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スイス・アーミー・マン(考察・ネタバレあり) 〜オナラは恥だが役に立つ〜

またも、ぶっ飛び青春映画の名作が生まれた…と見た時は興奮しつつ思った。しかし、この映画、私は大好きだが、それを公言したら完全に「変な人」という目でしか見られないこと間違いない。思いっきりひかれてしまう映画なのだ。決して悪い映画ではない。ただ…
オナラが止まらない男の話である。そして、オナラ筆頭に幼児がゲラゲラ笑う下品な言葉のオンパレード。パパママが、絶対子供に聞かせたくない言葉の連呼。さらに少年男子大喜びの下ネタもこれでもかと盛り込んである。ここまで、くだらなく品がなくしょうもない映画があるか!と上品な大人の皆さんがお怒りになりそうな内容なのだが、ちょっとそこは置いといて、広い心でちゃんと見て欲しい。女性は特に最初から嫌悪感しかないでしょうけど…その点も分かりますが。
この映画は、「とっても好き」か、「大っ嫌い」かの二択の感想しかないと思う。

米のサンダンス映画祭で上映されたのだが、あまりに奇抜な世界観についていけずに、途中退席する人続出。私も「あのダニエル・ラドクリフが死体役」…ということは知っていたけれど、そのストーリーの奇想天外さに唖然とするばかりで、最後まで意味不明。一週間の限定上映の最終日、最終回に行ったので、残念ながらもう一回は見れなかった。なんかモヤモヤする部分もあるので、再確認してスッキリしたいのですが…
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主人公は、ハンクというヒゲぼうぼうのさえない青年。何故か無人島に一人。助けを待つのも疲れ果て、もう死のう…と思って、ロープで首をつろうとする。その時波打ち際に流されてくる男性が見えた。わー!誰か来た‼︎と大喜びで駆けよるが、それはただの死体だった。
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ガッカリして、また死のうとするも、よく見るとなんかその死体変…お尻からガスが出てる。これは死後腹に溜まったガス?それはオナラのようにポンポンと連続でお尻から出てくるじゃないの。えっ?しかも見てると、なんかオナラの力で、前に進んでいってないか?浮いてるし。これもしかして、オナラの推進力で無人島からの脱出可能なんじゃあ…?
ハンク、半信半疑のまま死体にまたがると、何とそれジェットスキーのような勢いで海を渡っていくのであった!
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この冒頭シーンで、早くも完全に心をわしづかみにされる。ヤバイです。これ何度見ても爆笑だわ。
澄み渡る空、白い波しぶき、どこまでも続く真っ青な大海原…そこをイェーイ!(古い?)とまるでハーレーにまたがるかのように、エンジン全開で駆け抜けていくのだ。実にアガるシーン。何という爽快感。乗り物が、『尻を出した元ハリー・ポッター』でなければ。

無人島で色々あってからの…という映画かと思いきや、めちゃくちゃな設定なるも、すんなり脱出?これは冒頭なのにもうラスト⁈これでいいのか⁉︎いきなりの意味不明。でも、オナラの勢いは止まらない。このまま突き進むしかないのだ!しかし、どこ行くの?これ?

この映画の監督は、ダニエル・シャイナートとダニエル・クワンのという名の友人同士のコンビ(ダニエルズ)
明らかに、「オナラネタで初の長編映画」という爆笑コンセプトだけで突っ走っていく、勢いだけの映画だろうと思って見てたら、冒頭早くもガス欠。オナラジェットスキーは無人島脱出どころか、海のど真ん中で転覆…
またも、別の無人の砂浜に流れ着いてしまった。

しかし、ここからダニエルズお得意の「一見バカバカしく思えることをいかにリアルに見せていくか」という手腕が炸裂していく。
ハンクは無事故郷に帰れるのか…⁉︎

さて、話は変わるがタイトルの「スイス・アーミー・マン」これは、スイス・アーミー・ナイフからきている。
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十徳ナイフというやつで、色々便利な多機能ナイフだ。サバイバルにはもってこい!これさえあれば、何でも出来るし、いざという時、何かと役に立つ。
それに対抗し、いやコイツの多機能はこんなもんじゃない。サバイバルを生き抜くには、絶対コイツが必要だ!むしろコイツがいないと、森の中では生きられない。
多機能メニー君!(死体‼︎)
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波打ち際に流れてきたただの死体かと思いきや、さすがハリー・ポッター!まさかの多機能付き死体。
まずはオナラを活かしてジェットスキー。
ハンクが喉が渇いた…と思えば、口から滝のように溢れ出る天然水(見た目はちょっと⁈と思うでしょうが、天然水です。飲めます)水筒機能付き。
ずっと一人ぼっちだったハンクが、「誰かと話したいよ!」と嘆けば、なんと答える会話機能付き。確実に死体なので、なんで?と言われても困るけど。しかもお喋りが段々と達者になっていき、どんどん下品なことばかり言ってハンクを怒らせるほどの上達ぶり。AIもびっくりの学習能力。

メニー君は死体なので、身体は全く動けない。そんなメニー君を連れて森の中を歩き回るのは一苦労。いっそのこと、捨てていこうかと思うのだが、彼には次々と便利な機能が付いていることを発見。メニー君と一緒なら帰れそうだよ!「君は特別なのさ」…ハンクに希望を与えるメニー君。
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メニー君はとっても使える優れもの。歯はヒゲを剃れるし、死後硬直した腕を振り下ろせば、丸太さえ斧のように真っ二つ。
口の中に小石を詰め込めば、お腹のガスの力で、ピストルのように撃ちまくれる。野生動物や川魚の捕獲も思いのまま。もう大自然で食べるものに困らない!
指パッチンをすれば、火打ち石のように火花も出せる。それをオナラに近づければ、火炎放射器にもなるのだ。寒い夜も簡単に暖が取れるし、調理もできる。夜中に襲ってくる野生動物ももう怖くない。
さらにとっておきのスペシャル機能として、メニーくんのアレが、なぜかハンクの故郷を正確に指し示すコンパスになってくれるのだ!無人島で、地図が無くてももう帰り道に迷わない!などなど便利な機能盛りだくさん。ぜひ映画を見てみてね!…と、テレショップで紹介して欲しいくらい。

2人が彷徨う森の中は、人間が捨てたゴミだらけ。メニー君も死体なので、言ってみれば、捨てられたようなもの。一見何の役にも立たないだろうと思われる死体がこれほど活躍し、生きているハンクの方が何も出来ないなんて、不思議な世界。
メニー君には過去の記憶が全く無く、ハンクには封印したい過去があった。
決して多くは語られないが、メニー君との旅を通して、私達観客にはハンクのことが少しずつ見えてくる。
バスで偶然出会うサラのことが好きで、彼女の写真を携帯の待ち受けにしている。
それを見てしまったメニー君、途端にサラに一目惚れ。
メニー君にヤル気を出してもらうため、ハンクは器用にその辺の廃材でバスのセットを作り、その辺のゴミをかき集め、なぜか女装してメニー君にサラとの疑似恋愛を体験してもらうことに。
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この映画、ハンドメイド感がたまらなくいい。予算の関係もあるのだろうが、何でもその辺に実際にあるゴミで手作り。それがすごく良く出来ていて感心する。

そしてこの監督ダニエルズ。ミュージックビデオで有名になった監督なので、映像が幻想的でとても美しい。ヒゲ面で女装と死体というアラサーおっさん2名が延々出てくるだけなのに、妙にキラッキラッしてて、切ない。涙が出そうになる程に。水のシーンは必見。これぞマジック!

死体と人間同士の友情なんて、本当はありえない。
だからきっと死体が喋ることなんて、あるはずがない。
恐らく、メニー君の声は、ハンクの頭の中で聞こえていたものだろう。
その証拠に、この映画のサントラは全てアカペラである。これは、監督がハンクの頭の中で鳴っている音楽を作って欲しい、実際にそこにあるゴミを使って…とお願いして作ってもらったそうだ。だから楽器などの音は入っていない。人の声とゴミの奏でるサウンドだけだ。
メニー君がハンクの一人芝居だったとすると、実はつじつまが合わない点も出てくる。でも、まぁそこは目をつぶろう。

メニー君は、もう一人の自分。ずっと隠していて、表には出せなかったハンク自身だ。
メニー君は思う事を何でも言える。普通なら躊躇するような事でも。誰にも何の遠慮もない。
片思いのサラにだっていきなり卑猥な告白もバンバン出来るし、第一オナラだってどこでもいくらでも全く平気。
普通の人は、そんなの野蛮な人間のする事だと思うかもしれないが、世間体に囚われて、自分を押し殺し(生きてるけど)、ずっと窮屈に孤独に生きてきたハンクには、メニー君の姿がどれほど生き生きと映ったことだろう。(死んでるけど)

故郷に帰りたいと言いながら、父親とは長い間確執があり、サラのことはストーカーのようにただじっと見ていたに過ぎない。話した事さえ一度もないし、向こうは結婚もしてて、ハンクの事を知りもしない。
メニー君と自分がサラのフリをして、恋愛ごっこを楽しんで、他人から見たら死体と恋愛ごっこ…もう気が狂ってるとしか思えない。
ハンクはメニー君に生きる事の楽しさを教えてあげたいと言った。でもそれを教えてあげたかったのは、自分にだ。生きること、愛することの素晴らしさを、体感したかったのは、ハンク自身だ。そのことによって、自分を癒そうとしたのだろう。傷ついた自分を。

もしかしたら、冒頭の無人島に一人流されたというところからハンクの妄想は始まっていたのかもしれない。
だとすると、彼は誰もいない場所の孤独に耐えられず、首をつろうとしたのではなく、人がどれだけいても、寂しかったことに耐えられなかったのだろう。

メニー君はハンクに言う。「お前帰りたいのか?愛が欲しいのか?」と。
「そうだ」と頷くハンクにメニー君はさらに言う。「でもお前は逃げてるじゃないか?誰にも愛されてないから!」
「違う!」とハンクは怒る。でもメニー君は容赦なく、更なる核心をハンクに突き付ける。
「お前は壊れてて、空っぽで、汚くて、臭くて、無用で、古い。お前はゴミみたいなもんだ、違うか?」
これを言ってるのが、死体である。死体にここまで言われる悲惨さ。情けなさ。まだ生きてるのに。
でも、本当は自分の心の声。自分でもそれを分かっていた。それを認めたから、ハンクは変われたのだ。元の場所で、最悪の自分をさらけ出し、それでも生きていける人間に生まれ変わった。好きだったサラや父親やその他のみんなが、呆れ果てる前で堂々とオナラして。

普通とはなんだろう?常識とはなんだろう?みんながしていることが、絶対に正しいと言えるのか?自分の全てが正しいと言える人なんかいるのか?
人は皆、何かしらコンプレックスを抱えて生きている。自分が完璧なんて人はどこにもいない。
人のオナラくらい笑って許せる寛大さが世界には必要ではないか?オナラをしない人なんかいないのだから。

オナラで人を笑わせることは簡単だ。
だが、オナラでひとを泣かせることは難しい。

ダニエル・ラドクリフの事を私はこの映画で見直した。
彼こそが、万能役者!スイス・アーミー・アクターだ!
(もう一人のポール・ダノも上手いです。)



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by miwa0799 | 2018-01-28 21:52 | 映画 | Comments(0)