オーバーロード シャルティアになったモモティア様建国記 作:ヒロ・ヤマノ
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私は斜め読み派です。あと(自分の中での黒歴史)プロローグ消去しました将来的に設定の矛盾が出そうでしたので、保存をしていつか続きを書きたいです。
(そろそろ出発しようかなぁ)
もう時刻は真夜中と言うほかない夜の闇の中。あれから魔法とスキル、そしてアイテムボックスの確認は済ませており、スキルや魔法はモモンガであった頃と比べて、格段に威力と速度が上がったように思われたがひとまずシャルティアとなったことによる影響(バグ?)と結論付けることにした。現状はそうとしか結論するしかない、半ば諦めなのだが。
またアイテムについても燦々たる結果だった。仲間たちと共に、そして仲間たちの残してくれた宝物殿のアイテムは全滅だった。それどころかナザリックに保管していたアイテムは全て見当たらず、自身が所持していたはずの
残っていたのはポーションなど、微々たるものであった。他にはシャルティアの装備品の類とペロロンチーノが持たせたと思われる蘇生アイテムと趣向品や衣服だけであった。
(どうせならもっとマシな物持たせてくださいよ、ペロロンチーノさん)
ペロロンチーノの趣味に全力に走った特殊な趣向品と特殊な衣服を見た時は思わず天を仰いでしまったが、まさか異世界へ単身転移するなど誰にも想像できないのだからと、姉に縛かれる姿を想像しながら諦めることにした。
だが蘇生アイテムを持たせてくれていたのは幸いだった。まさか一回で使い切りのアイテムを試すわけにはいかないが、これで一度の失敗による死は帳消しにできることに肩の荷が少し軽くなった気がした。
(おっと、この世界の全てをユグドラシル基準で考えるのは駄目だよな)
蘇生アイテムはあくまで保険、効果があるかもわからない上にそもそもこの世界がどういった世界なのかもわからないのだ。
自分以上に強大で危険な生物がいるかもしれない。それに意思疎通ができるホモ・サピエンスがいれば幸い。落胆と絶望をしないためにもその程度の期待と用心で行くことにする。できればギルドメンバーと話した異世界情緒あふれる世界であることを願うが。
「あと残った物はこれだけか……」
独り言を呟きつつ右手に持った杖を頭上まで持ち上げる。特に意味のない行動であったが、これから出発する自らの決意表明であるように思えた。
杖を絡み合う七匹の蛇が月光で耿耿と輝き、それぞれが咥えた七色の宝石が絢爛とした光が闇夜を照らすようであった。
――スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン
そして、所属ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』
「これが、今の自分に残った全てか」
(まだ慣れないんだけどなぁ…)
深夜だが現在の体は吸血鬼であり、夜目は問題なく機能していた。それに加えて晴れ渡った星空と満月が地上を照らしてくれており、行動するには全く支障はなかった。
本来であれば飛行魔法で探索を開始したかったが、せっかくシャルティアになっていることもあり魔法よりも優秀な
おもむろに背中がもこりと膨らむ、その違和感は慣れる前にすぐなくなり背中に自らの体の一部ができる、人間では味わえない不思議な感覚だった。シャルティアの
背中側を仰ぎ見ると吸血鬼という言葉に似合う漆黒の羽が生えており、見た目はこの体と同じく小さな可愛らしい羽だが、昼間の内に実験した際には自分の飛行魔法と遜色なくむしろ此方の方が優れている点が多々見受けられた、今後の習熟次第では主力となり得る
(でも、これ人前では使えないんじゃ)
この世界で会えた相手の知識次第であるが、黒い羽や吸血鬼に対する畏怖や恐怖があれば早々人前で使えるものではないのは想像できた。相手との信頼関係次第であるが状況次第で飛行魔法も使っていく必要がある。それに
(この体じゃなければ死んでたかも)
生憎と割れたのは岩の方で奇しくもかすり傷ひとつなかったこの体の頑丈さを検証できたが、あくまで鈴木悟の意識が強い現状では進んで試したいものではなかった。なので幸先悪く苦手意識を持ってしまった飛行スキルであったが、あくまでこの体はシャルティアであり創造主であるペロロンチーノへのなんとなくの配慮から、慣れた飛行魔法よりスキルでの練習を兼ねることにした。
(それに目的地は決まってるし、一直線の飛行なら大丈夫だろう)
おもむろに地を照らす月光の方向へ顔を向ける、月と同化するように周辺の山々の中で一際高さを誇示する山頂が自らを見下ろしていた。
(あそこ、なにかいる気配がするんだよなぁ)
日中の内に試した実験結果を考慮した何通りもの逃走手段を頭の中で何度も確認する、転移・飛行・アイテム・そして今のこの体で出来ることを意識してゆっくりと羽を動かし始める、途端に足が浮き上がり靴と同化していた自らの影が白い大地を漂い始めた。
馬鹿正直にまっすぐ山頂へは向かわず、まずは距離を取って観察するため大地から垂直に真っ直ぐ上空を目指すことにした。最初はゆっくり煙のように上がっていたが、すぐに現代の飛行機もかくやという速度で上昇していく。空気が凄まじい勢いで頬と体を叩くころになってようやく速度を緩めると、山頂を見下ろせる位置に静止する。
優れた肉眼で山頂を見ることができたが山頂付近はやや白みがかった薄い雲に覆われており、なにがしかの存在は確認できずにいた。もっともその程度の雲に覆われただけで
「あの雲自体になにかの魔法が掛かってるのか?それとも……」
モモンガは自らのユグドラシルでの経験とギルドメンバーから得た知識を擦り合わせながら頂上へゆっくり降下していく。途中で山頂付近と似たような薄い雲を確認しながら現代の知識との差異も確認していく、もっとも現代には雲一つないのだが。すくなくともこの世界の雲に違和感はなく、むしろ触れることに入たく感動しながら降下を続けた、それが僅かな油断を生んだのかもしれない。
静かに山頂である地面に着地する、それと同時に羽をしまい込み本来である魔法詠唱者としての意識に入れ替え、警戒しながら辺りを見回した。山頂付近は遠目で確認した通り薄い雲に覆われ本来であればろくに視界を得られない状況だった、シャルティアの眼でも少々心もとない。
(いっそのこと魔法でこの雲、吹き飛ばそうかなぁ)
周囲を確認しながら一歩一歩、体を使って雲を切り裂いていく。相変わらず動くものの気配は感じるが限られた視界では雲以外特に見つけることは出来なかった。やや湿気を帯びた雲が首筋を舐めていく。
何処からか視線も感じる気がした、もっとも気がするだけで本当に誰かが見ているのかまではわからない。雲自体も少々薄気味悪くなり一旦ここから離れようと考え始めた時、ふとある違和感を感じた。
「あれ?雲ってこんな急に濃くなるものだっけ?」
自分のいた世界では雲どころか空もろくに見れないせいで詳しい知識はない。だが創作物やデータで調べた限り雲というものはものの数分でこれほど様相が変わるものであっただろうか?山の気候は変動しやすいらしいがこれは――。
「やっぱりこの雲自体に魔法が…?」
これは本当に退散したほうがいいかもしれないと思い始めた時、雲の流れが変わった。
「しまっ―――!」
気づくのが遅れたことに後悔をしながら、目の前を覆う物体に信じられないという言葉が漏れそうになる。音もなく雲の中から現れた視界一杯を覆いつくす巨大な拳。それが自らの体に接触したと認識すると同時に、自分の体がはるか後方へ吹き飛び背中が堅い岩に激突する瞬間を自らの体で体験する事になった。
この作品はオーバーロードとヤマノススメを応援しています。百合百合やぞ