オーバーロード シャルティアになったモモティア様建国記 作:ヒロ・ヤマノ
次の話 >>
『銀世界』
強制ログアウトにより意識が沈んでいく。
最後に見たナザリックは静かだった、NPC達を全員玉座の間に集わせたが
それは、最終日だからと久々にログインしてくれたギルドメンバーを見送った後であり、NPC達には悪いが孤独感は拭えなかった。
DMMO-RPGユグドラシル
そのサービスが終了してしまうことも勿論だが、自分には仲間たちとともに作ったナザリックとNPC達、そしてギルド『アインズ・ウール・ゴウン』が無くなってしまうことが、どうしようもない事とはいえ悔しくて堪らなかった。
仲間たちとともに総力を挙げ作り上げたギルド武器である
「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」それを右手に装備し玉座に座る禍々しい衣装に身を包んだ孤独な
それが最後の自分の姿。
――そのはずであった。
「っひゃああ!」
目を覚ましたモモンガは、意識が戻るとともに首筋にはしる冷気に変な悲鳴が出てしまった。それとともに対人で鍛えた鋭敏な状況判断力がひとつの疑問を浮かべる。
(あれ?声が……)
だがそれを完全な疑問の形にする前に、新しい疑問が驚愕の光景とともに視界を埋め尽くした。
「うわ真っ白…」
しばし呆けた後、人としての本能が無意識に周囲を確認する。
遠方に緑の大地
真っ青の綺麗な空と刺すような太陽の光
――そしてそれ以外の僅かな岩と森、白い雪山の世界を確認できた。
「凄い…綺麗」
体を起こすとともに言葉が漏れる。それとともに意識が途端に覚醒した。一体ここは何処で、自分は、どうしたのか疑問と不安が溢れてくるが、途端に冷静な精神が混乱した思考を覆いつくすような感覚を感じた。
(なんだこれは?いや今はそれより……)
今は自分の事より状況確認を優先することにする。ここはまだユグドラシルなのか、だがこれは考える前に体の感覚によって否定される。ユグドラシルはニューロン・ナノ・インターフェイスを使い現実にいるかのように遊べる体感型ゲームであるが、触覚の制限があり、味覚と嗅覚は削除されている。だが先ほど感じた雪の冷たさ、澄んだ空気は間違いなくユグドラシルとは異なる。
かといってモモンガのいた現実世界とはそれ以上に絶対に違うと言えた。『環境汚染から逃げたアーコロジーの世界』それがモモンガがいや、鈴木悟の知る限られた世界だ。今見る光景は映像の中がせいぜいだった。
(ということは……その二つとは、異なる世界なのか?)
ひとまずそれ以上の考察は放棄することにした、今は情報が足りない。冷静な思考で次は自己の確認をすることにする。
(とはいえ、なんとなく察しはついてるんだけど)
さきほどからの冷静な考察の最中にも視界に映るキラキラと光る銀髪、細い手首と腕そして首の下に見える漆黒のボールガウン、視界の低さ。
全てが自分の現状を物語っている。
(シャルティアだよな)
シャルティア・ブラッドフォールン。
自分がユグドラシル終了の際に玉座の隣に呼び寄せたNPC。ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の初期メンバーの親友、ペロロンチーノが作った最高のエロゲーキャラ。長い銀色の髪と輝く白い肌、そして吸血鬼を体現するような真紅の瞳。さすがに瞳は確認できないが彼女もナザリックを共にし、そして最後の時を迎えた仲だ、その姿を見間違うことはない。
顔も触ってみる。ユグドラシルでは感じられなかったプニプニした人肌を感じられた。そして違和感のある下を見る。
問題が現れた。
(え?胸が……ある?)
自分の知るシャルティア・ブラッドフォールンは貧乳キャラであったはずだ。いや正しくはパットを何枚も入れて、大きく見せている貧乳キャラであった。これは創造主のペロロンチーノがイラストを依頼した相手との問題で付け加えられた設定だったが、今感じる違和感はパットのものではなかった…。
(いや、パットを入れる体験なんてしたことないよ!)
どこの誰に弁明しているのかわからないが、慌てる思考は冷静なものに戻され再び状況判断に戻る。ひとまず胸は置いておく、確認したい気はするが現状問題はない。後ろ髪を引かれる思いもあったが他に確認すべき重大なことがあった。
(よし、アイテムボックスを起動)
思い浮かべるまま無意識の内に手を伸ばし、前方の空間に割り入れる。緊張のためか体が一段と冷えた気がした。
ここまでは良い、体がシャルティアになっていて困惑し、胸には混乱したがこの中には自分のユグドラシルの世界で過ごした結果が形として残っているのだ。中でも確認したいのは仲間たちがナザリックに残したアイテム、そしてギルドが所有していたワールドアイテムの数々だ。
――だが
「………うあぁあぁ」
その結果、モモンガはガチ泣きした。
(うぅ…うぁ…あれ?)
涙が零れ、雪原に染みを作った途端に悲しみが薄れていく。波打った感情が抑えられ、静かな海をただよう船のように穏やかなものに強制的に鎮静化される。思えば先ほどからの自身の感情が強制的に引っ張られるような不思議な体験が進行中であった。
(ひょっとして、アンデッドの精神が?)
頬に残った涙をぬぐいながら、自身のステータスを早急に確認することにする。アイテムボックスの細々とした確認は残っていたが、主だった悲しい結果は既に判明したため、切り替えたかった。
自身の頭の中、イメージとしては心の中に神経を集中する。アイテムボックスもユグドラシルの時と同じ要領で出来たため意識の集中も慣れたものだった。アイテムの悲惨っぷりを見ていると少し見るのが怖かったが。
「よっし!でき…は?」
無事に脳裏に浮かんだステータス。だがそれはほぼ文字化けし所々砂嵐のように欠け、情報を開示するステータスと呼べる物ではなかった。
基本的な種族レベル職業レベル欄はもちろん、習得スキル、習得魔法なども読める情報は見当たらない。
(なんだよ……これはどうなってるんだ)
無意識に自らの手を確認してしまう。今までの自分の手と比べ小さくほっそりとした滑らかな手だった。
シャルティアの体になったからなのかはわからないが、自身である『モモンガ』ではなくなり、ましてやシャルティアとも呼べない別の存在になってしまったのではないかと、少し不安になってしまう。
「うーむ、…
ひとまず手頃な位階魔法であり、なおかつ効果が分かりやすい安全そうな魔法の効果を確認してみる。
途端に体が軽くなり空中に浮遊を始める。無事発動した事に安堵の息をこぼしながらユグドラシルと同じようにコントロールを試みる。だがすんなりと安定し、ユグドラシル時代にはなかった心地よい風を肌で感じられた。
「これは気持ちいいなぁ~」
人生で初めてのスカートを履いたままの浮遊魔法のため、足がスースーしてしまい無意識にスカートを抑えてしまう。そのまま習得魔法欄を確認するが『
勝手知ったる自分のステータスだけあって、潰れてはいても場所や文字数である程度把握はできる。だが、現状の自分の体を考慮すれば見慣れない文字列が予想通り、自身の記憶との差異を訴えていた。
(そうだろうとは思っていたけど…)
途端に空中を漂っていた体が蒼い空の中に霧散していく、体全体の感覚が薄くなり同時に軽くそして拡がっていくのを感じられた。
スキル『ミストフォーム』
シャルティアが使えるまさに吸血鬼らしく体を霧状に変化させるものだ。どうやら問題なく使える様で、スキル解除を念じると体を実体化させることができた。
(もし仮に、モモンガとしての力に加えシャルティアの力も自在に使えるとなると……)
だがそれも早計だ、ひとまずステータスの残りを確認するべきだろう。その後、魔法のテストや体を動かしてシャルティアの魔法やスキルもその中で確認していこうと、ステータスに目を向けながら頭の中で予定を組み立てていく。
(少しでも読める情報は、っと……)
先ほども確認したスキル欄と魔法欄に加えてアイテムや耐性など細かい情報も確認していく。膨大な数の魔法を確認するのは少々手間がかかったが、暗記していることもあり記憶と読めない文字を黙々と照らしあわせていく。
フレンド欄にも完全に読める名前がないことには、かなり落胆してしまう。だがフレンド欄の次にあるギルド情報を見たとたん、モモンガの紅いルビーのような瞳が見開いた。
「え、あ!?これっ!あ、ああああ!!」
ようやく見つけた唯一完全に読める文字列。
驚愕と歓喜によって声が溢れ出てしまう口を手で覆う。
それは自分が冴えない孤独なリアルを覆い隠してくれた『ユグドラシル』
それはかけがえのない仲間たちと思い出を育み、給料の大半をつぎ込んだ世界
モモンガというキャラクターが自身と仲間たちのため駆けずり回りながら守った
所属ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』