毎週日曜日夜8時から生放送中の『岡田斗司夫ゼミ』。6月17日の放送の中で岡田斗司夫氏は、視聴者からの「なぜ、電子書籍は紙の書籍と同じ値段なのか?」という質問に対して、その理由について解説しながら、電子書籍を安価に提供することによって日本の社会に起こり得る変化について語りました。
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なぜ電子書籍は紙の本と同じ値段なのか?
「電子書籍が販売されていますが、電子書籍は印刷代、紙代、流通費用などがかからないのに、書籍版と値段が同じなのはどうしてなのでしょうか?」
岡田:
このような質問が届きました。
これ、本当によくある質問で、過去にも、たぶん似たような質問に2年に1回くらい答えていると思うんですけど。正直な話をすると、電子書籍というのは、紙の本に比べて、たぶん3分の1くらいの値段に出来るんですよ。
もちろん、一般の書籍を電子化するためには編集さんなども必要だったり、いろんな事情があるんですけども。間違いなく、3分の1くらいの値段には出来るんです。でも、そうすると、紙の本の値段が今の3倍になっちゃうんですよ。こういうジレンマがあるんですね。
漫画の単行本で言うと、今、500円で売っている漫画は、本来、電子書籍にしたら200円くらいがリーズナブルな値段なんです。
でも、電子書籍を200円で売ると、例えば、少年ジャンプの単行本だったら、「電子版は200円、そのかわり紙版は2000円」ということになってしまう。電子書籍が3分の1の値段になると、紙の本は3倍になる。ここで、ほぼ10倍の差がついちゃうんですね。
するとどうなるのかというと、ほぼ確実に、日本中の書店が潰れる。つまり、「なぜ電子書籍は安くならないのか?」という話を始めると、「日本中の本屋さんが潰れるけど、それで大丈夫ですか?」という話に行き着くんです。
電子書籍を安く売ると日本の書店は潰れる
だいたいの人は、こういう話をすると「いや、だったらもう、それでいいよ」って言うんです。
「もう思い切って、蔵書は全て電子書籍にしようと思ってた」というような、家の中が本で溢れてるという人もいるでしょうし、「いや、3分の1の値段に出来るんだったら、さっさとしてくれ!」っていう人も多いと思うんですね。
他にも、「俺の近所では、本屋なんてとっくに潰れてるから、何も考えることがない」とか、「俺は紙の本もAmazonで買ってるから、どっちにしろ近所の書店は潰れるよ」とか、いろんな意見があると思うんですけども。
「俺は電子書籍で読めればいい。紙の本なんて、それでも紙で買いたいと言うようなお金を持っている人だけが買えればいい」というのは、いわゆる“ホリエモン的な理屈”なんですね。
ホリエモンという人について、僕自身、好きか嫌いかで言うと好きなんですけども。まあ、こういうのはホリエモンがよく使う理屈なんですよ。でも、これの何が危険かといったら、「買いたい人が買えばいい、別に潰れる本屋は潰れればいい」と言うんですけど、本屋というものは、一度潰れてしまったら元には戻せなくなるんですね。
そして、この国から書店というものがほとんど潰れたら、僕らの社会がどうなるのかというのは、実はわかっていないんですよ。
日本から書店がなくなるとどうなるのか?
まあ、欲しい本は手に入れやすくなると思います。だって、値段が安くなるんだから。でも、「はたして、私はどんな本が欲しいんだろう?」とか、「僕が欲しくない本には何が書いてあるんだろう?」ということが、どんどんわかりにくくなるんですね。
僕らは知的好奇心というのを持っているんですけど、その知的好奇心というのは、好奇心というのをある程度満たせる環境があってのものなんですよ。
すべてのものが「これが欲しい → 検索した → 見つけた → 安く買える」というふうになってしまうと、自分の関心がある部分の物事しか見えなくなってきて、その周りが盲点のように、どんどんボヤケてしまう。これは別に書籍に限ったことではなくて、ネットワーク社会の弊害みたいによく言われてることなんですけども。
では、これをやると、どうなるのかというと、内田樹【※】さんが「効率化だけを考える組織よりも、弱者を救える組織、弱者を含んでいる組織の方が長生きできる」というふうに、以前から仰ってるんですね。
※内田樹
うちだたつる。哲学研究者。
僕も、この点について、数年前に内田樹さんとの対談の中で、ちょっと言い合いになったんですけども。
例えば、内田さんは「大学を残すべきだ。大学というのには、補助金を与えるだけではなく、市民全体が『大学は残さなきゃいけない』と考えて残すべきだ。自然競争のままにしておいたら大学は潰れてしまう」と言うんですけど。
僕はそれに対して、「自然競争で潰れるような大学はもう潰していいじゃないですか」って言いました。そしたら、内田さんにすごく怒られたんです。その時のセリフが「効率化よりも弱者を残しているような組織の方が、絶対に生き残る」っていうふうに言われたんですけども。
僕がその時に考えたのは、「日本にはもう大学というものを維持するような余裕がない。余裕がないところで無理矢理残したら、結局、大学に楽々行けるくらいお金がある人が大学に行くだけで、内田さんが考えている“知的な環境”が崩れていく中で、何の助けになんにもならない。だから、知的な環境を構成しているものの中で、まず大学という、面積も取るし、文科省の予算を山程使うものを潰して、図書館の中に自由セミナーみたいなものをいっぱい作ることくらいでしか、立て直しは出来ない」というふうに言って。まあ、大激論になったんですけど。
対談本の中では、そこのところはバッサリとカットされたんですけどもですね(笑)。
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