躍進の70年代「知的啓蒙」がテーマの実用新書が売筋に!

講談社現代新書の歩み〈2〉
講談社現代新書の創刊から現在までの歴史を振り返る「現代新書の歩み」。第2回は1974年〜83年。1973年のオイルショックを機に「成長神話」が瓦解し、深刻なダメージを被った日本経済でしたが、出版業界は堅調な成長を続けます。現代新書も躍進の時期を迎え、知的啓蒙をテーマにした実用新書が売れ筋となり、新しいシリーズも登場。

第1回 「1962年、東京五輪前の「第二次新書ブーム」をご存知ですか?」

本が日本経済を支えた時代

戦後、一貫して経済成長を続けてきた日本経済だが、第四次中東戦争に端を発するオイルショックで、戦後初のマイナス成長に陥り、右肩上がりの成長が終わった。

しかし、深刻なダメージを被りつつも、日本経済は短期間で成長軌道に戻り、エレクトロニクスと自動車などの輸出産業は世界市場を席巻し、日本経済を礼賛する『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(TBSブリタニカ)がベストセラーになるほどだった。

同書の著者であるエズラ・ヴォーゲルは、日本経済の強さの源泉は、日本人の学習への意欲と読書習慣であると分析した。

 

実際、この10年は、出版界では100万部を超えるベストセラーが続出した。1981年には戦後最大のベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』(講談社)が累計770万部という金字塔を打ち立てている。

戦後初のマイナス成長に直面するなど、陰りが見えた日本経済だが、出版業界は、ダメージをほとんど受けることなく堅調な成長を続けた。

社会的には、学生運動は下火になり、ノンポリと呼ばれる政治に関心が薄い層が増える一方で、ロッキード事件で田中角栄前首相が逮捕されるなど政官財を巻き込む汚職事件が相次いだ。

永田町では、自民党派閥争いが激化し、国民の政治不信はさらに深まった。未来に対する楽観と不安が相半ばした時代だったといえるだろう。

40年も続くロングセラー

1971年の新装版で装いを一新した現代新書は、創刊以来初めて直面した低迷期を脱して、躍進の時期を迎えた。

ラインナップに、会田雄次の『日本人の意識構造』、梅原猛・岡部伊都子『仏像に想う 上・下』などのネームバリューのある執筆者の作品が加わるとともに、売れ行き良好のベストセラーが相次いだ。

この時期の売れ筋となったのが、知的啓蒙をテーマにした実用新書である。代表的な作品としては、清水幾太郎の『本はどう読むか』、板坂元の『考える技術・書く技術』、渡部昇一の『知的生活の方法』などがある。

3作とも、刊行から40年ほど経過しているが、いまなお版を重ねるロングセラーとなっている。

わけても76年に刊行された『知的生活の方法』は、それまで歴代1位だった『タテ社会の人間関係』を抜くメガヒットになり、教養新書としては異例の年間ベストセラ17位になった。

累計118万部(2014年2月時点、81刷)は、歴代現代新書の売り上げランキングの堂々1位である。