オーバーロードIF 激震のアンデッド・デスマッチ編   作:ナガシメサメハ
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オーバーロードIF 激震のアンデッド・デスマッチ編 前編

トブの大森林内、ナザリック地下大墳墓の存在を隠ぺいするするために建設したダミーのナザリック。その一層はある施設へと改造されていた。

 

 第六階層にあるような円形闘技場(コロッセウム)を一回り大きくしたような外観。その観客席の最前列にプレアデス六名が、一段上にアインズが腰かけている。

 

先程からこちらを向いているルプスレギナにアイコンタクトを送り、そしてマイクを渡す。

 

 ーー無論、マイクがなくても声は全体に聞こえるのだが、あったほうがそれっぽいよね、というアインズの考えで導入したもの。元々はユグドラシルにおいて全体チャットよりも1ランク低いマップ単位での発言のために使用するアイテムで、価値としてはそこまで高くないのだが、まるで割れ物を扱うかのようにプレアデス達は大事にしていた。

 

 始めてもよろしいでしょうか、というルプスレギナの目線に深い頷きでもって答える。

 

「ではでは、これより第一回ナザリック地下大墳墓、アンデッド・デスマッチを始めるっす~!」

 

 それを受け取ったルプスレギナから、少々ハウリング気味の大声で『第一回アンデッド・デスマッチ』なるものの開始が宣言される。それと同時に、コロシアムの観客席からは歓声や、スケルトンによるブラスバンドが鳴り響く。

 

 その光景から少し下方、コロシアム内を見れば、守護者が育成したアンデッドが並んでいる。微笑みをたたえてはいるものの、隙が一切ない者。正直、自信のなさそうな者。戦意高く、武器を構えている者。体格はそれほどだが、瞳の奥にその知性をうかがえる者ーー

 

 アンデッドとはいっても、その姿形はそれぞれの守護者のミニチュアサイズを模すようにアインズが魔法をかけているため、パッと見は守護者の子供のようなイメージを受ける。ちび守護者、とでも言うべきだろうか。

 

 つまり、どの守護者が育てたのか一目瞭然だ。

 

(これが新しい計画の一助になればと思うけど・・・この分だと、それ以上も期待できるかもしれないな)

 

 「司会は私、ナーベラル・ガンマが務めさせていただきます。アインズ様はもちろん、守護者の方々にも失礼のないように公正な判断を行っていきます・・・以上です」

 

 マイクを持つ片割れ、ナーベラルがぺこりと頭を下げると、ルプスレギナが抗議の声をあげる。

 

「ちょちょちょ、解説は私っす!できる司会ならちゃんと解説のことも紹介してほしいっす!私がただの空気読めない人になっちゃうっす!」

 

 やめてほしいっすー、と愚痴るルプスレギナを観察する。カルネ村での一件以降、彼女はある程度意識を改善したようで、今のところ大きな問題は起こしていない。

 

(もしかしたら、今後ナーベラルではなくルプスレギナをモモンの相方として連れて行く可能性もある。こういった場面でいつもの悪癖が出ないといいいんだけど)

 

 アインズが考えに耽っていると、ナーベラルからマイクが差し出された。

 

「アインズ様、大会開始に先立って、何か一言お願いします」

 

「うむ、皆の者。まずは集まってくれた事、本当に嬉しく思う。今回私がーー」

 

 マイクを渡されたアインズはあらかじめ考えておいた文言を言いながら、つい一週間前の事を思い出す。

 

 

ーー事の顛末は、ある一冊の本から始まったのだった。

 

 

 

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 ナザリック地下大墳墓第九階層の一角、アインズの自室。荘厳な寝台に深く腰を下ろした絶対支配者は、その手に持つ書物をゆっくりと読み進めていた。しんと静まり返った部屋の中、紙をめくる音だけがあたりに響く。

 

 時刻は深夜。慌ただしく過ぎるアインズの日常において、一人で作業ができる時間は限られている。日中は階層守護者から一般のメイドまでに行動の一つ一つを見られているために、心休まる時は少ない。そのため今は誰の視線もないプライベートな時間であった。

 

 もちろん、扉の外には八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の気配があるのだが。

 

「なるほど、そういう展開か・・・」

 

 照明は消えていたが、特に文字を読むことに支障はない。闇にぼんやりとその姿を浮かばせながら時に顎に手を当て、時にくっくっと嗤い声を上げるその姿は、次の獲物を嬲る策を一つずつ思案しているかのようだった。

 

 アインズにとって、今やこの読書は日常的行為となっていた。

 

 自室では休憩していると階層守護者には伝えている。そのため最初は何かの物音がするたびに本を布団の中に隠して狸寝入りというお手本のような焦り方をしていたが、上司が休んでいる時に部屋にいきなり入ってくる部下はいないだろうし、そもそもアンデッドなのに狸寝入りは二重の意味でおかしいだろうと自覚して、以降は堂々と本を読んでいる。

 

 しかし、その至高の時を楽しむアインズの動きがピタリととまる。

 

 一際大きな笑い声を挙げたかと思うと見る間にそれは止み、先ほどまでとは異なった重苦しい空気が瞬く間に場を支配する。扉の外の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)にもそれは伝わったようでわずかながら気配の色が変わるが、部屋へ入ってくるような事はない。

 

 アインズが何も言っていないということは、外での警護の任務を全うすることが最重要――そう彼らは考えているようだ。

 

「はぁ、ここら辺が潮時か・・・結構面白かったです、ペロロンチーノさん」

 

 アンデットの持つ感情の鎮静化が働き、感情が抑圧されたのだ。先ほどまでの笑顔――といってもアンデッドに表情はないのだが――はアインズからすっかり消えてしまった。

 

 昂った感情を無理やり調節される感覚は今でも慣れることはなく、内心酷く苛立ってはいたがそれを表には出さない。代わりに手にしていた本――『髑髏天使☆すかるちゃん』を部屋の脇に置いてある箱へと丁寧に閉まい、魔法による厳重なロックをかけた。代わりに取り出された文庫サイズの本を見ながら、アインズはため息をつく。

 

「そろそろこの実験も終わりにしないとな。守護者たちはよく働いてくれているけど、それでもやるべき事は山の様にある」

 

 何故、アインズが本を読んでいたことを隠していたのか。それは先ほどまで読んでいた本が『漫画』であったからだ。

 

 シャルティアを精神支配した、ワールドアイテムを所持している可能性のある何者か。自身の油断により招いてしまった事態、我が子とも言える階層守護者をこの手で殺させた見えぬ敵。一刻も早く探りあてたいのはやまやまだが、今のところ情報は無い。他にも、魔法を付与するスクロールの作成や、そもそも資金――特に守護者に払うための給金が全く足りないなど、ナザリックが抱える問題は山の様にある。

 

 それを考えれば漫画を読むというのは一見してこの状況にそぐわない行為ととれるだろう。ナザリック地下大墳墓を統べるものとして、またアインズ・ウール・ゴウンの看板を背負っている者として、これが現実世界ならば非難されるかもしれない。現実に即していうならば、大企業の社長が残業中の部下の前で遊んでいるようなものだからだ。

 

 無論アインズ自身もその自覚はあった。しかし、同時にこれは必要不可欠なことだとも感じていた。

 

 ついこの間まで無休で働いてくれていた階層守護者には申し訳ないとは思っているが、アインズは自身の感情がどれほど動いた場合抑圧されるのか一刻も早く測定したかった。元々ただのサラリーマンであった鈴木悟に降りかかる支配者としてのプレッシャー、ナザリックを運営する者としての日々の激務の中でたまっていくストレス、突然訪れる守護者達の行動によってオーバーフローする感情――その中で抑制されるものとそうでないものを把握することは最も優先されるべきものであったのだ。

 

 ただ、それらは大義名分――つまり表の理由であり、ユグドラシル時代の仲間が勧めてくれていたものをなぞりたかった、という側面もある。

 

 もっとも、物語のキモとなるシーンに近づくにつれ感情が抑圧されるため十全には楽しめてはいないのだが、それでもアインズは満足していた。

 

 そんなアインズにとっての至福の時間もこれで終わりを迎える。実験を重ねる間に大体のことは理解できた。これ以上はただの怠慢になってしまう。それに先ほども言った通りナザリックを統べる者として、これ以上の道草はできない。

 

 部屋に備え付けられた大きな寝台に、しっかりと腰を据える。先ほどの漫画と入れ替わる様にして手にしたのはビジネス書だ。

 

 日中、階層守護者やお付きのメイド達の前で読む本とはレベルも全く異なる、所謂ハウツー本である。故に、アインズにとってそれほどこの作業は苦痛ではない。何より小難しい単語があまり出てこないし、わからないことがあればすぐに辞書を使って調べられるのが良い。

 

「さてと、昨日はどこまで読んだんだっけな・・・えーと、どれどれ、『企業の社長が身分を隠し、自分の企業にバイトとして潜入してみた』か」

 

 その内容は、タイトルの示すまま。特に意外なこともなくアインズの想像通りだった。

 

 大企業の社長が変装して自分の会社でこっそりとバイトをし、最後には従業員にそれを公開するというもの。その会社が腐っているならば、自分より年上の社長扮するバイトに対して従業員はつらく当たるだろう。普段のデスクワークではなく、肉体労働を社長が行えばミスは当然発生するものだ。しかし、この企業の従業員はミスを責めずに共に乗り越えていく。最後に社長が自らの本当の立場を公開すると、共に働いた仲間として彼らは涙を流しながら抱き合うのだった。

 

「なるほどなぁ。上は末端の状況をしらないことが多いけど、こういうことができるのが本当の上司だよな。部下の仕事も、人柄も信頼する。俺の働いていたところは、そりゃもう酷かった・・・」

 

 このように成功すればまだいいが、自分の会社の部下から社長である自分が無能のような扱いを受けたらどう思うだろうか。優秀過ぎる部下を抱えている今のアインズには、とても他人事とは思えなかった。

 

「でも、そうだよな。自分の会社で何をしているかぐらいきっちり把握していないと運営なんてできるわけない、か」

 

 うんうん、とアインズは感心し深く頷く。しかし、すぐにその動きはピタリと止まる。

 

「・・・うん?」

 

 何か、自分の言葉が妙に引っかかるのは何故だろうか?アインズは手を顎に当てて考える。

 

――自分は何か忘れてはいないだろうかと。

 

 階層守護者の仕事内容は大体把握している。アウラ、マーレはダミーのナザリックの建設、コキュートスはリザードマンの村の運営。デミウルゴスは聖王国陥落の手はずや、スクロールのための牧場経営。アルベドにはデミウルゴスと同じく書案の作成と、外交の際に使節として出向いたり、その他にも魔導国の法律を作成を命じている。考えは途切れることなく、すらすらと思い出せる。問題ない。

 

「俺が仕事に関われているか、うまくかじ取りができているかっていうのは疑問だけど・・・」

 

 階層守護者に関しては、大きな問題はないだろう。アインズが直接命令を下しているし、顔を合わせる機会も多い。何かあればすぐに気づくことができる。セバスが裏切りを企てていると聞いたときは焦ったが、離反の兆しは彼らにはない。

 

 しかし、階層守護者に命じられて働いている他の者はどうだろうか?プレアデス率いるメイドたちならいざ知らず、他の守護者のもとで働いている者達は?

 

 その多くはアンデッドだが、彼らの中には食事や睡眠を欲する者たちもいる。しかし実際のところ、アインズは彼らが何をしているかは知らない。

 

 彼らは果たして今の業務をどう思っているのだろうか?もしかすれば、過酷な業務をギリギリのところで耐えているのかもしれない。今までは問題なかったから、ではこの先も大丈夫だろうというのは愚か者の発想である。

 

「シャルティアの一件以降、ナザリック強化のために仕事を増やしたからな・・・」

 

 アインズは前述したような者たちには休息を適宜とらせるようにと階層守護者に命じた。彼らはそれに従っているだろう。しかし、そういう事ではないのだ。幾ら休憩があったとしても、そもそもの業務内容に不満があった場合、休憩すらも苦痛になってしまう経験はよくあることだ。

 

 例えるなら仕事のない日曜日であっても、翌日から始まる仕事に対してマイナスの感情を持っていた場合、休日全てをぼうっとしてしまい気づけばもう寝る時間。翌朝から始まる業務に対して酷い倦怠感を感じつつ就寝――という経験はないだろうか。

 

「直接聞いたってナザリックのために働けることが本望です、とか言いそうだしな・・・だめだ、考え出したら不安になってきた」

 

 ナザリックでの業務内容の把握。それは現状において最重要事項としてアインズは認識した。骸骨であり、アンデッドでもあるのにアインズはないはずの心臓がバクバクとその鼓動を早めるのを感じていた。行動は早い方がいい。

 

 寝台を降り、考えを纏めるために執務室へテレポートしかけた手が止まる。

 

「いや、アルベドに聞けばすぐにわかるんじゃないか」

 

 しかし、すぐにいやいやと首を横に振る。今更皆の仕事内容知りませんでした、なんて言えるわけがない。とすれば、バレないように潜入、そして調査するしかないだろう。ちょうど読んでいた本の真似事ではあるが、前例があるというのは素晴らしい。

 

「・・・まずは計画を練るために宝物庫、か。最悪、パンドラズアクターに私の代わりを務めるように頼まないとな」

 

 アインズはゆっくりと寝台から降り、早足で歩く。その行き先は、宝物庫。アインズがこの世界で割と、絡みたくない者が守護する領域だった。

 

 

 

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「――というわけで、階層守護者の下で働く者たちの業務内容を密かに偵察したい。理解したか?パンドラズアクターよ」

 

 宝物庫に着くなり、今置かれている現状を伝える。

 

 内容は要約するとこうだ。「今までは階層守護者の仕事だけに重点を置いていたが、それよりも下位の者達の仕事内容について詳しい部分を調査したい」――少し誤魔化しはしたが、求めている解答を引き出すにはこれで十分だろう。正直会話をするだけでも冷や汗が出るが、仕方がない。設定では、パンドラズアクターはアルベドやデミウルゴスに匹敵するほどの知者なのだ。

 

「なるほど、守護者ではなく・・・そこまで配下の者達の事を考えてらっしゃるとは」

 

「短く、端的にでいいぞ。もったいぶったり、こう、いらない言葉を足したりしなくていいからな」

 

 アインズのそれとない牽制に、何をおっしゃいますアインズ様――と言いたげなようにパンドラズアクターはかぶりをふる。逆効果だ。

 

「では――そうですね、まず階層守護者に察されてはいけないという第一条件。私には直接の配下がいないため私はともかくとして、他の守護者の力は借りることができません。しかしながら、これはアインズ様が直接赴けば如何様にも。アインズ様ともあれば完全なる気配の遮断が可能ですから」

 

 ここでパンドラズアクターは言葉を切り、襟元を正しながら立ち上がり、首だけで振り返る。動作がいちいちわざとらしいが、気にしない。

 

「しかし、唯一アウラ嬢は魔物を従える中でレンジャーのスキルを多く習得していますから・・・とするとアインズ様が透明化を使って各守護者の仕事ぶりを見て回るというのも愚策。アインズ様の魔力効率や日々の業務への支障を考えても緊急時に脆弱になってしまいますから」

 

 スラスラとパンドラズアクターが作戦を立案する。わざとらしく顎に手をやりながらカツカツと闊歩している様を抜きにすれば、今のところ順調だ。

 

「・・・しかし、やはり問題はアウラか」

 

 この点に関しては、薄々気づいていたことではある。アウラの知覚能力を持ってすれば気配に気づくだろう。前に完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)をかけた時でさえ、大体の位置を把握できていたのだ。そして、魔物に変装というのも難しいだろう。そもそもアウラならば自身が従えている魔物を一体一体覚えている可能性まである。

 

「つまり、至高の御方であるアインズ様が取れる作戦は一つ。宝物庫に眠るアイテムを併用し、変装。守護者のもとで働くメイドや魔物と入れ替わることでしょうか」

 

 概ね、アインズの読み通りだった。やはりあのハウツー本に書いてあったことはそれなりに効果的なようだ。

 

「なるほど、参考になったぞパンドラズアクター。では早速――」

 

 ここまで聞くことができればもう用はない、早くこの場から去ろうーーそこまでアインズが考えた時だった。

 

「しかしアインズ様ッ!!」

 

「おおっ!?」

 

 突然ずずいっ、と顔を詰めてきたパンドラズアクター。声を上げてしまったが、幸いにもパンドラズアクターは特にこちらを気にすることなく話をどんどん進めていっている。

 

「そもそもアインズ様の目的は彼らが与える仕事がどれほど厳しいものかを知ること。であれば至高の御方であるアインズ様自ら潜入するというのは、些かリスクが高すぎるかと思われます」

 

「そ、そうか?」

 

「その通りでございます。アインズ様の変装は一時的なもの、とすればいずれ正体を明かさなければならない時が来るでしょう。例えばメイドに変装したとして、共に働いたメイドたちがアインズ様に罪悪感を抱く者も少なくないかと」

 

 そう言われれば確かにそうだ。ナザリックのメイド達は仲が良い。職場におけるギスギスした関係がないことは素晴らしいが、まさか昨日までタメ口で話しかけていた同僚が実はアインズだと分かれば、どのような行動にでるかは大体想像がつく。最悪、自害といったような手段をとるかもしれない。

 

「ーーう、うむ、確かにそうだな」

 

「更に言わせていただけるのであれば、各守護者にはそれぞれ特殊な配下がおり、アインズ様の変装は一種類とはいきません。以上の観点から見て、私はアインズ様が直接潜入するという事には反対です」

 

「・・・直接、ということは何か代案があるのだな?」

 

 もう一度ソファに深く座り直し、パンドラズアクターへと向き直る。本という明確なソースがあっただけに、潜入という案が消えた事に少しだけ不安を覚える。

 

「Natürlch――当然でございますアインズ様。私が提案したいのはナザリックで自動ポップする低級アンデッドをそれぞれ各守護者に1体ずつ配り、それの扱いかたを調査する事――そうですね、競争の形をとるのが一番よろしいかと。ある程度の期間守護者に預け、結果を比較するのです。アンデッドは一般メイドと同等の体力のものを選び、アインズ様が常時そのパロメーターを把握できる状態が作ることができれば一番効率的かと」

 

「競争ーー? アンデッドを・・・?」

 

「確かアインズ様の部下に一人、アンデッドと訓練を行っている者がいると存じております。そこからヒントを得たのですが・・・いかがでしょう、アインズ様」

 

(アンデッドと・・・? あ、ハムスケか!)

 

 以前からハムスケがアインズの生み出したデスナイトとともに訓練を行っていることは知っている。そして、今のところ武技を習得するといったような成長が見られないことも。しかし、レベル100の階層守護者たちが指導役に付けばどうだろうか。もしかすれば、ただの低級アンデッドにもなんらかの特殊スキルが発動するかもしれない。

 

(もしかすれば、現状大きな仕事のない守護者を教官として訓練する、といったことも選択肢になる・・・のか?)

 

「狙ったな、パンドラズアクター。メリットも多い、素晴らしいじゃないか」

 

 具体的なメリットの数を上げないことは対パンドラズアクターとの会話では重要であることをアインズは把握している。デミウルゴスはアインズの言った言葉を真と仮定して話を進めるが、パンドラズアクターは決してそこまで深読みしない。

 

「いえいえ、アインズ様はこの程度諸事万端、徹頭徹尾に至るまで把握されていたことでしょう。それに当然でございます、私はアインズ様に”唯一”作られた”Non-Player Character”で、ございますから」

 

「・・・そうだな」

 

「・・・」

 

 パンドラズアクターは動かない。

 

「・・・?」

 

「あの、アインズ様・・・まだ何か?」

 

(話終わりかよ!)

 

「そ、そうだな・・・助かったぞ、パンドラズアクターよ」

 

 手間を取らせたな、とパンドラズアクターに告げてアインズは宝物殿から自室へとテレポートする。

 

 理解してはいたことだが、やはりパンドラズアクターとの会話は非常に疲れる。ドッペルゲンガーだから表情が読めないこともそうだが、なんというか、過去の自分を無理やり見せられてるような気がしてむず痒い気持ちになるのだ。しかも、昔はこれをカッコいいと思っていたが故に全否定できないのも複雑な心情だ。

 

(・・・昔、か)

 

 アインズはパンドラズアクターの設定を練っていた頃ーーユグドラシルでのひと時を思い出す。課金ガチャ大会やPvPの練習など、かつての仲間とはよく競い合ったものだ。それを今、守護者同士で行う。初めての試みではあるが、やってみる価値はあるだろう。

 

「なかなか、面白いことになりそうじゃないか」

 

 誰にも聞こえぬようにそう呟くと、アインズは計画を練り始めるのだった。

 

 

 

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それからのアインズの行動は早かった。必要な計算を終えるや否や、すぐさま準備に取り掛かる。今まで守護者の計画の一部として行動したり、他人を動かす必要があったりと複雑な仕事が多かったが、今回は自分一人で自由にできる仕事だ。

 

(ゲヘナーーだったか。デミウルゴスも、こんな気持ちで準備していたのかも知れないな)

 

アンデッドの用意、配布、会場設備ーーその他さまざまな準備をアインズは守護者に察知されないように、わずか1週間で終わらせたのであった。

 

(・・・・・・・それにしても、張り切りすぎたな)

 

今、アインズのいる場所からは様々な施設が見える。一際巨大な、イメージとしては第六階層ののような施設。その後ろには電光掲示板のような黒い大きな板が設置されている。

 

その円形闘技場の内部には、盤外での手出しができないように魔法によって隔離された部屋があり、守護者はここでのみ観戦を許可している。あくまでも今回調べるのは守護者達の指導方法であり、アンデッドが予期せぬーーアインズに対して無礼な行動をとった場合でも続行するためだ。

 

闘技場近くには様々な露店が並び、一般メイドが店番として配置されている他、闘技場の様子を映すリモートビューイングが空中に映し出されるようになっている。

 

これだけ見れば自分でも頑張ったほうだと思うが、それでもアインズは満足していなかった。

 

(どうやったらあんな綺麗になるんだ・・・?ブルー・プラネットさん、俺じゃこれが限界ですよ)

 

空には燦々と太陽が輝いているが、それでも第六階層のものと比べるとリアルさに欠ける。夜空に至っては作成が難しすぎて、太陽の位置を固定してしまった程だ。

 

(照明設備が少なくて済んだと思えば納得できなくも、ないか)

 

アインズが設備の最終チェックを終えると同時に、声がかかる。

 

「アインズ様、守護者の方々もすでに待機しておられるとのことですが、如何いたしましょう」

 

戦闘メイド、プレアデスの一人、ユリ・アルファだ。今回プレアデスには審査員を務めるようにアインズが命令を下しており、さらにナーベラルとルプスレギナには大会進行を任せている。

 

 

「うむ、どうやらあちらの準備もできたようだな。それではーー始めるぞ」

 








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