や「あとがき」によると政治学を専攻するゼミの学生に疑問や感想などを出してもらい、それをもとにして本書を書いたとのことですが、それがうまくはまっていると言えるでしょう。
アメリカの政治にそれほど知識がない人にとっても、政治制度に一通りの知識がある人にとっても読み応えのある内容になっています。
目次は以下の通り。
第1章 アメリカの民主政治
第2章 大統領と連邦議会
第3章 連邦制がもたらす影響
第4章 二大政党とイデオロギー
第5章 世論とメディア
第6章 移民・人種・白人性
第7章 税金と社会福祉政策
第8章 文化戦争の諸相
第1章ではアメリカの民主政治がテーマとなっています。アメリカといえば民主主義を体現する国というイメージが強いですが、アメリカの建国の父たちが恐れたのは多数者の専制であり、それを防ぐためにさまざまな制度が構築されてます。
そして、選挙の投票率も実は高くありません。大統領選挙でも50%ほど、州や地方の選挙では10%ほどしかない場合もあるそうです(29p)。
この理由として、まずは選挙の数が多すぎることが挙げられます。大統領、上下両院の連邦議会、州知事、州議会、州務長官(州レベルの国務長官にあたる人)、市長、市議会、さらに警察署長や消防署長、、学校の校長まで選挙で選ぶところもあります。しかも、それらが平日に行われるため、熱心な人でないと投票に足を運ばないのです。
また、有権者登録が必要で、有権者登録をすると陪審員に選ばれる可能性が出てきてしまうこと、小選挙区中心で勝敗があらかじめ見えている選挙も多いことが投票率の低さを生んでいると考えられます。
日本と同じように「一票の格差」の問題も存在します。下院議員は435の議席を州ごとに人口比例で配分していますが、どんなに人口が少ない州でも1議席は配分されています。これによって下院でも2倍以上の格差が存在しています。
また、グアムやプエルトリコなど州に属さない地域の人々は大統領や連邦議会の選挙に投票できません。特にプエルトリコは20の州よりも多い人口を抱えているにもかかわらずです(36p)。
さらに重罪犯、元重罪犯に対する投票権剥奪の問題もあります。重罪の定義やその運用は州によって違い、州によっては合法化されているマリファナの単純所持によって投票権を失う人もいます。そして、これに引っかかってくるのが黒人男性で、黒人男性の13人に1人が投票できない状態になっているといいます(39p)。
第2章では大統領と連邦議会についてとり上げられています。
一般的に、日本の首相に比べてアメリカの大統領の権限は強いと考えられがちですが、立法部と行政部が融合している日本の議院内閣制に比べて、アメリカの大統領が議会に行使できる影響力は大きく限定されており、政治権力全体の中で必ずしも強い権限を持っているとは言えません。
一方、日本の行政権が内閣に属するのに対して、アメリカでは行政権は大統領個人に属しています。ですから、トランプ大統領がやるようなちゃぶ台返しも可能なのです。
アメリカの大統領といえば、まず何よりもリーダーシップが期待されますが、これは20世紀になって強まってきた傾向です。19世紀、少数の例外を除けば大統領はそれほど大きな役割を果たしてきませんでした。
しかし、大統領だけが全国民を代表していることや、統治機構(特に連邦議会)への不信などもあって、大統領個人への期待は高まってきています。
また、連邦議会への不信が強いにもかかわらず、現職の再選率が高いことが(ゲリマンダリングなど現職有利な仕組みがある)、アウトサイダー的な大統領候補への期待を高めています。
ここで著者はリーダーシップなる概念そのものに疑問を呈しています。「リーダーシップは結果論に過ぎず、成功した人がリーダーシップがあるといわれているものにすぎないのではないか」(74p)というのです。
実際、アイゼンハワーは現職のときは人柄は良いがリーダーシップに欠けると思われていましたが、アイゼンハワーのもとでさまざまな重要な法案が通っています。そこで、現在では目立たないながらもリーダーシップを発揮したと考えられています。
第3章では連邦制の問題がとり上げられています。
日本でもよく地方分権の推進が主張されますが、それはあくまでも単一主権制のもとでの話です。一方、アメリカの州政府は主権を持っており、その主権の一部が分割されてつくりあげられたのが連邦政府なのです。
連邦制によって州ごとに違いがあるということは、人々は自分の好む政策を行っている州に移り住むことで自分の選好をかなえることができます。いわゆる「足による投票」です。
しかし、州政府は独自の通貨を発行できるわけではないので、財政を成り立たせるには、できるだけ裕福な人に住んでもらい、貧しい人の割合を減らしていくことが合理的になります。そこで起こるのが福祉水準の切り下げという「底辺への競争」です。福祉水準が高い州には貧しい人が集まってしまい、それを嫌がる裕福な人たちが去ってしまうかもしれないからです。
第4章ではアメリカの二大政党とイデオロギーの問題がとり上げられています。
一般的に民主党はリベラル、共和党は保守となっていますが、アメリカのリベラルと保守ほどややこしい概念もありません。著者はこの章で「保守とリベラルの意味がわかりにくい理由を説明」(104p)するとしています。
アメリカの保守が何を保守するかというと、まずは独立宣言や合衆国憲法という建国の理念になりますが、これらは一般的にリベラルの人々も守ろうとするものです。そのため、アメリカの保守派を特定のイデオロギーにもとづいて説明することは難しいのです。
一方、リベラルはニューディール以降の民主党が行った社会福祉政策や公民権運動などに賛同した人々が集まったグループで、民主党優位な時期に「ある意味勝ち馬に乗る」(107p)形で拡大していきました。そして、これらの政策に反発を覚える人が保守という位置づけになっていったのです。
アメリカの政党は地方政党や利益集団、社会集団の連合といった側面が強く、政党規律は強くありません。特に民主党はニューディール期から比較的最近に至るまで、労働組合や移民団体、環境保護団体などの連合といった性格が強くあり、また、そうした民主党が80年代まで優位を保ってきました。
それに対して、劣勢に立たされた共和党はイデオロギー的に純化していきます。『ナショナル・レビュー』という雑誌や、シンクタンク、保守系メディアなどを中心に、共和党連合は団結し、よりイデオロギー的な性格を強めたのです。
94年の中間選挙ではニュート・ギングリッチを中心に党の公約をつくり上げた「ギングリッチ革命」によって共和党が勝利し、以後、議会においてもたびたび共和党が優位に立つようになりました。
しかし、そうなると今まで「反民主党」でまとまっていた共和党内部でさまざまな利害が衝突すようになり、共和党内部の対立も強まってきたのです。
第5章は世論とメディアについて、政治家は世論に従うべきなのか、それとも世論を説得すべきなのかというのは昔から民主政治につきまとう問題ですが、現在のアメリカではさらに「分極化」という問題にもさらされています。
つまり、民主党支持層の「世論」と共和党支持層の「世論」が分裂してしまっているのです。この分極化をもたらしている要因の一つがメディアの多様化やインターネット・SNSの普及です。
また、選挙において、日本とは違って都市部では足を使った地上戦が、農村部では人口密度が低いためにメディアを使った空中戦が展開されている(だから共和党は空中戦を志向する)という指摘は興味深いです(142-143p)。
第6章は、「移民・人種・白人性」という少し変わったタイトルが付いています。
まずは移民問題ですが、移民国家の米国において問題となるのは不法移民であり、その中心は中南米系の移民です。
中南米系の移民が特に問題とされるのは、その数と出稼ぎ感覚でアメリカに来ておりアメリカ社会に同化していかないのではないか、という懸念です。
一般的に民主党が不法移民に融和的、共和党が強硬的と見られていますが、共和党の支持層の企業経営者などにとっては不法移民は使い勝手の良い労働力ですし、民主党を支持する労働組合にとっては自分たちの職を奪う存在です。そのことも問題を複雑にしています。
人種問題もいまだに大きな問題です。現在では、黒人などのマイノリティの地位を引き上げるためのアファーマティヴ・アクションが「逆差別だ」という反発を受けたりもしていますが、もともと黒人などのために一定の枠を作るクオーター制を積極的に提唱したのは共和党のニクソンやレーガンでした。抜本的な貧困対策などよりも安上がりな政策だからです(170-171p)。
そうした中で浮上してきたのが、「マイノリティではない」白人男性の問題です。
他の人種に比べて白人男性の地位は相対的には上ですが、近年、45~54歳の白人男性の死亡率は他国が大きく減少する中で上昇傾向にあり、しかも薬物やアルコールの過剰摂取や自殺による死が増えています(177pの図13参照)。
アメリカでは福祉は本当に貧しい人々にしか提供されないので、没落した白人男性はなかなかその対象とはなりません。また、製造業で働く彼らが失業する一方で、サービス業に従事する妻は失業していないことも多く、そうした状況が彼らの被害者意識を強め、それがトランプ当選の一因となったと考えられるのです。
第7章では税金と社会福祉政策の問題がとり上げられていますが、ここでもポイントとなるのが本当に貧しい人々にしか供給されない福祉制度です。一般的な納税者にとってそれが自分たちの福祉のために使われているという感覚は薄く、それがさらなる減税志向、「小さな政府」志向へとつながります。
そのため、特に公的扶助に対する風当たりは非常に強いものがあります。アメリカの憲法には生存権の規定がなく(203p)、一時的貧困家庭扶助(TANF)プログラムも「働かざる者食うべからず」という性格の強いものとなっています。
第8章では「文化戦争の諸相」と題し、宗教や銃規制の問題がとり上げられています。
アメリカでは進化論を学校で教えるか、中絶・同性婚の是非といったことが政治においても大きな問題となりますが、この背景には宗教の多様性があります。
ヨーロッパなどでは自分の宗派というのは生まれた場所などによって決まっているケースが多いですが、移民の国のアメリカでは自分の宗派を自分で選択するという意識が強くなります。
さらにプロテスタント教会が分裂を続けたこともあって(なぜ分裂するかは深井智朗『プロテスタンティズム』(中公新書)に詳しい)、聖書に書いてあることをそのまま信じようとするキリスト教原理主義の影響も強くなったのです。
銃規制が進まない理由として、武装の権利を保障した修正第二条の影響は大きいですが、それ以外にも都市と農村の違いという問題もあります。銃の乱射事件が怒るのは都市であり、都市部では銃規制を求める声が強いですが、すぐに警察が駆けつけることができない農村では自衛のために銃を持つのは当然という意識があります。
このようにずいぶんと長く書いてしまいましたが、これ以外にも読みどころはいくつもあり、アメリカ政治に対する新たな見方を提供してくれる本になっています。
例えば、金成隆一『ルポ トランプ王国』(岩波新書)がトランプ現象を生んだアメリカ社会の雰囲気を伝えてくれる本だとすると、この本はトランプ現象と現在のトランプ政治を生み出している土壌を解説した本と言えるかもしれません。
アメリカ政治が流動化し、それが日本を始めとする各国に影響を与えている現在、非常に有益な本だと思います。
アメリカ政治講義 (ちくま新書)
西山 隆行