Introduction
3年前に買った恋×シンアイ彼女(Us:track, 以下恋カケ)をようやくTRUE含めて全部プレイし終えることができました。実はこのゲーム、発売当時にはいい意味でも、悪い意味でも話題になった作品で、実際にプレイをしてみて、自分もやはり様々思うことがあったので感想を書きたいと思います。めっちゃ長くなったなぁ・・・と書き終わってから思いました。8000文字オーバーですよ!驚きですね。
Disclaimer
完全に自分の好き勝手書いているので、納得しかねる点があるかもしれませんが、そっと心の中にしまっていただけるとこれ幸いです。
あと、1週間後に自分が読んで後悔するような恥ずかしい内容になっていると思うので、そのうち消えます。
以下、ネタバレ注意
Background
実を言うと恋カケは新品ではなく中古で購入しました。買ったときの情景はまだ覚えていて、今はなき秋葉原の紙風船の新作コーナで平積みにされていた光景を覚えています。ゲームにしては箱が正方形で大きめであることと絵の綺麗さに目を惹かれて、そのまま手に取り、公式Webサイトの以下の文言で購入を決心して、レジに持っていったのを覚えていますね。
物語のテーマは、少年少女達の等身大の恋愛劇
学生時代にしか感じることの出来ない、甘くも酸っぱくもある 青春ならではエピソードを、シナリオとCGを丁寧に描き魅力的に演出します。
本企画は、極めて王道で恥ずかしいほどのド直球。思わず目を覆いたくなるような、そんな恋愛ADVです。
(from: Us:track | 恋×シンアイ彼女 )
しかし、購入した直後にとある友人から「炎上したやつやんw」と言われ、そしてゲームのメインヒロインである星奏ちゃんの結末を聞かされて、それが原因で結局3年間プレイすることがありませんでした。
そんな状態で3年間のブランクを経て、先日、サークルの後輩である@kyontanにminoriの罪の光ランデヴーをやらせる代わりに、自分が恋カケをやるというような取引を(多分)口頭でしたのをきっかけに、プレイする決心がつき、ようやく全ルートをやり終えることが出来ました。(すでにプレイをし終えた@masawadaさんたちがいる場で星奏ちゃんの話をしたら「やってから言ってくれる?」と言われたのもありますが・・・・。)
Spec
まず、ゲーム全体として特筆すべきなのは様々な要素が「綺麗」という点。
Graphic
まず、絵について焦点を当てると、背景画は新海誠監督作品のような雰囲気を感じます。非常に丁寧な作画がされていて、例えばスタッフのTumblr(!)記事からなのですが、まだ塗りの段階ではないにしろ、非常に丁寧な線画であることがわかります。
us-track.tumblr.com更に、色が塗られた作中に出てくる主人公たちの通う通学路の背景画も非常に綺麗・・・。
us-track.tumblr.comこれ、実はこれで完成ではなく、発売直前まで色の調整などをしていたようで、製品版はもう少し違ったりします。かなりこだわってますね。
Music
BGMはピアノをベースにした落ち着いた感じで、透明感のある曲が8割を占めています。こちらについてはオフィシャルで公開されていないので、サンプルを出すことは出来ないけども、非常に良い。
Text
テキストに綺麗、というワードを使うのは適切ではないかもしれないですね・・・。ですが、実際に読んでいてスルスルと入ってくるような綺麗なテキストでした。ギャルゲーでよくある、ちょっと性的なフレーズも悪印象を与えることなく、スルッと抜けていき、そういうのを求めていない自分にとってはとても良かったです。
Scenario
シナリオは話の進むテンポや、笑うポイントなどがいい塩梅になっていて、良かったです。情景や登場人物たちの心情表現も非常に上手かったと思います。
Common episode
まず、簡単なあらすじは公式サイトをご覧いただければと思います。
あらすじをかいつまんで話すと、潰れかけの文芸部に所属し、小説家になることを夢見ている主人公は学園2年の春に旧知の姫野星奏ちゃんと新堂彩音ちゃんと再会することになります。
星奏ちゃんは実は小学生時代に主人公と一度仲良くなっています。恋仲といっても良い感じだったんじゃないでしょうか。しかし、星奏ちゃんは転校して北海道に行くことになってしまい、ややあって主人公は星奏ちゃんにラブレターを渡すことを決心します(この渡すときの1枚絵が本当にキレイで必見です)。しかし、いつまで経っても返事はなく、主人公は振られたものだと思い、その気持ちを引きずったまま暮らしていた中、学園2年の春に突然の再会を果たすわけです。
彩音ちゃんは主人公が付属校時代に出会ったヒロインです。もともとそれほど仲良くはなかったのですが、とあることをきっかけに仲良くなり、お互いに将来の夢を語り合うというなんとも青春なことをする仲にまでなりました。しかし、主人公は彩音ちゃんの予想に反して文学の専門コースではなく普通コースに進み、一方彩音ちゃんは興味のあった服飾科のある専門コースに進んでしまったため、結果として離れ離れになってしまいました。そんな状態だったのにも関わらず、これまた学園2年の春に突然の再会を果たすわけです。
こんな、なんとも何かが起こりそうな状態で物語は進んでいきます。
Ayane episode
彩音ちゃんルートが自分は一番好きでしたね。こういう昔、女の子側から渡された恋のきっかけとなるなにかが、今になって物語のキーとして動き出して恋仲になっていくという展開がすごく自分好みでした(他のゲームでいうと、「見上げてごらん、夜の星を」(PULLTOP, 2015)の沙夜ちゃんルートのような感じでしょうか)。彩音ちゃんの性格も好きなタイプで、それを抜きにしても非常に好感を持つことが出来たヒロインでした。(声優さんが結構好きな声優さんだったのもありますが・・・。 )
なんとも素直になれないお互いが不器用ながらも関係を進めていくのが、なんとも彼ららしい感じでほっこりしました。もう一度、じっくりやろうかなと思えました。
彩音ちゃん関連のシナリオで一番心に残った言葉は
青春はあっという間で、やってもやらなくてもあっという間に過ぎ去って、二度と訪れない。そこで頑張っても頑張らなくても、いつかその青臭さを、あるいは怠惰を恥じるときが来る
ですね。これに尽きます。
Yui episode
後輩ちゃんルート。なくしてしまった、あるいはなくなってしまう"なにか"に対して、どう向き合っていくかがテーマかなと思いました。終盤あたりに感情移入している状態で見るとかなり辛い1枚絵が入るのですが、最終的にはハッピーエンドになっていてよかったです。多分、この作品中で一番明確にハッピーエンド的な感じで終わっているルートだと思います。
Rinka episode
ちょっとあまり記憶に残らなかったのがぶっちゃけたところ。基本的には、一人で孤独に頑張ってきた人の心をこじ開けて、みんなで困難に立ち向かっていこうというような感じです。全く関係はないですが、まどか☆マギカの杏子の「独りぼっちは、寂しいもんな」が頭から離れなかったですね・・・。
Sena & Sena Final Episode
さて、さて。ほいじゃの人です。「あんまり言うと、空飛んじゃうよ、ぱたぱた」
まず、言うことととしては
納得はしていないが、理解は出来た
です。
星奏ちゃんが最終的に選択してしまった行動は不可抗力であり、回避出来なかったのかもしれないというのは理解は出来ましたが、やはり納得はどうしても出来ませんでした。
まず、Backgroundsに書いたとおり、このルートは「大変」だというのは知っていたので、かなり身構えていましたが、中盤までは「極めて王道で恥ずかしいほどのド直球。思わず目を覆いたくなるような、そんな恋愛」でした。主人公からの告白に対する星奏ちゃんの返答の仕方、そしてその中身は攻撃力が高く、思わず頭を抱えてしまいました。あれはずるい。また、中盤のデートやなんやらも非常に微笑ましてくてよかったです。始終、「星奏ちゃん、可愛いなぁ〜」と言い続ける感じでした。なお、一番笑った会話は「映画スピード2のテーマ曲だよ。小室だよ。小室。」みたいなやつです。
さて。中盤の終わり頃から雲行きが怪しくなってきます。星奏ちゃんに「星の音」が聞こえ始めるのです。
実は星奏ちゃんは小学生時代から音楽をやっていて、プロデビューまで果たしていました。小学生時代にプロのオーディションかなにかにデモテープを出したりとかしています。そして、このデモテープをきっかけに、星奏ちゃんはガールズバンドの作曲を担当することになり、ある意味でサクセスストーリーを歩み始めたわけです。
しかし、このガールズバンドを中心に2人の関係はこれでもかとくらいかき乱されていきます。
まず、小学生時代に返事が貰えなかった主人公からのラブレター。実はこれ、手紙の破棄をバンドのリーダー格の子に迫られたからだったのです。小学生やそこらの子がリーダー格の子に迫られ、我々には音楽しかないんだと言われたら、そのとおりにしてしまうと思います。
そして、主人公が学園で星奏ちゃんと再会したとき、実は星奏ちゃんはスランプに陥っていたのです。このスランプから抜け出すきっかけとして、期間限定で学園に通っていたのです。その期間限定であったはずの学園生活の中で星奏ちゃんと主人公は恋仲になっていきました。しかし、サマフェスという学園祭に登場するために学園に来たバンド仲間から、「主人公と別れてバンドに戻る」という選択肢しかない状態でどうするかの選択を迫られ、結果として主人公にどうして去るのかを詳しく話さずに2度目の別れをします(ここで個別ルートは終わる)。
この段階で個別ルートのENDに入るのですが、まぁ「え?????」という感じですよね。バンドメンバーからの要求などはFinal Episodeで明かされるので、個別ルートの段階では、何も言わずに、何も理由なく星奏ちゃんは去っていくわけですから。わからないですよね。
そんな状態で個別ルートの時間から数年後が経過したFinal Episodeでは主人公は教師として働いています。精華ちゃん(なんで攻略出来ないんだ!)という学生となんだかんだありつつも、意外と教師としてやっている主人公が描かれています。そんな中、また突然に別れたはずの星奏ちゃんと再会するのです。2度の別れを経験している主人公は自分が推測した星奏ちゃんが自分のもとから離れた理由を辛辣な言葉とともに星奏ちゃんにぶつけ、星奏ちゃんを突き放そうとします。しかし、結局完全に突き放すことは出来ず、なんだかんだでもう一度関係を修復しようとします。ひとつ屋根の下で生活するようになり、朝ごはんを作ったりしてくれるようになるんですね。この段階で自分は「なーんだ、結局また仲良しになるのね。よかった、よかった」と思いました。
しかし、なかなかそううまくは行きませんでした。主人公がけじめをつけるためにプロポーズしようと指輪を購入して帰宅したところで、星奏ちゃんは「もう二度と会わない」という置き手紙だけを残して、3度目の別れをします。
「え?」という感じですよね(2度目)。今度は本当にわからなかった。「なぜ?」という気持ちしかありません。実際に主人公はその後、様々な事情で教師をやめ、荒れた生活を送ります。でも、結局主人公は星奏ちゃんのことを忘れることが出来ず、それならば星奏ちゃんのことを誰よりも知っている存在になろうと雑誌のルポライターになり、星奏ちゃんの経歴そして今までしてきた行動の背景を知ろうとします。その中で、星奏ちゃんはガールズバンドにすべてを振り回されていた存在であっただけであることを知ります。星奏ちゃん本人としても主人公を利用しようという(強い)意図はなかったわけです。1度目の別れ(+手紙)の件は手紙の破棄をバンドのリーダー格の子に迫られたから、2度目の別れはバンドメンバーからの選択肢のない選択を迫られたから、そして3度目の別れは・・・書くのもしんどいので省略しますが、やはりこれも不可抗力であり、星奏ちゃんの優しさから来るものでした。
しかし、これらを暴いたことで主人公はルポライターもやめることになり、無職となってしまいました。しかし、自分の中で星奏ちゃんとの思い出に折り合いをつけることが出来た主人公は、もう一度、夢見ていた小説家に向かって歩み始めます。その過程で、息抜きとして散歩をする中で星奏ちゃんへの自分の思いを再確認し、やっぱり自分は星奏ちゃんのことが好きだという気持ちを確かにして物語は終わりを迎えます。
だいぶ端折りましたが、こんなストーリーを最後まで読んだときの僕の思いが、先程の「納得はしていないが、理解は出来た」になります。
確かに大人の事情が絡むガールズバンドという存在に振り回されてしまい、星奏ちゃんが取らざるを得なかった行動には理解が出来ます。仕方がないと思います。でも、だからといって3度も事情を話さずに去っていく行為には納得がいかないです。一度、お互いに話をするべきだったのではないかなと思います。もっとうまい方法があったのではないか、なぜ突然別れを告げるという極端な手段を3度もとってしまうのかと、やはり読んでいて納得が行きませんでした。
ただ、究極的にはこれも「親愛」の形なのかもしれないとは思います。何度も、何度も辛い別れを繰り返してもなお、主人公は結局星奏ちゃんのことが好きであり続けているし、星奏ちゃんも主人公のことを好きであり続けています。ある意味で究極的な「親愛」であるし、ある意味で究極的な「阿呆」であると思います。
なお、Final Episodeで他に特筆すべき点として、主人公の周りの人間が良くも悪くも大人になっているという点があります。学園生時代の友人や知人たちが、現実に負け、逆に勝ち、あるいは見方を変えて歳をとった様子を見るのは、やはりなんとも言えない気持ちになります。学生時代に小説で新人賞を取り主人公がある程度リスペクトしていた先輩はそれっきり鳴かず飛ばずで今は雑誌の編集長をしている、ある人は一念発起してもう一度大学に入り直して検察官を目指している、ある人は素直に市役所勤めをしている...といった、なんとも現実でもあり得そうな展開が繰り広げられています。こういったヒロインとモブを含めた、全員の大人になった姿をゲームで見たのは初めてかもしれません。
Conclusion
やはり星奏ちゃんルートには様々な気持ちを抱きましたが、全体としてはやってよかったゲームだと思います。彩音ちゃんルートが一番良かったという点を推していきたいと思います。
でも、やっぱり星奏ちゃんルートには様々な思いを抱きます。ギャルゲーとして最終的に困難も2人とその周りの仲間達で乗り越えハッピーエンドという(まるでALcotやゆずソフト作品のような)お決まりな流れではなく、実際に2人が苦悩しつつもくっつき、そして離れていくという情景を細かく描画したのは純粋にすごいと思います。Introductionでも掲載した公式サイトにある
物語のテーマは、少年少女達の等身大の恋愛劇
の文言通り、確かにこのゲームはある意味で等身大だと思います。でも、そういう等身大さを(大多数の)ギャルゲーをやるユーザーが求めているかというと、疑問です。もちろん、そういう展開を否定するわけではないですが、やはりこのようなウリ文句でこのような展開になるのはどうなのかなという気持ちです。このウリ文句を変えれば、悪い話題で盛り上がることもなかったと思います。
最終的に、プレイし終わったあとに考えた結果として、彼らに足りなかったもの、それは対話だと思います。結局、お互いが思ってること、抱えてることを中途半端に隠し続けてしまい、勝手に自分一人で納得して、結論づけて、行動してしまった結果、星奏ちゃんは3度にわたり主人公の元を去ったのだと思います。 お互いが抱えている気持ちや置かれている立場について一度、しっかりと話すことが出来れば別れは1度だけで済んだのではないかなと思います。でも、実際に話し合いをしたからといって、主人公が星奏ちゃんの置かれた立場と状態に対してどういう行動ができたのかはわかりません。
自分にとってこの3年間、しこりとして残っていたゲームをプレイし終えることが出来ましたが、時折時間を見てもう一度やっていろいろと考えたい作品だと思います。彼らにとって何が正解だったのかを考え続けることが、自分がこのゲームを気持ちの上で消化するための答えなんだと思います。
Superfluity of words
旧劇エヴァ作成時の庵野秀明監督のようにオタクに「現実に帰れ」と言っているような、このゲームのFinal Episodeの現実さに対して、自分がなぜ1本あたり8000円以上もするお金を出し、 そして数十時間という膨大な時間を使ってまで年間数十本もギャルゲーをやるのかということを考えました。
自分にとってのギャルゲーとはファンタジーであり、叶えたかった夢なのだと思います。自分が制服に袖を通して校舎に通っていた、いい思い出のない現実世界の過去で起こり得なかった女の子とのやりとりや関係性、友人との交流、その場で自分が取れなかった立ち振る舞いをギャルゲーというファンタジーの場で叶えた気になりたいからやっているのかもしれません。そこには叶えられなかった夢が叶えられたifの世界があり、それをディスプレイに映し出された映像で、ヘッドホンとDACから出た音で、少しでも夢を実現できた世界を覗きたいと思い、ギャルゲーをやり続けているのかもしれません。
それらの夢を叶えるには歳を取りすぎた、あるいは今からそれに準じた夢を叶えるための行動が出来ない自分に残された、唯一の慰めとして自分は今日もギャルゲーをやっているのかもしれません。だからこそ、恋カケのような、ゲームの中でさえも叶えられない"何か"がある状態でENDを迎えることに強い抵抗感を覚えたんだと思います。
[EOL]